受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


中学受験・高校受験2018 よく出る説明文の本 10選

2018.04.26


中学受験・高校受験において、「苦手」という人が多い説明的文章(説明文・論説文)。今回は、入試の問題文として数多く採用されていて、なおかつ読むことを通して教養や語彙力、世界観が広がる珠玉の十冊をご紹介いたします。

受験でよく出る「小説」について紹介している媒体は多いのですが、説明的文章の紹介はあまり見かけません。そもそも入試の説明文の出典はどこからなのでしょう。その多くは、「新書」からの引用です。その中でも特筆すべきは、「ちくまプリマー新書」の存在です。

昨今の入試頻出文章の新定番として急浮上してきたのが、この「ちくまプリマー新書」シリーズで、内容は多岐にわたっていますが、総じて平易で読みやすく書かれています。中学生でも(あるいは語彙レベルが高い小学生でも)読解が可能であり、内容の新しさ、現代性がちくまプリマー新書の特徴です。テーマの難解度から言えば、小学生には少々難しいかもしれませんが、難関中学を中心に多数出題されており、求められているレベルの高さを感じさせられます。今回おすすめする十冊のうち七冊が「ちくまプリマー」です。

新書の良いところは、文章全てを順番に読まなくても理解できるものが多いところです。目次を眺めて興味がありそうなところだけを読む「つまみ読み」が可能です。全体を読むのは難しくても部分だけなら読めるということは多いでしょう。冒頭から読むと吐き気がしそうな人は、まず目次、次に興味がありそうなところ、そして面白くなってきたら全体を読む、という順番で読んでみても良いかもしれません。

今回、ご紹介する十冊は「読みやすく、ためになり、面白くて、入試に出る」というものです。「どのような内容なのか」「どう読むのか」といったところをなるべく丁寧にご案内し、興味を持ってもらえるようにしたいと思います。掲載順はおすすめ順となっているので、「まずは」という方は、最初の二冊「植物はなぜ動かないのか」と「大人になるっておもしろい?」から読み始めると良いかと思います。もちろん、「入試に出る」という目的で読むのもありですが、純粋に「説明的文章との出会い」という意味合いで興味を持って手に取っていただけると嬉しいです。本来説明的文章を読むというのは、自分の知識や興味を満たすためにする行為ですから。

説明文の読み解き方・得点の取り方については、こちらの記事を。

説明文・論説文の解き方のコツ

また、小説・物語文のよく出る本については、こちらをご参照ください。

中学受験 よく出る本・作家2018 + 出題のポイント

小・中学生のための説明文おすすめ10冊

「植物はなぜ動かないのか」 稲垣 栄洋

 

おすすめ度  ☆☆☆☆☆
読みやすさ  ☆☆☆☆
ためになる度 ☆☆☆☆☆
おもしろさ  ☆☆☆☆☆
入試頻出度  ☆☆☆☆☆

 

各校の中学入試でこれでもかと出題されているこちら。中高生や学生向けに書かれているということもあり、大変読みやすくまた興味深い内容となっています。理科が苦手で、特に科目としての「生物」に興味が持てない方は、これを読んだら一気に好きになるかもしれません。それほどの破壊力を持っていて、強くお勧めしたい一冊です。「植物って面白い!」という読後の感想が高確率で飛び出すことでしょう。

「強さとは何か」をテーマにしており、「弱くて強い」植物の姿を多様な視点から論じています。本書の大きな特徴は「新たな視点の獲得」です。「植物が強い」という視点は、例えば小学生や中学生にはあまりないでしょう。もちろん、人間が最強だと思っているだろうし、「最強の動物は?」と問いかけると他にもいくつか挙がるはずです。しかし、本書では最強の生物として「植物」がクローズアップされています。食物連鎖の最下層に位置する植物が最強であるとは一体どういうことなのか。物事を見るときの入射角を変えることで、世界はかくも異なり、広がっていくということを教えてくれる一冊です。

