受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


中学受験を考えた保護者の方にまず読んでほしいおすすめ3冊

2019.01.11


中学受験の現場で長年進路指導にあたっている経験と、たくさんの中学受験本を読んできた中から、保護者の方にぜひ読んでほしいと絞り込んだ厳選3冊を紹介します。いい面も悪い面もある中学受験の真実を知った上で受験に臨んでいただきたいという思いで記事を書きました。親子で「いい中学受験」をしたいと思っている方に、我が家は中学受験に向いているのか悩んでいる方に、フラットな視点で我が子に合った塾選択をしようと思っている方に、おすすめです。

はじめに

各塾のセールストークや進学実績、素晴らしいです。先輩ママの中学受験成功体験、羨ましいですよね。でも、それって本当に「我が子」に当てはまることなのでしょうか。

子どもたちが十人十色の個性を持っている中で、他人のサクセスストーリーは何か意味を持つのでしょうか。中学受験をするかしないかの選択も含めて、一度立ち止まって「我が子」にあった小学校高学年を送れるように、またその先の未来を考えるためのヒントをくれる本を紹介してまいります。

今回ご紹介する3冊は次のような方に最適です。

  • 中学受験をするかしないか検討中
  • 中学受験はするがどの塾にするか、どのように進めていけば良いか迷っている
  • 中学受験を始めたが親子で悩んでしまっている

もちろん全部読むに越したことはありませんが、置かれている状況に合わせてまず一冊手に取ってみるのもいいでしょう。

「中学受験をしようかな」と思った時にまず取る行動としては、ネット検索。次に先輩受験パパママからの情報取集だと思います。しかしながら、大変残念なことに周りの先輩パパママたちの成功論失敗論は我が子仕様になっていて家庭環境も性格も学力も違うので普遍的ではありませんし、参考になりません。

塾のセールストークも自社利益のために偏っていますし、ネット情報は玉石混交。「どれを信じたらいいのか…」という感じでしょう。そうなると、一歩引いた第三者的立場からの意見、それも受験業界に精通した人の意見がもっともためになるはず。

3冊の著者はいずれも現場経験が豊富で、どこかの塾に肩入れすることもありません。参考にしていただければと思います。

中学受験を考えたときに読む本

最初にお伝えしておきたいのは、この本は中学受験を全力で肯定した本ではないということです。まずは肯定・否定含めた意見を幅広く見る、という意味で重要な投げかけをしてくれる内容です。教育ジャーナリストでありながら学習塾を運営する著者矢萩邦彦氏と、五人の識者が対談する形式で本書は進みます。

この五人の人選が絶妙で中学受験界の大御所から注目を浴びている気鋭の教育者まで、統一感のないメンバーが登場します。受験業界に身を置いている実感としては、豪華すぎるこのメンバーをよく集めたな、という印象です。それぞれの教育論を一度に読める稀有な一冊となっています。中学受験をするかしないか迷っている方はまずはこちらから。

子どもの数だけ家庭の数だけ中学受験や教育のあり方は存在します。我が子が生き生きと過ごせる環境、未来に目を輝かせられる体験はどこにあるのか、それを探せる一冊となっています。共感できること、できないことあると思いますが、この本のフラットさは特筆ものだと思います。今までになかった新しい受験本と言えるでしょう。

中学受験に対して、僕は一貫して「人による」という立場を取っています。勉強法も塾も志望校も、何が最適かは受験生の個性や成長段階、家庭環境によって違います。そして、そもそも中学受験をしたほうがいいのかどうかも受験生によります。その感覚は経験が長くなるほど強くなっていきました。

P.3「はじめに」より

著者(編者)のこのスタンスが好きです。「誰でも出来るようになる」ということはないですし、「やればできる」も違います。情報処理能力と思考力が育ってきたときに初めて中学入試問題が出来るようになります。11歳は非常に脳が活性化する年齢という話もありますので、その時期に大量の思考機会を与えることは脳科学上もきっといいことだとは思います。

