受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


偏差値が10下がっても熱望組が減らない理由。:公文国際学園 官野教頭/齋藤先生インタビュー

2022.08.07


2023年に創立30年を迎える公文国際学園。私服登校、寮体験、校則なし、など特徴ある学校運営で注目を浴びてきた学校だ。MUNK(模擬国連活動)を中心とした国際理解教育でも、私立中高一貫校のグローバルな取り組みの先鋭として活動。その人気を確固たるものとし、偏差値も上昇の一途をたどって難関校の一つとなった。

しかし、ある時期を境にして急激に偏差値が下降し始める。この十年で最高偏差値(日能研R4)は2012年の59。一方で最低は2019年の49となっており、実に10ポイントの急落だ。現在は53まで戻してきているものの、短期間でここまでの変動は類を見ない。

奇妙なのが、大学進学実績が突然悪くなったわけでもなく、また熱望組と言われる第一志望者も減少していない点だ。「共学」「国際」「自由」という、まさに今の中学受験で人気のキーワードをすべて持つ公文国際は、難易度および偏差値は上がりこそすれ、下がっていく理由は表向きには考えにくい。

数年前まで入試日程・方式が二転三転したのは、確かに敬遠される理由の一つだったかもしれない。さらにいうならば、学校説明会や広報の評判もあまり芳しくない。あるいは、ある時期から塾対象説明会が開催されなくなり、公文教室を除いた各塾訪問も激減したことで、「公文国際を勧めにくくなった」という声も業界内では聞く。

それにしても、だ。公文国際学園に通う生徒たちの充実ぶり、希望の進路を叶えていく姿を見ていると、そこまで偏差値を落とす学校には到底見えない。今回は、その謎を少しでも解明すべく、偏差値では測れない公文国際学園の姿について、官野教頭先生と齋藤教諭へのインタビューを通して伝えていこうと思う。

学校概要

2023年に創立30周年。制服も校則もない自由と自律を尊ぶ校風で神奈川南部の中高一貫共学校として人気を博す。横浜のチベットと呼ばれるほどの緑溢れる自然に囲まれた広大なキャンパスと、グッドデザイン賞に選ばれたこともある校舎で、国際的な視野を広めていく教育活動が魅力。珍しい入寮制度(希望制)があるのも特徴的な学校。

官野教頭/齋藤先生インタビュー

インタビューの申し入れに際しては紆余曲折あったものの、最終的にご快諾いただき、実現の運びとなりました。公文国際の情報は、ネット上でも結構少ないので貴重なお話が聞けたと思います。現在学校が抱えている課題、入学試験について、探究学習や公文式の活用などの進化についてもお聞きした8000字のロングインタビューとなりました。

入学者選抜について

2022入試結果データ:公文国際学園公式ホームページより

──まず、今春(2022年)の入学試験選抜についてお聞かせください。

官野教頭:大きな志願者の増減はここ数年あまりないと受け止めています。右肩上がりに志願者が増えていけば良いのでしょうが、公文式の教室からの受験枠があって、外の塾からすると募集人数が決して多いわけではありません。

「受かるかどうか」という考え方だと、間口が狭い2月1日の日程で本校を受けづらいという現状があって、各塾さんでは勧めにくい学校になってしまっているのかもしれません。

実際の入試結果としては、受験者の平均点はほぼ想定通りでした。受験者層は大きく変わっていないと認識していて、学校では受験してくれる皆さんと入試問題の出来について、良い受け止め方をしています。全体としては、合格者が残ってくれる、入学してくれる方が増えてきてくれています。

──A日程(2/1AM)、B日程(2/3AM)の入試を合計すると、“公文式からの自己推薦型入試”と“それ以外の受験生”との募集人数がおよそ半分ずつです。この割合などは今後変更の予定はありませんか。

官野教頭:今のところは変更の予定はありません。

──A日程で二教科入試、B日程で四教科という形式については継続の予定ということでしょうか。

官野教頭:はい。2023年度入試について形式の変更予定はありません。ただ、2024年以降については、現時点では決まっていません。

──入試問題では国語で記述問題が多かったり、算数で思考力問題の割合が高かったりしますが、入試問題のねらいについて教えていただけますか。

官野教頭:国語ではしっかり文章が読めて内容把握ができること、時間内に理解した内容をアウトプットできるということを求めています。国語の問題形式は受験生への一つのメッセージになっています。

算数では計算問題だけではなく、思考力問題を重視しています。よく考えて、頭を使って解く。苦手単元を作らずに、どこで得点を取っていくのかというような戦略的に問題に臨む力も必要です。

