受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


《国語》2018全国高校入試問題行脚1:岩手県

2018.07.07


2018年全国の公立高校入試問題(国語)を難易度・問題のバリエーション・記述量など、独自の観点で分析していきます。他県の方のための岩手県入試活用法にも触れています。目標は全国制覇ですが、著作権の都合上問題の入手が出来なかった県もございますので悪しからずご了承ください。まずは岩手県。順番、そして写真に大意はありません。

総評

  • 難易度  ★★★☆☆
  • 面白さ  ★★★☆☆
  • 記述量  ★★☆☆☆
  • 問題のバリエーション ★★★★☆
  • 神奈川度 ★★★☆☆

難易度はそこまで高くありません。県教委が発表している合格者の平均点は57.3点。想像以上に低いですね。記述がそこそこあるのと問題量が多くて頭の切り替えが必要とされるため高得点が取りにくい構成となっているように感じます。

記述問題は最長で150字。それ以外にも55字以内がありそこそこヘビー。差がつく問題となっています。

設問は良問が多く取り組み甲斐がある内容となっています。特に問題のバリエーションの豊富さは特筆。「小説文・論説文・詩・話し合い・古文・漢字」とパチパチと頭を切り替えながら解いていかなくてはいけません。詩の出題は全国でもレアですね。さすが宮沢賢治のふるさと、イーハトーヴ県でございます。

神奈川の方が一番多くこのブログを訪れるかと思いますので、「神奈川度」を付け加えておきます。神奈川度は「星3つ」です。小説文・論説文の選択肢問題の意図には似たようなものを感じ、また神奈川よりもややシュールに展開される「話し合い問題」は興味深いです。各問分析でもう少し書きます。

各問分析

各問題に5段階のレベルをつけながら分析していきます。Lv.5が一番難しくLv.1が簡単ということになります。

大問1 小説文 堀米薫「あぐり☆サイエンスクラブ」

文章自体はいたって普通。特に感動も目新しさも採択にあたっての強い意図も感じません。難易度も高くはありませんが、問3できっちり書いて問5を正解できるかが点数を伸ばすポイントでしょう。

  • 問1(Lv.2)語句の意味の選択問題。「目をむいた」の意味を答える。やや使い慣れない表現だが、前後関係から判断可能
  • 問2(Lv.1)動作に含まれる心情を答える選択問題。分割法を使いながら解ければ簡単。「非難」の意味は最低限知っておかないと解けない
  • 問3(Lv.3)人物の様子と心の状態について比喩を説明していく記述問題。55字。決して難しいわけではないが、①人物像を捉えられているか、②「様子」と「比喩内容」に触れて答えるという指示に的確に従えているか、がポイント
  • 問4(Lv.2)変化のきっかけを答える選択問題。選択肢の文末をよく読み、論点をずらさぬように答えればできる
  • 問5(Lv.3)情景描写の読み取りの選択問題。選択肢の文末がどれも良いので迷うところ。ただ、文章全体を捉えられていれば問題ない。やや難しい。神奈川2018年度入試で情景描写を問う出題があったので練習には良い

大問2 論説文 池上彰「はじめてのサイエンス」

おなじみ池上彰の文章。論点が明確で頭の中で池上彰の声が再生されそうな文章となっています。文章も良いですし、設問も良いのでもっと設問数を増やして受験生の力を測りたいところ。キーワードを掴んで定義づけや接続詞に注意しながら読めば論理的に読める文章ですので、良いトレーニングになるでしょう。

  • 問1(Lv.2) 本文全体を2つに分ける段落問題。全体のテーマ理解と問題提起箇所を探せていれば間違えない。このパターンを解き慣れていればすぐにできる
  • 問2(Lv.2)本文の内容を図示してその空欄を埋めていく問題。筆者の主張をキーワードを追いながら図式化する力が求められる。簡単ではあるが初めて見た人は戸惑うかもしれない。神奈川はマークシートおよび正答がブレない形を追い求めているので、キーワードを埋めるだけのこういう新傾向問題も慣れておいた方が良いと思う。言い換え能力が鍛えられる
  • 問3(Lv.2)理由を20字以上25字以内で説明する問題。傍線部直後の部分の言い換えで良い。ただ、字数内に収めることと体裁を整えるのは少し難しい。神奈川の最後の資料読み取り問題の練習には少し使える
  • 問4(Lv.4)150字の記述問題。似た観点を持つ別の400字程度の文章が提示されその内容と池上彰の本文とを対照し、共通している事柄を述べる。その上で自分の生活の中に取り入れたいことを表現するという問題。難しくはないが、要約と対比の要素が含まれている点、的確に内容を把握し、自分の例で言い換えなくてはいけない点で骨は折れる。この年の最難問。厄介。でも良問

