鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -
2019.07.29
東大現役合格77名──。2019年のこの数字は合格者数・合格率ともに開成・筑波大附属駒場に続く全国で3番目の実績だ。では、聖光学院は難関大学合格をひたすら目指す進学校なのだろうか。答えは、ノー。聖光学院の躍進を支えているのは、またとない中学高校の輝かしい6年間を最高に充実させようとする子どもたちの積極性と、それに応えて変化を続ける学校側の柔軟かつアグレッシブな姿勢だ。今回は聖光学院の「今」と「これから」について、学校と生徒をその懐の深さで柔らかく包み込む花家副校長先生のインタビューをお送りする。
目次
京浜東北線で横浜から4駅の山手駅から徒歩10分。閑静な住宅街の先に聖光学院の校舎の鐘楼が突如聳える。1958年創立のカトリック系ミッションスクールである聖光学院は、栄光学園・浅野と並べて神奈川男子御三家と呼ばれることがある。2014年に建立された美しく機能性の高い校舎は聖光学院の新たな魅力となっていて、驚異的な進学実績と充実した学校生活の噂を聞いて訪れた受験生・保護者を虜にして離さない。神奈川のみならず、東京の受験生にとっても憧れの学校となった聖光学院に死角はないのだろうか。
聖光学院の取り組み自体は各方面で記事になっていますし、工藤校長も各所で語っていますので、保護者が気になるポイントや「実際どうなの?」というところを少し角度を変えてお伝えしたいと思って取材を申し込んだところ、花家副校長のインタビューが実現しました。
インタビューを元に6分程度に圧縮した解説動画も作りましたのでこちらもご覧いただければと思いますが、ブログの方が圧倒的に詳しく書かれていますので、より深く知りたい方は記事をお読みください。
──聖光学院の一番の自慢はどういったところでしょうか。
花家副校長:最大の特色は、学校生活の核となる授業をしっかりできている部分と、それを実現できる教員の力があることだと考えています。教員側も自分たちの業務の中で授業というものを一番重要なものとして位置付けて準備をしています。アクティブラーニングも一部では取り入れていますが、本校では基本的に従来型の講義形式で、十分に生徒を伸ばす授業が実現できています。また、それを受け入れる真面目で前向きな生徒たちがいて、質の高い授業が展開されています。
先生たちは生徒に対して誠実に対応しています。四年半前の校舎全面建て替えでのコンセプトとして、職員室を広くして生徒たちが職員室で質問をするスペースを十分にとりました。休み時間、昼休み、放課後、朝も生徒が質問に来て教員が答えるというのが、日常的に行われていますね。
本校の教員は独自教材を使用することが多いので、校内には「印刷所」があって製本ができるようになっています。一般的な教科書だと本校の生徒のレベルにぴったり来るものがあまりないんですよね。
──どんなタイプの先生方が多いですか。
花家副校長:本校の中で昔と今を比較すると、いわゆる「名物教員」は減ってきているように思います。でも、名物教員と呼ばれていた先生はある点で生徒を強引に引っ張っているような面もあったかもしれません。今は本当に生徒に寄り添える教員が多くなっています。ニーズに合わせる、生徒が何を求めているのかという期待に応えていく、という姿勢があると感じています。
学習指導といった面でも大学院を経ての研究、専門性という面で非常に力のある先生が多く所属しています。
──聖光学院の特徴として学校側が準備する「メニューの豊富さ」があると思いますが、内部から見て「いい取り組み・行事」として特に評価しているものがあれば教えてください。
花家副校長:伝統的な行事で今でも重要な柱となっているのが、聖光祭です。六年間の中で最大の行事であり、一貫して生徒の自主運営となっているので、生徒や生徒会にとって非常に大きな存在です。また、学校としても教育的な効果が高い行事と位置付けています。
学園祭というとクラス単位で参加することが一般的かと思いますが、本校の場合は二つ大きな参加母体があって一つは文化部、もう一つは“趣味研”と呼ばれている文化祭の場だけ趣味で集まる団体があります。展示したりイベントをしたりするわけですが、生徒側からするとやりたいことがあって参加する、という大前提があるわけです。だから、行事に向かうやる気も違いますね。
