受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


《国語》2018全国高校入試問題行脚5:埼玉県

2018.09.06


2018年全国の公立高校入試問題(国語)を難易度・問題のバリエーション・記述量など、独自の観点で分析していきます。目標は全国制覇。第5弾は埼玉県。浦和高校を筆頭に大宮高校、SSHの浦和第一女子など全国的にも名を轟かせる高校が多数ある埼玉県の問題はどのような問題なのでしょうか。

総評

  • 難易度  ★★★★☆
  • 面白さ  ★★★☆☆
  • 記述量  ★★★★☆
  • 問題のバリエーション ★★★☆☆
  • 神奈川度 ★★☆☆☆

難易度は高いと思います。県発表の平均点は52.3点。長い小説文、難解な説明文、歯ごたえのある知識問題、240字の作文問題と受験生にとってみればなかなかの強敵ぞろいと言える設問が並んでいます。採択されているのは、今をときめく原田マハの「リーチ先生」と「侘び」についての説明文。基本語彙のレベルがかなり高いので、語彙力がない受験生は苦しむことになりそうです。

記述問題は最終問題で資料読み取りから自分の意見を書く225字以内。それ以外には50字以内が二つ、45字以内が一つ、書き抜き問題も含めるとかなり「書かせる」入試となっています。小説文、説明文それぞれに文章の複数箇所を読み取りながらまとめていく問題は本格的で、高い記述力が要求されます。

記述や書き抜きを中心に難易度は高く、知識問題も侮れません。文章自体も長めで、スピード感も必要とされます。最後の作文問題のことを考えるとかなり時間は厳しくなるのではないでしょうか。全国入試の難易度としては上級。本格派(表現としては微妙ですが)の入試問題です。受験勉強の終盤に取り組むことをお勧めします。

神奈川の方が一番多くこのブログを訪れるかと思いますので、「神奈川度」を付け加えておきます。神奈川度は「星2つ」です。小説文・論説文の本文は長くて神奈川風ですが、選択肢問題のひねりが弱く、それぞれも長くありません。消去法や分割法の練習には適さないのではないでしょうか。作文問題もだいぶ趣が違いますので神奈川対策には使えません。長文演習の一つとして小説文を使うのはありですね。

各問分析

各問題に5段階のレベルをつけながら分析していきます。Lv.5が一番難しくLv.1が簡単ということになります。

大問1 小説文 原田マハ「リーチ先生」

ハイペースで執筆を続ける原田マハの直近の代表作とも言える「リーチ先生」からの出題。2018年度入試では埼玉県、北海道、富山県、徳島県で出題されている注目の作品です。平易でありながらもキレのある言葉のチョイスと、魅力的な多数の登場人物たちが、少しアカデミックな展開をしていくところが知的好奇心を刺激してファンを増やしているのだと思います。入試問題でも扱いやすい作品が多いように感じます。5000字超の引用で「読ませる」出題となっています。

  • 問1(Lv.1)人物像と心情を理解する問題。第一問目ということもあり難易度もジャブ程度。楽勝。直後から判断可能。
  • 問2(Lv.3)文章中から読み取れるリーチの文化交流への強い思いを40字以上50字以内でまとめる問題。心情が強く表されている箇所を的確にまとめていく必要がある。「リーチが熱っぽく語っている」の言い換えが文章中から見つけられれば解ける。「自分にしかできない方法で」を書かずに減点される人が多そう
  • 問3(Lv.4)「ぐったりとうつむいて、下駄のつま先ばかりを眺めていた」の心情を「違い」「もどかしさ」の二つの言葉を使って40字以上50字以内でまとめる問題。感じ取ったことを横断的に捉えながらまとめる必要がある。どこまで具体的に書くのかの判断が難しいところ。ただし、条件となっている語句は間違いなくヒントでうまく使用すればまとまりやすい。「思いをかたちにできない」という内容を入れられるかが満点正解への岐路
  • 問4(Lv.2)人物の様子を説明しているものを選ぶ選択問題。全体的にプラス表現が多く、やや迷うところがあるが、場面に置ける心情を正しく捉えられれば解ける。大げさな表現や極端な表現を消していく練習ができていれば問題ない
  • 問5(Lv.3)表現の特徴を選ぶ問題。擬態語、比喩、会話の使い方などに触れられていて良い問題。「適切でないもの」に引っかからないようにしつつ、分割法を用いながら選んでいく。神奈川にも直結する問題

