受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


中学受験生も、中学生も。岩波ジュニアスタートブックス&小学館Youth Books創刊!

2021.05.21


読みましょう、これは。
ジュニア向け新書、キテます。

「小説はともかく、説明的文章って何を読めばいいのか分からない」。よく聞く声です。

そんな中学生や中学受験生たちのための必読シリーズが、2021年立て続けに発刊されています。

中学受験や高校受験の説明的文章でよく出る定番だった、ちくまプリマー新書。内容の深さ、バリエーション、新しさがある素晴らしいシリーズなのですが、新たな双璧として登場したのが岩波ジュニアスタートブックス小学館Youth Booksです。

今回はシリーズの紹介と、各書の「中学受験出題可能性」「おすすめ度」「親子で読みたい度」をご紹介してまいります。

どちらも素晴らしい内容ですが、個人的な結論を言うと、読みやすさなら岩波ジュニアスタートブックスに軍配受験の素材文としては小学館YouthBooks(めっちゃ出そう!)を推します

念のために申し上げておきますが、今回の記事は「出題予想」ではありません。出題されるかもしれませんが、それ以上に読むことそのものに価値のある本のご紹介です。

岩波ジュニアスタートブックス

創刊以来40年以上にわたって中高生たちから信頼を寄せられてきた岩波ジュニア新書の蓄積を生かし、とくに中学生を対象にした学習入門シリーズを創刊します。自分の可能性を広げていくための「学び」に役立つシリーズです。
(岩波書店ホームページより)

新しい読書が始まる。

知識や見識の可能性を広げるワクワク感満載なのが、岩波ジュニアスタートブックスです。

値段が1,595円(税込)となっていて、なかなかに高価ですが、内容と装丁デザインの美しさからすれば十分に元は取れるはずです。

挿入されているオリジナルの図表やイラストは可愛くて見やすくて分かりやすい。ページ数も最小限にとどめて、内容も簡潔。

従来の新書よりも圧倒的な“とっつきやすさ”を持っています。

ちくまプリマー新書で「ゆうても結構難しい」と思った方も、ジュニスタなら読めます。

ラインナップも魅力的で今後の刊行予定も心躍るものです。

中学受験の出題素材としても、難関校突破に必要な社会的背景知識としても、中学生以上の探究活動としても、最適解です。

それでは、各書の内容をご紹介してまいります。

未来をつくるあなたへ

読みやすさ ★★★★★
親子で読みたい度 ★★★★★
中学受験出題可能性 ★★★☆☆
中学生おすすめ度 ★★★★★
小学生おすすめ度 ★★★★★

国際問題について短いエッセイが16編。難しい言葉には簡単な解説もついています。

核兵器、ジェンダー、格差、難民、紛争、貧困などのグローバルな課題や他者理解についてなど、筆者の立ち位置からの主張が平易な言葉で書かれている一冊です。

国際問題が何によって起き、何を引き起こして、どう解決していけば良いか、そのためのヒントが優しくも鋭く散りばめられています。深い内容をライトに読めるのは非常に価値が高いですね。

中学受験において「国語」の素材文として出題される可能性は低いですが、テーマとして知っておきたいことばかり。

国語の意見や主張を書く記述問題の背景知識として、またはワンテーマ深掘り型の社会の出題などでも役立つはずです。

地球温暖化を解決したい

読みやすさ ★★★★★
親子で読みたい度 ★★★★★
中学受験出題可能性 ★★★★☆
中学生おすすめ度 ★★★★★
小学生おすすめ度 ★★★★☆

『未来をつくるあなたへ』と結構かぶっていますが、章の終わりに分かりやすくまとめが載っています。

網羅的だった『未来をつくるあなたへ』と比べると「エネルギー」に特化した形。石炭・石油などの化石燃料と再生可能エネルギーの違い、長所短所などが簡潔にまとまっています

自由研究や探究学習にスッと、そのまま、使えます。あとは自分の興味に合わせてネットと図書館で深めていけばOK。

第二章では「あなたの理想のエネルギーの将来像を考えてみよう」というテーマで著者と一緒になって日本の未来のエネルギーについて考えを深められる構成に。

エネルギーワークショップのやり方、や資料をダウンロードできるサイトも掲載されていて、発展性も抜群です。

「相手を説得しようとすると、自分の主張を裏付けるいろんな根拠が欲しくなります。エネルギーの世界は急激に変化しており、技術の進歩も目覚ましく、エネルギーを取り巻く世界の政治状況も刻一刻と移り変わり、昨日の定説はすぐに古くなります」

「脱炭素社会に変えていくことは巨大な社会変革であるということです。これは21世紀の産業革命なのです。「脱炭素革命」です。人々の意識や生活手段を大きく変革させなければ実現できない巨大なチャレンジです。そのときに最も大きな壁となるのは、実は既存の考え方なのです」

地震はなぜ起きる?