ただし、裸子植物と被子植物、単子葉・双子葉など植物の基本的知識がないとさすがに厳しく書いてあることの理解が大変です。事前インプットがある程度必要ですね。「説明文が苦手だからとりあえず読ませよう」では、より嫌いになって終了です。それを望むのならば、まずは学校の教科書を音読したり、塾のテキストの短めの説明文をしっかりと読み込んでいくことなどが優先です。植物の基礎的な知識を持っていれば存分に楽しめる内容となっています。

著者は問題提起が巧みで、それにナビゲートされるように読んでいくことが出来ます。大人が読んでいても「確かになー」とか「なるほどー」とか読みながら感想を言いたくなる内容で、発見がたくさんあります。それでいて言葉や文章が平易ですので、中学受験を考えている小学6年生の語彙力なら「ちょっと背伸び」というレベルであり、丁度いいかと思います。

また、本書のすごいところは、章の初めにリード文があり、章ごとに「まとめ」というコーナーが設けられているところです。章の中には多数の具体例や引用があり、読んでいるうちにメインテーマがぼやけてしまうこともあるかもしれません。そこに気を遣った構成となっており、より抽象化された状態で「リード」や「まとめ」があって、頭の中を整理して次の章に向かうことができます。なんて読みやすい本でしょう。

心に残った引用を一つ

ナンバー1しか生きられない。これが揺るがすことのできない自然界の鉄則である。しかし、自然界にはさまざまな生物がいる。つまり、それぞれの生物がそれぞれの居場所でナンバー1なのめある。すべての生物がナンバー1になれる場所を持っているのだ。このナンバー1になれる場所が、その生物のオンリー1なのである。

また、著者稲垣栄洋の最新作も2018年1月に発売されており、こちらも今後入試問題で頻出すること間違いなしですし、内容が多少本書と被る部分もありますが、必読です。


「大人になるっておもしろい?」 清水 真砂子

 

おすすめ度  ☆☆☆☆☆
読みやすさ  ☆☆☆☆☆
ためになる度 ☆☆☆☆☆
おもしろさ  ☆☆☆☆
入試頻出度  ☆☆☆

 

入試問題に頻出するというよりも、内容的に小・中学生にぜひとも読んでもらいたいというものになっているので、二番目に挙げさせていただきました。読者に語りかけるように平易な言葉で書き進められており、読みやすく、テーマも絞りやすい構成になっています。

童話や著名な小説のシーンなどを引用しながら、生き方の方向性をゆっくりと丁寧に示してくれます。著者はル=グウィン「ゲド戦記 影との戦い」の訳者でもあり、ケストナー等も含めて児童文学の名作の内容に触れつつ、持論を展開しているところも面白いですね。読みながら同時に多数の児童文学への興味が湧いてくるから不思議です。巻末にはブックリストもあり、こちらも有効に使えるかと思います。

著者は子どもたちに「怒れ」と訴えかけます。

怒りの底には、自分自身を大切にし、人間としての尊厳を手放すまいとする意思とともに、相手に対する期待なり信頼感があるからです。

怒ること、悩むこと、一人でいること、生意気であること。ともすれば、「よくない」とされることは本当によくないことなのかどうかを疑い、それぞれの大切な意味について説明している一冊です。また、豊かになることやいい子でいることなど、当たり前に「よい」とされることに対しても本当にそれでいいのか、という問いを投げかけています。視野角を広げ、当たり前を疑う、というまさに小・中学生に知ってもらいたい内容が凝縮されており、ぜひ読んでほしい、そして考えてほしい内容が詰まっています。

印象的な引用を二つ

他人と比べて少しでも何かが優れていると見るや、自信=自己評価は高くなり、劣っていると感じると、自信はたちまちしぼみ、自己評価は低くなります。そんな自信って持つ必要があるのでしょうか。そんなものに振り回されてしまうなんて、愚かとは思いません?

