受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


速報と分析 2022神奈川県公立高校入試倍率

2022.02.01


2022年神奈川県公立高校入試の出願倍率が発表されたので、各校の倍率速報と簡単な分析をしていきます。

はじめに

数値を見るだけなら県教育委員会のページで十分だと思いますので、こちらの記事では大まかな傾向と各校の志願者数の背景として考えられることをお伝えしてまいります。

志願変更後の確定倍率についての記事はこちらをご参照ください。

2022倍率:2月8日志願変更後の最終出願から見えるもの

神奈川県公立高校入試の倍率の見方

倍率の見方や倍率の意味、定員割れの時の考え方などについては過去記事(速報と分析 2018神奈川県公立高校入試倍率)をご覧いただければと思いますが、簡単に引用しておきます。

もっとも、昨年度との比較で同等の倍率なら同じような難易度・試験になると考えてください。1.2倍程度が平均値なので、それをベースに大まかな判断は下記の通り。

  • 1.1倍程度:低い。少し入りやすい
  • 1.2倍〜1.3倍程度:例年通り。模試の判定が50%未満なら志願変更も視野に
  • 1.3倍〜1.5倍程度:やや高い。例年よりも少し入りにくい。模試の判定が60%未満なら志願変更もあり
  • 1.5倍以上:高い。例年よりも入りにくい。模試の判定が70%未満なら志願変更を勧める

1.1倍の学校と1.5倍の学校での差はどうか。

定員318名の学校で考えてみると、
・1.1倍時の受験者数はおよそ350名。
・1.5倍時の受験者数は480名程。
不合格者数は「32名」と「162名」と130名差が出ます。

1.5倍超の学校に対して模試の合格判定50%以下の人が突撃していくのは、ギャンブル要素が相当高くなりますね。特に内申点が不足気味で、二次選考狙いの受験生には厳しい入試となりそうです。志願変更の検討をお勧めします。

志願変更については、以下の記事にまとめました。検討されている方はこちらもご覧ください。

2022倍率:志願変更ではどのくらい人が動くのか

受験生のみなさんへ

ここまでの受験勉強、よくがんばりましたね。残りの日々はわずか。倍率に惑わされずに、最後まで走り抜けましょう。

ずっと、コロナ。

学校行事も中止・延期。塾に行くのも感染症対策を強く意識しているからいつも大変。高校を見に行く回数も少なくて、学校選び、苦労しましたね。もしかすると、“熱望”とまで気持ちが盛り上がらなかったかもしれません。

でも、大丈夫。みなさんが選んだ学校は、素晴らしい学校です。
素敵な先輩たちが待っていますし、そして何より苦難を乗り越えた、たくさんの同級生たちと共に創り上げる高校生活はきっと想像以上のものとなるはずです。

「決めた学校」に向けて追い込んでいきましょう。

まだ、力は伸びます。志望校が決まっている人にとっては、倍率は関係ありません。

志願変更を迷っている方、一刻も早く決めましょう。迷っている時間で合格の可能性はどんどん減っていきます。

今回倍率を見てしまってショックを受けてしまった人、奮い立ちましょう。
今回倍率を見てラッキーと思ってしまった人、足元をすくわれますよ。

倍率に囚われた人から合格の可能性を失っていきます。どの学校を受けるにしても、自分のベストを尽くしていくことに変わりはないはず。

残り二週間。
コロナに見舞われた厳しい二年間を乗り越えた2022受験生の集大成を見せてください。

2022入試倍率(2月1日時点)

2022倍率の大まかな傾向

それでは、倍率速報と分析です。

・突然の人気爆発校多数

・進学重点校およびエントリー校バブル

隔年現象

目立ったのが、もちろん翠嵐。そして、それ以上に全体に与えるインパクトとしては、進学重点校およびエントリー校の人気です。各地域での志願状況を見通すとやはり隔年現象は広く起きています。