ただ、ここ数年問題形式ほとんど変えていないので、過去問をやり込むことは重要かと思います。

公文国際学園の魅力

──公文国際学園の良さについて教えてください。

官野教頭:まずは、学校の中をぜひ見ていただきたいと思います。生徒たちがいかに伸び伸びと主体性を持って日頃の活動を行なっていたり、学校行事にも取り組んだりしている様子をご覧いただくと、受験生や保護者の皆様にも感じていただけるものがあるはずです。

かなり自由度の高い中で、でも放置されているわけでもありません。生徒が主体的に動いていくことを、学校や教員が適切な距離感でサポートしていくという形で教育活動が進んでいるので、やりがいや楽しさを見出してもらって、大事な六年間をここで過ごしたいと思ってくれる子が一人でも多く出てきてほしいと思っています。

──ここ数年コロナがあって最大の魅力でもある国際的な取り組みに制限がかかっていると思いますが、どのようにそのエッセンスを教育活動の中に取り入れていますか。

官野教頭:模擬国連などで海外に出ることもあり、希望する生徒も数多くいたわけですが、海外に行けなくなって、まずはオンラインで出来ることをZoomを通して海外の学校や他校の中高生と繋がって取り組んできました。

国内での模擬国連活動とか英語を使うプログラムは継続してやっていましたが、今までと同じように“学校に集めて実施“ということができませんでした。

でも、その中で子どもたちなりにやり方を工夫して、規模としては縮小された形にはなりますが、活動を継続できています。

また、ここ二年は実施できませんでしたが、中学三年生で希望者については1月から3月の三か月間、ターム留学として学校を離れて海外で生活するという取り組みがあります。今の中学三年生から実施する方向で準備中です。

齋藤先生:ここ数年アジア高校生架け橋プロジェクトというのをやっていて、毎年、アジアや欧米から長期の留学生が来ています。本校の教育理念である「異質の他者を認める」という多様性を大切にしていく考え方の中で、学校内外で積極的につながりを持とうとする生徒はコロナ前よりも増えているように思います。

──主体性を発揮できた生徒や元から積極性がある生徒以外の、やや内向的な生徒たちが主体的に動くようになる、あるいは自分の居場所を見つけていく、という部分についてはどのようなケアをされていますか。

官野教頭:よく受験相談でも「自ら進んでいろんなことに取り組めない子はどうなりますか」、という質問を受けることがあります。

例えば、体育祭や文化祭の実行委員会は、かなりの人数が関わります。実行委員の生徒一人ひとりを見ていくと、日常すごくおとなしい生徒や積極的でない生徒が、実行委員の活動になると手を挙げたり、アイデアを出したり、与えられた仕事を責任を持って取り組む姿を本当によく見かけます。

目立たなくても行事を成功させるために自分にできることを考えて一役を担う、そして達成感を持って行事を終えて、その翌年もまた実行委員になるというような生徒がたくさんいます。

これは本校のとてもいい文化だと思っています。

「異質の他者を認める」という理念が、中学一年生の頃からことあるごとに話がされていて、それぞれみんな違っていいんだ、ということを尊重してあげられる風土が先輩たちからずっと継承されてきているのだと思います。

──公文国際学園に進学した生徒からは、居心地の良さを耳にすることが非常に多いと感じています。ミッション系の学校とかだと、学校の教育理念や大切にしていることを強調しながら日々学校生活を送っているので、生徒たちによく浸透していくとは思うのですが、御校のように自由な学校でそれを共有智としていくことはなかなか難しい気がします。何かポイントがあったりするのでしょうか。

齋藤先生:30年間をかけて醸成され、今に至るまで継承されていると感じています。10年前、就活をしていた際に様々な学校を見たのですが、生徒の様子や採用説明会・面接を通して、理念と実践が一致している学校だと驚きました。

主体性や多様性は多くの学校で掲げられていますが、これらが細部に行きわたっているというのは、本校の強みだと思います。どの生徒に聞いても「異質の他者を認める」「自ら学び、判断し、行動する」というキーワードはすぐに出てきます。

表面的な取り組みですぐに出来ることではないので、教員も含めてこの学園で築き上げられた文化なのだと思います。

官野教頭:学校の中に小さな失敗を許容する文化もありますね。

齋藤先生:本校の創始者である公文公(くもんとおる)先生が残した「やってみよう、やってみなければ分からない」という言葉も学校の中でよく耳にします。それが生徒たち一人ひとりの信念、アイデンティティとなっているというのはあるかもしれません。

