2022年2月15日、神奈川県公立高校入試共通選抜が行われました。受験生のみなさん、お疲れ様でした。各問題の難易度も含めて、幾つかの観点から今年も国語の問題分析をしていきます。驚きましたね。
はじめに
神奈川県入試における国語の位置づけ
2019,2021年度を除いて5教科の中で最も得点の取りやすい科目となっています。
- 2021年度:65.7
- 2020年度:69.1
- 2019年度:59.1
- 2018年度:65.6
- 2017年度:73.1
- 2016年度:64.7
選択肢重視でありながらバランスの取れた問題
昨年度までの問題は下記の通り。
- 漢字:読み+適する漢字を選択する問題
- 文法問題:紛らわしい語の識別(主に助詞・助動詞)
- 短歌 or 俳句(交互に来てます。2022年度は短歌の年)
- 古文:内容把握(文法問題・現代語訳問題はない)
- 小説文読解:人物の心情・情景描写の読み取り・文章全体の特徴
- 論説文読解:筆者の主張を追い、具体と抽象を言い換える力を問う
- 資料読み取り問題:要約能力とグラフや表の読み取りの的確さを測る
難易度・バリエーションともに論理的思考と言語知識や読みの力をバランスよく問う問題が出来上がっています。個人的には直球で読解力を問うてくる神奈川の問題は好きです。
ただ、2022年。これが、大きく変わりました。ここまでの大きな変化は長文記述問題が消えた2018年以来五年ぶりのことです。
2021分析と考察
五年ぶりの大きな変化
2022年度入試で何が変わったか
- 漢字の読みが選択肢に
- 問1の短歌の配点が4点に
- 大問の順番が変わった
- 説明的文章の書き抜きが消えた
- 問1にあった文法の識別問題が説明文の中に
- 突如現れた四字熟語
問題用紙を開けた瞬間、驚いた受験生も多かったと思います。順番が変わったのは、2013年度の共通選抜導入以降初めてです。
数学で数字の記入が消えた時点である程度予測できたことではありますが、全体としてマーク以外で「書く」ことを徹底的に排除してきています。ただ、今年の変化はそれだけでは説明できない大きな変化と言えると思います。
難易度の分析
所感は、「難化」です。昨年よりも平均点が下がります。漢字は単純に難化し、例年正答率の低い短歌・俳句が4点配点になったこと、古文が難しいこと、説明文の文章が難解だったことが原因です。また、資料読み取り記述の6点問題も答えにくく、正解率は低いでしょう。そして、何より順番の入れ替え。神奈川病(神奈川の入試問題はこう出てくるというパターンでひたすら練習を積むこと)に陥っていた方には、大きな動揺を与えました。
受験生の声をお伝えしておきます。
- 名前書いた時に、解答用紙裏で漢字の読みとともに説明文の書き抜きも消えていてテンション上がった
- 漢字の読み、また全県あたってた。すごっ
- 読みは全部先生のプリントにあったやつだった
- 漢字選択むずい。これはやられた
- 古文何言っているか分からなかった。誰なんだ〜
- 神奈川県は“ちょい古現代文”にはもう飽きてる説、当たりましたね
- 小説文は「えぇ話や〜」と思ったけど、冷静に心情語を追って読んだら出来た
- 説明文、文章が抽象的だったけど、問いは傍線前後の言い換えでほぼ出来る
- 時間が足りない、とは思わなかった
大問分析
問1 漢字の読み書き、短歌
- 漢字の読み
- ついに選択問題に
- 間違えそうなものが選ばれている
- 選択肢が絶妙(間違えそう……)
- 「寸暇」は12月の全県模試で「余暇」が出題。一昨年の「綻び」、昨年の「掌握」「惜別」に続いて三年連続で神がかる
- 「爽やか」は11月の県模試(教育開発出版)で出題。模試会社ってすごいですね
- 漢字の選択
- 今年、ここでやられた人は多いはず
- 甘く見てましたよね? ここ
- a「即席」は意外とパッと出てこない
- b「採択」は「伐採」となかなか結びつかない
- c「架空」はともかく「担架」はきつい
- d「研ぐ」は読みで練習していれば…
- ただ、全バツもあり得ます。全バツだった受験生、君だけじゃないから……
- 短歌
- やはり順番通り短歌
- 明るさと翳りの明暗、明るさと悲しみの悲喜の対比
- 落ち着いて選択肢を消していければ正解にたどり着く
- 昨年の俳句よりは取りやすかった
- しかし、4点……
問2 小説文
2022年度は青谷真未「水野瀬高校放送部の四つの声」より。文章は優しくきれいで読みやすい。今回も、受験生の葛藤に寄り添うかのような名言が繰り出される。
他人に期待をすること。その期待に応えようとすること。そこで生まれる齟齬。
だけどやっぱり、言葉はすれ違ったままにしておかないほうがいいんだって、今回のことでわかりました。
僕は伝えたいことがなかったわけじゃない。どうせ伝わらないだろうと諦めていただけだ。
でも、タイトルが好みではありません。もう少しなんとかならなかったのだろうか……。
- 本文
- 全体で5000字超。長いぞ
- 長いけど、時代設定古めから脱却したので、読みやすくなりスピードは上がったか
- 「お互いの善意が招いたすれ違い」というテーマは興味深かった
- 菫さんがいい人で、僕は反省して成長する人だということがつかめると解きやすい
- 赤羽さんとか南条先輩とか面白そうなキャラだったので、もっと出てきて欲しかった
- 来年、改訂予定の神奈川県対策教材を作っている某教材会社さんにアドバイスを求められて「ちょい古現代文もっと入れろや、ゴラァ」と言って、たくさん採択してもらったみたいなんですけど傾向変わってゴメンなさい(もう神奈川県はちょい古現代文に飽きてきている説を年末ごろから唱えていたことも黙っていてゴメンなさい)。