親切な人、優しい人に私たちは容易になびくものですが、そこで足を止めたきりにしないで、こわい人、厳しい人、とっつきにくい人、わかりにくい人に思い切って近付いて言ってごらんなさい。身の丈にあったものばかりに安住しないで、たとえ不安でも、どうしても惹かれるならば、あるいは惹かれなくても必要とあらば、飛び込んでいってほしい。

「『自分らしさ』ってなんだろう」 榎本 博明

 

おすすめ度  ☆☆☆☆
読みやすさ  ☆☆☆☆☆
ためになる度 ☆☆☆☆
おもしろさ  ☆☆☆
入試頻出度  ☆☆☆☆

 

続いてはこの一冊。心理学の観点から「自分らしさ」について角度を色々と変えながら解説をしてくれている内容です。平易な言葉、簡潔な段落構成で、小学生でも語彙力がついてきた六年生であれば十分に読みこなせます。

小見出しが実によく、興味をそそられます。「読みたい」と思った章から読んでいくのも一つの読み方ですね。

  • 「自分らしく」と言われても
  • つい人と比べてしまう
  • 人の目がどうも気になる
  • 自分を探しても見つからない
  • 自分が何をしたいのか、よくわからない

「理想自己」「自己の二重性」など、それまで小学生や中学生が持ちえなかった視点をするりと客観的に与えているところが素晴らしいですね。その視点を青年期に獲得することは極めて重要です。「入試に出るから」というのは、この本書を読む意義にはなりません。自分をどう見つめていくか、そしてどう思考して、行動に移していくか、ということを考えるためのヒントがこの本には詰まっています。受験を通して子どもたちは一気に大人になります。どうせなら、本格的な視点を持ちながら大人への階段を上ってみたらもっといい。その視点をこの本は与えてくれるのです。

時代感をきっちりと踏まえた内容となっているので、首肯しながら読み進められることでしょう。説明文によくありがちな「ちょっと時代背景が古いなー」という感覚も特に持つことはありません。そして、中学校や高校の国語の先生が好きそうな文章であることも確かですね。

また語彙力を伸ばしていく上でも最適です。承認欲求、美意識、アイデンティティなど、普段の生活の中では使うことはほぼありませんが、入試論説文の中で多用される語彙も本書の中に多数出てきます。タイトルからも分かるように、「アイデンティティ」という言葉も多く出てくるので、使い方や意味について一冊読むことで体得することができます。

何をするにしても、充実といえる状態にたどり着くまでには、地道な努力が必要となる。でも、何かに打ち込んだとして、充実感を得られるかどうかは、それを本気になってやってみないとわからない。本気でやってみてから自分に合わなかったとわかることもある。そうなると、なかなか覚悟ができない。

「どこかにほんとうの自分があるはず」というのは間違いだ。自分というのは、「今、ここ」にいる自分しかない。

「弱虫でいいんだよ」 辻 信一

 

おすすめ度  ☆☆☆☆
読みやすさ  ☆☆☆☆☆
ためになる度 ☆☆☆☆
おもしろさ  ☆☆☆
入試頻出度  ☆☆☆☆

 

続いては、いつも自分の弱さに悩まされている私たちに勇気を与えてくれるタイトル、「弱虫でいいんだよ」をご紹介。「強さ」「弱さ」ということの意味から提言を始めており、論じ方や視点の置き方が優しく、非常に意味深いものとなっています。著者が文化人類学者ということもあり、生物学の視点から「弱さ」について述べられています。ここでいう「弱さ」とは一方で「強さ」でもあると言えます。詳しくは本書を読んでいただきたいですが、「戦略的な弱さ」であるということです。人間は、「弱さ」を受け入れることによって、進化してきました。だからこそ、本質的に人間は「やはり弱虫でいい」という著者の主張は大変力強いものでした。

SMAP「世界に一つだけの花」の「ナンバーワンよりオンリーワン」の一節を使ったり、長田弘の詩や宮沢賢治の作品を紹介したりしながら、身近で理解しやすいように論理を展開しています。自然の強弱だけではなく、人間界における民主主義や男女間の性差などの強弱についても触れられており、幅広く「弱さ」について考えを及ぼすことができる内容となっています。

