鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -
2018.12.29
ひとことで言います。めちゃくちゃいい本です。中学受験に関する本を100冊以上読みましたが、この本がNo.1。ひたむきな努力を続け孤独な戦いに向かう我が子が受験を終えた時、どのような結果であっても笑顔で迎えることができますか? その問いに対するおおたとしまささんの心優しくも的確な答えが本書に凝縮されています。中学受験に「悩む」お父様お母様に、中学受験が苦しいものだと思い込んでいる保護者の方に、そして今まさに受験を目の前にしている我が子の世界一のサポーターである「あなた」に読んでもらいたい必読書です。
一つでも多くの中学受験を経験するご家庭にこの本が届いてほしいという願いでレビューを書きました。中学受験への負のイメージを払拭し、子どもたちやお父さんお母さんの笑顔を増やすために、お近くに中学受験中のご家庭がいらっしゃいましたらお勧めいただけますと幸いです。これまで数多くの中学受験本を執筆されてきたおおたとしまささんの2018年末現時点での集大成、乾坤一擲の一冊です。(誇大広告のようですが著者や出版社とは何のつながりもございません)
目次
中学受験生はかわいそうなんかじゃありません。彼らはたった12歳にして、自分が進むべき道を自分で選びとるために努力することを決意した、勇気ある子供たちなのです。
第1章 P19より
中学受験は「毎日夜遅くまで塾漬けでかわいそう」「苦行」というイメージが定着しています。気が進まないままに始めた中学受験、面白くもない勉強を、長時間監獄のような塾に入れられているのだとすればこのイメージも納得です。しかし、果たしてそうでしょうか。実際は「塾の方が学校よりも楽しい」、「新しい知識や難しいことを習うのは嬉しい」と前向きに話す子どもたちの何と多いことでしょう。「塾=悪」「受験=茨の道」としているのは、周囲の大人なのではないでしょうか。
中学受験は両刃の剣。やり方を間違えると親子を壊す凶器にもなります。中学受験の最悪のシナリオとは、全滅することではありません。途中で子供や親が壊れてしまうことです。
第1章 P25より
本書では中学受験第1章で「中学受験で家庭から笑顔が消えるわけ」について語られています。誤った中学受験の臨み方がいかに子どもたちにとって害悪であるか、ということが実際のケースと共に紹介されています。本書の素晴らしいところは、「ここが良くない」という内容で終わるのではなく、「ではどうしたら良いか」というアドバイスが満載である点です。中学受験生の親がもつべき心構えとしては一例として下記のようなものが挙げられています。
毎日コツコツがんばる力、良くない成績にも凹まない明るさ、難問にも果敢に食らいつくガッツ、自分が勉強で疲れているのに親のことまで気遣う優しさ、つらいときにはつらいと言える素直さ……。よその子に負けない才能をたくさん見つけ、中学受験という機会を通してそれをさらに伸ばしていることに常に注目してあげましょう。
第1章 P37より
子どもたちが伸び伸びと自分に合った環境で勉強に臨めるのだとすれば、中学受験が素晴らしい経験となることは請け合いです。
本書には各章末に「必笑Q&A」として実際に中学受験生の保護者から寄せられた内容に対するリアルなQ&Aが掲載されています。親子の葛藤、塾との関わり方など、現在受験勉強中の家庭にもこれから中学受験を始めようとしている方にも参考になりすぎる内容です。著者の質問への返し方が絶妙に優しく、暖かく、そして本当に子どものことを考えている的確な内容です。
寄り添い方、アドバイスの具体性などを見ても、本書のために「架空の状況」を設定したのではなく、実際にご相談に乗ったのだろうということは明白です。おおたさんに受験カウンセリングを受けられた親子は幸せですね。ご相談内容の一部をご紹介します。
表面的な回答ではなく、読者が我が子の状況に引き寄せながら考えることができる本質的な回答が掲載されています。ぜひ読み込んで「中学受験生の親」としての立ち位置、考え方を再考していただければと思います。
第2章では「塾に頼っても、塾に振り回されない」と題して塾との上手な付き合い方が著されます。スモールステップを提示してくれる役割であったり、親子以外の第三者として客観的なアドバイスをくれる存在であったりと、中学受験において塾が力添えできる点についてもご紹介いただいています。
その中でも中小塾をしっかりと評価していただいていて嬉しく思いました。私はもちろんのこと、弊塾や中小個人塾にお通いの生徒・保護者にとっても励みになる言葉です。
「うちは規模を拡大するつもりはありません」と断言する中小塾には、大手塾にはないこだわりや文化があると考えられます。
第2章 P89より
大手塾のメリット、中小個人塾のメリットについて双方の立場と保護者・生徒の立場から論じられています。我が子にあった塾の選択をする上でも、大変有用な章となっています。
中学受験をするのなら、「とりあえず大手塾」というのが無難な選択といえます。(中略)「みんなも選んでいるのだから、まあ大丈夫でしょう」という安心感が得られることが、大手塾という選択の最大のメリットです。