でも、合う人合わない人がいる、これは事実。そして、全ての人が中学受験をした方がいいわけではない、ということもよく念頭に置いていただきたいと思います。

本書に登場するのは、

  • 小川大介氏:大手進学塾講師を経て中学受験専門のプロ個別指導教室SS-1を設立。塾との上手な付き合い方についての多角的な意見は誰にでも参考になるはず。
  • 齋藤達也氏:中学受験コンサルタント。中学受験を突破するための数多くの方略を具体的に提示してくれる。実体験や実際の受験相談から導き出された確かなコンサルティングが好評。
  • 安浪京子氏:中学受験専門カウンセラー。家庭教師派遣も行なっているがビジネス拡大よりもご自身が直接指導にあたっていて、信頼できる算数指導者でもある。後述するマトリックス本も面白い。
  • 宝槻泰伸氏:注目を浴びている”探究学舎”代表。中学受験本にこの方を登場させるあたりが編者のセンス。他の方とは全く違う角度で教育論をぶち込んでくるので目が覚める。
  • 竹内薫氏:本書後半で突然登場するYESインターナショナルスクールの校長先生。むしろ中学受験に対してアンチテーゼの立場からの内容が多くて面白い。

の五名。中学受験万歳の前半からの突如後半「探究型」と「遊べ型(?)」の話が登場するという飽きのこない構成。誰に首肯するかは人それぞれ。誰の意見を我が子に投影させるかも人それぞれ。この不統一感が魅力です。

以下、本書の内容の紹介です。

大手塾に通うメリット・デメリット、集団塾・個別指導塾の特徴やカリキュラムなどにも各氏言及しています。中学受験に「塾通い」は必要か、という問いに対する答えは基本的に「必要」というスタンスをみなさん取っています。

(塾に通わずに受験をすることは)可能か不可能かという意味なら可能です。ただし、そのご家庭が、受験に何が必要なのかをわかっていて、しっかり覚悟したうえで始めるなら、という条件付きです。(中略)子どもの学習に対する負担感や同じ成果を上げるうえで必要な時間数が、大手塾を使ったほうが結局効率的で少なくて済むということです。(中略)(中小塾は)距離の近さが最大のメリットで、集団のなかで息苦しさを感じやすい子や周りの目線が気になってしまいやすい子、常に褒めてあげないと気持ちが折れやすい子の場合、中小塾のほうが頑張りやすいでしょうね。(小川大介氏)

P40~42より

本格的に受験をするのであれば4年から塾に行っていないと、もうまったく間に合わないですね。それはもう塾と学校のレベル差がありすぎるので。(中略)ちゃんとした受験勉強というのは4年からでいいと思うんですけど、その前に漢字だとか計算だとか、本質的な能力とは関係ないんだけれども、やればできるものはやっていくといいのかなとは思っています。(齋藤達也氏)

P70~72より

もうすでに4年生から入らないときつい状況を塾業界が作ってしまっていますよね。(中略)難関校以上に行きたかったら、やっぱり塾メインで、プラス家庭教師というふうになると思います。(中略)とにかく独学では無理だと言っていますね。(安浪京子氏)

P126~127より

(中学受験の)最大のデメリットは、中学受験に向いていない、学力的にというより、成熟度が低くて受験のタイミングではないのに無理矢理受験させることによって、「親子関係が崩れる」「子どものトラウマになる」「親も子も”うちの子(自分)はこの程度 “」と思い込んでしまうことです。(安浪京子氏)

P160より

志望校ありきの中学受験も多いですが、決まっていなくても大丈夫です。そもそも小学4年生に「志望校は?」と聞くのもナンセンスですし、3年間で子どもも学校も大きく変貌を遂げます。受ける学校について親のフィルターが入るのは当然ですが、親子で会話を数多くして少しずつ形作っていければ問題ありません。

初めから、明確な目的意識を持っていなくても大丈夫です。まずは欲求レベルの「何が嫌か」という感情をちゃんと聞くことと、「どうなったらハッピーか」という感情を聞くことが大切ですね。それを受験の世界に翻訳すると、どうなるか(小川大介氏)

P26より

塾選びも大切な要素で、我が子に合った塾を選ぶ際の情報も書かれています。塾選びについては後述する「基本のキ」が詳しいのでそちらをご参照いただくとより詳細が分かります。中学受験において親が絶対にやってはいけないこと、子どもに絶対にやらせてはいけないことにも触れています。