高校二年生が中心となり、学園祭を運営します。希望者を募って組織を作り上げます。模擬店の食品関係で仕入れのための業者選定や、パンフレット作成の際に広告を募るなど外部との交渉や折衝も生徒たちが行います。教員はあくまでアドバイザーの立場でサポートに回ります。
中学受験生やその保護者が本校に興味を持ったきっかけとして「聖光祭での在校生の挨拶や振る舞いが気持ちよかった」という話をよく聞きますが、これについては学校側が強制したり、こうした方がいいと言っているわけではありません。高三生が「警備隊」という組織を作って、自分たちが楽しむだけじゃなくて、来場した人たちを楽しませようということを当日の朝会で全校生徒の前で話します。教員が言うよりもよっぽど生徒たちは話を聞いていますね。そんな先輩たちの姿を見て、他の生徒にもホスピタリティが自然と身についていくのではないでしょうか。カトリックの奉仕の精神に通ずるところだと思います。
──近年、新たに始まった取り組みで面白いものはありますか。
花家副校長:聖光塾ですね。聖光塾に限らず、新たな取り組みというのが、ほぼこの15年くらいで工藤校長が就任する前後に始まったものです。聖光塾は、聖光の教員だけではなく外部の専門家を招いて行う体験型の課外授業です。講座数も増えて今は40くらいあります。
最初は理科系が多くて観察や実験が中心でしたが、アクテビティ的なサイクリングやフライフィッシングなどにも広がってきました。費用は学費以外に別途かかるものとなってしまいますが、日程調整がつけば、幾つでも選択できるものとなっています。
──世間では「やりたいことをやればいい」と簡単に言われますが、中高の間に自分のやりたいことを見つけるのは容易ではありません。その点、聖光学院では押し付けでもなく、いっぱいメニューを広げて生徒の興味にリーチできるのが素晴らしいですね。
花家副校長:私立ならではだと思います。外部の人に任せるというところで不安もあるかもしれませんが、本校の生徒に合うかどうかというのはすごく大事な視点だと思って慎重に選んでいます。やってみて合わないという部分ももちろんあって、こちらから要望をしたり、生徒の感想を伝えたりする中で良い体験を提供してくれる委託先を常に厳しく選定しています。その結果入れ替わったり、要望に合わせて聖光塾のメニューが増えていったりしています。
海外研修の企画も数として増えてきています。以前からカナダとニュージーランドのホームステイを異文化体験として行なっています。ただ、今は海外に行って何をするか、プラスアルファの参加型の研修が求められていますね。その中の一つとして生まれてきたのがシリコンバレーの研修で、IT系企業、Google社などを訪問します。この研修は事前準備をかなりみっちりやりますし、現地で会いたい人、話を聞いてみたい人などに自分でアポイントを取ることもあります。
また、現地では生徒のプレゼンをシリコンバレーの起業家・ビジネスマンなどの視点で批評してもらえます。宿舎に帰ってもプレゼンの打ち合わせやインタビュー素材を集めたりするなど、とにかく忙しい研修です。参加者の評判が良かったので、MITにいけるボストン研修も追加しました。これらは本校にいる帰国生も喜んで参加したがる研修になっています。人数が多い場合は、事前選抜をしています。
海外研修は中3・高1対象です。業者が準備してくれるものもありますが、聖光流にアレンジすることを一番大事にしていますね。
聖光塾や海外研修は六年中高一貫の中だるみ対策でもあります。海外研修に行った生徒は目に見えて変わりますね。ビジネスコンテストなどに個人的に参加する生徒も結構います。シリコンバレー研修参加者は、自分たちで校内アイデアソンを企画するなど大変意欲的になります。
──ITと言えば聖光祭の告知動画もすごいですよね。
花家副校長:告知動画を創る「総合技術研究所」というグループが学校内にあって毎年制作してますね。聖光祭のアプリもあって、それも生徒が作ってしまいます。
ICT化も進んでいて、Chromebookを中1の最後に渡しますのでほぼ全員が持っています。特段教師側で使い方指導をしなくても、今の生徒たちはあっという間に使いこなしますね。オンライン英会話を中心に授業でも使いますし、生徒同士でプレゼン資料を共有しながら作成することもあります。Chromebookは購入してもらうことになりますので、家に持ち帰るのもOKです。