引用や具体例が絶妙で、非常に分かりやすくテーマについて多角的に論じられています。小学生でも十分理解できるし、中学入試で狙われるのも頷けます。

「弱さ」のおかげでつながれる。そう考えると、「弱さ」が輝き始める

最後は、加速し続ける技術や進歩の速度に警鐘を投げかけ、「進歩の罠」について述べられています。忙しく、急ぎすぎていて、私たちは優しさを忘れているのかもしれません。「弱い」ことは悪いことなのか、「遅い」ことは劣っていることなのか、人類学的視点からそのテーマをこれでもか、と投げかけてきます。一つの尺度で測った時、確かに「弱い」かもしれず「遅い」かもしれません。ただ、それは視点を変え、尺度を変えることで大変価値高く、かけがえのない能力になるのだということを、伝え方を丁寧に変えながら論じられています。

できないのではなく、やらない。そんな選択も「あり」だということを訴え続けている一冊です。偏差値至上主義とも言える中学受験国語で本書が多く取り上げられているというのはある意味皮肉ですよね。中学校側も自戒を込めて出題しているのでしょうか。

印象的な引用をここでも二つ

では、昆虫の世界で「強い」のは誰か? 稲垣によれば、それは大きな鎌をもったカマキリでも、角をもったカブトムシでも、毒針をもったスズメバチでもなく、意外にもあの小さなアリなのだ。集団で襲いかかるアリを恐れ、多くの昆虫が防御のためにさまざまな策をこうじているらしい。軍事的な強者であるばかりではない。アリは地球の生態系を支える大切な役割を果たすという意味での強者でもある。昆虫学者E・O・ウィルソンによれば、人間が絶滅しても生態系に大きなダメージはないが、アリが絶滅すれば、現在の地球の生態系全体が崩壊するほどだという。

何を基準にするかで、どちらが「上」で、どちらが「下」か、が変わってくる。同じように、「強弱」や「優劣」といった関係は、絶対的なものではなく、相対的なものだ。ここにも、「勝ち負け」の二元論を超え、競争の〝土俵〟から降りるための筋道が見えている。

「友だち幻想」 菅野 仁

 

おすすめ度  ☆☆☆☆
読みやすさ  ☆☆☆☆☆
ためになる度 ☆☆☆
おもしろさ  ☆☆☆
入試頻出度  ☆☆☆☆

 

そして、2008年出版のおなじみ菅野仁「友だち幻想」。「世界で一番受けたい授業」に取り上げられ、一躍有名になったこの一冊。この記事を書いている途中に放送があったので、後出しジャンケンのようで気が引けますが、業界的にはずっと前からずっと有名です。

文字の大きさ、行間の広さ、使用されている語彙の易しさ、そして可愛いイラストを含めて、小学生でも読める新書となっています。実際に大学生に教える教員としての立場もある筆者が、子どもたちの「今」(刊行が2008年なので10年前ですが…)をよく見て書いた内容となっており、共感できる部分も多数あるはずです。

「他者」の存在に気づいていくことで自己の社会性を獲得していくということが、分かりやすく書かれています。スケープゴート(集団の中で矛先を向けられた悪者)、「同調圧力」などの言葉を使いながら、現代の友だち関係について納得のいく分析が続きます。みんなが実際に感じている現代の学校や集団の息苦しさを、ストレートにすっきりと言葉にしてくれています。

学校というのは、とにかく「みんな仲良く」で、「いつも心が触れ合って、みんなで一つだ」という、まさにここで私は「幻想」という言葉を使ってみたいのですが、「一年生になったら」という歌に象徴されるような「友だち幻想」というものが強調される場所のような気がします。けれど私たちはそろそろ、そうした発想から解放されなければならないと思っているのです

友だちってどういうものなのだろう、思春期を迎えた少年少女が抱える漠然とした曖昧なものへの不安に対して、具体的に明確に言葉を当てはめていき、現代の友だちづきあいについて一つの解を与えてくれるような、そんな一冊です。それにしても、本書の入試への出題頻度はかなりのものです。中学受験・高校受験ともにこの10年間で相当な数が出題されています。受験対応には必読です。