結局、塾との相性ですね。速く回すスタイルのSAPIXに合う子というのは、やはり成績上位の子でないと駄目なんでしょうね。「うちの子はサピに行っているから大丈夫」と思っているお母さんというのは多いんですけど、「いや、そのクラスだと意味ないですから、他の塾に移ったほうがいいですよ」と内心思っていたりもしますね。(齋藤達也氏)

P.79より

(中学受験において絶対にやってはいけないことは)親御さんに対してということでいえば、子どもを傷つけることですね。子どもに関しては、わからないのに、わかったと言わないことです。(齋藤達也氏)

P.105より

今お薦めできる塾は一つもないんですよ。(中略)やっぱり難関校以上を狙うのであればSAPIXという選択肢にはなります。あのレベルについていける子でないと、難関校以上に合格できないとも言えます。「難関校に憧れているから目指したいけれど、現実的には中堅校」という子には、わたしは日能研を薦めています。(中略)中小塾というのは、100パーセント良いか・100パーセント悪いかしかないような印象があります。アットホームで先生が生徒全員に目をかけてくれる、本当にいい塾も中小にはあると思います。(安浪京子氏)

P130~134より

しなくていい苦労とか、しなくていい苦痛とか、しなくていい挫折とかを味わわせながら12歳にたどり着かせるという集団塾主導の受験プロセスは不健康だと思いますね。(小川大介氏)

P.20より

中学受験の現場の中枢で活躍されているここまで登場のお三方に対して、新機軸で中学受験を語るのが宝槻氏と竹内氏です。探究学習を私教育で形にしたパイオニアと言える宝槻氏は、能力開発だけでなく「興味開発」の重要性を解きます。中学受験というシステムそのものや、私立中高一貫校の大学進学実績の胡散臭さにも切り込みます。インターナショナルスクールを運営する竹内氏もほぼ同様のスタンスをとります。

私立や中高一貫に行かないと大学入試でいい結果が得られないというのは、あくまでも”神話”でしかありません。(中略)大学受験で合格する方法は明確にありますので、公立だろうが、私立だろうが、中高一貫校だろうが、どの学校に行っていたかということはあまり関係ないですし、大学受験の結果を左右するものではないというのが僕の立場です。(宝槻泰伸氏)

P177~178より

「個性」や「多様性」というものに魅力を感じて中学受験を選択するのに、そのプロセスで進学塾というシステムに「適合」しなければならないというのは、ものすごく矛盾しているなと思いますね。(宝槻泰伸氏)

P180より

例えば中高一貫校に行くと6年間あるじゃないですか。だから、どこを選ぶかというのが重要です。入学した先でさらに受験勉強だけやるのだとしたら意味ないですよね。学校行かないでむしろ自分で受験勉強したほうが効率もいいですし。そうじゃなくて、本当にすごくいい探究型の授業をやってくれるような中高一貫校ももちろんあります。そういう学校を選べば、その6年間はすごく有益になると僕は思います。(竹内薫氏)

P233より

では、子どもたちにどんな環境を、どんな教育を準備していけば良いのかについても「探究系」のお二人は語ってくれます。

はっきり言えば、「適合のOSから創造のOSに切り替えろ」ということです。(宝槻泰伸氏)

P196 より

遊ばせないというのは、やっぱり駄目だと思うんですよね。小学校のときすごく遊んでいた人のほうが、どう見てもその後のびのびと伸びている人が多いんで。(竹内薫氏)

P237より

ここまで本書の内容について見てきましたが、素晴らしいところは登場する五人の教育者が持論を建前なしにズバッと言い切っているところです。立場がある方ばかりなので「言い切る」ことは自塾や自校にとってマイナスになることも多いと思いますが、それでも語る。そして、その発言を引き出し、汲み取り、一冊の本にまとめきる編者矢萩邦彦氏の力も非凡だと思います。現場にいる身としても非常に楽しく読めました。保護者にとっても視野を広げる上で相当有益な一冊です。ぜひお手にとってみてください。

【その他のおすすめ本】志望校の合格可能性を考えた際に問題との相性も重要です。マトリックスでの志望校選びを提唱している安浪京子氏の著書は斬新で参考になると思います。

中学受験 基本のキ!

