鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -
2017.08.21
開校6年目、2018年春に中高一貫一期生が卒業する横浜市立南高校附属中学校。横浜市の肝入りでスタートした市内初の公立中高一貫校です。市の本気が伝播し、初代校長の確かな手腕が評判となって、噂が噂を呼んだ結果、開校以来凄まじい人気と倍率が続いています。今回は、偏差値では測れない市立南高等学校附属中の人気の秘密と内情について、2017年夏の説明会での内容を軸に、細かく書いていきたいと思います。
教育目標としては、次の三つが掲げられています。
また、同時に高い学力と豊かな人間性を両輪として、基礎・基本の徹底やそれらを活用する力、同時に学びへの高いモチベーションを促すということも目指します。
横浜市立としては初めての中高一貫教育校(併設型)として、2012年4月1日に開校。
中学校は、1学年4クラス160人の定員、高校は1学年クラス200人定員となっています。高校からは1クラス募集ということになります。附属中学校から南高等学校へ進学する際には入学者選抜はありません。2018年春に中高一貫第1期生が卒業することになります。開校以来校長を務めていらした高橋正尚先生が2016年春に退任。後任は現在の磯部校長です。
南高校については、昭和29年に設立された伝統校です。平成3年に落成された校舎は、公立としては十分な設備を誇り、新しく見えます。附属中学が開校されたタイミングから高校募集は1クラス分になっています。
難関大学に合格できるような高い学力を身につけると同時に、技能教科も含めた充実した学び、主体的な学習態度、友だちを大切にする気持ちや社会体験プログラムなど、知識や大学入試を突破するための学力だけではない広い意味での「勉強体験」ができる学校を目指しています。そのための工夫や取り組みも多数あります。
授業時間数の増加
生徒が素直に学べる関係を作る
「私の週プラン」を立てる
生徒の学力に応じたフォロー体制
授業の力点
授業の進め方
英語学習については、「国際社会で活躍できる語学力と表現力を養う」ということを大きな目標として掲げ、独自の英語学習法を取っています。そして、その成果は着実に出ており、英検の取得率を見ても驚異の数値となっています。また、グローバル教育という視点でも他の公立とは比べ物にならないほどその機会は多く充実しています。私立と肩を並べるほどのラインナップです。公立中学校が私立に大きく水を開けられている部分が完全に解消されていると言えるでしょう。チャンスは数多く転がっており、掴むかどうかは生徒次第です。ただ、高倍率を突破してきている意識の高い在校生は、学校側の期待を上回る活用をしてくれるに違いありません。
英語の授業展開のイメージ
英検
グローバル教育(TRY&ACT) グローバルビジネスのリーダーを育成する
受験指導については、未知数な部分が多いように思います。ただ、レベルの高い教員に導かれた、意欲も実力もある生徒たちがどんな成果を出してくるかは、想像に難くありません。まず間違いなく素晴らしい結果を残すことでしょう。都立の中高一貫校で一期生が東大5名合格となった「白鴎ショック」に次ぐ「南ショック」が起きる舞台は整ったと感じています。しかしながら、「生きていく力をつける」教育と進学実績が両立するのかどうかを試されているとも言えます。何れにしても、2018年春の結果が楽しみです。
火曜日・木曜日の7時間授業をはじめ、月2回程度の土曜講座なども行い、「忙しい」カリキュラムとなっていることは間違いありません。前述の通り、中学の間は英語・数学・国語を週5時間行っており、基礎学力だけでなく応用・発展学習まで取り組んでいきます。数学に関しては、文系・理系に分かれることなく高校2年生の段階でも、全員が数学Ⅱ・Bを学習します。これは、湘南高校なども取り入れている「国公立大受験シフト」と言えるでしょう。
中学段階での高校内容の先取り学習については、今後は控えていくようです。思考力・判断力・表現力を高めるという目的で、中学での高校単位認定を廃止したとのことです。これまでは、中学3年生の数学で一部高校内容を先取りしていましたが、今後は内部進学生と高校からの入学生を高校1年生で混合クラスにしていくこともあり、先取り学習はなくしていく様相です。
一部の有名私立進学校でも、むやみな先取りはせず、一つ一つの学習内容を深めていく方向に舵を切っていることもあり、2020年度の大学入試改革に向けての中学段階でのカリキュラム編成は、「先取り派」と「深掘り派」に分かれているのが現状です。どちらが有利なのか、現状では判断がつきませんが、生徒は学校の取り組みを信じつつ、自学自習する姿勢が求められます。本質的な思考力や表現力を高めることと、「拙速」は相反することになるので、南高附属中の方針と「深掘り」のカリキュラムは合致していると思われます。
南高附属中の最大の特徴と言えるのが、このEGGです。様々な体験学習や講座、話し合いのゼミなどを通して将来を自分で切り拓く支えとなるコミュニケーション能力を養っていきます。国際社会で活躍するために必要な人間性の基礎を築くものです。
EGG体験
EGGゼミ
