受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


公立中学校の現状5「高校入試の功罪」

2018.06.16


公立中学校に通っていて避けて通れないのが高校入試の存在です。高校入試は内申が…と気にされることも多いかと思いますが、内申点の実情については別記事で触れているので、今回は高校入試をすることで得られること、そして高校入試によるマイナス面にも触れながら解説していきたいと思います。

公立中学校の現状(よくある懸念)

  1. 内申点
  2. ブラック部活
  3. 学習指導
  4. 人間関係
  5. 高校入試の功罪

 

高校受験のメリット

自分にあった学校を自分で選ぶことができる

高校入試を迎えるのは15歳。自分がどういう人間か、高校三年間をどのように過ごしたいか、将来をどのように考えているか、ということがおぼろげながら分かってきている年齢です。一方、中学受験は12歳の選択。親主導で学校選びが行われ、その中に自分の意見を反映させていくような受験です。

高校受験は中学受験とは比べ物にならないくらい子どもたちが「ジブンゴト」として受験を見ます。学力、得点力、特長、経験を発揮しながらどの学校に行けるのか、行きたいのかを選ぶ受験です。自分の判断が色濃く反映されるため、より自分の責任として受験に臨みます。青春をかけた大勝負を自らの責任で挑んでいけるのが高校受験です。

タイムマネジメントが上手になる

部活動、先輩後輩関係、友人関係、恋愛、SNS…。勉強以外で大変忙しいのが中学生です。かといって中学生たちは決して「勉強をしなくていい」と思っているわけではありません。学校から、親から、塾から、様々な方向からの時に余計とも言えるプレッシャーを受けながら、何度も「分かってるよ!」と思いながら不安定な自分の心を何とかコントロールして机に向かいます。隙間時間を作って優先順位を決めながらマルチタスクをこなしていく姿は、5日間働いて土日ぐうたらしている社会人顔負けです。その大人でも難しいような時間をひねり出す器用さが公立中学校生には求められています。

直近の定期テストで成果を残す、志望校に合格するなど、目標が決まった人からどんどんタイムマネジメント能力が向上していきます。もちろん優先順位の最上位に勉強が来ている必要はありません。ですが、高校・大学・社会人と進んでいく中でも時間を有効に使える人は間違いなく強い。趣味と遊びと仕事のバランスを取りながら生活できている人は輝いて見えますよね。その素地を公立中学校からの高校受験で作ることが出来そうです。

私立中高一貫校でももちろんこれらの力は身につけることは出来ますが、「入試がある」という重圧がないため、時間管理への真剣味は公立中学校生の方が上かなと思います。

中学校での人間関係をリセット

これが一番大きいかもしれません。

中学校生活の中で仮に友達や先生とうまくいかず、つらい時期を過ごしていたとしても、高校受験でリセットすることが可能です。少し遠くの学校を受験すれば、もう知り合いはいません。自分を変えるチャンスでもあります。

これが中高一貫六年間ですとそうはいきません。六年間一緒であることの良さもありますが、それは同時に危険もはらんでいますよね。

課題設定と解決能力を磨ける

入試という到達目標がほぼ明確で期日が決められているゴールに対して、自分に不足している部分、自らの課題をあぶり出し、それを解決していく経験が積めます。

時に塾の先生や親のアドバイスを聞き入れながら実行していくことになりますが、受験という勝負における課題解決の経験値は大きなものになるでしょう。ここで身につけた力はその先の人生でも有用なものとなります。

PDCAだとかOODAとか社会人になってはじめて聞くのかもしれませんが、現実に高い次元で仮説・課題設定・判断・行動・チェックをグルグル回しながら受験への準備を続けていきます。親や先生などそれを正しく導いてくれる人が周りにいるならこれ以上ない将来に向けての準備ができます。

選ぶ経験が高校受験の醍醐味

公立高校であれば正直どこの高校もそんなに変わらないかもしれません。でも、ここにきて各高校とも色を出そうとしていますし、良い取り組みをしている公立校も増えてきています。15歳の目で見て、何に価値を置いて自分の三年間をどうデザインし、その先の未来をどう見据えていくのか、それを考えていくことには確かな意味があります。

そしてそうして選んだ学校に、自分の責任で自分がどうしても入りたいという情熱を持って自分自身と学力を磨いていくことは間違いなく良い経験です。「選ぶ」ことは責任を持つことでもあります。その選択を楽しめるのは高校受験ならではの経験です。

高校受験のデメリット

体力的な限界と時間の余裕のなさは特筆もの

高校受験生の多くは塾通いをしていることでしょう。学校で六時間の授業を受け、その後部活動へ。18時過ぎに終了し休む間もなく塾に駆け込む。塾で2時間〜3時間の授業を受けて帰宅は22時を回ります。これが週三回。

さらに休息を得られるはずの土曜日・日曜日は猛威を振るうブラック部活によって一日じゅう試合か練習。週に一回の休みは塾の宿題と学校の課題に追われることに。「いつ遊ぶんだー」という叫びが聞こえてきそうですね。

これが決して大げさではない高校受験を控えた中学生の現状です。部活動についてはかなり話題にもなっていますので多少改善される可能性はありますが、現時点で大きく変わったとは思いません。