Google G suite for educationでGoogle classroomを使いながら学校と生徒、生徒同士の情報交換をしています。家庭との出欠席状況のやりとりもgoogle formを通じてやっています。教員同士で教務上のやりとりをする際にもICTを活用できています。
──聖光塾、海外研修の他に新しい取り組みはありますか。
花家副校長:SSH(スーパーサイエンスハイスクール)でしょうか。SSHについては、当初は外部委託していた部分もあったのですが、中3から始まる探求基礎について本校の教員が中心となって取り組むことになりました。教員側にSSHでの授業や取り組みについて募集したところ手を挙げる先生がすごく多くて、10あまりの講座がすぐに出来上がりました。理科の教員が多いのはもちろんですが、それ以外にも国語や英語、音楽科からも手が挙がりました。
すごく専門的でありながら、生徒の興味を掻き立てるものになっています。これらは自分が教えている教科にプラスアルファの部分になり、ある意味教員の負担となることです。それにこれだけの教員が手が挙がるというのはすごいことで本当に頼もしいですね。
例えば、音楽の授業で「音を作る」というものがありました。「二つの曲が似たように聞こえる」というのをPCソフトで可視化するという授業です。グラフのように音を重ねていくとと確かに旋律とかが似たパターンになる、だから似たように聞こえる、というような説明でした。科学的に音楽を分析する、という授業で大いに興味を引くものでしたね。
──SSHはサイエンスの枠を超えてグローバルに踏み入ってきていると感じていますが。
花家副校長:文系科目でも理科的な知識を必要とする場合も増えてきていますし、教科横断的な考え方は以前から大事にしていて、グローバルも含めて幅広く考えています。SSHに取り組んでいる他校の情報とかも刺激的ですし、全国の学校の成功例などを参考にすることもあります。PDCAサイクルや課題→仮説→実験・観察の方法論などを授業に取り込んだりしながら進めています。
SSHは必ず最後に報告書を作ります。新たなものばかりではなく、今まであったものを別の視点で見直すというように、授業を再デザインするという点で効果を上げていると思います。そこにマレーシアやシンガポールに行く海外研修も結びつけています。東南アジアは実は日本よりもICT化が進んでいますし、マレーシアの大学からインターン生を受け入れて英語の授業の一部を受け持ってもらっったり、生徒が学校の中で日常的に英語でコミュニケーションを取る機会を設けたりしています。
──聖光での日々を充実させる秘訣はどんなことでしょう。
何でもかんでも100%きっちりやっていこうということではなく、緩めるところはゆるく、やるべきところをしっかりやるという、切り替えをつけてもらえるようにしています。ONで言えば制服を着崩さない、挨拶をちゃんとする、式典などのきまりを守る。OFFで言えば、休み時間は外に出て思いっきり遊べるように、また外だけでなく校内でもゆったりできるスペースを数多く作っています。授業中も盛り上がるところは盛り上がるように授業をしている教員が多いですし、教室は窓ガラスが大きくて外からの見通しも良くなっていて、なるべく閉鎖空間にしないように設計をしています。ONとOFFの切り替えには配慮していますね。
また、定期試験のあとは「試験休み」を作っています。中間試験のあとの遠足は気分転換ですし、高校生になったらテーマパークに行って楽しんでもらっています。高校の修学旅行は北海道に行きますが、あんまり「研修」や「学習」を意識せず、みんなで美味しいものを食べたり、観光したり、青春をしに行くという感じです。
他の取り組みが充実しているので、あえて修学旅行や遠足を学習の一貫にしなくてもいいと考えています。教員も準備が大変ですしね(笑)
──入学時の学力とその後の学習状況(成績)の相関関係はどのようになっていますか。
花家副校長:入学者の生徒の学力が上がっている実感はあります。本当のトップ層は入学時からほぼ維持されていると思いますが、明らかな差が意識される人数はそんなに多くありません。ただ、230名の順位をつけた時に、確かに順番は付くわけですが、それをいわゆる「学力」という面で見ると、元々すごい層が入ってきていますので、実は大した差ではないと思います。親御さんはそのような数値を意識するかもしれませんが、実際はそこまで気にすることはありません。