その他、注目ポイントを抑えつつ、出願倍率の分析をして参ります。例によって取り上げる学校に偏りがあるのはご容赦ください。

2022出願倍率の注目ポイント

注目ポイント
  1.  二年目の“SYAHK”。川和の存在感は増すか
  2. 進学重点エントリー校内格差は広がるか
  3. 横浜市立の安定感は継続か
  4. 入試科目の変更があった“倍率王者”神奈川総合はどうなるか
  5. 定員割れ校の増加に歯止めはかかるか

学力向上進学重点校

令和三年度から川和を加えて5校となった学力向上進学重点校。さすがの高倍率が並びますが、史上最多の出願数となった翠嵐を除くとほぼ例年通りの人気と言えるでしょう。

東大50名の翠嵐は史上最多となる912名が出願。これは相当インパクトがありますね。今年も各塾が威信をかけて翠嵐を獲りに行っているようです。ただ、ここまで数が集まると不合格者もかなりの数となってしまいます。最難関の翠嵐へチャレンジできることは十分に素晴らしい成果ですが、各受験生には他校ともよく比較をして、ぜひ納得のいく選択をしてほしいと願うばかりです。

また、全体的に内申が抑えられた可能性が高い2022年度入試において、多少内申が低くても実力で勝負する気概のあるメンバーが翠嵐に集結したとも考えられます。例年、翠嵐→湘南の変更はほとんどありません。志願変更があるとすれば、比較的倍率が落ち着いている柏陽・川和・厚木には、翠嵐から受験生が流れてくる可能性があります。

そして、湘南・翠嵐はここから人数が変動します。2020年度は湘南1.70→1.38・翠嵐2.07→1.71、2021年度最終倍率は湘南1.88→1.49・翠嵐2.26→1.80、と100人単位で動くことも少なくありません。あわせて慶應・学芸大の合格で入試後も変動がありそうですね。毎年のように物議を醸している学芸大の入学にまつわる諸々は今年は落ち着くのでしょうか。

早慶合格者数をさらに伸ばした柏陽は勢いを取り戻しています。落ち着いた校風は、コロナ禍にあっても評価が変わりません。堅調に人数を集めていますし、翠嵐からの移動もあってもう少し増えるかもしれません。

MARCH合格者数日本一を叩き出し、国公立への進学者数も増え、満を持して2020年に進学重点校に指定された川和。2021年はそれほど志願者は増えませんでしたが、今年も人気が爆発していることはありません。進学重点校に指定される前までの方が倍率が高かった(2018年:1.55倍 2017年:1.63倍)という少し皮肉な結果となっています。

進学重点エントリー校

今年、最も注目するポイントはここかもしれません。かなり人が集まっています。緑ケ丘・多摩・鎌倉をはじめ、希望ケ丘・茅ケ崎北陵・横浜平沼も1.5倍前後の高倍率です。

昨年以上に明暗がはっきりしました。そして、ほぼ全校で隔年現象との訣別もそろそろでしょうか。今年、隔年現象が見られたのは、光陵、横浜平沼、茅ケ崎北陵あたり。ただ、それも高倍率での推移となっていて、もはや進学重点校の人気はエントリー校含めて安定していて、今後しばらくは大きく人数を減らすことはなさそうです。常に厳しい争いが待っている、それが進学重点の18校です。

2020年と比べて2021年は進学重点エントリー校の受験者はさらに増加しました。2022年は、2021年5,282人→5,542人と昨年よりは5%弱増えています。2年前からおよそ10%の増加です。

横浜緑ケ丘は今年も大人気。生徒が見事に取り仕切る学校説明会が好評です。昨年の出願時は翠嵐に匹敵する人数でしたが、その後の志願変更で130人以上が他校に移り、難易度上昇もほぼありませんでした。しかしながら、今年も同様のことが起こるとは限りません。緑ケ丘を志願されている方は、模試の結果などを踏まえて慎重に判断をしたいものです。

大和、多摩の人気は相変わらず。地域の最上位層からの厚い支持を感じます。

希望ケ丘が高い人気。昨年も出願時倍率1.42と高めでしたが、今年はそれをさらに上回る1.54。自由な校風と広大なキャンパスを誇る希望ケ丘の人気は、鬱屈した日々を過ごした受験生たちの心の現れなのかもしれません。