「何のために『学ぶ』のか」 〈中学生からの大学講義〉

 

おすすめ度  ☆☆☆☆
読みやすさ  ☆☆☆
ためになる度 ☆☆☆☆
おもしろさ  ☆☆☆
入試頻出度  ☆☆☆☆

 

続いては、「中学生からの大学講義」シリーズ。外山滋比古や茂木健一郎、前田英樹、鷲田清一など超有名どころのオムニパスとなっているこの一冊。第1巻は「学び」がテーマです。小・中学生にとって、避けて通れませんが、腹落ちしていない部分でもある「なぜ学ぶか」という問い。それについて、哲学や脳科学、心理学など様々な観点から論じています。

共通しているのは、知識に振り回されるな、ということ。知識を得るための勉強では、この先の時代は乗り越えられないし、そもそも大学も知識偏重では受からない改革が起きています。錚々たる執筆者からの「読書案内」として、オススメの本も載っていますが、小・中学生には少々難しいものばかり。結構背伸びしないと読み切れないでしょう。

特に入試で頻出している茂木健一郎の文章は、内容も面白いですし、分かりやすく書かれています。具体化と抽象化の見本のような書き方がなされており、読者が何を求めているかをきちんとわかって書いているなと感じます。

脳をうまく使うには、ドーパミンをよく出してあげることが必要だ。それでこのドーパミンは、少し自分には無理かな、と思うくらいのレベルのことに挑戦して、それをクリアできたときに、いちばんよく出る。

茂木健一郎の章を読むだけでもこの一冊を買う価値があります。また哲学者である小林康夫の言葉も印象的です。

「あれは一体何なのか?」「これはおもしろい」「どうしてこれに興味を引かれるのだろう?」といった、自分にしかわからない小さな違和感や疑問を大切にとっておいてほしい。それが皆さんの大きな役目だ。

冒頭にも書きましたが、「つまみ読み」も新書においては有効ですし、その方が入口のハードルが低いので、本書も興味があるところだけでも読んでみるとよいでしょう。

「自分の顔が好きですか」 山口 真美

 

おすすめ度  ☆☆☆
読みやすさ  ☆☆☆☆
ためになる度 ☆☆☆
おもしろさ  ☆☆☆
入試頻出度  ☆☆☆

 

顔は、自分と社会をつなぐ接点であり、顔で他人を認識し、顔で自分自身を表現していきます。「いい顔」とはどういうものなのでしょう。顔が持つ性質や影響力について心理学の観点から説明されている一冊です。絵や図、写真などを多く用いながら、読み手の年齢が低くても読めるような内容になっています。「表情と心理学」、「心理学と文化」といったように表面的な部分とその内側の部分について述べているあたりが、小・中学生にとっての学びにも繋がり、入試にも出題される所以なのでしょう。

また、ちくまプリマーとは違い、本書は「岩波ジュニア新書」となっており、難しめの漢字には全てルビが振ってありますので安心です。少しのことでもデータや研究を根拠に述べていることが多く、裏付けがあって説得力のある内容となっています。

顔の覚え方などにも触れられていて興味がそそられます。相手に対する感情を使って、脳を活性化させながら覚えると良いそうですよ。顔と名前がなかなか一致しない人は、試してみるとよいでしょう。

個人的には第6章の「「かわいい」を考える」が面白かったですね。文化的背景と、可愛さの定義について述べていて分かりやすく頷けるものでした。

「<弱いロボット>の思考」 岡田 美智男

 

おすすめ度  ☆☆☆
読みやすさ  ☆☆☆
ためになる度 ☆☆☆
おもしろさ  ☆☆☆☆
入試頻出度  ☆☆

 

人の生活に近いコミュニケーション型ロボットの研究を通じて、考えることや行動すること、また人間の身体の仕組みについて考えていく一冊です。ロボット一つ一つの動きがコミカルでどんな仕組みで動いているのか、どんな歴史があるのかが順を追って説明されていて興味深いですね。言葉も比較的平易で読み易くなっています。