──学校でのテストの成績というところで見ると余裕がないと感じる生徒もいるかもしれませんが、これだけ行事や取り組みが充実していれば、学校生活の中の別のところで輝けるのではないかと感じます。
花家副校長:能力ではなく、タイミングとか相性とか学習に向かいあう気持ち次第だと思います。学習習慣とか環境がマッチングすればそのまま行くでしょうし、運悪く自分のスランプの時期が重なった時に、短期的に成績としては落ち込むこともあるかもしれません。ただ、最終的な目標の一つを「大学進学」とするならば、最近の現役での進学率は8割くらいあって、残り2割も浪人の一年で帳尻を合わせてきますので、校内の成績をそこまで気にする必要はありません。
生徒の評価は学習面ばかりではないので、目を配りながら色んな生徒にスポットライトが当たるようにしています。例えば、皆勤賞なんかは生徒側からしても保護者の方からしても勲章だと思うんですよね。六年間無遅刻無欠席だった場合は、卒業式の最後に大々的に表彰します。外部の賞や個人レベルの大会での成果なども、なるべく全校の前で表彰するようにしています。
──2019年度大学入試の実績は対外的に大学名と人数だけ見ても凄まじい結果だったと思います。近年実績が出ている要因をどのように考えていますか。
花家副校長:大学入試に向けた学校側の指導は変わっていません。我々が言っているわけではないのですが、本校は「塾いらず」と呼ばれているようです。実際、塾や予備校に通っているのは高校3年生で4割程度ですね。それも週1日、2日が多いようです。学校側が「塾に行くな」とは言いませんが、結果的にそうなっているというのは学校を信頼してもらっている証なのかな、と思っていて、それに応えていかなければいけないと考えています。
聖光学院は中1から大学受験に向けての授業をしているわけではありません。そんなことをしていたら息が詰まってしまいますし、大学受験がゴールではありません。せっかくの六年間の学校なので、そこでいろんなことを体験させてあげたいですし、学問というものに興味を失わせないようにして進めたいな、と思っています。
大学受験の準備を他で、というのは時間的にも費用的にも、もったいないのでそれも学校の中で十分に応えていきたいと思っていますので、学年に合わせてカリキュラムを組んでいます。
──何か特別なサポートをされていることはありますか。
花家副校長:教員の自主教材作成というのはその一つです。カリキュラムの前倒しができるので、数学とかは中2の三学期から高校レベルのことを学習しています。高校になると夏休みとかを中心に補習講座を設けています。高3はお盆休み以外はびっしり入っています。生徒も予備校があるのですが、大学受験対策となった時に予備校ではなく、学校の先生を選んでくれることが多いと思います。
中学までは指名制で放課後、数学・英語・国語を中心に補習をしています。いつまでも手取り足取りは悪影響もあるので、高校生での補習システムは従来はありませんでした。今は卒業生の大学生に勉強を見てもらう「あすなろ」という場を設けています。
本校は放課後の部活動までやっても17時40分に最終下校となります。これは男子校としてはかなり早い方ではないでしょうか。学校の敷地のすぐ上に「ザビエルセンター」という修道士が住んでいる施設があるのですが、そこの半分をセミナーハウス的に使っています。17時40分以降に大学生一人に対して生徒が三人〜四人という形で学習体制を組んでいます。卒業生なのでアドバイスもしやすいですし、在校生もよく話を聞きます。費用的にも負担が軽くなります。利用している生徒は、高1〜高3で各学年で10名〜20名ほどです。学校を閉めて他でやれる、というのは、他の学校にも羨ましがられメリットですね。
一階のフロアは高校3年生の自習場所としても開放していて、大小いくつかの自習室があります。食堂では食べたり飲んだりも出来ますし、友だち同士で教え合っている生徒もいます。
──「飛ぶ鳥を落とす勢い」と言える聖光学院ですが、その源泉はどこにあるのでしょうか。
