受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


「改革はいらない」浅野が突き進む進学校としての道──山田副校長インタビュー

2022.09.15


神奈川男子御三家、2021年慶應大学合格者全国二位、中学入試一回の受験者数県内最多。目を引くフレーズが並ぶ浅野中学・高等学校。伝統校ではあるものの、図書館棟の増築や体育館、その他運動設備への投資も惜しまず、常に美しく保たれたクラシックで広大な校舎が横浜子安の丘にそびえる。2020年に100周年を迎えてもなお、勢いの衰えぬ浅野はどこに向かうのか。山田副校長のインタビューをお伝えする。

学校概要

実業家である浅野總一郎氏が1世紀以上も前に創立した、神奈川有数の伝統校。九転十起を校訓とし、社会のリーダーを育成するという理念のもと、卒業していった多くの生徒が実業界で活躍。

2月3日の入試日には毎年1500人の受験生が神奈川中から集結する。男子のみ800名の学校生活の中で、生徒たちは学業や部活動、行事などに日々勤しんでいる。

山田副校長インタビュー

変化の多い時代、私立中高一貫校の立ち位置も激動している。伝統の進学校という立場で、浅野の現在地を現場ではどう捉えていらっしゃるのか。入試の講評や校風、入試日程の変更についてなど、山田副校長が包み隠さずお話してくださった。

隠すものがない──。
そこに現在の浅野の充実度と、学校の在り方への自信が見てとれた。

入試について

──まず、今春(2022年)の入学試験選抜についてお聞かせください。

山田副校長:新型コロナ2年目の入試となりましたが、浅野は神奈川私学共通追試に参加せず、一回勝負という形を取りました。結果的に、「発熱した」「体調悪いのでどうしたら良いのか」という問い合わせはありませんでした。保護者や受験生の皆さんの意識とディフェンス力がすごくて、おかげさまで無事に入試を実施できました。このままの形を続けようと思っています。

入試の内容については、国語・算数・理科・社会をバランスよく勉強してきてほしいということを毎年お伝えしています。結果的に今年の場合は、算数が思ったよりも高得点の争いになりました。いつもは算数と理科で差がつくのですが、今年は理科と国語で差がつきましたね。例年、算数は少し難しめに、と考えていますが、さじ加減が難しいですね。

──想定と違ったような入試結果となった今年の入学生に、これまでと違いは見受けられますか。

山田副校長:それはないですね。結果的にはいつも通り、よく頑張ったお子さんたちが来てくれたなと感じています。

──過去を振り返ってみて、教科の得点バランスが崩れてしまったなという時の入学生に変化が見られることはありますか。

山田副校長:うちは入試でまだ大失敗はしていないと思っています。今年は例年と比べると少し違う点数結果になったな、というだけで。入試問題の出題も「いつものパターン」をずっと続けていますので、入学生についても目に見えるような違いが出てくることは、基本的にはありません。真面目に努力してきた受験生が点数を取れるような問題を出題しています。

もっとガツンと時間のかかるような問題を出してしまうと、出来る子はすごく出来てしまい、出来ない子はまったくダメ、という感じで変な差がついてしまうので、あまりそういう風にはしたくないと考えています。

──基礎を積み上げ、問題演習をして、その上で復習ができる受験生が取れるような問題ということですね。浅野中学・高等学校の入試問題全体を通して、ひらめきとか発想力で勝負していくというよりも、しっかりと受験勉強を積みあげてきた受験生に対する問題のように受け止めています。

山田副校長:そのとおりですね。キラキラくんよりも真面目くんがいいです。この方針は今後も変えるつもりは、さらさらありません。

入試日程について

──近年、入試日程の早期化が見られていて、その背景に受験生の意識としても「早く決めたい」という心理があるように思います。浅野中学・高等学校は2月3日午前の日程を続けていますが、影響を感じることはありますか。

山田副校長:変えるかどうか、ということは常に検討をしています。例えば、今の2月3日一回勝負という形から試験日程を増やしたら、2月3日に(浅野ではなく)他校を受験したみなさんに選択してもらえるのか……と考えるのですが、そんなにうまくいくかなと懐疑的です。

「早期化」と言いますが、浅野を検討している男子は2月1日〜3日は受験するという人が多いと思っているので、あんまり慌ててもよくないかなと。

2月1日に入試日程を変えたら、第一希望の受験生がたくさん来てくれるようになりますよ、と言われたことがあります。第一希望に選んでもらえるのは光栄ですが、希望順位よりも「頑張って受験勉強をしてきた子」に来てもらいたいと思っていますので、却下しました。