「動作→他者認識→会話」とロボットの進化と共に説明は進み、原始的なロボットの拙さも相まって、このAI時代における技術の原点を見ているような気持ちになれます。技術の進歩や人工知能というものと、人型および動物型ロボットというものの進化は違うものだということも同時にわかってきます。ロボットがこれからどうなっていくのか、そして、ロボットと人間はどう関わっていくべきなのか、その未来への視点を与えてくれます。

ただどうなのだろう。ちょっと油断していると、はじめは手段だったはずの要素技術開発はいつの間にか目的化して、独り歩きをはじめる。街のなかのゴミを拾い集めるはずのものが、火星などの惑星で鉱物採取するような大層なものへと姿を変えていたりする。(中略)例えば、「勝手にゴミを拾い集めるロボット」もいいけれど、むしろ「ちょっと手のかかるくらいのロボット」はどうか……。ゴミを拾おうとしても、上手に拾えない。それを見かねた子どもたちが駆けよってきて、そのゴミを拾ってあげるような……。そうしたことを考えるなかで、今では<ゴミ箱ロボット>と呼ばれる、ちょっと他力本願なロボットのコンセプトが生まれてきた。「自分ではゴミを拾えないのだけれど、周りの子どもたちの手助けを上手に引き出しながら、結果としてゴミを拾い集めてしまうようなロボット」である。

ちょうど「AIvs教科書が読めない子どもたち」を読んだ後だっただけに、すさまじいAIを開発し続けることも重要ですが、同時に人と共存するロボットの開発は、今後技術開発の上でとても重要な視点だと思いました。なんでもやってくれる、やってもらえるロボットの登場ではなく、一緒にやっていくことでさらに可能性を広げられるような、人間の良いところとAIやロボットの良いところを掛け合わせられるようなそんなロボットの開発ができれば良いのだと。

この第7章「「弱いロボット」の誕生」という章に感銘を受けました。より速く、より上手く、より便利に、を追い続けるこの世の中で、この章に描かれているような視点を持つことは肝要です。せっかく買ったのに、あまり読まずにたたんでしまう可能性もあるので、それならこの第7章だけでも読むと良いでしょう。

床の上のホコリを丁寧に吸い集めるのは、ロボットの得意とするところであり、わたしたちに真似はできない。一方で、ロボットの進行を先回りしながら、椅子を並べかえ、障害物を取り除いてあげることは、わたしたちの得意とするところだろう。一緒にお掃除をしながらも、お互いの<強み>を生かしつつ、同時にお互いの<弱さ>を補完しあってもいる。


「『今、ここ』から考える社会学」 好井 裕明

 

おすすめ度  ☆☆☆
読みやすさ  ☆☆
ためになる度 ☆☆☆☆
おもしろさ  ☆☆☆
入試頻出度  ☆☆☆☆

 

入試に頻出するのでご紹介しておきますが、少し読みにくいかもしれません。読みにくいからこそ、読んでおく必要があるという見方もできますが。
現代を取り巻く他者との関係性について、「今、ここ」の社会的テーマを中心にして述べています。「社会学」というと何やら難しくとっつきにくいものであると考えがちだが、要は「今、そこ」にある身近なテーマを人間同士の関係性を軸に考えていくものだと捉えれば、もっとも身近な学問であると理解できますね。社会学は社会を考える知的実践と言い換えられるでしょう。

「他者の存在」こそ、社会学にとって基本的な事実であり、社会学的問いが回避し得ない「謎」と言えます。

社会学とは他者の学である。社会学とは他者を考え、そこから私という存在を考え直す学である。

冒頭に社会学の歴史についても、触れられています。マックスウェーバーをはじめとする著名な社会学者の紹介とそれぞれの学説を紹介し、社会学ということの大枠を捉えてくれています。非常に興味深いアプローチではありましたが、小・中学生にはあまりに馴染みが薄く、このあたりは読むのが苦痛かもしれません。第二章から入ってもいいでしょう。