続いては「塾ソムリエ」として各媒体で支持を集めている西村則康氏と、的確なコーチングにより生徒一人ひとりに合った受験指導が注目の小川大介氏共著の一冊。こちらは、まだ不安はあるものの中学受験に臨むことを決めた家庭に最適です。

塾選びからはじまり、受験勉強を経ていく中で「いつ」「どのように」考え行動していけばいいかという具体的な指南、細分化された志望校の選び方まで中学受験初心者必携の一冊となっています。

前半は「中学受験のパートナー 塾との付き合い方」と題してSAPIX・日能研・四谷大塚・早稲田アカデミーの4大塾の徹底比較がメインです。圧倒的な取材量によって裏付け十分な情報が得られており、ここまで具体的な内容は他の受験本やネット情報でもお目にかかれないクオリティ。ベールに包まれている各塾の”お金の話”も事細かに書かれています。塾選びの際の基本情報を網羅していると言えるでしょう。

時期ごとに分けたアドバイスも有益。「小4春に気をつけたいこと、意識したいこと、よくある落とし穴」「小5夏期講習の過ごし方、各塾の講習カリキュラム」など、時期に応じた助言・学習内容の情報が満載です。

夏休み明けは、半数近くの子どもの成績が下がる時期

運動会は意外な落とし穴。この時期の体調管理に気を付ける

P142,148より

といった具合に具体的かつピンポイントで保護者の不安を解消する内容となっています。

さらに後半には人気校の校風とおすすめ併願パターンがケースごとに記載されています。男子御三家(開成・麻布・武蔵)、女子御三家(桜蔭・女子学院・雙葉)をはじめとして早慶附属や渋谷教育学園渋谷など人気&注目校の校風や入試問題の特徴が掲載されています。志望校の中に該当校があれば非常に有益な情報ですが、ちょっと絞られすぎなのでこちらは本書に盛り込む必要はなかったかな、と個人的には感じています。

ではもう少し細かく内容を見ていきましょう。まず書かれている中学受験のメリットについて。

中学受験の勉強をすることによって、物事を一面的にではなく、色々な方向から見られることが挙げられます。特に中学受験の算数は、「この条件から何が分かるのだろうか?」「この答えを出すには、何を分かればいいのか?」など、”考える型”を身に付けることができます。

また、心の成長という面から見ると、自分自身を見つめる良い機会となります。中学受験に挑む多くの子は、自分が通う小学校の中では”できる子”で、「自分は勉強ができる」と思っているものです。ところが、中学受験の勉強を始めると、「学校の外には、もっとすごい子がいる」ことに気づかされるのです。そこで、挫折を味わうことで、勝つための階段作りを考えます。

P6~7 プロローグより

中学受験をする子の基準については、次のように書かれています。

  1. 小学校のテストで、安定して90点以上取れる子
  2. 宿題をきちんとやれる子
  3. 長時間椅子に座って、先生の話を聞ける子
  4. 毎日、家庭で学習する習慣がついている子
  5. 親子関係が良好な家庭の子

P22より

おおむね賛成できますが、もう少し要素があるのではないかと思います。弊ブログの「中学受験か、高校受験か、それが問題だ」内で触れていますが、学力面と精神的な成熟とともに体力と知的好奇心も重要な要素です。それが足りないと「やらされ勉強」から脱出することはできません。

中学受験に向いている子

  • 学校の授業に問題なくついていける。むしろ学校の授業は簡単で退屈、テストでは90点以上がほとんど
  • 素直、打たれ強い、負けず嫌い
  • 知的好奇心が旺盛(「なぜ?」をたくさん持てる、新たな知識を得ることへの喜びがある)
  • 文字を書くこと、文を読むことに抵抗がない
  • 体力がある
  • 私立の良さを話した時に目を輝かせる子

弊ブログ「中学受験か、高校受験か、それが問題だ」より

そして、本書のハイライトは4大中学受験塾SAPIX・日能研・四谷大塚・早稲田アカデミーの徹底比較です。これは保護者だけでなく同業者である我々にとっても非常に参考になる情報です。書かれている内容を一部抜粋すると下記の通りですが、情報量はこの程度ではありません。気になる方は是非ご購入を。

