受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


《取材記》鎌倉高校の”真価”青春の遺伝子はいかに作られたか

2019.01.27


青春偏差値No.1──県内上位の進学校でありながら鎌倉高校=青春というイメージは県全域に色濃く根付いています。いつの時代も人を集めてきた鎌倉高校の青春遺伝子はどこにあるのでしょうか。数多の在校生・卒業生の声に加えて、実際に学校を訪問して話をうかがってきました。

学校概要

立地は江ノ電鎌倉高校前から徒歩5分。眼前に広がるオーシャンビューは相模湾・江ノ島・富士山を一望に収める絶景です。駅前の通称スラムダンク踏切はアジアで一番有名な踏切として常に数名の観光客で賑わいます。

1928年創立。かつては鎌倉市立第一小学校や鎌倉市立御成小学校に併設される形の学び舎でしたが、1952年より現在の場所に移りました。以来最大時は36学級定員1,620名の生徒を抱えていましたが、少子化に伴い一時期は19学級定員700名程度まで減少。しかしながら、2016年からのクラス増により現在は25学級まで定員が増えてきています。

全5棟ある校舎のうちC棟は2012年完成の比較的新しい建物です。それ以外の校舎は2019年3月より耐震補強工事が始まります

部活動や行事の活発さは有名。少し前までは文化祭・体育祭が隔年開催でしたが、生徒による行事の自主運営を高めていくために文化祭を毎年実施し、体育祭はカラーパフォーマンス部分を除いた体育的行事として少し形を変えて行われています。

明るく自由で誠実な生徒たち

江ノ電で見かける鎌倉高校の生徒たちの表情や会話から高校生活を楽しんでいる様子が窺えますが、大声で騒いだり他の乗客に迷惑になったりするような振る舞いをすることはほとんどありません。単語帳や参考書で黙々と勉強をしている生徒たちも見受けられます。ともすれば派手な印象を持たれる鎌高生ですが、パリピやウェイ系の人たちのための学校では断じてありません。

「本校の生徒は非常に律儀で、分をわきまえている生徒が非常に多いと思います。理性を持ちながら判断力がある、社会性の高い生徒たちです」(副校長先生)

掃除をやめろというまでやったり、エアコンのフィルターや加湿器の分解洗浄まで自主的にやったりすることもあるそうです。この日校内を歩いていても爽やかに挨拶をしてくれる在校生が多く、非常に好感を持ちました。

青春は一種類じゃない

「鎌倉高校=青春」というイメージは常にあり、楽しく充実した高校生活を思い描きながら入学した生徒、または入学を希望している生徒が数多くいると思います。

鎌倉高校はすべての生徒に居場所があると思います。スポーツに打ち込む生徒、勉強や研究を頑張る生徒、文化・芸術の道に励む生徒など、生徒たちは自分が輝ける道を探してその道を全力で取り組む。だからこそ鎌高は眩しく映るのだと思います」(副校長先生)

青春の形は人それぞれ。副校長先生の言葉は生徒一人ひとりの個性をリスペクトするものです。先生方とお話をしていく中で、自校の生徒を誇りに思っているということを端々で感じました。先生方から信頼されている鎌高生は本当に幸せですね。

求める生徒像はデザイン思考型

鎌倉高校は進学校。大学入試も含めて「より良い学び」を追究しています。進学重点エントリー校となった鎌倉高校は、求める生徒像もこれから少しずつ変容していくようです。

課題を自ら設定して、それを解決していく能力をより磨いていきたいと考えています。現状で満足することなく、それを探究してく意欲がある生徒に来てほしいですね」(広報担当総括教諭)

「実践性・自主性・協調性」を持った生徒を育むという教育理念を踏まえて、さらに教員や生徒たちが相互に作り上げていく探究型授業の実現を鎌倉高校は目指しています。

鎌倉高校に魅せられて「どうしても鎌高」という熱烈ファン層はどこよりも厚いのではないでしょうか。オール5の生徒やオール3からチャレンジする生徒まで、弊塾からの志願者も毎年数多くいますが、生徒たちは地元鎌倉にいるからこそ鎌高の良さや生徒たちの輝きを肌で感じ、憧れを抱くのでしょう。地元に受け入れられ、高く評価されているのが鎌高です。悪評判があるとすれば、それは「鎌高」をよく知らずして通うことになった人のものなのかもしれません。

鎌倉高校のグローバルとは

グローバル教育推進校として2016、2017、2018年度の3年間受けていた県からの指定は一旦終了となります。代表的な取り組みとしてはオーストラリア姉妹校交流とカナダ語学研修が挙げられます。