課題発見と課題解決能力、論理的思考力を磨いていくのが、EGGゼミです。書くことや伝えることを軸に3年間かけて、KJ法などを用いた調査分析から討論、ブレインストーミングなどの手法を身につけ、3年次には卒業論文を書き、それを発表します。卒業論文の内容は、国際的なものから環境問題、テクノロジーについてや健康福祉についてなど多岐にわたりますが、いずれもかなり深い内容となっています。EGGゼミで取り組む課題(身につけられるスキル)はおよそ下記の通り。
本物に触れる体験を準備してくれて幅広い教養を得る機会があるのがEGG講座です。そろばん教室や国際理解講座に加えて、JAXAの人の話を聞けたり、TBSによる職場体験ができたりします。また、横浜市大と連携し、医学部体験講座なども実施されており、公立中学校における「なんちゃって職場体験」とは、全く違うレベルで職業や将来を考えるきっかけをくれます。
学校行事は、南高の伝統をきちんと継承し、盛んです。特に体育祭は他学年との交流も図れて、1年間でもっとも盛り上がる行事となっています。他には生徒主体で運営される文化祭では毎年著名人を招いていたり、クラスごとで催しを決めていったりで、学校を挙げたイベントとなっています。球技大会や合唱コンクールなども、高いクオリティで楽しめます。
部活動自体は活発です。設備も整っていますし、珍しい部もあります。ただし、週3日の活動制限があるため、部活を中心に中学校生活を送ろうと考えている人には不向きかもしれません。そもそも開校時点で南附属中に集まった先生方は、部活動の指導についても考慮に入れて選ばれたわけではないため、各部の専門家がいるわけではありません。そのため、技術的な指導にも不安が残ります。
ただし、一方で限られた活動時間で成果を出そうとする集中力や効率性が磨かれていることも事実で、生徒主体で盛り上がる部活も多くなっています。中学校の野球部では横浜市大会でベスト8まで進出したり、弓道部、陸上部なども盛んです。
総じて部活動よりも学習活動、その他の取り組みに力を入れていることは間違いありません。部活動を青春の中心に置きたい人は、他の私立や公立に行った方が良いでしょう。中学・高校で何をやりたいかをよく考えて受験をすることをオススメします。
入試については、2016年度より適性検査Ⅰと適性検査Ⅱの二つが行われ、調査書と合わせて総合的に合否を決定しています。
文章・図・表やデータなどの情報を読み解き、分析し表現する力を見る(国語的)
自然科学的な問題や数理的な問題を分析し、考察する力や解決に向けて思考・判断し的確に表現する力を見る(算数・理科的)
「南附中対策クラス」と銘打って各塾とも力を入れて取り組んでいますが、塾に行っても対策クラス30名のうち合格するのは3、4名です。入試の倍率が8倍から9倍であることを考えると、通う意味に疑問符がつきます。
また、南附中の合格者のうち、難関私立中受験との併願の人もそれなりの数を占めます。私立中受験コースで膨大な量の問題をこなし、解法のパターンを習得している人たちも南高附属中の受験生として一定数存在します。いずれにしても、一つ一つの問題に丁寧に取り組み、解法の道のりをしっかりと自分で作り上げる力が重要です。
算数系の問題は、丁寧さとスピードが必要ですので、数をこなすことも肝要です。ただ、算数系の問題は難問(いわゆる捨て問題)も存在し、場合によっては差がつかないことも考えられます。そのため、より重要なスキルとして求められているのは、作文力ではないかと見受けています。それも、楽しい作文を書く力ではなく、論理的に構成された自分の意見を書く文章の力です。この力を鍛えるためには、2000字程度の文章を150〜200字に要約し、さらに文章の内容に対しての自分の意見を書いていく練習です。的確な要約スキルと共に、主張を構成する能力が求められています。南高附属中の教育方針から考えるとこの能力が欠けている生徒は、入ってから苦労することが明白で、入試の選考に当たってもかなり重視されているのではないかと予測します。
塾講師の目で選んだ、南高校附属中合格のためのおすすめ問題集を掲載しておきます。まずは、銀本こと全国公立中高一貫校問題集をこなしていくことが何よりも大事です。全国の入試問題はすべて趣向が凝らされていて、よく練られた素晴らしいものばかりです。市販の対策問題集もありますが、入試問題に勝るクオリティのものはどこを探しても見つかりません。最高にして唯一無二の問題集です。ただ注意すべき点は、解説がついてないので、ご両親が一緒になって取り組む覚悟がある、もしくは塾で質問できる環境がある、のいずれかがないと難問を乗り越えることはできません。
分野ごとにまとめられた日能研が出版している問題集はよくできています。全国の公立中高一貫校の入試問題を分野別に丁寧にまとめ直してくれた問題集となっています。各分野ごとに必要な能力やスキルを確認しながら解き進めることが可能です。
最後に、要約力を鍛えたい方に。要約指導は、手間がかかるので塾でやってくれるところも少なく、家庭でフォローする必要があるかもしれません。教員用の本になるので、ちょっと専門的な要素もありますが、要約のやり方から主張文の書き方まで実例を交えながら丁寧に書かれている指導書ですので、本気で要約力を鍛えたい方におすすめの参考書です。