SAPIX:授業は成績上位2割に照準を合わせて進められるため、処理能力が高い子は伸び、そうでない子はなかなか浮上できず、挫折感を味わうこともあります。

日能研:特に中堅校に強い塾です。(中略)比較的宿題が少なく、同じ問題を何度もじっくり考えさせる傾向があるので、大きく落ちこぼれる子は少ないですが、一方で面白みには欠けるため、学習意欲が湧きにくい子も出てきます。

四谷大塚:SAPIXなどに比べると、親が教えなければいけない部分は少ないと言えるでしょう。ただし、大人の目が光っていないと勉強をさぼるタイプの子にはあまり向きません。

早稲田アカデミー:原理原則の理解から思考を深めていくのではなく、一問でも多くの問題を解くことによって考え方や解き方に慣れさせようとする傾向がある塾です。くり返し学習することで身に付く子には向いています。(中略)宿題の量が他の塾よりも圧倒的に多く、またそれをきちんとやったかどうかのチェックも厳しい塾です。

P33~36より

「子どもが伸びる環境を」という判断基準を持てば、進学実績だけで塾選びをすべきではないというのは自明です。そもそも難関中学への進学実績だけで塾を決めるならSAPIX一択です。前述のように上位二割に合わせた授業・カリキュラム・テストが行われており、その内容は秀逸です。その二割に入ることができ、システムに賛同できるのであれば、選択の余地はありません。

しかしながら、その二割に入ることが容易ではないということと、そしてそのために犠牲にすることが数多くあることもまた事実。さらにそれが全てではなく他にやりたいこと、大切にしたいものがあるという方もいることでしょう。難関校の合格だけでなく「我が子にあった受験」を大事にしてくださる保護者もたくさんいます。だからこそ他の大手塾や中小個人塾という多様な選択肢が生まれるのだと思います。

例えば、学力面で言えば「計算力・暗記力・集中力」の有無など、性格面で言えば「気が強いか否か」といった点で、どんな塾と相性がいいかおおまかに分かれてきます。

大手塾は、成績が良い子ほど輝ける場所。負けず嫌いで、「負けたくない」という気持ちを「学んでいく」気力に変えられるタイプの子には向いています。

P40,53より

中学受験を考える全ての家庭が「子どものために」一歩引いた冷静な視野を持って我が子に合った塾選択をしてほしいと思っていますし、そのために必要なかなりの情報が本書に詰まっていると言えるでしょう。

小4春〜小6受験直前期まで細分化された各時期のアドバイスもありがたいものです。しかも、それが4大塾別に書かれていたりするので驚きです。

4年生の段階で勉強につまずいている子は、勉強のやり方を間違っている子がほとんどです。ですから、勉強のやり方を変えれば、伸びる可能性は十分にあります。例えば、算数なら「計算力を鍛える」「国語なら言葉の学習を習慣づける」「理科・社会は暗記に頼らず、つながりで覚える」など、勉強のやり方を少し変えるだけで効果が出るものです。

その日の習う単元の基本は、塾の授業中に「理解して記憶できるまで」を完結できることを目指しましょう。

SAPIXでは算数を中心に各教科において、この夏(筆者注:5年生夏)の学習がまさに要となってきます。5年生は、受験本番まであと1年以上もあります。しかし、中学受験で難関校を狙うのであれば、6年生で実施される志望校別講座を、上位クラスで受講できなければ合格を手にすることは極めて難しい。そして、その受講資格を取るために、5年生の夏が勝負となってくるのです。

P170,124より

読めば読むほど異常な感じがしますが、これが現実です。転塾についても触れられています。

【転塾のステップ】

  1. 子どもの勉強がうまくいっていないことに気づく
  2. 何が、どううまくいっていないのか、現状を分析する
  3. 「こうすればうまくいく」という望ましい状態を考える。そのとき、本人と親ができることを書き出し、逆にできないことを穴埋めしてくれる塾を探す
  4. 転塾先の塾が実際に、子どもが距離的に通える場所にあり、保護者が送迎できるかを調べる(自宅から30分圏内を目安に)
  5. いくつかの転塾先の候補を挙げ、見学する