この殺人的スケジュールの中で疲弊し、半ば鬱状態になってしまうような人もいます。息抜きはYoutubeとtwitter…となるのも納得です。

中2病との戦い

「影との戦い」みたいですがそういえばゲド戦記の中にはこんな一節もありましたね。

影は人間の形ともけだものの形ともとりかねた。いや、およそ形といえるものではなく、うっかりすれば見過ごしてしまいそうなものだった。

中2病はその人自身の現れでもあるし、まさに別人ケダモノの用でもあるし、かといって過ぎ去ってしまえばあれは何だったんだろうと思ってしまうようなものです。

ウィキペディアでは以下のように解説されています。

中二病(ちゅうにびょう)とは、「(日本の教育制度における)中学2年生頃の思春期に見られる、背伸びしがちな言動」を自虐する語。転じて、思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄したネットスラング。

追加するなら親に対して反抗的になり、何事にも無気力。見えない何かと常に戦っています。親との会話はすべてにおいて「普通」「別に」の二語で済まされる。あたりでしょうか。

この中2病が長期化したり、深刻化したりする時期と受験勉強が重なると最悪です。私立中高一貫であれば、周囲は穏やかに悠長に見守っていられるのですが、高校受験生はそうはいきません。

三年間塾に通う費用は約150~200万円

大手塾の一般的なクラスで三年間通塾するとなるとおよそ150万〜200万円の費用がかかります。一ヶ月あたりの月謝は3万円前後です。これは学費が安い私立並の金額ですね。「お金がないので私立に行かない」としても、塾通いが早ければ結局大差ないということになります。もっとも私立に行くための塾での費用がかかるので、小学校高学年からの総額では私立に行く方が圧倒的な金額になりますが。

受験間際の中3だけ塾に通ったとしても70万〜90万円の費用がかかります。決して低い金額ではありません。では、塾に通わずして希望の高校に合格できるかというと、可能性は低いと言わざるを得ません。

というのも脱ゆとりで学習内容は復活し授業内容は山盛りであるものの、授業にかけられる時間はゆとり時代と同じ週5日。必然的に授業はハイペースになる、もしくは最後まで終わらない、ということになります。中学校の学習内容のスローペースは目に余るところもあります。2月の高校受験までに全範囲が終わらないことすらあるのですから。(ゆとり教育の是非についてはこの際脇に置いてください。)

そうなると希望の高校への合格を取ろうと思うと塾である程度先取り学習をしておかないと不利になります。もちろん、参考書等を買って自力学習で難関校に合格して行く強者もいますがそれはごく一部です。

公立高校は新大学入試には不利?

昨今「公立高校の逆襲」や「公立復権」といった謳い文句が業界を賑わせていますが、それらは現行大学入試での進学実績を踏まえてのものです。現在の十分に研究された、もしくは進学校にいる先生方も経験した大学入試制度です。何をやれば合格が取れるか、正攻法も奇策も十分に世に広まっています。その中で優秀なメンバーを磨き上げれば確かに東大を始めとする難関大学への進学実績が出しやすいのかもしれません。

しかし、私立中高一貫校はすでに次の入試を睨んでいます。高校までにどのような過ごし方、経験をしてきたのか、グローバルな視野、活動実績のようなポートフォリオ型評価を大事にできるようなスクールライフを展開しています。得てして公立校は変化に弱い。一部の進学校では適性検査型入試や小論文、特色検査などを実施して早いうちから新大学入試への準備をしているとも言えるが、現実的に新大学入試への対策を考えている公立高校はどこまであるのでしょうか。

特に変わりゆく推薦・AO入試(総合型選抜・学校推薦型選抜)では、圧倒的に私立有利な状況が出来上がるのではないかと予想しています。公立高校に通った場合は、予備校などで最新の情報を常に追いかける必要がありそうですね。

詰め込みによる短期学習による成功はハリボテ

中学受験と比べると高校入試は短期決戦の側面が強いことは否めません。中3の夏以降、義務感から短期間で詰め込んでも本質的な学力は身につきません。瞬間風速的な力を入試当日に発揮して運よく合格したとしても、そのハリボテのごまかし勉強では高校入学後に苦しむことは自明です。

ギリギリの合格だったとしても積み上げてのギリギリ合格と、色々な幸運が重なり合格に届いた時とではその後の状況に差が出てくることになるのです。原理原則を理解しながら、自分に染み込ませるように学習していく勉強ができていれば良いのですが、詰め込み学習、「直前の本気」でもある程度戦えてしまうところに高校受験の弱さがあります。

おわりに

「勉強」ひいては「受験」は誰でもできる「競技」の一つです。秀でた何かがある人、すでにやりたいことを見つけてその道を歩もうとしている人は、勉強以外の自分磨きに勤しむのも良いでしょう。でも、多くの中学生はそんなことはありません。だから勉強していく中でその「何か」を見つけていけばいい。コツコツでも一遍にでもがむしゃらにやっていく中で試行錯誤すればいい。受験で合格した学校の仲間との出会いで人生が変わるかもしれない。

競技だから毎日の練習が大切ですね。ある意味中学生が一番苦手なのが、「毎日の積み重ね」というやつです。それが出来た人から力は伸びていき、可能性を広げられます。勉強ではなく「競技」と割り切ってしまえば少し前向きに取り組めるかもしれませんね。

公立中学校に進むか私立中学校に進むかで悩まれている方に、この「公立中学校の現状」シリーズをお届けしたいと思って書いてきました。子どもたちが輝ける場所を探す一助となれば幸いです。