──御校では高校のカリキュラムで必修化される遥か前から探究学習に力を入れていると感じていますが、現在の探究学習の取り組みはどんな様子でしょうか。

齋藤先生:今年入学した30期生から探究学習をリニューアルする準備を進め、より個別の興味に応じたプログラムに刷新するように中身を変えています。

中学1年生では各教員がユニークな講座を提供するインタレストスタディーズがあります。今まで生徒は5日間同じプログラムをやっていたのですが、今年から5日間違うプログラムに少しずつ参加してみる方式に変更して、興味の幅を広げることに重きを置きました。

中2・中3は、日本文化体験を2年間かけて実施します。日本の伝統文化について、興味を持ったテーマ・地域について調べて問いを立て、学年160人いたら160通り出てくるものをプレゼンを重ねて、その中で関心が高かった6コースに絞り込みます。

そして、その中から自分たちで修学旅行の行き先を決めて、今度は旅行会社に逆プレゼンしてもらう。そして、どの旅行会社のプランが良かったかをまた自分たちで選んでいく、というように全部生徒主体で決めてもらいます。

今までは“文化”に限定していたんですが、テーマを限定せずに日本探究という形にします。高1では、日本探究の世界版、つまり世界探究を実施予定です。世界探究に関しては、準備の関係もあって訪問国は教員で選定中ですが、人生のハイライトになるような越境体験をデザインしているところですので、楽しみにしていてください。

探究学習のまとめとして高2では、マイテーマを深めていくプロジェクトスタディーズを実施します。

大学生・大学院生のメンターにも入ってもらい、教員のマンパワーだけで対応しきれない部分は外部の力も借りながら、生徒自身の興味や関心をとことん深められるような体制が整いました。

これからは内発的な動機を大切に、さらに次のステップに進んでくれる生徒が増えるといいなと思っています。

──公文式の学内での活用についてお聞かせください。

官野教頭:週一回の公文式の授業と朝学習で使用しています。現在は、数学は必修となっています。ipadを使うようになって進度や習熟度も含めてかなりペースアップできるようになりました。

齋藤先生:公文式のタブレット学習をやっているのは、世界中でまだ本校だけなんですよ。フィードバックがすごく速くなりました。放課後の公文式教室は一週間に一回だったので、取り組んだものの返却が一週間後だったわけですが、それがその日のうちにやり直しもできるようになり、どんどん進められるようになりました。

習熟度という意味では、公文式を利用して個別最適化学習を効果的に実現できていると思います。

公文国際学園に合わない生徒

──魅力あふれる公文国際学園ですが、合わない生徒や楽しめない生徒がいるとしたらどんなタイプの生徒でしょうか。

官野教頭:うまくいっていないなぁっていう生徒は時々いるのですが、その子たちを一人ひとり見てなんか共通していることがあるのかなと考えてみた時に、そこに条件やタイプというものを見出すことはできないなと感じます。

体調的な部分でそうなることもありますし、中学受験のあと学校生活を楽しんでいたものの勉強面でつまずいてしまった、ということはありました。でも、勉強や学校行事などでうまくいかなくなるというよりも、友人とのトラブルがこじれてしまったりということはこれまでもあります。

その時も友達や教員からも色んな角度からアプローチしていきます。保護者の方とも話をしながら、少しずつ解決の方向を探っていきます。

担任の先生が、子どもたちとの面談をかなり繰り返しておこなっていきますし、携帯電話やSNSの使い方などの講習も実施しています。

──先ほどからお話に出ている「異質の他者を認める」という教育理念は、ほぼ直接的にいじめなどを抑止するマインドになるのではないかと思います。

官野教頭

そうですね。日常の中で「異質の他者を認める」ということがどういうことなのかを、繰り返し子どもたちに話していくことで、未然に防げること、失敗したとしても同じような失敗を繰り返さないようにするためにどうすれば良いかということを、常々子どもたちには考えてもらいます。

本校は校則がない学校です。校則がないため、物事の良し悪しを判断していくことも、子どもたちと話していくのに、とても時間がかかります。でも、怒ること叱ることではなく、生徒が理解をして次に進んでいくことを大切にしています。そうやって一つ一つ話をしていくことで、問題の発生を未然に防げている部分もかなりあるのではないかと思っています。

「異質の他者を認める」ということは、中高六年間に限ったことではありません。校則で縛るのは簡単なのですが、社会に出た時に自分で判断しなくてはならないことは多々あります。自由には必ず責任が伴います。教員たちは中学一年生に対してもひとりの人として接しています。

生徒たちも考えながら学校生活を送っていくことで、社会に出てからも同じことが大切なんだよということに、時間がかかったとしても気づいてほしいなと思っています。

現在学校がかかえている課題について

──魅力的なお話をたくさん教えていただいていますが、一方で現在かかえている課題などはありますか。

官野教頭:学校運営の内側の部分と外からの見え方に少しギャップを感じています。具体的には、数年前と比べて偏差値が低下しているという部分も把握をしていて、非常に残念に思っています。