P174より

これから中学受験に臨む方にとっても、現在受験勉強真っ只中の方にとっても、「中学受験」という答えのないマラソンを伴走してくれる一冊なのではないでしょうか。中学受験サポートブックとして一家に一冊、おすすめいたします。

中学受験「必笑法」

最後にご紹介するのは、教育ジャーナリストおおたとしまさ氏の集大成とも言える本書です。タイトルにもあるように「中学受験で家族が笑顔になるための秘訣」が書かれています。各章のタイトルを追いながら内容についてご紹介してまいります。

中学受験で家庭から笑顔が消えるわけ

第1章では中学受験にまつわる誤解や実情について触れつつ、「中学受験をやめたほうがいい親の特徴」が書かれます。

中学受験は両刃の剣。やり方を間違えると親子を壊す凶器にもなります。中学受験の最悪のシナリオとは、全滅することではありません。途中で子供や親が壊れてしまうことです。

P25より

中学受験は親子にとってかけがえのない経験となり得ますが、同時に身も心も親子ともども疲弊しきってしまう可能性を否定できません。親が過度に子どもに期待とプレッシャーをかけたり、逃げ道を準備していなかったり、本人と親の間に温度差があったりすると後者の可能性が高まってきます。本書では「中学受験生の親がもつべき心構え」として5つの項目が紹介されています。

  1. 努力が報われないこともあるという現実を受け入れる
  2. 「何が何でも」というこだわりを捨てる勇気をもつ
  3. 受かった学校が最高の学校だと信じる
  4. わが子の才能を最大限に評価するモノサシを持つ
  5. 第一志望以外はすべて第二志望だと考える

というものです。特に我が子を最大限に評価するモノサシを持つというのは非常に重要だと考えます。中学受験のシステム自体が他者との比較という相対的なモノサシの上に成り立っています。でも、どのご家庭においても我が子は唯一かけがえのない存在であるはずです。相対的なモノサシだけでなく、本人の成長を、本人の努力の成果を、本人の笑顔を大切にしていただきたいと切に願います。

塾に頼っても、塾に振り回されない

第2章は塾との付き合い方と共に、塾の選び方についてです。塾に通わずに中学受験をするという選択ももちろんありますが、スモールステップを用意できる点、知識をなめらかに活用できるようにする点、親子以外の第三者が介入することによるメンタル面でのサポートができる点が塾という存在のメリットであると書かれています。

圧倒的な寡占化が進んでいる中学受験塾業界。大手上位6塾からの合格者数が約9割だそうです。これはすごいですね(他人事)。

中学受験をするなら「とりあえず大手塾」というのが無難な選択といえます。何かを選ぶとき、よほどのこだわりがあったり選択眼に自身があったりしない限り、とりあえず人気商品のなかから選ぶというのは決して間違った方法ではありません。「みんなも選んでいるのだから、まあ大丈夫でしょう」という安心感が得られることが、大手塾という選択の最大のメリットです。

P74より

やや斜めからの書き方が好きです(笑)。大手塾の特徴については前掲の「基本のキ」に詳しいので、そちらをご覧いただくとして、おおたとしまさ氏の著書からは良い中小塾を見分ける5つの観点が挙げられていますのでそちらをご紹介。

  1. カリキュラムは明確になっているか
  2. 合格実績が出ているか
  3. 保護者との意思疎通はスムーズか
  4. どれくらい年季が入っているか
  5. 適正な規模を保っているか

第2章より

たとえるならば、大手塾は大手チェーン系のファミリーレストランのようなものです。かたや、中小塾というのは個人経営の飲食店。チェーン系のファミレスなら、看板を見るだけでメニューやサービスの質が想像できる安心感がありますが、個人経営の飲食店の場合、実際にのれんをくぐり、自分の舌で味わってみないと良し悪しは判断できません。それが中小塾という選択のリスクです。ファミレスでは絶対に食べられないような絶品に出会える可能性がある一方で、全く下にあわない残念な料理が出てくる可能性もあります。

P82より

「まさに言い得て妙」という感じです。ファミレスとビストロのたとえは個人塾界隈ではよく使いますし、5つの観点も弊塾として気を配っているところです。「地元密着」を入れてほしいところですかね。街を歩いていたら自動的に個人面談が出来ますから(笑)。

