鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -
2019.03.07
2019年中学入試問題分析です。各校の問題の特徴と傾向、攻略に必要な力、学校のねらい等について分析記事を書いてまいります。第3弾は神奈川女子最難関のフェリス女学院です。
目次
文章題全20問中、15題が選択肢問題。40字以内の記述問題、200字作文が目を引くため記述重視にも見えますが、選択肢の問題も十分なウェイトを持っていますので全体としてはバランス型の趣を持つでしょう。
文学的文章のセレクトは、さすがに珍しい梅崎春生の「魚の餌」。中学受験ではなかなかお見かけしない作品ですね。はるか昔に早稲田実業で出題されたことがあります。4700字程度の長文での出題となっており、説明的文章との割合を考えると明らかな小説文偏重と言えるでしょう。文学的要素を持つ単純ではない心の動きを読ませる作品です。自尊心や虚栄心、優越感などの一段深い感情の読み取りが必要で、文章同様、問題の難易度も高めです。2016年小川国夫、2017年下村湖人、2018年山川方夫とフェリスは大正から昭和初期の作家を好んでいることが分かります。
説明的文章は音楽家岡田暁生の「音楽の聴き方」。1700字程度と長くはありませんが、練られた5つの設問は手強いものです。文章全体の主題を把握することはもちろん細部の表現が持つ筆者の意図を正確に読み取れていないと正解はできないでしょう。高度な言語運用能力を試してくる問題となっています。
ベーシックなものと非常に基本的な難易度の漢字が出題。
あえて間違えそうなものを選ぶとすればこの二つでしょうか。ただ、文章題の難易度を考えるとフェリス受験者はここでつまずくわけにはいきません。
選択肢問題は文章の内容がそのまま選択肢になっていることが少なく、いくつかの主張や言葉を組み合わせた形で作られています。文中の内容を理解した上で変換する力が求められていると言えるでしょう。複雑な要素を含んだ多様な問題が並んでいて、作者の表現の工夫や情景描写の意図を問うものもあり、全体として抽象と具体の高度な往還が求められています。
二択に絞ってからさらに選んでいく練習が必要です。精密に読んでいっても最後を感覚に頼ると間違えることになります。文章中の表現の意図を正確に汲み取っていきましょう。大問1小説文でのハイレベルな選択肢の連続は集中力を要しますので、結構消耗することが予想されます。200字作文に力を残しておけるように過去問でペース配分をよく掴んでおくと良いですね。
大問2の説明的文章で主に出題される記述問題。文章中の表現を言い換える問題、筆者の主張を40字以内でまとめる問題が課されているため、最小限の言葉で内容を的確に表現する言い換え力が求められます。
テレビ・ラジオのコマーシャルソングや電車の発車メロディーのような、一部分だけを用いた音楽について、良い点と悪い点の両方を挙げながらあなたの考えを200字以内で書きなさい。
2019フェリス女学院 大問2 問5より
名物の200字作文ですが、今年は論説寄りで出題。年によっては「続き物語」を考えるものも出題されています。いずれにしてもフェリスの200字作文で重要なのは「他者視点」。設問は「あなたの考え」をまとめるというものになりますが、両面的・多角的な視座を持っていることが肝要です。自らの主張とともに他者理解の意識を持って欲しいという狙いが見えてくるのは、隣人愛を強調するフェリスらしい出題です。
この問題がどうしても苦手な人=自分の意見を押し切りたい人や、想像力で世界を広げていくことに興味がない人はフェリスの受験を考え直した方がいいですね。
2017、2018と出題されていた語彙の選択問題が消えました。代わりに大問4に「たとえ」と「断じて」を使用して30字以内の文を作成するという問題が出ています。この「30字以内」という制限はなかなか厳しいもの。主語述語も整えたいし、「たとえ〜ても」「断じて〜ない」の呼応も守りたいと考えると残り字数は限られています。日頃から短文作成の訓練を積んでおきましょう。
また、語彙が直接問題になることはありませんでしたが、文章中には「余儀なく」「粗野」「頽廃」「眇目」「不可逆」などが脚注なしで登場。高レベルの語彙力と文脈から推測しなくてはなりません。分からない語彙があった時は都度調べてまとめておくと良いでしょう。
フェリスも語彙力は不可欠。国語で高得点を取るための鍵を握ると言えるでしょう。語彙力アップにはこの漫画が最強。難関校受験者は一家に一冊(二冊)必要ですね。名探偵コナンのものもありますが、使いにくいですからオススメしません。(無類のコナン好きならありかもしれません)
まずは4700字の難しめの小説文を読み切る読解力、言葉の言い換え力、長短の記述問題を書ききる文章力が必要です。特に選択肢問題の質が非常に高いので一筋縄ではいきません。国語が苦手な方は致命的な点数を取ることになりかねませんので、早い段階で読書や要約、語彙トレーニングを積むことで対応力を高めておきましょう。