茅ケ崎北陵が人気です。大学進学実績はずっと振るわないわけですが、それもあってか進学重点校の中では比較的合格ラインが低めの状況が続いていました。ひと頑張りして、進学重点校にチャレンジしようという層と、伝統的な茅ケ崎北陵の雰囲気に魅力を感じた受験生が集まったと考えられます。

横浜国際は昨年に続き人数減。IBコースの設立などこれまでも十分にカラーのある学校づくりをしていましたが、まさかの進学重点エントリー校の指定。そして、それに伴う筆記型特色検査の実施は、グローバルな活動への意志が強く英語を特に重点的に学習したいと考えていた層からの敬遠につながりました。一方で、理系の進学には決して強いとは言えない点も横浜国際の志願者が減少した理由かもしれません。自由と探究学習で独自色があって非常に魅力的な学校なので、進学重点校とIBの理念が衝突することのないよう願うばかりです。

鎌倉高校はまだしばらくプレハブでの学校生活を余儀なくされますが、人気を博しています。ただ、気をつけたいのは鎌倉高校の工事は“新校舎”ではないこと。あくまで耐震補強工事です。在校生曰く「すでに工事が終わっているところもあって、トイレはきれいになったけど、校舎は大して変わってない」とのこと。過度の期待は禁物です。しかしながら、鎌倉高校を熱望する大多数の志願者は校舎への期待だけで選んでいないはずです。充実した高校三年間を手にするために乗り越えなければいけないハードルが、今年は相当高いものになりそうです。

小田原・横須賀は、手堅さが出てきました。1.3倍前後の倍率が今後も続くようであれば、安定した学力層での教育活動が可能になり、進学実績の躍進も期待できます。

湘南地域上位校(SOFTS)

毎年、学校間での志願者の移動が激しいSOFTSの出願倍率は隔年現象との訣別が見られた大船・七里・藤沢西。定員割れギリギリの鶴嶺に対して、一昨年の再来で突然の超高倍率となった湘南台。くっきりとカラーが分かれた印象です。

大船・七里ガ浜は隔年現象との訣別を果たした感があります。七里ガ浜が定員を1クラス分増やしたところから、七里の高倍率がやや落ち着き、大船は例年通りです。両校の校風も自由な七里・堅めの大船という印象がついていますが、大船は行事も盛んで十分に活発です。

校舎の美しさで人気を博す藤沢西は今年も昨年よりも高倍率。逆に一昨年度は高倍率だった鶴嶺は、定員割れがすぐそこに見えています。湘南台の高倍率はその落ち着いた校風と交通の便の良さが要因でしょうか。

七里ガ浜→大船藤沢西→鶴嶺、湘南台→鶴嶺の志願変更は一定数いると思われます。

横浜市立人気校

例年、安定感のある横浜市立の人気校ですが、今年は少し割れました。

一昨年度から中高一貫生と合流する形となったサイエンスフロンティア。2022年度は昨年の落ち着いた倍率から以前の高倍率に戻りました。海外大学進学の推進なども他の県立公立とは一線を画す状況となっていて、その独自性に惹かれて人が集まります。

また、特色検査を忌避している受験生のレベルに、最もマッチしているのが市立金沢。説明会をはじめとした広報の巧さも光り、人気が集まっています。今年も昨年に続いて1.51倍。特色検査“非”実施校No.1の座は揺るぎません。

市立桜丘は昨年よりもさらに現象。金沢、緑ケ丘、希望ケ丘から少しずつ志願変更が予想され、最終的には1.2倍程度の倍率で落ち着きそうです。

市立戸塚は引き続き高い人気。校舎のきれいさ、自由さ、活発な部活動が、受験生の心を捉えています。

桜丘を除く3校は今年もかなりの高倍率。横浜市立高校の人気は続きます。

神奈川総合

例年最高クラスの倍率を叩き出す“倍率王者”神奈川総合ですが、今年はついにバブルが弾けました。

今年のインパクトは、国際文化コースでの4教科受験がなくなり、個性化同様の5教科受験となった点でしょう。しかしながら、それだけではこの減少幅の説明にはなりません。コロナ禍で海外との交流が限定され、留学や国際的なプログラムの見通しがたたないことが原因ではないでしょうか。横浜国際も同様です。