「たかが偏差値、されど偏差値」の志望校選び

第3章は偏差値と志望校の関係についてです。この章でもっとも有用な情報は学校説明会の4つのチェックポイントです。

  1. メッセージに一貫性はあるか
  2. 「何でも屋さん」になっていないか
  3. 学校自慢になっていないか
  4. 校長の立ち居振る舞い

それぞれ見るべきポイントや子どもとの相性を知る上で重要な点です。本書の中で詳しく解説されているので是非ご覧いただきたいと思います。説明会に行かずして、学校を知らずして偏差値だけで選ぶのはあり得ません。実際、学校のことをよく知らずに通い、本人に合っていなかった時の代償はかなり大きいものになります。学校選びは慎重かつ冷静に。偏差値や風評に騙されないこと。これが重要です。

「最強の親」は、わが子を尊敬できる親

そして第4章は本書の真髄とも言うべき内容です。中学受験に臨むにあたって親はどのように振る舞えば良いのか、ということについてです。「あなたのためは呪いの言葉」という刺激的な表現が登場しますが、中学受験の中心は子どもでしかないということを改めて確認できる章です。

「中学受験は親が9割」「親で合否が決まる」など、巷でまことしやかに伝播している『中学受験親次第説』。冷静に考えてください。んなわけないだろう、と。勉強も受験も親がするものでもないし、ましてそれまでの人生もその先の人生も子どものものでしかありません。「本人次第」に決まっています。親の立場としては、いかに子どもを信用できるか、いかに余計なことをしないか言わないか、が広い意味での中学受験の成否を決めていきます。そう考えると逆説的に「親が9割」なのかもしれませんね。

子供を追いつめるNGワード、子供のやる気を潰すNGワードも紹介されています。一例としては、「早く勉強しなさい」や「そんな気持ちでやるくらいなら、中学受験なんてやめてしまいなさい」というものです。

考え方や言葉選びをちょっと工夫するだけで、子供の受け取り方も大きく変わります。

P186より

最後の締めくくりは「中学受験生はヒーローだ」というもの。これにも大いに賛同します。同様のメッセージが毎年2月に早稲田アカデミーの電車内広告(You’re the HERO.)にあり、涙腺が崩壊します。(↓こういうやつ)

どの受験生も英雄です。たくさんの時間を使って勉強して、「出来ないこと」を突きつけられそれに打ち克って、家族や先生の期待をその小さな背中に一身に背負って、「受験」という未知なるものに臨むその姿は紛れもない我が家のヒーローです。

そのヒーローの帰還をどうかあたたかく包み込むように迎えてあげてください。試験会場から出てきた本人にかける言葉の第一声は「どうだった?」ではありません。「お疲れ様、よく頑張ったね」です。我が子への尊敬、出来ていますか?

おわりに

中学受験なんてどうしてあるのだろう? 子どもたちを測ることに、序列をつけることに意味があるのだろうか、という疑念はいつも業界に横たわっています。実際に中学受験で自信を失い、もしくは燃え尽きて、せっかく入学した学校で輝かしい時間を過ごせないケースも間々あります。

しかし、中学受験を通して自分を見つめ、思考力を鍛え、表現力を磨いていくことで、大きく成長する小学生の姿があることも事実です。さらに、中学受験が家庭の絆を深め、家族の信頼が強まる姿も見てきています。

12歳の子どもたちの選択の幅を広げていくという視点に立った時、中学受験は決して「悪」ではありません。我が子に合った学校や方向性が合致する学校があれば、目標を乗り越えるための努力やプロセスを学ぶ絶好の機会となります。

しかし、そのためには親のあり方も重要ですし、何よりも『中学受験』をよく知る必要があります。「周りがやっているから」という”ノリ”で始め、続けられるほど甘いものではありません。

まずは、「知ること」が重要です。今回はそのためのヒントとなる3冊をご紹介いたしました。ぜひお手に取っていただき、中学受験の全貌を掴んでください。お役に立てるはずです。

子どもを真ん中に。

先を生きる大人たちはいつもこのことを忘れてはいけません。最後までお読みいただきありがとうございました。