引用されている「リーチ先生」は超大作ながらも飽きのこない良作です。アート系小説の大家と言える原田マハの渾身の作品。各県でも入試問題に使用されており、2018高校入試対策の必読書と言えるでしょう。

大問2 漢字・文法・語彙問題

漢字の読み書きに加えて文法、対義語、語彙を組み合わせた知識の小問集合とも言える大問。漢字は難しくないですが、語彙問題は対策も難しく厳しい問題ですね。

  • 問1(Lv.3)漢字の読み書き問題。普段見慣れない「養蜂」や「隆盛」が読みで出題され、「権益」が書きで出題。いずれも日常的に見ることも少なく、また数多の漢字練習ドリルにも掲載されていない。もちろん頻出漢字にも出ていない。埼玉県の漢字の問題は漢字が書けるか読めるかというよりも語彙として知っているか否かという、一段階上の要求となっていると言える
  • 問2(Lv.3)文法問題。活用の種類が同じ動詞を選ぶという問題。活用の種類と活用形を勘違いして間違える生徒が続出したことだろう。非常に基本的な問題だけに本当はここで落としてはいけない
  • 問3(Lv.2)五つの漢字を組み合わせて対義語をつくり、使わなかった漢字の記号を答える問題。文章の意図にしたがって「承諾」「拒否」が答えとなり、このくらいの語彙は持っておきたいところ。「諾否」を答えさせる問題であればより難しくなるが…
  • 問4(Lv.2)「の」の識別問題。準体言・体言代用の「の」を選ぶ。識別問題としては初歩中の初歩なので多少なりとも対策をしているなら解ける
  • 問5(Lv.5)本来の意味と異なって使われていることが多いという内容の文章があり、その空欄にあてはまる適切な言葉を書く問題。答えは「役不足」。どこかで聞いたことがあれば答えられるし、文章の中では「役目」という言葉が連発されているので推察もできるか

大問3 論説文 佐藤透「美と実在-日本的美意識の解明に向けて-」

「侘びの美」をテーマにしているが馴染みがなさすぎて中学生には理解が厳しい内容ですね。語彙レベルの高さはかなりのもので、多くの受験生は読むだけで一苦労するでしょう。しかしながら問いはそこまで難しくないので、難解な文章に負けないメンタルが必要となります。

逆接や強調語に注目しつつ、「むしろ」「ではなく」などの表現に敏感になって中心となる主張を読み取っていければ問いには対抗できるはずです。

  • 問1(Lv.1)キーワードの内容を説明している選択肢を選ぶ問題。筆者の主張をある程度読めていれば解ける問題。消去法が有効。易しい
  • 問2(Lv.2)空欄補充問題。ア の問題は文章中の言葉を使いながら自分で10字以内にまとめ、イ の問題は書き抜き。問題の指示にうまく対応しながらまとめていければ大丈夫
  • 問3(Lv.3)本文中の内容についての理由を答える選択問題。本文とは打って変わって平易な言葉で選択肢が書かれている。具体例の意味をおぼろげながらでもつかめていれば正解を選べるか。「適切でないもの」を選ぶという部分でまた引っかかる人が多そうだ
  • 問4(Lv.5)傍線部(筆者の主張)と同じ内容の箇所を18字で書き抜く問題。かなり抽象化されているので難しい。おそらく正解に近いと思われる傍線部直後を一生懸命カウントしても正解は見つからない。「一般名をつける」を「概念的把握」と読み替えるのはなかなかに大変。正答率は10%を切る
  • 問5(Lv.4)筆者の主張を捉え、「侘びの持つ美的戦略がどのような契機をもたらすか」について「現実」「悟性」を使いながら35字以上45字以内でまとめ直す問題。「契機」とか「悟性」とかそもそも語彙力がなければ太刀打ち不能。文章中のそれっぽい箇所を拾いつつまとめれば点数には匠が満点正解はなかなか厳しいのでは。「悟性の活動を縮減する」という内容が入れづらいかもしれない