読みやすさ ★★★★★
親子で読みたい度 ★★★☆☆
中学受験出題可能性 ★★★☆☆
中学生おすすめ度 ★★★★★
小学生おすすめ度 ★★★☆☆

写真や図、表がふんだんに使われています。挿入されている地震解説の図はポップなイラストで描かれており、少し難しい話でも抵抗なく伝えようとする工夫が満載です。

ライトに読みたい人にも分かりやすく、一方で地震のメカニズムについて詳しく知りたい人でも満足させる内容となっています。大人が読んでも新たな知見を多く得られるはずです。

よって、確率として2030年から起きる可能性がきわめて高いことを念頭において準備してください、と私たち専門家はメッセージを発しているのです

怖い。著者はストレートに地震についての警鐘を鳴らします。

どんな地震が何処にくるか。
最新の研究をもとに、ここまで分かりやすく説明した本はおそらく他にはありません。

私たちに出来ることがなんなのか、どんな心構えをしておけばいいのかについて知ることができる一冊です。

たとえ巨大地震が実際に起こったとしても、事前にしっかりとした備えをしておけば、被害の約8割は減らすことができるのです

俳句部、はじめました

読みやすさ ★★★★☆
親子で読みたい度 ★★★☆☆
中学受験出題可能性 ★★☆☆☆
中学生おすすめ度 ★★★★☆
小学生おすすめ度 ★★★☆☆

たった十七音、きっと短いからこそ、出会った者の心を一瞬で射止めることができるのでしょうね

歳時記の中には、世界が、いや宇宙が詰まっています

言葉で世界を切り取る、俳句で今を描き出す。そして、その喜びが文章全体からひしひしと伝わってくる、そんな一冊です。

一つ一つの言葉をひもといてゆけば、たった十七音でもこんなにゆたかな物語が引き出せるんですね

言葉と向き合う、言葉の豊かさを知る、言葉の深みにはまり込む。読めば読むほど、言葉の力を痛感させれられます。

正岡子規から俳句甲子園までの秀作とその鑑賞が読めるし、「作ろう私の五七五」では俳句のいい感じの作り方が紹介されます

作り方の指南は結構細かくて、季語やリズム、取り合わせや推敲のやり方まで書いてあり、入り口の敷居をすごく下げてくれています

俳句、書いてみようかな、と思わせてくれるものでした。

本書で紹介されている著者の句で特にお気に入りはこちら。

葡萄に種わたしに紙とペンがある

私たちには、紙とペンがあります。言葉があります。もし、どこかで息苦しさを感じているなら、そこから自由になれる場所、十七音がひらくもう一つの扉をノックしてみましょう。きっと、世界はまぶしく光り輝いています。

個人的にはとてもとてもおすすめの一冊です。言葉を使いこなすことに興味がある方はぜひ。

なぜ私たちは理系を選んだのか

こちらはまだ刊行前です。読了後に更新しますが、タイトルが秀逸で期待が膨らみます。

売り切れ必至ですね。予約もこちらから。

他には、『地球以外に生命を宿す天体はあるのだろうか?』や『サンゴは語る』などの刊行が予定されています。こちらも楽しみ。

小学館YouthBooks

中学生・高校生がよりたくましく、より幸せに生きるための新シリーズ。中学生・高校生の「どうしたらいいの?」という迷いや疑問に、樺沢紫苑、鴻上尚史、和田秀樹、鎌田實ほか、ベストセラー作家がやさしく応えます。
帯のイラストと動画は、漫画家・アニメーション作家、藍にいな氏が担当。(小学館YouthBooksホームページより)

とにかく執筆陣が豪華。『アウトプット大全』の樺沢紫苑やご存知劇作家の鴻上尚史、東大の和田秀樹、『がんばらない』の鎌田實など大人も読みたい著者が並びます。

帯のおしゃれ感と表紙のゴールドロゴは目を引きますが、中身の本文は一般の新書同様です。パッと開いた時のインパクト・新しさはジュニスタに劣りますね。

ただ、中身の濃さは歯応え十分。創刊と同時に発刊された4冊は、「心を整える」内容となっています。

よりたくましく、より幸せに生きるための文章は、読了した中高生の心の支えとなるはずです。

また、読めば読むほど「ここ、入試で出るな」と思わせる箇所を発見します。今後の入試問題定番化は間違いないですね。

2022年入試のことを考えれば夏までに出版されているものが出題候補となる可能性が高いので、今回ご紹介する作品がちょうど良いタイミングとなりそうです。

YOASOBIのMVで注目されている藍にいなさんデザインの素敵なしおりは初版限定。お早めに。

極アウトプット

読みやすさ ★★★★★
親子で読みたい度 ★★★★☆
中学受験出題可能性 ★★★★☆
中学生おすすめ度 ★★★★★
小学生おすすめ度 ★★★★☆

著者は「アウトプット大全」の樺沢紫苑。

「アウトプット大全」では十分に述べていない、受験勉強や毎日の勉強にすぐに役立つ、記憶力を強化するアウトプット法。

10代のみなさんの最大関心事でもある「友だちとのコミュニケーション」に役立つアウトプット術をたくさん盛り込みました。「日本で最もわかりやすいアウトプットの本」になったはずです。

もう、期待大。読みたくなりましたね?

