鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -
2024.12.20
「名作もいいけど、もっと身近な物語を読みたい」
「子どもが楽しめる、現代的なテーマの本を探している」
「とにかく、親子で面白いと思える本に出会いたい!」
など、本選びでお悩みの小・中学生とその保護者の方に、『親子で心ゆさぶられる読書体験を共有できるもの』という視点を大切にして自信を持っておすすめできる本をご紹介します。
今回は、子ども向けに書かれた児童文学の中でも「定番作品・大御所作家・普遍の名作」を少し外して、勢いがあって極めて現代的な気鋭の作家による、とっておきの12冊をセレクトしました。
鋭さと巧みさを持ちながら、“今”を生きる子どもたちを描いている古びていない作家の皆さんの作品です。
以前、「君の話を聞かせてくれよ」「あの子の秘密」の著者である村上雅郁さんとお話をしていた時にお聞きした言葉をご紹介します。
“大人から見た子ども”を描くんじゃなくて、“自分の中の子どもの部分”を物語で描く。それが、自分の中に無くなったら児童文学作家はもう引退ですね。
誰しもが通過してきた「子ども時代」ですが、残念ながら「我々が経験した子ども時代」と「令和を過ごす子どもたちの時代」は、大きく異なっています。
本質こそ同じであれども、見えているものも、抱えている問題も違う。そうであるならば、そこに生まれる、紡ぎ出される物語も全く異なるものになるはずです。
今回、ご紹介する作品は、あっという間におじさんやおばさんになってしまう我々に突きつけてくる、新世代の児童文学です。
特にYA(ヤングアダルト)と呼ばれる、中学生・高校生を中心とした10代の「子どもでも大人でもない世代」向けの本を中心にご案内しています。児童書だと少し幼くて、でも一般書だと長くて読みづらいという方にもおすすめです。
大人でも楽しめる本ばかりです。
読み終えた後に感想を共有したり、本の内容についてコミュニケーションを取ったりと、親子で言葉のやり取りを増やすきっかけにもなることを願っています。
お気に入りの一冊が見つかりますように。
目次
七歳年上のいとこ志真人を慕っていた中学二年生のキート。志真人は、周囲を巻き込む不思議な魅力を持った人物でしたが、ある日突然亡くなってしまいます。
大きな喪失感に包まれるキートでしたが、ある日、死んだはずの志真人がキートの前に現れ、「天国にたまねぎを密輸する」という、奇妙なバイトに誘われることになります。
「天国にたまねぎはない」は、深い悲しみを抱えながらも、前を向いて生きていこうとする主人公の姿を通して、子どもたちが、喪失と再生、そして、生きる意味について、考えるきっかけをくれる作品です。
児童文学の枠を超え、幅広い世代の心に響く傑作です。読後も意味を噛み締めつつ、長引く余韻を楽しめるはず。
熱く、切なく、そして、どこかユーモラスなこの物語を味わってみてください。
家庭というブラックボックスは、人間がそれぞれかかえているもので、そのブラックボックスこそが、人の魅力と危険の両方を作り出しているのかもしれない(本文より)
言葉の魔法が心を解き放つ。言葉がつなぐ少女とコピーライターの物語。
小学六年生の美話が、夏休みの宿題(童謡の歌詞を作る)で使うメモ帳を落としてしまい、そのメモ帳を拾ったソラモリさんとの出会いから物語は始まります。
大人気ないコピーライターのソラモリさんは、なぜかメモ帳を返してくれず、美話はソラモリさんの家に通いながら“言葉のレッスン”を受けていくことになります。
「言葉」は自分を知ること、また表現することにおいてこの上なく重要で、極めて有効なツールであるということを、改めて考えさせてくれる作品です。言葉の面白さや奥深さについて考えるきっかけをくれる一冊です。
ポテトチップスを挟んだサンドイッチを頬張り、一緒に映画を見て、時にはケンカもする。そんな、ちょっと変わったソラモリさんとの夏休みを通して、美話は言葉の持つ力に気づき、一歩踏み出す勇気を得ていきます。
まるで良質な言葉のシャワーを浴びるような、心温まる物語を、ぜひ味わってください。
わたしは、じぶんがいいと思ったものを書けました。わたしさえ、そのことを知っていれば、いまはいいです。(本文より)
「言葉」が「物語」になるまで。。
第一部は小学六年生の終盤、卒業記念品として絵本を作るグループに入った美話。絵本につけた言葉をめぐり、納得がいく部分も心残りな部分もあって、メンバーたちとも少しギクシャク。第二部では中学生になって文芸部に。美話は、いよいよ小説を書き始めます。
美話が言葉と格闘する日々の中で、個性的なコピーライター、ソラモリさんも度々登場。
「わかることしか、おもしろがれない──なんて、もったいないよ」
ソラモリさんの言葉をそのまま受け止めるのではなく、美話の中で咀嚼し、反芻することで、練り上げられた言葉を使って物語を創り出していきます。
言葉の持つ力、言葉について深く考えること、少しの表現の違いで大きく印象や感動が変わること。普段どれだけ「ことば」で伝えても伝わらないことを、物語の力を借りて子どもたちと共有してみませんか?