大学の受験結果が著しく悪化しているとは思っていませんし、生徒たちの第一希望を叶えたいという思いで進学指導をしていて、成果も出していると感じています。

大学入試結果だけに特化させるのであれば、選抜コースなどを作るのが一番早いかもしれませんが、学校の考えとして一部の生徒を鍛え上げることを第一にすることはありません。

生徒一人ひとりがどうしたいか、というところを大事にしながら教育活動を進めていきます。もちろん、それが東大の合格なのであればそれを叶えてあげたいと思っていますし、教員になりたい、芸術に興味がある、ということであればその一番の目標を応援できる体制を整えていきたいと考えています。

生徒たちの第一希望というのは本当に多岐にわたります。ですから、今後も難関大学合格何名以上、という目標を立てて進学指導していくことはありません。そこはブレずにやっていきたいと思っています。

その上で、教育活動を日々ブラッシュアップして、見直しをかけながら、外からもきちんと評価してもらえる学校にしていかなくてはいけません。そういった意味で、課題意識はしっかりと持っております。

──私立中高一貫校は大学に行くための六年間の予備校ではないので、偏差値だけでなく広く学校の良さを見つけて欲しいと感じます。

官野教頭:はい。偏差値を軽視しているわけではありませんが、それを超越した学校の価値観をもっともっと我々も外側に向けて発信していきたいという気持ちがあります。

進学指導もしっかりとしながら、教職員全体の力で同じベクトルで進んで行き、本校で六年間学べて良かったという思いの中で、卒業していってほしいと強く思っていますね。

──保護者・受験生の声として公文国際を知るとっかかりの部分の発信をもう少し魅力的なものにしてほしい、という話をよく聞きます。具体的には、SNSや学校説明会などになるかとは思うのですが、そのあたりについてはいかがお考えでしょうか。

官野教頭:貴重な意見として承ります。より魅力のある発信を心がけていきたいです。魅力的な取り組みや発信できるものがたくさんある中で、それを伝えきれていないというのは、大きな問題だと思うんですよね。改善していきたいと思っています。

──インタビューは以上です。ありがとうございました。

校舎見学

とにかく広くて機能美溢れる校舎。30年前の建物とは思えません。窓が大きく、照明がなくても自然光で十分に明るい設計となっています。

 

校舎内のいたるところに自主学習スペースがあったのが、非常に印象的でした。「全生徒数分よりも多い自主学習用の机と椅子があるかもしれません。最近また増えました笑」とのこと。

これだけ数があれば、気分転換に別のところで勉強することも可能ですし、場所取りのストレスも無縁ですね。静かなところ、少し相談しながら勉強できるところ、広いところ、狭いところ、明るいところ、暗いところ、選びたい放題です。

 

校舎の上から見下ろしたグラウンドの様子です。美しく整備されたグラウンド。周りの森林も豊かで素晴らしい環境です。SMAP主演の映画『シュート!』(1994年)の舞台となったことでも有名ですね。この他にもテニスコートがあります。

 

男子寮の外観と寮内のコミュニティスペースです。立派な建物ですね。中も広々としています。

 

 

地下5階にあたる体育館から上を見上げた時の階段の様子です。一度来ただけでは覚えきれないなかなか複雑な校舎構造(迷路……)でした。地下に広がっていく珍しいパターンの校舎です。結構なフロア数ですが、決してオフィスビル的な感じではなく、横に奥に広がっていく感覚を覚えました。

 

地下体育館は大開口の窓が特徴で、ここでも緑が広がります。掃除の行き届いた美しい体育館でした。

 

生徒人数に対して十分な広さのカフェテリア。清潔かつカラフルで憩いの空間としての役割を果たしそうです。齋藤先生いわく「ぼくは、美味しいと思います」。

 

おわりに

「偏差値を気にしていたら、公文国際の価値を見誤る」これが率直な感想です。受験生本人を含めて、「ここだ」という感触を持ったならば、それに応えてくれる学校です。自信を持ってお勧めできます。

通っている生徒、卒業生、そして先生方。公文国際に関わる人たちが、学校を誇りに思い、そして何より大好きだということは何事にも変えられない魅力ではないでしょうか。

その中で育まれた「異質の他者を認める」「やってみよう、やってみなければ分からない」という理念の浸透は、学園で過ごす六年間だけでなく、その先の人生でずっと拠り所となる信念として心にあり続けることでしょう。

公文国際に通う弊塾の卒業生たちが、いつもこの上なく楽しそうに学校のことを報告してくれる理由が、非常によく分かった訪問となりました。

 

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