花家副校長:「これをやったから結果が出ている」というものはないんですよね。教育はじっくり時間をかけるものなので、スタイルも急激に変えたわけではありません。学習面の指導は特段変わっていない。何が変わったかというと「聖光塾」などの課外的な取り組みをやってきた時期と、大学受験結果が数値的に伸びた時期とが重なっています。
現役で合格するための授業やサポートで評価されてきたこともありますが、それは他の私立校も取り組み始めていることです。本校はどこが違うかというと、ちょっとだけ周りの学校よりも早く「聖光塾」のような取り組みを始めることができたことだと思っています。
それらは勉強プラスアルファの部分になってくるので、ある意味で余力がないと出来ない取り組みです。そういう余力というか、興味の幅が広い生徒が入ってきてくれている。入学前から色んなことにチャレンジしたい、という意欲のある生徒が多くなってきている実感があります。例えば難関大学の受験という点でも、チャレンジする気持ちがあるから結果が出始めたのではないでしょうか。部活や行事にも全力で取り組んでいる先輩たちが、受験でも結果を出しているのだから、自分にも出来る、やってやろう、という気持ちになっているという相乗効果もあります。その積み重ねの中で徐々に実績が出てきたのかなと思っています。
──そんな中で今、聖光学院が抱えている課題はありますか。
花家副校長:生徒から学年ごとに学習時間のアンケートを取っていますが、中1は一日あたり2時間〜3時間の学習時間です。これがだんだん下がってくる。高1が一番底で1時間もしなくなっています。高2でまた上がり始めて高3はかなりやっているので、M字曲線と呼んだりしていますね(笑)。中3・高1の学習時間が下がっていることは一つの課題かもしれません。
そうはいっても、本校の生徒は日々の予習や復習、部活動に行事、課外活動と忙しいですね。その中で中3・高1の時期は思いっきり色んなことが出来る時期として捉えて、学習時間が少し落ち込んだとしても、最後に間に合わせるという気持ちがあればいいんじゃないかという風にも思っています。
──今の御校の取り組みを考えると、中3・高1の時期に学習時間が減るのは必然とも言えますし、むしろそこで無理に勉強に意識を向けすぎないほうがいいような気がいたします。なので、課題ではないのではないでしょうか。
花家副校長:確かにそうですね。失礼いたしました(笑)
──聖光学院を生徒たちにとってのより良い学校としていくために何か考えていることはありますか。
花家副校長:生徒たちが将来に向け自らの意思で一歩を踏み出すきっかけにと、聖光塾や海外研修、探求学習などさまざまな試みを実践してきました。その成果か、学校の内外を問わず意欲的な活躍を見せる生徒が増えてきたことは頼もしい限りです。一方、まだまだ流れに乗っているだけの生徒が少なからずいることも事実です。
もちろんそういった生徒も大きなポテンシャルを秘めています。それをなんとか開花させたい。自ら踏み出した第一歩によってなんらかの手応えを感じられた時、生徒たちは、生涯の糧となるような自信と自己肯定感を得ることでしょう。そのための仕掛けをこれからも模索し続けていきたいと思います。
──もちろん少ないとは思うんですが、学校という場所が持っている不可避な部分として「不登校」の生徒がいるとは思うのですが、そういった生徒たちへの対応はどのようにされていますか。
花家副校長:基本的には「待ち」になります。本人もそうですし、それを支えているご家族にも相当な負担がかかっていると思います。こちらから色々とアドバイスをしていくのではなく、まずは寄り添うことにしています。本人あるいはご家庭と話が出来るチャンネルを持てるように辛抱強く待っていきます。もちろん無責任に待つというだけでなく、学校の考え方も伝えています。
不登校にも色々な要因があって、特に保護者の方が気にするのが学力面、進学のことだと思います。その不安を和らげるために中学の間は「進学については心配しなくていい」という姿勢を取っています。要するに、「留年をさせない」ということですね。高校に入ってからも様子を見ながら、と慎重に話をしていきます。
教室に入れない生徒には保健室や場所を移しての登校だったり、部活だったら来られる、行事だったら来たい、というようなケースだったりも認めています。何がきっかけで本人に変化が起こるか分かりませんからね。
──勉強面のサポートについては要望があればやるという形なのでしょうか。