大問3 詩 村野四郎「鉄棒」

全国的にも稀な詩の出題。県の矜持を感じられる問題ではありますが、問題数は3問とあまりに少量です。

  • 問1(Lv.1)表現技法の選択問題。直喩を答える。楽勝ではあるが、この問題があることで岩手県の中学生は表現技法を必ず覚えるので機能的だと言える
  • 問2(Lv.2)文章中の比喩的な言葉の意味を答える選択問題。言い換えをちゃんと汲み取れればできるはず
  • 問3(Lv.3)詩の鑑賞の選択問題。文章中の表現を具体的な意味で置き換えて説明されているものを選ぶ。慣れていないとちょっと難しい。神奈川の問1、短歌俳句の問題に通ずるところがある。練習でやるのもいいかも

大問4 話し合い問題 テーマ「地元商店街を活気づけること」

一時の全国的な話し合い問題の大ブームは去ったものの根強く残るこの手の問題。岩手県のこの問題は何と言ってもテーマが現実的で討論も白熱していて面白い。神奈川県でも話し合い問題がありますが、全てを掌握する巧みな司会者の力で強引にまとめ上げられるあの問題はもう飽きましたよね。それに比べれば、討論の内容も面白く一方向で収束しないところが秀逸です。

「仮説→検証→修正」の手順が見事で大問2の池上彰の文章を体現しているとも言えます。短い討論ではありますが、この短さでスピーディーに話が発展していくところが興味深かったですね。

  • 問1(Lv.2)話し合いの内容についての選択問題。よく読んで意図を汲み取れれば間違いなく正解できる
  • 問2(Lv.2)司会者としての最後のまとめの一言を埋める選択問題。抽象と具体についても分かるいい問題。神奈川的にはこれが穴埋め問題になりそう。選択肢を提示しないで30字程度で穴埋めする練習をすると良さそう

大問5 古文「韓非子」

中国の春秋戦国時代を舞台とした韓非子が題材。最初の数文字を読むと「うっ」となりますが、全然難しくありません。楽勝です。これはあまりトレーニングにはなりませんね。このレベルが出来ても高校古文で苦労することになりそうです。もう少し歯ごたえのある問題にしてほしいものです。古文は落とせないのではないでしょうか

  • 問1(Lv.1)返り点の問題。少なくともこのレベルは出来るようになっておかないと中学生を卒業できない。神奈川でもいつ返り点問題が来るかは分からない。ちょっとだけでも準備をしておきたい
  • 問2(Lv.1)文の意味を説明する選択問題。これも楽勝。普通に読めば出来る
  • 問3(Lv.2)内容理解の10~15字の記述問題。季節がいつかを踏まえて読み取る必要があり、ワンステップだけ難しい。でも出来るはず
  • 問4(Lv.2)よくある古文の最後に筆者が意見を述べている内容についての選択問題。問題は良いが選択肢が安易すぎて結果的にかなり簡単。これも落とせない

大問6 漢字&漢字パズル

なかなかいいセレクトをしています。絶妙に語彙力がある人とそうでない人を隔てるレベル感ですね。割と正答率は高くないのではないでしょうか。

  • 「差し支える」の読み
  • 「凝視する」の読み
  • 「委ねる」の書き
  • 「見聞」の書き
  • 漢字パズルは楽勝

使い方

時間を計ってテンポよく解く練習をしてみると良いでしょう。古文は全国入試を解く上では超入門編、小説文・説明文は入門編となっているで、大問ごとで解くとしたらかなり初期から取り組めるのではないでしょうか。

全てを通して解いた時に岩手県の問題は真価を発揮して「あれ? 意外と点数伸びないな」ということになる構造になっている気がします。ぜひ50分で全問チャレンジしてみてください。

全国入試は解けば解くだけ力がつく奇跡の教材です。ただし、解き方を間違えてはいけません。国語の考え方、解き方を熟知した上で取り組んでいくことが重要です。そして、問題のレベルや種類、結果を分析して自己研鑽につなげていくことが重要です。時間も計りながらやった方が良いでしょう。

国語の説明文の解き方についてはこの記事も参考にしていただければと思います。

 

浄土ヶ浜、美しいですね。俳句書けそうです。

おわりに

全国入試行脚、第一弾いかがでしたでしょうか。これから夏期講習が始まるので進みが遅くなることは間違いありませんが、全国制覇目指して頑張ります。岩手県の塾の先生、もしご覧になっていたらご意見頂戴できると嬉しいです。蚊帳の外からとやかく大変失礼いたしました。