中学受験をするべきか高校受験にするべきかについては、過日「中学受験か、高校受験か、それが問題だ」で書きましたが、今回は中学受験をすることのメリット、私立中高一貫校の良さについて書いていきます。なぜ、世の中の人はそんなに躍起になって私立中学への入学を果たそうとしているのか、その理由の一端を伝えられればと思います。
「私立が未来への扉を開く」「私学、そこにしかない価値」
大手の塾に行くとまずこういった洗脳が始まります。私立中高一貫に入れれば幸せ、入れなければ敗者であると。この過大広告、扇動が行き過ぎた受験戦争を引き起こしている原因なのは自明かと思います。
以前お書きしたように公立中学校→高校受験という選択で成長する子どももたくさんいますが、中学受験指導塾はその考えを許してくれません。大手塾をしてそこまで言わしめる私学の魅力とはどこにあるのでしょうか。
中学受験・高校受験の両方を指導している身として、なるべく公平な目で、私立中高一貫校の魅力をお伝えできればと思います。主観・客観・言われていることを交えながら私学の良さをお伝えしてまいります。
私立と公立の違いについて、「水」を引き合いに出すことがあります。公立校は水道水、私立校はミネラルウォーターであると。公立校は、国や自治体の運営なので均質が何より大事。誰にでも使えるもので、癖がありません。私立は、硬いものも軟らかいものもある。甘いも苦いもある。お金もかかる。好みに応じて、数ある種類の中から選ぶことができます。
私立中高一貫校の良さについて
- 校風と理念によるアイデンティティがある
- 家庭の方針に合致した学校を選べる
- 伝統と革新を重ねて出来上がった私学の色がある
- 先生の異動が少なく、質が高い。成長をずっと見てもらえる
- 気が合う先生、なんでも相談できる先生、憧れの先生、子どもたちの身近な大人としての先生の存在感は大きいもの
- 公立の場合は、その先生が定期的に入れ替わる異動があるが、私立にはそれがない
- 「恩師」を見つけ、多くのものを吸収できる環境
- 生徒の実力も大きく変動しないため、レベルにマッチした教え方の追求が可能
- 先生の質も常に上がり続ける。継続した学力育成を可能にする
- 中高一貫六年間の教育が受けられる
- 「学年団」という言い方があり、担任や担当の先生は六年間変わらないことが多い
- 酸いも甘いも知り尽くした先生や級友たちと過ごせる日々は、密度の濃いものになる
- 反面、「合わない私立」に行くと地獄を見ることに…
- 施設・設備が整っている
- 最先端のIT環境
- 何万冊という蔵書の図書館
- バスケットコート何面も取れる体育館
- サッカー、野球、陸上がそれぞれ別のグラウンド使用
- 武道場などもある
- 様々な体験の機会が多い
- 総合学習でも地域や企業を巻き込んだ体験が可能
- 企業とのコラボレーションによる企画や製品開発
- 世界を相手にした体験、学習、イベントなども多い
- 個性を伸ばしてくれる
- より多様性を尊重している。それぞれに与えられた天賦の才を見つけ、伸ばす機会を提示してくれる
- 公立は十人十色のメンバーを統率し、効率化するため行事や体験、イベントを画一的に行う方が学校運営が楽。公平意識が少なからずある
- キャリア教育
- 職業選択への意識、社会との接点
- 特に女子校では顕著。自分がやりたい仕事、自分のスキルに合った方向性を学校が真剣に考えてくれる
- まずその職には就かないだろうという仕事に職業体験に行っている公立中学校とはわけが違う
- 社会や経済との接点を早くに持たせ、自分のキャリアプランを考えるきっかけをあたえてくれる
- スケールの大きさ
- 学校の敷地
- 社会との接点
- 世界とのつながり(グローバル)
- 進路指導・進学指導
- 公立高校と比べると選択肢の提示の幅広さや的確さが挙げられる
- 学校の都合で、進学先をコントロールされることもある
例えば、早稲田の実績が欲しいから、「法政の高偏差値の学部より、早稲田の入りやすい学部を選択した方が良い」という指導が行なわれていることもある
- 質の高い厳しさがある
- 権力や言葉で威圧するのではなく、求められる厳しさの質が高い
- (公立中学校でもさすがに一昔前のように「内申に響くぞ」と口にすることはないが、未だに権力を笠に着て、教え導くということと、従わせることとを履き違えている教師がいる)
- OBとのつながり
- 卒業生に帰るところがある
- 公立では先生の異動があるので帰れない。帰っても知っている人がいない
- 試行錯誤する環境がある
- 失敗やチャレンジを評価する風土が多い
- 生徒主体でイベント運営をしたり、授業を作ったりできる
- 縦のつながり。異年齢集団の中でロールモデルを見つける
- 高校生と合同で部活動の練習をすることもある
- 自分の三年先、五年先の姿を思い描ける
- 学校が常にハングリー
- 高い学費をもらっている責任感
- 生徒が来なければ運営ができない危機感
教育とは
教師と子どものコミュニケーションを通じた文化的活動
文化がなければ教育とは言えない
その文化が私立には間違いなくある
公立は良きにせよ悪しきにせよ、「公立であること」が文化
大きな実感
少し前と比べて、私立中高一貫の教育環境は恐ろしいスピードで整備が進んでいます。リーマンショックを発端とし、東日本大震災の影響から中学受験者数が激減しました。その危機感から私立の価値を内部で問い直し、改革を進めた学校が数多くあります。カリキュラムの充実度や体験学習の多様さは、公立には真似したくてもできないことです。
検証は不可能ですが、可能性として日能研偏差値50の子が私立中高一貫校に進んだ場合(Aパターン)と、公立中学→公立高校と進んだ場合(Bパターン)の合格する大学を比べたとすると、今はおそらく前者Aパターンの方が多くの選択肢を得ることになると思います。進学実績が全てではありませんが、選択肢を増やせるのはとても良いことです。
また、2020年の大学入試改革を睨んだ時、公立高校の三年間で対応が可能なのか、といったところは心配が拭えません。
しかしながら、私学進学は12歳の小学生にとっての唯一無二の選択肢ではなく、たくさんある方向性の一つです。そして、周囲や保護者がそう捉えていることが大切です。
通塾や受験、学校選びについて考えるのは、親子で話し合うまたとない機会です。たくさんコミュニケーションをとって、親の期待や願いと、子どもの想いの輪とを描いて、その重なり合った部分にある最適な進路を探して欲しいと思います。