大問4 古文「徒然草」

徒然草、「第184段 相模守時頼の母は」からの出題。程よい難易度ですし、有名な古文なので受験勉強の中で目にしている人も多いのではないでしょうか。問題自体はよく出来ていてきちんと理解していないと解けません。問1を除くと結構得点が取りにくい問題となっています。

徒然草は王道すぎて最近はあまり入試問題で出題されていませんが、徒然草は齋藤孝の「使える! 徒然草」を読んでおくと一気に身近になりますし、興味も湧くはずです。埼玉県の方々は入試問題に使われたことを理由に生徒に紹介しておくことをお勧めします。生徒たちの古文へのハードルを劇的に下げるチャンスです。

  • 問1(Lv.1)現代仮名遣い。間違えようがない。「たまはりて」。出題する意味あんのか?
  • 問2(Lv.3)登場人物が複数の呼ばれ方をしていて、その別の呼ばれ方を答える問題。これは結構難しい。本文内容をきちんと掴んでいないと間違える
  • 問3(Lv.3)「さやうの事」の指示語が何を指しているかを10字以内で答える問題。どうまとめるのかがやや難しく、的確に10字以内にまとめる力も求められる
  • 問4(Lv.3)文章の内容を理解しているかを問う選択問題。選択肢中の「倹約」の意味と文章全体を通しての松下禅尼の行動の意味を掴めていれば答えられる。が、意図的に原典ラストの「世を治むる道、倹約を本とす。女性なれども聖人の心に通へり。天下を保つほどの人を、子にて持たれける、まことに、ただ人にはあらざりけるとぞ」の掲載をカットしていたのが少々気になる。ちゃんと全部読ませてこその問題だとは思うのだが…

大問5 資料読み取り記述問題(作文)

「書き言葉によるコミュニケーション」について発表した資料を読んで、「文字で伝える際、重視すること」について自分の考えを文章にまとめる問題です。195字以上225字以内で書くことになっています。字数が多いのと、採点基準がかなり細かいので満点を取るのはなかなか難しいですが、逆に言えば16点の配点の中でミスがなければ内容をさほど重視しなくても10点ほどは狙える問題ということになります。

次のような構成でまとめてみると良いでしょう。

  1. 「文字で伝える際、重視すること」についての自分の主張
  2. その根拠(資料中のデータを用いる)
  3. 自分の体験(学校でのレポートや模造紙発表などの経験)
  4. まとめ

という四段構成にすると綺麗にまとまりそうです。四段構成で書こうと思えばそれぞれの段落の字数もコンパクトになりますし、矛盾や誤りも減ることでしょう。主述の関係や接続詞の使用などについては学校の先生や塾の先生の力を借りながら正していけるといいですね。

使い方

小説文は王道、説明文はトップクラスの難易度、古文は王道ながらも差がつく問題、最後の200字級の記述問題という内容でした。漢字等の知識問題も正答率低めの問題を出題してきており、明らかに差をつけることを狙って作問されていることが分かります。

  • 長い小説文が出題される県(神奈川とか)
  • 難解な説明文が出題される県(東京とか)
  • 作文問題で資料が少なく体験を含んで書かせる県(秋田とか宮城とか香川とか愛媛とか)

等の対策で使用すると良いのではないでしょうか。「通し」で実施する場合は上級編です。

埼玉県は埼玉総合教育センターという公的機関(?)が客観的に入試分析をしてくれています。神奈川県の発表よりも詳しくて羨ましい限りです。

おわりに

全国入試行脚、第五弾いかがでしたでしょうか。埼玉県、ポリシーを感じる出題でしたね。「リーチ先生」の長さもさることながら論説文の難易度の高さは特筆ものでした。激務の夏休みが終わりましたので、引き続き全国制覇目指して頑張ります。埼玉県の塾の先生、もしご覧になっていたらご意見頂戴できると嬉しいです。蚊帳の外からとやかく大変失礼いたしました。

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