花家副校長:登校してきた場合には空いている教員が対応しています。場合によってはクラスの進度や本人の学習状況を客観的に伝えることはマイナスになる、プレッシャーになってしまう場合があります。今の自分の現状と級友との差を必要以上に感じてしまうこともありますので、本人が意欲を示したり、そういうポーズが見られたら伝えていく、というようにしています。それも含めて「待ち」の姿勢としています。
──「受験のための読書」ということではなくて、これから受験を頑張る子どもたちに贈る一冊を副校長先生の個人的な観点で選んでいただけますか。
花家副校長:受験に役立つというよりも受験の合間に読んでほしいという意味で冒険小説はいかがでしょうか。ジュール・ベルヌの「八十日間世界一周」をお勧めします。私は社会科で地理を教えていましたが、日付変更線の説明で使ったこともあります。80日間で世界一周するという賭けを主人公がして、結果としてその賭けに勝つというストーリーですが、本当は81日間かかっていますよ、というカラクリを説明したこともあります。
「十五少年漂流記」も面白いですよね。登場人物の世代的にも小学生から中学生くらいの幅の子どもたちが個性が分かるように描かれていて、いろんなキャラクターがお互いに反発もし合いながら子どもたちだけで社会を作っていくというお話。これは自分の生活に置き換えて入り込んでいけるのではないかと思います。本を読まない子に対しては興味がある話かどうか、というのも大事ではないでしょうか。冒険小説は結構面白いし、入り込める可能性は高いのではないかと思いますよ。
──これから受験する小6生にとっては“今”の聖光学院を知りたいという気持ちと共に自分が卒業する頃の聖光学院はどんな景色を見せてくれるのだろう、ということも知りたいと思います。この先数年間のビジョンをお聞かせください。
花家副校長:本校は今、大学受験だけを目標にしている学校ではなく、六年間の学校生活の中で何をプラスアルファできるかということを考えて進んできているので、課外活動、海外研修、ICT化などの面でちょっとだけ他校よりも先を見て形に出来ていると思っています。六年後もそういうものを追い求めている、今の生徒にとって最善のものは何かを考えて行った時に、周りよりも一歩先をみていられる学校でありたいと思っています。
工藤校長が古いものにしがみつくのではなく、あちこち出張しながらとにかく新しいアイデアを持ってきてくれます。また、若い教員たちも積極的に勉強会などに参加している先生も多くて、校長先生や学校の方針とそれを支えていく若い力が育ってきています。これからもそれらの力でどんどん学校は、最善を求めて変わり続けていけるのではないかと思っています。
聖光学院の取り組みや内情、工藤校長のインタビューなどについては、各所で記事になっています。サイボウズ式なんかは他の学校で見たことないので新鮮ですね。東京受験は生徒目線で書かれていて面白いですよ。
「勉強面でもそのほかの面でも生徒や保護者が学校を信頼してくれているので、学校はそれに応えていかなければいけない」という言葉が印象的でした。神奈川の新たな王者として君臨する聖光学院は本当に謙虚で、生徒たちの六年間を輝かせよう、そしてその先に繋がる力や発見をたくさんしてもらおう、というこれ以上ないくらい生徒思いの学校でした。
また、インタビューの中では出てこなかったのですが、教員たちの「働き方」の面でも至ってホワイトなのが聖光学院です。部活動も週3ですし、17時40分の完全下校は生徒だけではなく、先生方も同様です。管理職の方々からの各教員へのリスペクトもあって風通しも良く、先生方も口を揃えて「働きやすい」とおっしゃっています。
死角なし──。90分に渡るインタビューと校舎見学、先生方からの話、生徒たちの様子、すべて総合して行き着いた正直な印象です。
道を切り拓き続けるアグレッシブかつチャレンジングな工藤校長と、太陽のように生徒たちを照らすバランス感に優れた花家副校長のコンビは、“聖光時代”を感じさせるのに十分で、この先も聖光学院は磐石であると確信を持ちました。そして、叶うことなら我が子も預けたい、そう思わせてくれるインタビューとなりました。
受験を考えている保護者・生徒のみなさん、学校選択は間違っていません。あとは、入れるかどうか、ですね。勉強、頑張ってください。