第二章は日常性についての内容であり、一気に読みやすくなります。途中、スクールカーストについて教育社会学の観点から述べており、中学生たちにとっても身近なものになる仕掛けも随所にあります。
スマホ依存についても触れられています。スマホは他者とのつながりを携帯するものであり、自分自身を映すものであるという点でまさに「社会学的メディア」と言えるでしょう。

他者と真に「つながりたい」という願い。それをかなえるためにも、こうした他者と自分との間にある”距離”や”時間”を考えるべきだし他者理解のための”速度”を考えるべきです。そのうえで私たちがいかに他者と簡単には「つながれない」のかをじっくりと考える必要があるのです。

「あたりまえ」という言葉が頻出します。「あたりまえ」の視点がすでに自分の価値観に支配されたもので、他者をマイノリティとし「分け隔てていく」素地を生んでいるというのは新鮮でした。パラリンピックや車いすバスケット、ブラインドサッカーなどのスポーツについての考察も新たな視点を授けるのに一役買っています。

政治や社会に参加する「主体」をつくりあげるうえで、必要な力や知識はさまざまに考えられるでしょう。しかし、そのなかで欠けてはいけない力があります。それは、これまで犯した過ちも含め、自らがもつ負の側面をしっかりと見据え、それを今後生きていくうえでどのようにプラスに転化できるのかを考え、新たな何かを作り出す力です。私は、これを「批判する力」と考えています。(中略)「公共」には、社会学的な想像力、「批判する力」が必須なのです。

「中学生からの哲学「超」入門」 竹田 青嗣

 

おすすめ度  ☆☆☆
読みやすさ  ☆☆
ためになる度 ☆☆☆
おもしろさ  ☆☆
入試頻出度  ☆☆☆

 

最後は、これも入試問題で良く見る竹田青嗣の一冊。第一章は、ご自身の経験について語られており、大変興味深い内容ではありますが、カント、デカルト、ニーチェ…と哲学者の名前や思想がバンバン出てくるので、小・中学生の多くは辟易として本を閉じてしまいそうです。

第二章は、少しはとっつきやすくなりますが、まだ難しい。おすすめは第三章から。ここからは、小学生でも読めます。内容も理解しながら、語彙力と教養を得られます。それこそ、ドーパミンが出る感じです。続く第四章は上手くまとめられています。「幸福とは何か」について現代に照らし合わせた哲学が語られているように思いますので、じっくりと読み込んでみてください。

ただし、全編を通して『「超」入門』と言うほど簡単ではないので注意が必要です。知識人が言うところの「入門」ほど分かってないものはなくて、一般人にとっては全然入門ではありません。興味のあるところや、読めそうなところだけ読む「つまみ読み」がおすすめです。

「本質」はあることがらや概念の中心で、これを通してより上位の「原理」がうまくつかまれるわけです。哲学は、それ自体が「本質や原理を上手に探していくゲーム」と言って良い。

おわりに

以上、十冊ご紹介をさせていただきました。興味がありそうなもの、お子様に読んでもらおうかな、と思えるものはありましたでしょうか。読書が先か、語彙力強化が先か、というのは鶏の卵的なことですから、「難しいから」といって遠ざけてばかりではなく、少し難易度が高そうなものに挑戦させてみるのもまた良いのかもしれません。

もし、お時間が許すのであれば、ぜひ保護者のみなさまも手にとってご一読ください。どの本も新たな発見があると思いますし、何よりお子様とのコミュニケーションを取る格好の材料になるはずです。ご紹介させていただいた本を読み込める小・中学生であれば、完全に大人の会話についてこられるレベルに達しますし、ご家族の皆様でテーマを設けて話し合うのも楽しめそうです。

ちくまプリマー新書からはどんどん新刊も発刊されますし、折に触れて第二弾の記事を書きたいと思いますが、今回はこのあたりで。ご参考になれば幸いです。