「オーストラリア姉妹校にしてもカナダの語学研修にしても行きっぱなしにならないように事前・事後の学習もかなり充実させています。参加メンバーはチームとなってプレゼンテーションやディスカッションなども精力的に実施しています」(広報担当総括教諭)

「姉妹校交流プログラムに参加した人や語学研修に行った人が帰ってきて、授業でその変化を見せてくれます。そうすることで、周りの生徒も刺激を受けて相乗効果となり、授業のブラッシュアップにつながる姿が見られました」(副校長先生)

グローバル教育については私立と比べて大きく劣ることも事実ですが、公立の中では比較的進んでいる方かもしれません。オーストラリア姉妹校交流(10日間)については選抜された20名、カナダ語学研修(10日間)については希望者60名の参加です。参加者は二年生が中心ということですが、学年は320名ですので、多くても4分の1程度しか実際の体験はできません。予算やマンパワーの面でも一般公立にグローバルを求めるのは厳しいのかもしれません。公立で本格的なグローバルを求めるなら横浜国際か神奈川総合に行きましょう。次元が違います。

グローバルは鎌倉高校の数ある魅力のうちの一つ、と位置付けるくらいが良いのだと思います。

理数教育推進校への指定について

2019年度から理数教育推進校に指定されることになりました。神奈川県の理数教育推進校といえば、横須賀高校、希望ヶ丘高校などが記憶に新しいわけですが、両校ともSSH(スーパーサイエンスハイスクール)として国からの指定を受けています。活発な研究活動やテーマ学習への取り組み、プレゼンテーション力に加えて語学力の強化を図っているようですが、鎌倉高校の取り組みはどうなるのでしょうか。

「校内で盛んに検討している最中ですので、もうしばらく経ったら形をお見せできると思います」(副校長先生)

現時点で公表できる部分はないようですただ、探究型の授業を展開していくことは先に触れた通りですのでそれに関連した形になっていくのではないでしょうか。

また、鎌倉高校は学力向上進学重点エントリー校です。「エントリー」の文字を取って「学力向上進学重点校」となるためには国公立大学の進学実績が欠かせません。鎌倉高校の実績はやはり国公立に強いとは言えず、理数科目の選択も必須である国公立大への合格者数を増やすために、緑ヶ丘と鎌倉を理数教育推進校に指定してきたという県教育委員会の狙いが見えます。

「総合的な学習の時間」から「総合的な探究の時間」へ

鎌倉高校の特徴的な取り組みとして、鎌倉についてテーマを探してフィールドワーク等を取り入れながら研究を深めていく「かまくら学」があります。鎌倉市とも連携しながらプレゼンの機会を設けて表彰も行われています。仮説・検証・考察のプロセスを大切にしながら、表現力も鍛えていくものです。

この「かまくら学」はこれまでは「総合的な学習の時間」としての位置付けでしたが、「総合的な探究の時間」での取り組みとなっていきます。指導要領的な変化に合わせた形ですが、元より探究的な要素が強いこの学習は生徒にとっても間違いなく貴重な経験となることでしょう。

文化的であり文士たちが愛した街でもある鎌倉。歴史的建造物を紐解いて行けばそこには建築様式やデザインが絡み、教科横断の総合学習を可能とします。自然豊かな環境で地学や生物を深めていくこともできますね。さらに昨今、ITベンチャーの企業も多数進出してきており、鎌倉の多様性はさらに増しています。古さと新しさが綯い交ぜになったこの土地を探究していくのは、鎌倉高校でしか出来ないことなのかもしれません。鎌倉市もオープンデータを推進しており、街の様々なデータと歴史を結びつけて探究していくことで可能性も大きく広がります。

校舎耐震工事着工。3年間強は校庭が3分の2しか使えない

現在使用中の校舎は老朽化が進んでいて、よく言えば味があり、悪く言えばひたすらにボロく暗い校舎でした。主に三年生が使用する2012年完成のC棟は完全バリアフリーで採光もよく綺麗ですが、それ以外の校舎を順次耐震補強することになるそうです。

2019年3月から始まる工事は主に耐震補強ですが、それに伴い内装を変えたり、LEDに変えたり、何よりもトイレが新しくなるとのことです。生徒がいるB棟・D棟・E棟を工事していくとのことで、工事中はプレハブ校舎で授業を受けることになります。プレハブといっても冷暖房完備で頑強な最新のものですので安心です。プレハブでも旧校舎のままよりもずっと環境は良くなるのではないでしょうか。