「満月のとちゅう」は、前作を読んでいることが前提となっている作品です。
「満月のとちゅう」があって、さらに「ソラモリさんとわたし」は輝くし、「ソラモリさんとわたし」があるからこそ「満月のとちゅう」は何倍も素敵な作品となる。二部作や三部作は、かくあるべきですね。
二作品を読み終えても、美話とソラモリさんの物語は「まだ、とちゅう」とさえ思わせてくれて、続編を期待してしまいます。
でも、この素晴らしい物語の続きは、読んだ「あなた」の心と頭の中にあるのではないでしょうか。
だいじょうぶ。あなたは世界にひとりしかいないんだから。世界にひとつしかないものがつくれる(本文より)
「もしもあの時…」心に響く、失うことと結ぶこと。
友だちのいない香奈多と、友だちをなくした瑚子。中1の夏、二人は、秘密の場所で出会う。別々に生きる二つの世界が、毎週金曜日に接続される奇妙な現象。その謎と絆を解き明かす物語。
子どもたちの繊細な感受性を育み、大人にとっても忘れかけていた大切な心の風景を思い出させてくれる、そんな力を持った作品です。
ワクワクが止まらない作品ですが、どういうことなんだろう? というはてなマークを携えて読むことになります。その?を、ifを、ぜひ親子で楽しんでもらいたいです。
「かなたのif」は、ファンタジーのような、成長物語のような、喪失と回復の物語のような、不思議な魅力を持った作品です。村上作品ならではの子どもたちのリアルな心の叫び、感情の揺れ動きをこれ以上ないくらい味わえる作品です。
これまでも多くの作品を生み出してきた村上雅郁さんの最高傑作とも言える「かなたのif」。
幾重にも重なり合ったタイトルの意味を改めて読了後に噛み締めてください。
心にぽっかり空いた穴を覗き、迷い込み、這い上がる。魂の叫びの物語。
「杉森くんを殺すことにした」。女子高生のヒロが、そう決意するところから物語は始まります。
杉森くんを殺す理由をノートに書き出しながら、ヒロは、信頼する血縁関係のない兄「ミトさん」のアドバイスを聞き、やり残したことを日常の中で一つずつ実行していきます。
安易に使われてしまう醜い言葉。その裏に隠された「想い」の重さと向き合うことから逃げてはいけません。その重荷をどう受け止め、どう和らげるのかを考えるきっかけとなる一冊です。
「面白い」と簡単に片付けられる作品ではありませんが、あえて『面白い』と言わせてください。こんな作品、読んだことありません。
内から外へ、そして表から奥へと感情の波がうねります。苦しみと、やさしさと、一瞬の尊い光の瞬き。でも、それは灯台のような希望の光ではなく、長く続くトンネルの先に見えるであろう出口に希望を抱き、もがいて探し続ける作品です。
この本のネタバレをするわけにはいきません。これからこの本に出会う人が、初めて抱くであろう衝撃と感動を、最大限に味わい受け止められるように、紹介はあえて表面的なものにしています。ここ数年で読んだ中でも最高の一冊です。
杉森くんはいつもわたしを罪悪感でいっぱいにする。いつまでたっても悩ませつづける。ほんとうにひどい。
いなくなってもずっといる。片時もわたしのそばから離れてくれない。わたしはあの時どうすればよかったのだろう。わたしにできることは何だったのだろう。だから今、こうするしかないんだ。(本文より)
「笑い」の奥の光と影。青春の痛みと再生を描いた作品
軽音楽部で人気者のレオは、クラスで孤立している陰キャのケイを、いじめから守ろうと奔走します。
ひょんなことから、ケイの文章の才能に気づいたレオは、文化祭で一緒に漫才をすることを提案しますが、その行動がきっかけで、レオ自身が、教室のヒエラルキーの最下層に転落してしまいます。
「スベらない同盟」は、人間関係の難しさや友情、そして多様性について考えるきっかけをくれる作品です。
一見、軽快な物語の中に、友情、裏切り、成長といったテーマも。時に残酷なほどに現実を映し出す「笑い」と向き合うことになるかもしれません。
「スベらない同盟」は、「笑い」を通して、ティーンズの複雑な心理や矛盾をある意味残酷にも表面化させていく、青春小説の枠を超えた傑作です。
教室で一番目立っていた主人公が、教室で一番見えなくなってしまう物語。
“最後に見えるもの”を楽しんでください。