──第一希望の子、というお話がありましたが、浅野が第一希望の方が入学する割合と、他校を第一希望にしていて浅野に入学してきた割合はどのようになっていますか。

山田副校長:ここ三年間の平均で言うと、第三希望で浅野に入ってきたという生徒が3割。浅野を第一希望にして入学してきた生徒が60人ほどなので2割ですね。

志望順位は関係なく、入学した生徒は浅野の生徒です。むしろどこかを不合格で浅野に入ってくる生徒が8割なので、ここから頑張れば大丈夫だよと。入学した学校が運命の学校だよ、と入学式の時に伝えています。

──例えば、第一希望で入学した生徒と第二・第三希望で入学した生徒で入学した後の違いは見受けられますか。

山田副校長:入試得点の上位50名が中3の最後の成績でどうなっているかというと、そのまま上位50名に残れた生徒が14名。それ以外はバラけます。それよりも、むしろ中1の2学期の成績上位50名の方が、中3最後の成績に相関関係が見られます。

浅野のレベルで授業を受けるということは結構ハードですし、部活もほぼ全員がやるし、1時間ほどかけて通学するし、宿題もあるし、という状況なので、これらを習慣化することができた生徒は学習面での不安は無くなりますね。

小学校の時にどれだけ出来たかというより、中学校に入ってからの生活リズムをきっちり確立できた生徒の方がうまくいきます。「部活で疲れたからサボっちゃいました」ということが増えてくると、苦戦しますね。

ギリギリで入っても大丈夫か、という質問に対しては、「入ってしまえばそのあと次第です。大丈夫です」とお答えしています。

校風について

──どんな生徒が浅野を楽しめそうですか。

山田副校長:男の子を見ていると、まぁ色んな子がいます。昆虫好きからスポーツ少年、鉄道オタクからファッションに興味がある子まで。挙げ始めるとキリがありません。

でも、それぞれに居場所があって、男子270人が一学年にいるので、その中で趣味がある人がいて仲良くなっていきますね。すごく仲の良い友達が見つかるよってお伝えしたいです。

特にこういうタイプが多いとか、こういうタイプの子には合わないとかはありません。ただ、女子がいないと嫌だ、という子にはつらいです。

──入学してから、やることが多い、結構厳しい、という話を在校生から耳にします。

山田副校長:そのとおりだと思います。

──ある程度覚悟はしていたけど、やっぱり多いという声を聞きますね。ただ、それをこなしていくことで力がつくという実感があるということ、あとは出来なかった時のフォローアップがしっかりしているという話も、口を揃えて言っています。

山田副校長:勉強についていくのは大変なのか、とよく聞かれますが、「それなりに大変」と答えています。大きな職員室とは別に各学年ごとの教室の並びの真ん中あたりに教員控室があるんですが、そこには学年担当の先生が常駐しており、学習面・生活面ともに近距離で指導しています。

「やらされる勉強」も多いので、自主性でマイペースにやっていきたい子には大変かもしれません。中学校の間は、宿題と小テスト対策の二本柱に追われます。家に帰ってから90分〜120分は勉強しないと、宿題が終わらないし、小テストで合格点は取れません。

終わらないと「呼び出し」や「居残り」が待っています。中学生は宿題などの学校から課せられる内容も多いので、塾に行っている暇はなさそうですね。高校生になると宿題が減って、時間にも余裕ができるので、空いている時間で予備校に行こう、という人も出てきます。

──そういった中学校の体制が、やはり「真面目にコツコツ積み上げてきた受験生」に向けた入試問題というところとつながってくるのかな、と思います。

山田副校長:中学生の間は、教員がペースメーカーをやりますのでご安心ください。ただ、ご家庭でも中学生になったからと言って突き放さないでください、ということはお願いしたいですね。

付き添って見ていなくてもいいですが、必ず90分以上かかるくらいの量の宿題や小テストの学習を課していますので、取り組んだかどうかだけは知っていてほしいと思っています。

──選抜クラスがありますよね。

山田副校長:高1だけですね。中3と高1の両方で設定があったものを、最近の入学生から高1だけにしました。なので、中学は全部均等クラスです。2022年度から中3はやめました。全体的に学力や定着度合いが上がってきたので、一クラスだけ特別なクラスを作る意味がなくなってきたなということで。

中3の1年間の結果で高1でクラス分けをするよ、という中だるみ対策のプレッシャーをかけています。選抜クラスは中だるみへの対応という意味合いも強いですね。

──全体的に学力が上がってきた、というのは、入学者のレベルが上がってきたということですか。

山田副校長:極端ではないですが、上がってきていると思います。みなさん、よく出来ます。

──その上で、中1・中2の学習が軌道に乗っている。学内の体制も含めてうまくいっているということですね。

山田副校長:そうですね。大学への進学実績もジグザグはしますが、全体的には伸び基調ではあるので。

──選抜クラスを導入することの是非があると思います。それを設置することでそこに入れた・入れない、出来る・出来ないというヒエラルキーが生まれてしまうと思うんですね。だから、選抜クラスの設置をやめようかなという学校も出てきています。その中で御校が選抜クラスを置いているメリット・デメリットはどのようなことですか。