「話す」「書く」「行動する」に分けて、アウトプットのやり方がケースごとに細かく説明されています。

本書を読み進めていくとインプット重視の学習や生活を、アウトプット重視に切り替えたくて仕方ない衝動に駆られます。

「読んでるだけ、眺めてるだけ」の勉強をしている子が、「解く」「書く」「説明する」のアウトプット型に変貌するとしたら、と妄想が膨らみますね。

一つの分野を集中的に勉強する、脳が疲れていない最初のうちに苦手科目を先に終わらせる、など具体的な勉強法も書かれています。

読書によって行動が変わる。良書です。

相手の身になる練習

読みやすさ ★★★★☆
親子で読みたい度 ★★★★★
中学受験出題可能性 ★★★★★
中学生おすすめ度 ★★★★★
小学生おすすめ度 ★★★★☆

これ、出ます。中学受験。直球です。

著者は「がんばらない」の鎌田實。

中学生はこの本の内容と向き合って、ぜひ自分を見つめ直してください。「人のために“も”生きる」ということがどういうことなのか、きっと分かるはずです。特に身体的、精神的な成長が著しい中学2年生以降がおすすめでしょうか。

「相手の身になる」=他者視点、です。
そう、これは言わずと知れた中学受験国語の最大のテーマ。中学受験にここまでおあつらえ向きな文章はありません

各校の作問担当者はさぞかし「出題したい」と思うことでしょう。公立高校入試でも十分に出題される可能性がありますね。

たとえ出題されなかったとしても、本書の中にある「他人の身になる」考え方が身につけば、それは小説文でも説明的文章でも読み取りや記述に、大いに役立ちます。

相手の身になることが、世界に繋がり、社会を変える。

本書を通してその考え方の入り口に立つことができます。

みんなに好かれなくていい

読みやすさ ★★★★☆
親子で読みたい度 ★★★★★
中学受験出題可能性 ★★★★★
中学生おすすめ度 ★★★★★
小学生おすすめ度 ★★★★☆

ちくまプリマー新書永遠の名作「友だち幻想」に通じるテーマですね。

「友だちは必要か」という問いかけからスタート。

大人の世界では「無理をして、嫌いな人にまで好かれなくていい」という本音が許されているのに、子どもたちにだけは「みんなを好きにならなければいけない」という建前が押しつけられている

「嫌われない」より、『好き』『好かれる』を考える」など友だち関係で悩む、中高生に対して優しいヒントが散りばめられています

新書の読み方の一つに「目次を見て興味があるところだけ読む」というものがあります。

中高生に「全部読みなさい」と渡すのは、きっと本人も抵抗があるでしょう。「興味があるところだけまずは読んでみたら」という軽さで与えてみるのも良いかもしれませんね。

「自分を発揮できる世界をさがす」「自分が自分らしく生きられるように」そんな優しいメッセージが印象的です。

親の期待に応えなくていい

読みやすさ ★★★★☆
親子で読みたい度 ★★★★★
中学受験出題可能性 ★★★★☆
中学生おすすめ度 ★★★★★
小学生おすすめ度 ★★★☆☆

「すごく期待しているし、大好きだよ。でも、あなたはあなた」と伝えながらこの本を渡してあげるのが良いかもしれません。親子で読めたら素敵ですね。

親との関わり方、自分で考える習慣、世間との距離の取り方についてなど、著者の意見と現在の子どもたちの置かれている状況を照らし合わせながら文章は進みます。

相変わらず読みやすく、説得力のある鴻上尚史の文章。

平易な文体で小学生でも読めますが、タイトルがタイトルですから与えるタイミングには少し慎重になるべきでしょうか。

もちろん、中学受験で出題される可能性もあります。

受験を親と協力しながら乗り越えてきた小学6年生に対して、「親離れ」「自立」を促すという強烈なメッセージをこの文章で突きつけてくる可能性もあります。

「毒親とは縁を切る」「親という『同調圧力』」とかなり煽ってきますが、「親と子は違う」「親もゆっくり成長していく」ということを丁寧に述べてくれていて、親に対する優しさにも溢れた文章です。

親は万能ではないし、他者でもある。

本書を読んで親との関係性について理解できたら、「親も含む自分を囲む人たちとの距離感」が少しずつ変化してくるのではないでしょうか。

おわりに

素晴らしいシリーズが発刊されました。

新シリーズ発刊にあたって、岩波書店も小学館も子どもたちへのメッセージを相当入念に考えて、著者やテーマをセレクトしたはずです。粒選りの作品群に舌を巻きました。

どの本もハズレなし。
適齢になったら我が子にも読ませたいと思うものばかりでした。

子どもたちが、あるいは親子で、今の社会のテーマについて考えるきっかけをくれるはずです。

ぜひご一読ください。
最後まで記事をお読みいただきありがとうございました。