- 設問
- 選択肢の文末で全体の意味を操作している問題が多かった。選択肢は最後まで読むという基本を大事にしたい
- 微妙な選択肢が多い。読み込んでいるうちにどれも正解に見えてくる感は何問かであって、その意味ではよく作り込まれていると感じた
- ただ、やはり心情語を丁寧に読むのは大事
- (ウ)と(オ)は少し難しかったかもしれない
問3 説明的文章
昨年は「ネット上のコンテンツと書物の違いについて」という頻出テーマ。今年は、一気に抽象度をあげてきたので、苦しんだ受験生も多かったはずです。
- 本文
- 「言葉は言語主体である話し手、聞き手の思想表出」という話
- 全国入試をやり込むだけでは読めなかった可能性。都立の自校作成がこういう文章好きですね
- 語彙レベルは高くありませんが、抽象度が高くてつらい
- 焦っている受験生、国語に自信がない受験生の心をへし折る文章
- 「ではなく」「定義づけ」「問いかけに対する答え」「つまり・このように」に注意して読むと解像度が上がった
- 設問
- 四字熟語! 柏陽の独自入試問題時代に見た以来な気がします。四字熟語が出題された意味は大きいですね。でも、さすがに簡単でした
- 識別問題が説明文にインクルード。こっちの方が自然でいいです
- 巧妙に言い換えられた選択肢が多く、文章中の表現をそのまま選べばいい、ということはない
- (ケ)はラストを読んでれば出来たから別に難しくないと思います
問4 古文
ここに古文がある時点で不穏な空気を醸し出していましたが、やはり難しいものでした。十訓抄が出たこと自体が珍しいですし、注も少ない。古文読んでる量が少ない人には厳しい問題でした。
- 本文
- 「寺塔を建立した儀式でほうびをとらせる」ということの意味がそもそも苦しい。なんで? と思った人も多かったはず
- 尊敬語が多くて主語確定が難しい
- 誰が偉くて、誰がいみじかりける人だったのか、難しかったですね
- 阿闍梨とか法眼とか、位なのか名前なのか分からないやつ、きついよね
- 設問
- 落ち着いて読みたい。(エ)を解いて逆算的に理解するやり方ができるとちょっと解きやすくなったかもしれない
- 御室を中心に問いを作っているにも関わらず、理解をしておかなければいけなかったのは、僧正の行動であるという難しさ
- 過去数年で一番難しかったですね
問5 資料読み取り問題
資料と会話文から適切な情報を読み取って、題意に沿って記述する問題。「グラフと表」のパターンから「グラフと資料」という2018年以来のパターンに変わった。
- (ア)は解きやすいと思います
- (イ)の問題は書くべき内容は会話からうまく拾っていかなければならず、資料とグラフをよく読んでも正答を書くのが難しい
- 記述すべきポイントがずいぶん離れているので、うまくまとめきれなかった人が相当数出てくるでしょう。「不要な服の購入を控える」「安易に処分しない」の2点を盛り込むのはかなり大変でした
総評
2022年度国語入試問題の総評
-
- 問1→難しい
- 小説文→昨年同等
- 説明文→昨年より難しい
- 古文→昨年より難しい
- 資料読み取り→昨年より難しい
トータルすると難化です。変化がついただけではなく、全体的に難易度も上がっています。小説文は良かったですが、説明文があまり好きではありません。古文は内容がわかればいい話なのですが、ちょっと難易度が高かったですね。
受験生へ(2月15日〜17日にご覧になった人へ)
まだ、終わってないよ。
思うような結果にならなかった人、震えて力が出せなかった人、今までやってきたすべてが無駄になってしまったと思っている人。まだ、出来ることがある。君たちには挽回のチャンスが残されているんだ。進学重点校およびエントリー校では、特色検査がある。それ以外の学校では、面接で点差が開くこともある。
特色検査実施校ではボーダーライン付近の場合、特色の点数がものを言う。絶対に諦めちゃダメだ。
特色検査、面接試験はサッカーでいうところのアディッショナルタイム。劇的なラストを演出するこの検査。持てる力、使える資源、協力してくれる人はすべて使おう。15日の試験で悔いが残った人、もう悔いは残せない。
受験生のみなさんが、面接を終える最後の1秒までやり切れることを願ってる。あとちょっと。ここまでの努力や頑張ってきた時間を考えればあと1日や2日は頑張れる。やってやろう。
さいごに
毎年書いていることですが、このブログのタイトルは「受験を超えて」です。「合格のために」ではありません。
みなさんはコロナ禍の二年を過ごしてきました。「いつまで続くんだろう」「そろそろ終わる」、そう思っていたことでしょう。でも、最後の最後までコロナは皆さんの前に立ちはだかりました。楽しいことがたくさん中止になったり、思うように勉強ができなかったり、入試当日を迎えるまで不安で仕方なかったことと思います。
でも、みなさんはそれを乗り越えて、この入試に臨んでいます。もちろん、追試験を受ける受験生も含めて、ここまで本当によくがんばりました。
苦難を乗り越えたみなさんには、力があります。
これから先の「何をやればいいか」の問いを自分で探していく時に、この強さは必ずや発揮されます。
だから、この一年で得た経験や力を今度は自分がやりたいこと、やってみたいことを実現するために使ってみてください。
受験は合格するためにするものではありません。その先の未来を自分で掴みにいくためのものです。今回の受験が、皆さんにとっての誇りとなり、次なる羽ばたきにつながるものであることを願ってやみません。
高校受験、お疲れ様でした。
(特色検査、面接が終わったら)ゆっくり休んでください。
そして、高校受験に際してこのブログを読んでくださりありがとうございました。