山田副校長:いい面は、選抜クラスではないクラスを手厚く出来るということですね。選抜クラスはそこまで手をかけなくても、自分で学習できる生徒たちですので。その他のメンバーのフォローをしっかり出来るというところが良いところです。

──新しく始まった「総合的な探究の時間」の取り組みなどはいかがですか。

山田副校長:自分で調べて、課題を発見して、解決して、議論して、整えていく、という学習は本当に時間がかかります。本気で探究に取り組んでいると、教科で教えたい範囲の学習がなかなかやりきれなくなってきますので、時間を捻出するのが非常に大変です。

本校では中学・高校での知識的な理解は一通り持った上で大学に行ってほしいと思っているので、その兼ね合いはとても難しいですね。

──大学受験の準備ということを考えていくと、時間が取りきれないという状況ということですね。

山田副校長:はい。正直に言って、なかなか高いクオリティでは探究はやりきれないですね。

もちろん、真剣に取り組んでいます。従来から、それぞれの教科の中で、内容面の掘り下げや探求活動をしていたので、今のところ「総合的な探究の時間」としての取り組みよりも、そちらの方が目立ちます。

また、授業だけではなく学校行事の方で、自主的に計画して話し合って実行していくという取り組みは、生徒たちがしっかりやってくれています。

文化祭は、実行委員だけで300名くらいいますし、400万円の予算をどうやり繰りするか、学校全体や外部に対しての対応をどうしていくか、と考えるのは、とても探究的だと思います。

──コロナで縮小したグローバルな取り組みは今後どうなりますか。

山田副校長:今年(2022年)はもう行けないですね。来年あたりは復活させたいと考えています。アメリカのスタンフォードやイギリスのオックスフォード研修は費用が高くて、自己負担が5〜60万円かかる。もう少しリーズナブルに、と東南アジアでの研修を計画していたのですが、コロナで現在は足踏みしている状態です。

マレーシアでの海外研修が実現すれば、「浅野に来たら一度は海外に」が実現できると思います。

──不登校の生徒に対する対応はいかがでしょうか。

山田副校長:学校カウンセラーがいます。あとは、担任と学年主任と保健室とカウンセラーで複数の目で対応するようにしています。各学年に五人前後、不登校の生徒がいます。

原因として、しばしば見られるのが、起立性調節障害ですね。一方、勉強トラブルでの不登校はほとんどいません。勉強面では、宿題や追試などで追いかけますが、その分サポートがあるよ、大丈夫だよと伝えています。

──身体的に不自由な生徒に対するサポートはありますか。

山田副校長:グラウンドに降りるときだけ、階段があるんですよね。そこ以外はエレベーターが使用できます。また、今まで耳が聞こえづらい生徒や、視力が低い生徒もいますが、マイクをつけてFMで飛ばしたり、席を移動したりなど対応しています。

身体的なハンデを持っている子を受け入れられない条件が二つあって、一つはその生徒のために莫大な費用がかかる、もう一つはその生徒のために周りの生徒の授業に大きく支障が出る、ということです。その条件に該当しなければ、引き受けるようにしています。

ただ、今までそれで入学を断った例はありません。

大学入試について

──進路についての考えをお聞かせいただければと思います。

山田副校長:週刊誌では東大合格ランキングとかやりますが、私たちとしては「あ、そうだったんだ」という感じで話題にはなりますが、そこを目的にはしていません。一人ひとりの生徒の「君の第一希望はどこ?」ということを大切にしています。

「第一希望に現役で行く」ということを一番重視しています。その結果、東大が多ければもちろんそれを応援しています。

──高校生もなかなか自分の目指す方向性やキャリアプランを立てづらいところがある中で、私立中高一貫の強みとして六年間かけて自分の目指す方向性を決めていくというようなところがあると思いますが、何か仕掛けはありますか。

山田副校長:中3、高1で進路講演会を集中的に行なっています。卒業生や有名人を招いて話してもらっています。先日Googleの方にお越しいただき、「周りが全員日本人だったら日本語を使うけど、メンバーの中に一人でも日本人ではない人が含まれていたら、全部英語でやりとりする」という話をうかがった時は、ザワついていましたね。やっぱりやらなきゃダメか、って。