開校の際に横浜市全域から優秀な教員がかき集められたという話がありました。半分は正しく、半分は誇張でしょうか。高橋前校長が、「一緒にやりたい」と思った指導力のある教員の中から、異動のタイミングを迎えていたり、大学院へ内地留学をしていたりした方を選定されたとのことです。
また、初任者が多かったのも特徴です。経験のある先生は、自分の指導法を確立されている場合が多く、新しい学校や制度にうまく乗り切れない場合があります。そのことを懸念して初任者や教員経験の浅いメンバーが集まっています。研究授業や話し合いを多くして、若くて活力があり、行動力がある面々が現在の南中を支えています。実際に教員の力は同業者間でも高く評価されており、私立に勝るとも劣らない陣容と言えるでしょう。
英語の西村先生や梶ヶ谷先生をはじめとして、成果を上げるための実験的な授業も許されており、これだけの注目校で働けるのは、若手教員として大きなやりがいを感じられることは間違いありません。雑務を極力減らし、本来の教員としての指導力を高めることに時間をかけさせてくれる学校であるため、常に先生たちが成長を続けます。これから先も力を伸ばし続けることでしょう。
ここまで書いてきたように、南高附属中では、数多のプログラムや学習をこなしていかなければなりません。生徒たちは、それらを意義を確かめながらこなしていき、学校からの期待、親からの期待、得体の知れぬ大きな世間からの期待を感じ、それに応えるように学校生活を送っています。
学校について語る生徒たちの表情は自信に満ち、生き生きとしていて、高い発表力とコミュニケーションスキルを見て取れます。適性検査も論理的思考力や表現力、図や式から視野を広げて複合的に考える能力を問うものとなっており、学校が求める高い資質を持った生徒が集まっています。「国際社会で活躍するリーダー」が集うと謳っていますが、それも大言壮語には聞こえません。
また、学校説明会で数名の生徒が登壇していましたが、どの生徒の発表も素晴らしいものでした。校長先生はじめ数名の先生方が資料を読み上げるがごとく面白くも何ともない説明をされている中、生徒の登場で場が救われました。「こんな子に育ってほしい」その場にいた多くの保護者がそう思ったことでしょう。
前述の通り、EGG体験やTRY&ACT、国際理解教育などを中心として、公立とは思えない充実度が魅力です。大事なのは、このプログラムに「乗っかる」ことだと思います。志とモチベーションを高く持ち、学校が準備してくれたプログラムを自分事として捉え、取り組んでいければ、有意義かつ密度の濃い中高6年間が送れることと思います。
2018年春に第1期生の進学実績が出ます。「豊かな人間力」を育てることと、いわゆる大学進学実績が両立し得るのか、非常に衆目が集まっている状態です。ただ、間違いなく優れた実績を出します。入学時に10倍近い倍率で生徒を選び、レベルの高い教員による授業を受け、さらに横浜市全面バックアップのもと英数国を強化するようにカリキュラムも柔軟に変えながら、手厚い指導体制が取られています。
私立中学校の受験で、どんな難関校であっても南高附属中を超える倍率の中学校は存在しません。倍率が2倍を超えたらニュースになるような公立高校入試においてはなおさらです。県内最難関の翠嵐高校ですら、最終倍率は2倍に満たない状態です。進学実績でも負けるわけないですよね?
とはいえ、初年度ですし、まともにいったら卒業生200名のうち10名程度が東大合格と予想します。公立高校として比べると、翠嵐・湘南に次ぐ三番手ですね。ただ、南高附属中の教育方針からいって、「出来る子は東大」という指導を行っていない可能性があります。個人的には、幅広く一人一人の生徒の興味や将来にあった大学選びをしてほしいという気持ちが強いので、東大合格者数に縛られてほしくないという願いは持っています。
結果やいかに。
結果出ました。予想は下回っています…
また、進学実績についての記事も書きました。
横浜市立南高校附属中 進学実績2018 比較と考察
注目の南高附属中について、記事を書いてきましたが、かなりのボリュームとなりました。最後までお読みいただいた方、本当にありがとうございます。都合上読みづらい部分もあったかと思いますが、ご容赦ください。
このブログの大きな目的の一つに噂や根拠のない情報に踊らされて、間違った進路選択をしてしまうことを防ぎたい、という気持ちが強くあります。南高附属中は大人気の学校で、かなりの注目を集めている学校です。だからと言って、無条件で「良い学校」なわけではありません。きちんとした情報や学校の方針を確認してほしいと思っています。中高6年間でやりたいこと、身につけたい力、それを考えた時、合致するものがあった学校を選ぶのが最良で、保護者はその義務があると思います。本人の意思も大事ですが、12歳の小学生の目や感覚を闇雲に信じるのではなく、親が一生懸命調べ、考え、親子で話し合った結果の受検をしていただきたいと思います。
なお、説明会の内容は大したことがなく、期待はずれもいいところです。前校長が出版された下記の新書をお読みいただいた方が、学校の目指すところや中身が色濃く理解できます。受検を考えられている方は、必読です。