「自ら学べる子」であれば、大手だろうが中小だろうが、どんな塾に行っても大丈夫。でも、大手塾では与えられたものをただこなしていくだけになってしまう子や、逆にものすごく頭が良くて、大手塾での指導に「ここまでやる必要があるのだろうか」のように本質的な疑問を感じられる子供であれば、中小塾がおすすめです。
第2章 P74,80より
我が子と、保護者の皆さまと伴走してくれる塾を探すことが出来れば、中学受験は成功したも同然です。これから中学受験を始める方は是非参考になさってください。
第一志望に合格することが最大の目標となる中学受験ですが、何もそれだけがゴールではありません。毎日のスケジューリングをし、自分の長所を自覚して、弱さと向き合い、時に周りと比べて落ち込んだり、先生に褒められて喜んだり、親子で話し合う機会が増え、親子で机に向かう経験ができる。そのプロセス全てが中学受験のかけがえのない経験です。
そう考えると第一志望の合格が全てではなく、結果として行くことになった学校の合格も無上の価値を持つはず。だからこそ、偏差値だけでなくその子にあった学校選びをしてほしいものです。第3章は「『たかが偏差値、されど偏差値』の志望校選び」とあり、そのためのヒントも散りばめられています。
20%でも可能性があるなら「第一志望」はあきらめなくていいというのが、中学受験関係者のほぼ一致した意見です。(中略)そのかわり、「第二志望」の学校については、入試日程と合格可能性を冷静に見極め、戦略的に選ぶ必要があります。
「第一志望」以外の学校がすべて「第二志望」です。「この学校もいいな」「この学校に自分が通っている姿もイメージできる」と思える学校です。そういう学校が複数あっても「第三志望」「第四志望」などと順位をつける必要はありませんし、そういう学校ができるだけたくさんあったほうがいい。
第3章 P122,123より
偏差値は目安としては効果的に作用しますが、学校の価値を決めるものではないということを強く念頭においてください。
最終章では「『最強の親』は、わが子を尊敬できる親」。別記事(受験生の親の心得”やってほしいこと、やってはいけないこと”)でも紹介いたしましたが、「『あなたのため』は呪いの言葉」がここでも登場します。
わが子に中学受験をさせようというような親は、例外なく教育熱心です。わが子のためなら何でもする。そんな覚悟が感じられます。しかし皮肉にも、教育熱心すぎる親が、子供を過度に追いつめてしまうことがある。それを近年「教育虐待」と呼びます。いわば「中学受験のダークサイド」です。
第4章 P160より
この章では受験生の親の振る舞い方についてかなり具体的なところまで踏み込んで解説しています。中学受験を「必笑」するために一番重要なのが親の関わり方なのです。
私は「過干渉」「無関心」「比較」が受験生の親の三大NG行為だと思っています。胸に手を当てて、走馬灯を駆け巡らせてご自身の子どもの時のことを思い出してください。親の過干渉や比較に対して声を荒げたこともあるのではないでしょうか。
ふがいなさよりも誇らしさを、絶望より希望を、努力するわが子の背中に感じましょう。どんな状況においても、わが子を尊敬する気持ちをもち続けましょう。それが何よりの、親から子への最強の励ましになります。
第4章 P201より
中学受験に親の力は必要です。でも、それは親が何かをコントロールする力ではありません。子どものことを信じて、全力でサポートをするという意味です。親が先頭に立って突き進んだ中学受験は、結果的に運良く「合格」が得られたとしても、その後の中高6年間に暗い影を落とすものとなるでしょう。
だから、お願いです。どうか子どもたちを真ん中に置いた中学受験を貫いてください。
我が子につらい思いをさせたくて、我慢をさせたくて中学受験を始めた親は一人もいないはずです。中学受験を通して良い学びをしてほしい、その結果として充実した6年間を過ごせる学校に行ってほしいという願いでスタートを切ったことでしょう。しかし、受験勉強の想像以上の厳しさ、数字で評価される世界に面食らい、いつしか親の方が当初の目的を忘れ、少しでも高い偏差値の学校へ、そのために塾の中でも少しでも上のクラスへ、と結果を出すことに躍起になってはいないでしょうか。
中学受験はわが子と長い時間向き合えるチャンスです。何が好きで、何が嫌いか。いつ不機嫌になって、いつ喜ぶか。どんないいところがあって、どんな将来を描いているか。たくさんたくさん新しい顔を発見できるはずです。それを発見することはとても価値のあることですし、そんなにもたくさんの「顔」を見せてくれた我が子に対して怒ってばかり、嘆いててばかりの「あなた」ではいけません。
受験当日まであたたかく包み込むように支え、受験を終えた時どんな結果であっても、満面の笑顔で「お疲れ様、よく頑張ったね」と言ってあげてください。そのためのエッセンスを「中学受験『必笑法』」は教えてくれます。最難関校を目指し、しのぎを削る世界でうまく行っている方にはお勧めしません。でも、大多数と思われる「『いい受験』をしたい」と思っている方には諸手を挙げて推奨します。ぜひお手にとっていただければと思います。
一人でも多くの受験生と、そしてそれを支えてくれている保護者の皆さまが「笑顔」で受験を終えられることを心から願っています。