キヤノンでレンズを設計している方が「三角関数は日常会話です」という話をしていて、ここでも「やらなきゃ……」という空気にはなっていましたね笑。

卒業生が話に来てくれる機会は多いと思います。まずは、大学生に来てもらい、大学で何を学ぶか、学部ごとの特徴とかも話してもらいます。その次は活躍している社会人に来てもらい、生徒も夢を膨らませてもらえるといいかなと。

今後の浅野

──現在、学校が抱えている課題のようなものはありますか。

山田副校長:変えたいことですか……あんまりないですね。ただ、私学は時代や変化に乗り遅れると「あの学校は遅れている」と思われがちです。だからと言って先頭を走る必要はないと思っています。

例えば、グローバルな取り組みについても最先端を行く必要はなくて、他校が先陣を切っている間にしっかりと検証をして、追随していく。先頭は走らない、でもトップグループでいたいとは思っています。

海外研修もここ2年ほど行けていませんが、アメリカのスタンフォードとイギリスのオックスフォードに行っています。パソコンは現在、高1以下の全員が購入し、これを授業、学校行事、部活動で使用しています。校内にはWi-Fiも全部通り、すべての教室にはプロジェクターがあります。遅れはとっていないはずです。

あとは、変えたいと言えば……学校の名前が今風ではないですかね笑

──募集の状況とかはいかがですか。

山田副校長:神奈川県の男子受験生は、どこかで視野に入れてくれていると思っています。東京都の受験生があまり受験してくれないというのは課題ですね。多摩川を渡らない。

一回来てもらえれば、ファンになってくれる人は多いと思っています。大田区は結構来てれるんですが、品川区、港区、目黒区あたりまで開拓していきたいという思いはあります。

──伝統校ですが、設備もどんどん良くなっている感じがします。

山田副校長:そうですね、設備は大学みたいな体育館がありますからね。図書館も数年前の改築で図書室から図書“館”に格上げされました。

──現在の受験生が卒業していく6年後、浅野はどんな学校になっていますか。

山田副校長:「君の第一希望を現役で」は変わらないはずです。“中高一貫”の“男子校”で“進学校”。これが基本の三つです。進学校なので確かな学力をつける、これはマストなので変わることはありません。

先ほど申したように、時代や私学を取り巻く状況が変わっていっても、変化にはついていきます。先頭ではありませんが、第一グループにいます。

6年後どう変わっていくかは、基本的にあまり変わらないと思います。改革しようとかは考えていません。

変わってしまうとしたら、部活かもしれません。本校は進学校ですが、週三回とかの制限はなく、週五でも六でもやっていいことになっています。これを地域の活動に移行させるというのが文部科学省の方針であり、少し変わっていく可能性があります。

──インタビューは以上です。ありがとうございました。

 

校舎見学

緑が多く、敷地も広い。アップダウンはあるものの、施設数の割には各施設の移動がしやすいように設計されています。

 

浅野の特徴である学年控室。その用途は質問対応や補習、学習相談など多岐に渡ります。学年担当は職員室よりもこちらにいる方が圧倒的に多いとか。教室からの距離も近く、生徒と先生のコミュニティハブとして有意義に機能している場所です。

 

理科室も充実。化学・地学・生物と実験室が分かれています。窓からの光もよく入って照明なしでも明るい教室です。

 

自慢のアリーナ。冷暖房完備。天井も高く、学校の設備とは思えない広さと充実度。その他にもプールや柔道場、ボクシングリングなどもあり、驚きの設備。ハンドボールコートが二面あるのも特徴。取材を受けていただいた山田副校長先生は、元ハンドボール部ということもあり、盛り上がっているそうです。

 

全面人工芝のグラウンドも美しく機能的。休み時間に寝転がりたいですね。

 

感染症対策のために水道を増設したとのこと。「レンタルなのでいつ返却するのだろう」と広報の徳山先生。

 

取材と学校見学を通して改めて浅野の素晴らしさを感じたので、創立者である浅野總一郎氏の銅像を最大限の敬意を込めて撮影。

 

おわりに

「改革はいらない」そう言い切る山田副校長の言葉には力があり、私学としての強いポリシーを感じました。ともすれば、変わっていくことや新しいものに価値が置かれる風潮の中で、軸や芯を揺るがすことなく、一番大切にすべきだと考えている「学業」「学力」に真剣に取り組んでいくということが伝わってきました。

通っている生徒は多種多様ですが、浅野という学校はまさに質実剛健。

我が子に中高六年間をどう過ごしてほしいかを考えた時に、学校生活を楽しむ、そして勉強を頑張って大学に行く、という分かりやすくも真っ当である家庭方針をお持ちのご家庭は、ぜひ浅野を検討してほしいと思います。新しさはなくとも、毎日を駆け抜ける懸命なお子様の姿がそこにはあるはずです。

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