ただ、問題は校庭の機能が著しく失われることですね。校庭の3分の1はプレハブ校舎が占めることになりますので、最も打撃を受けるのは野球部です。野球はかなりグラウンドの「形」に依存しているため、おそらくは来年度末からは相当制限がかかった状態での活動を余儀なくされることでしょう。

面接では自分自身の今までとこれからの夢を語れ

ここまで鎌倉高校の内情と魅力について書いてきましたが、間近に迫った入学試験における面接試験では何を語ればいいのでしょうか。

「中学校生活を頑張ってきたその成果をぜひ教えてください。また高校でやりたいことを堂々と語ってほしいと思います」(副校長先生)

鎌倉高校の面接で評価項目となっているのは下の六つ。

  • 入学希望の理由
  • 中学校での教科等に対する学習意欲
  • 中学3年間での教科等以外の活動に対する意欲
  • 高校での教科・科目等に対する学習意欲
  • 高校での教科・科目等以外の活動に対する意欲
  • 面接の態度

以上の六つをベースに評価されることになります。副校長先生の話では自分が持っているもの、考えていること、やってみたいこと、を鎌倉高校でどう実現していくか、そのビジョンを語ってほしいということだと捉えられます。

たくさんの希望を持って鎌倉高校に入学してきてほしい、そんなメッセージが感じられますね。

学校での取材内容は以上となります。

スクールカーストの実態

ここからは在校生・卒業生の話を中心に鎌高の現状についてお伝えしていきます。

気になるスクールカーストについて。「青春系」の学校はどうしてもスクールカーストが出来上がる傾向にあります。活発な部活動に入っていたりお洒落だったりする生徒がカースト上位にいて、文化系部活で地味な生徒はカースト下位になるという気分が悪い話です。こちらについてはさすがに先生方に聞くわけにはいかなかったので、在校生に聞きました。

「人気によってグループに分かれるし、そのグループにも序列が少なからずあります。でもそれによって誰かが不利益を被る例は見受けられないので、『個々がそれぞれに楽しんでいる典型』って感じです」(高校3年生)

なんと素敵な回答! 「カースト」なんていう言葉で括って問題視して騒ぎ立てている大人たちをあざ笑うかのような生の声です。副校長先生の言葉にもあったように「それぞれの青春」でいいはずです。鎌倉高校には色んなキャラの人の居場所がありそうですよ。

在校生の鎌高エピソード

『鎌ボケ』は年々減ってきている印象。みんな結構真面目」

「入学してすぐに感じたのが、校舎の構造が複雑だということです。迷ってばかりで全然たどり着けず、校舎内で迷子になることがありました」

指定校推薦が充実しているので、一年生から成績をしっかりとっておけばGMARCH以下は確実に合格できるし、学年トップは慶應などにも推薦で進学」

学校が宣伝しているほどグローバルな活動は活発ではないと思います。国際理解教育に関しては中学の時とそんなに変わらないです」

「定期・期末テストの後にお楽しみがある教科が多い(ビンゴ、アイス、お菓子ect)」

「海に近いので、放課後や部活の後などにみんなで遊びに行ったり、江ノ電での通学中や教室での眺めが良いなど、通っていることに誇りを持てる」

「ロケーションが良いことなどが影響して、映画やドラマ、番組などの撮影が多い。運が良ければ3年間の間にすごく幸せな体験ができる」

「サッカー部は学校行事に制限がつけられるほどの厳しさがあります。練習がヤバいです。水泳部はマネージャーがめちゃめちゃ多いです。全体的にマネージャーがいる部活がすごく多い

おわりに

今回、鎌倉高校を訪問して感じたことは「気持ちのいい学校である」ということ。それは、抜群のロケーションによるところも確かに大きいですが、節度ある生徒の振る舞い、爽やかな挨拶、事務室の方のご対応、そして真摯に語ってくれる先生の存在が確かにありました。

「変わろう」としている部分、「守ろう」としている部分、そのバランスがよく保たれています。先生と生徒の距離感も程よく、学校全体を心地よい空気が包んでいると感じました。

広報担当の先生が語る言葉が印象的でした。

「教員と生徒が一丸となって、スタッフとして、またキャストとして鎌高を盛り上げていきたい。鎌高に関わる人たちで学校をもっとよく作り上げていきたい」(広報担当総括教諭)

鎌高に関わる多くの人が、学校で共有する時間を豊かで楽しいものにしようと強く思っているからこそ、鎌高の青春は保たれているのかもしれません。それは今までも、そしてきっとこれからも。

最後になりましたが取材にご協力いただきました副校長先生、広報担当の先生、当塾卒業の鎌高生の皆さん、本当にありがとうございました。