この世界は参加者全員が、ちょっとずつの『悪意』を交換することでできている。
すべてを冗談にして、笑い飛ばせればいいのに。だけど、現実は笑えないことばかりで。 (本文より)
家族のもどかしさと、愛おしさと、清々しさと。ありふれた日常と「普通」に光を。
小学五年生の晶(あき)には、ちょっと変わった兄・達(とおる)がいます。達には、人と違うところがたくさんありました。周りの人と同じように振る舞うことが苦手で、学校にも行っていません。
それでも晶は、絵が得意で、物知りな兄を心から尊敬し、慕っていました。晶の学校生活と、絵を描き続ける達。友だちとの毎日、大切な家族との毎日。当たり前のようで、でも少しずつ変化していく日々が過ぎていきます。
第二章は、母親目線での続編。晶から“マムカ”と呼ばれていた母親からは、子どもたちの世界がどう見えていたのか、という別視点の物語が語られます。
「普通」や「当たり前」、「大変だね」という言葉。子どもたちを取り巻く世界の中で、またこれから彼らが生きていく世界の中で、これらの言葉はどんな意味を持つのでしょうか。物語の中の少年・少女たちの心の動き、そして母親の目線から改めて考えるきっかけをくれる一冊です。保護者の方にもぜひ読んでいただきたい一冊です。
懸命に生きる兄弟の姿を通して、家族の形、“普通”という言葉の曖昧さ、私達に、大切なことをそっと語りかけてきます。もどかしさと愛おしさを両手で包み込み、そしてそれを掬い上げるかのような読後感をぜひ味わっていただきたいです。
「話したいことはたくさんあるような気がするけれど、ぼくの知っている日本語で使えるものはなかった。どちらかというと、漢字になる前の象形文字のほうが、いまのぼくの気持ちを表せる気がする。」
「晶は自分がジャンプできるから、みんなジャンプできると思っただろ」
「ちがうの?」
「ジャンプしたくてもできない人がいれば、ジャンプという概念がない人もいるし、絶対ジャンプしたくない人もいる」「自分が簡単にできることを、人もできると思っちゃだめだ」(本文より)
東日本大震災、あの日から。つながりと希望を勇気に変えて。
東日本大震災で母と祖母を亡くした小学6年生の七海は、震災当時の記憶も、母親の顔も、ほとんど覚えていない。祖父と叔母に守られて成長した七海は、小学校最後の1年を自分自身のルーツを探していく1年と位置付けます。
憧れであり、信頼していた叔母の結婚にショックを受けながら、母が実行委員長を務めていた小学校の文化祭「海光祭」の存在を知り、その復活に奔走していく日々が描かれます。
震災を経験した子どもたちの心の傷、そして、そこから立ち直ろうとする力強さを、この作品を通して感じて欲しいと思います。
また、震災という悲しい出来事を乗り越え、未来へと希望を繋いでいく姿を通して、子どもたちが、生きる力や未来を信じる力を、感じられるのではないでしょうか。
「波あとが白く輝いている」は、東日本大震災から10年が経ち、新型コロナウイルスの蔓延で人々が不自由な生活を強いられている2021年の物語。震災遺児の喪失と再生の物語であると同時に、ごく普通の小学6年生の女の子の等身大の日常の物語でもあります。震災によって欠けてしまった過去を背負いながら、現代を生きる少女の、希望の物語です。
「どこかの誰か」はたくさんいる。数多の「誰か」のユーウツにそっと寄り添う。
声変わりが始まらないことに不安を感じる男子中学生。周りの友達が恋愛話で盛り上がる中、自分だけ取り残されているような気持ちを抱える女子中学生。第二次性徴期を迎え、身体的にも精神的にも大きな変化が訪れる年齢の登場人物たち。
「あるいは誰かのユーウツ」は、一見些細に思えるかもしれないけれど、本人にとっては大きな悩みを抱える中学生たちの日常を、リアルに切り取ります。
「うちの子は何も言わないけれど、心の中ではこんな風に悩んでいるのかも……」そう思わせてくれる、現代の子育てにおいて、そっと本棚に置いておきたい一冊です。
「あるいは誰かのユーウツ」は、誰もが経験したことがある、あるいは、今まさに経験しているかもしれない「誰か」の心の揺れ動きが、繊細なタッチで描かれた物語です。
子どもたちや仲間たちの「心の声」へのセンサーが少しだけ鋭くなって、優しく接することができるかもしれません。