昨年新設された「舞台芸術科」は、超高倍率スタートでしたが、少し落ち着いた様子。昨年度は事前の予想と全く異なる難易度となったため、想定外の不合格が相当数出ました。今年もかなり高い得点力が求められる入試となっています。

湘南・横須賀地区注目校

追浜横須賀総合など地域で人気のある学校について触れます。

自由でゆとりのある学校生活を送りつつ、学習の面倒見も良い追浜高校は人気が安定してきました。横須賀地区随一の設備を誇る横須賀総合は今年も人を集めています。総合学科の制度が有効に機能している学校として、地域での根強い評価を得ている学校です。

深沢高校は、今年定員を増やしたこともあり、倍率は1.00となっていますが、人数自体は昨年と9人しか変わりません。決して人気がなくなったわけではなく、学校を内部から変えていこうという意欲が強い学校です。逗子高校との統合で、逗子市唯一の県立高校となった逗葉高校は倍率が上がりました。桜並木を上っていく坂道は美しく、今をときめくサッカー伊東純也選手の出身校でもあります。

引き続き多い定員割れと荒れた2022出願

今年の出願も「荒れた」印象です。湘南台の1.97、鶴見の1.57、茅ケ崎北陵の1.51、横浜南陵の0.98、横須賀大津の0.99など前年と比べて顕著に人数が変動した学校も多数あります。

また、定員割れの学校は減りません。50校(2019)→52校(2020)→49校(2021)→50校(2022)と同水準で推移しています。いい加減、効果的な対策を打つべきだと思いますし、東京も含めてあまりにも偏りが大きすぎます。

毎年書いていますが、やはり発信力の低さは致命的で、受験生が求めている情報を発信できているようには到底思えません。実際の取り組みを充実させていくことはもちろん、発信力の強化が引き続き急務だと思います。県教育委員会や地域を巻き込んでの広報活動が必要ではないでしょうか。

続く私立人気・書類選考/推薦での志願者増

今年度もコロナによる不安から、推薦・書類選考で早めに決めるという動きは続いています。また、今年は法政第二・法政国際・中央大横浜の書類選考/推薦/併願の合格ラインが明らかに昨年よりも下がっています。内申インフレ終焉の予兆でしょうか。

横浜創英などを筆頭に推薦希望者も目立ちます。定員割れの学校が増えている要因として、私立専願・推薦の増加も挙げられるでしょう。

丁寧な指導やサポート、充実した施設・環境、何より就学支援金の拡充が私立への流れを後押ししています。この流れは今後も続きそうですので、県教育委員会は県立高校募集定員の設定により気を遣う必要が出てきましたね。

おわりに

分析すればするほど、倍率って、人気って分からない、と毎年思います。

今年はこれまでの「校舎がきれいで楽しそう」に加えて「落ち着いた学校生活を送れそう」が理由に加わってきたように感じています。進学実績よりも、教育内容よりも、学校の雰囲気。「学校の色をうまく発信できた学校」に今年は人が集まった、と言えそうです。

みんながみんな陽キャなわけではなく、誰もがきらびやかな高校生活を送りたいわけではありません。困ったことばかりのコロナ禍ですが、自分を見つめる時間を長く取れた結果、自分に合った学校を慎重に選択したということも透けて見えてきて、2022年受験生の逞しさを感じた出願日でした。

コロナに我慢させられ続けた2022受験生。
入試に我慢は必要ない。

あとは思いきり、力を発揮するだけ。そのために集中しよう。

最後まで。
がんばれ、受験生。

(ペンギンが沈んでいるとか、そういう寓意はありません)