”ほんとにつらいときはさ、隠さないでほしいんだよ”(本文より)
算数嫌いも夢中に。日常の「なぜ」や「どうして」から生まれた物語。
主人公・数斗のクラスに、謎の転校生・ナイトウさんがやってきます。ナイトウさんは、突然「この問題、解けるかな?」と算数の問題を出題して、不正解するたびに「残念でした、また次回」と不思議なセリフを繰り返します。
数斗は、必死で答えを探りながら、ナイトウさんと少しずつ距離を縮めていきます。
子どもたちが解いている算数の問題に疑問を持って、「この問題の場面ってどんな場面なんだろうね?」と話題づくりにもなりそうです。著者が実際の経験で思ったことから書かれたというこの小説は、多くの小学生が感じていることかと思います。
「やらなくてもいい宿題」は、物語を通して「算数」と向き合う今までになかった新しいタイプの作品です。
やらなくてもいいこと、言わなくてもいいこと。
でも、それはやったら何かが動くかもしれない。言ったら、何かが変わるかもしれない。
「算数」ができなくても大丈夫です。でも、できたなら、分かろうと努力したなら、もっとこの本を楽しめますよ。
一歩を踏み出すことや、日常の「なぜ」や「どうして」から、物語やドラマが生まれるということを教えてくれた一冊です。
eスポーツの世界へ! 夢と現実、“自由”の境界線を越える絆。
主人公・勝生は、人気ゲーム配信者“リオ”に憧れる、ゲーム好きの少年。ある日、勝生は、病院で偶然にもリオと出会います。
リオとの出会いをきっかけに、ゲームの世界における自分とリオ、現実世界における自分とリオの違いや変わらない大切なことに気づいていく話です。
「ゲームばかりして…」と、つい叱ってしまう前に、この作品を親子で読んでみませんか? ゲームに対する見方が、変わるかもしれません。
初めて出会うeスポーツの世界観に、衝撃を受けました。ゲームの仮想世界と現実世界を、軽やかに行き来する物語の展開は、まさに圧巻。eスポーツの持つ爽やかさ、そして、その可能性を、鮮やかに描き出しています。
自分に自信がない主人公の勝生も、リオとの出会いを通して自分の強さと弱さと向き合い、成長していきます。eスポーツを通して出会う周りの人々にも、そして理解ある保護者の姿にも心が温まり、また親としての我が身を顧みるきっかけをくれた一冊でした。
10分で読める、とっておきの秘密。ショートショートのすすめ。
「墓場まで持っていく話管理局」「はるかぜ号の秘密」「人魚姫はうたえない」「トルソーの恋」…このアンソロジーには、個性豊かな作家たちが描く、「秘密」をテーマにした、様々な物語が詰まっています。
「杉森くんを殺すには」で話題沸騰の長谷川まりる、「15歳の昆虫図鑑」で大注目の五十嵐美怜、安定の戸森しるこ、YAの麒麟児「スベらない同盟」の にかいどう青など、著者ラインナップをみるだけでワクワクします。
装丁がおしゃれで本文のデザインも秘密の日記を開いているかのよう。読者の期待感を高めてくれます。
特にお気に入りの話をご紹介します。
短い物語の中に、人生の教訓や、心の温かさ、そして、ちょっぴり切ない気持ちなど、様々な感情が詰まっています。子どもと一緒に、色々な物語に触れ、語り合うきっかけになりそうですね。
「1話10分 秘密文庫」は、手軽に読めるのに、心に深く残る、そんな不思議な魅力を持ったアンソロジーです。
ショートショートに散りばめられた、想いと遊び心と技巧。10分で堪能できる『特別な秘密』をぜひ読んでみてください。
この本、なんと値段が1,100円!破格!
あなただけのとっておきの「秘密の物語」を、見つけてみませんか?
児童文学は大きな解釈として「子どもたち向け」ということになっていますが、だからこそ書ける物語があると思っています。しがらみや不文律から解き放たれた作家たちの自由な表現が、一般書よりも遥かにスピーディーでみずみずしい物語として現れてきます。
保護者の皆さんにとっても、子どもの頃の気持ちを思い出したり、そして、今を生きる子どもたちを見る目を改めるきっかけになったり、物語を通して親子の関係性を深めたりすることができるのではないでしょうか。
今回、紹介しきれなかった作品もたくさんあるので、好評でしたらまた続編を書いていきたいと思います。