受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


数字を追わない強さ──そこに逗子開成がある安心感と期待。:小西教頭インタビュー

2022.06.07


海洋教育、国際交流、探究。6年前の東大10名合格から時が経ち、逗子開成を語るときに出てくるキーワードが少しずつ変わってきました。逗子・鎌倉地域に完全に受け入れられ、憧れの学校の一つとなった逗子開成。コロナ禍でも積極的な広報活動と発信でファンを増やし続けた逗子開成が今見ている景色、そして今後の青写真など、小西教頭に単独インタビューをしてきた内容をレポートします。

学校概要

東京の開成中と創立者を同じくして2023年には創立120年を迎える中高一貫校です。開放感ある逗子海岸が眼前に広がり、海の先の世界を身体感覚として刻める六年間が魅力。湘南地区有数の進学校として、確かな学力の育成と他では出来ない数多くの体験が待っています。

小西教頭インタビュー

受験者“数”よりもファンに届くように

2月1日午前の受験者は、鎌倉学園の参入や共学人気などの影響もあってか減少しています。また、2023年度からは都市大附属等々力が四教科で2月1日午前に入試を実施するということで、さらに受験生の選択肢が広がることになります。そんな中、入試日程も同じ、入試問題の傾向も大きく変えることなく、泰然自若とも言える体制で受験生を迎え続ける逗子開成。その理由と信念について、長らく逗子開成の入試を中心となって運営されていた小西教頭に話をうかがいました。

入学者選抜について

──まず、今春(2022年)の入学試験選抜についてお聞かせください。

小西教頭:志願者数と受験者数がどの回も10%ほど減少しています。神奈川の男子校は総じて同じような傾向のようですが、本校の受験生に関していうと、受験者層がとても幅広い。チャレンジで受けてくださる方も本当に多くいらっしゃいます。それが、コロナもあってこちらの情報発信が今ひとつうまく届いていなかったり、学校見学の機会も第一志望以外の方たちへの広がりも出せなかったりといった状況です。

──その他の外部要因も多いように感じています。

小西教頭:はい。やっぱり男子校でなくて、共学校人気、あとは大学付属の人気が高い。もう一つは、“安全志向”というのがここ最近顕著に見られる傾向です。2月1日は確実に合格を取れる受験をしたい、という意識が広がっているように思います。

──逗子開成が非常に合格が難しい学校になっています。中学受験の早期化(早く合格を取り2月3日ごろまでに終える傾向)はどんどん強まっているため、合格を取りたい2月1日で逗子開成の受験を避けるケースが増えてきていると感じています。逗子開成第一志望でも1日・3日・5日の三日程を受けるということが減って、2月1日で他校の合格を取って、2月3日・5日で勝負をかけるという受験生もいます。一方で1日に逗子開成の合格を取り、2日栄光・3日浅野というパターンもあって、後半日程の受験者が増え切らないのもそういう理由なのかなと。

小西教頭:午後入試が相当増えましたからね。早期化と安全志向は最近の大きな流れだと思います。本校の併願校も少し変わってきました。共学校で併願校として名前が出てくる学校も、全体として難易度の高い学校が増えているように思います。

また、今までは合格者が辞退する場合、一番多かったのが栄光、二番目が浅野でした。最近はこれが逆転して一番が浅野で二番目が栄光です。聖光はほとんどいないんですね。本校はエリアがあまり広くないと思っています。それでいいのですが、湘南エリアでの人気をしっかりと確保していきたいと考えています。

──例年、複数回受験する受験生が一次不合格だった受験生が二次で高得点だったり、二次がダメでも三次で余裕の合格だったりという話を聞きますが、今年もその傾向は変わりませんか。

小西教頭:基本的には変わりません。複数回受験することで慣れだったり、力を発揮できるタイミングが増えたりすることは間違いないと思います。ただ、500点満点の総合得点で見ると一つポイントが出てきます。

複数回受けて合格に乗る可能性があるのは、240〜250点を取る力があるかどうか、というところです。一次で250点の受験生が二次・三次で合格する可能性があるギリギリのラインとなることが多いですね。

──250点を下回ると「何回受けても……」となると。

小西教頭:はい、そういうことですね。250点だと回によっても300番とか400番とかになってしまいます。一次で不合格で二次・三次で合格するボリュームゾーンは280点ラインの点数を取っている受験生です。310点くらいが合格ボーダーだったとして、280点あたりで不合格だった受験生が次に合格していくというケースはよく見ます。

──一次で手応えがあって不合格だった受験生には十分にチャンスがありそうですね。

小西教頭:はい。だから、本番の試験を受けてみて入試問題に触れていく中で「あっ」と腑に落ちてくる、それまで理解できていなかったことが分かってくるというような感じの受験生は多いのではないでしょうか。

説明会の時も保護者の方によく伝えるのは、「一番伸びるのは入試の最中ですよ」ということです。だから、その前に本人に「あなたは国語が苦手だから算数で勝負」とかあまりレッテルを貼りすぎないようにしてほしいと思っています。受けたいと思っている学校の受験を最後まで信じてあげてほしいですね。

──受験生が入試問題に取り組んでいく上で気をつけてもらいたいことなどありますか。

小西教頭:算数の解答欄が大きな枠となるのですが、答えに至るまでの考え方を書きなさいとありますが、どうしても途中の数値が合っていたら途中点もらえますか、とかどこまで書けばいいですか、という質問がよく来ますし、数字の羅列になっていたりします。でも、そうではなくて言葉を使って、言葉で自分の考えを表現してほしいということです。そうしたら数値が間違っていても得点をあげるよ、と。あの大きな枠をどう使うかがとても大事なんですよ、という話をしています。

──募集のあり方にも各校の色が出ています。受験者“数”を増やすことを目的に広報をしている学校と、「学校の理念や大切にしていることに特に共感している人に来てほしい」という限定的な発信をしている学校。どちらかに振り切るのは難しいと思いますが、御校は敢えていうならどちらでしょう。

小西教頭:“数”としては追っていません。本校に来て、本校の教育の中で伸びしろがたくさんあると思える子たち、色々なことにチャレンジして自分の長けているところを六年間で見つけていけるような子たちに来てほしいです。

ただ一方で、「出願者数が減った=人気が低下した」という論調で報じられるのは、悔しさも覚えます。そうはいっても、地元である逗子・鎌倉の方からの評価がこの十年で大きく変わってきて受け入れられているのは、本当に嬉しいことです。

現在盛り上がっている学内の取り組み

──海洋教育が御校の取り組みの中心かとは思いますが、その他に何か上手くいっている実践などはありますか。

小西教頭:総合学習や探究の授業です。六年間で系統立てて探究プログラムへの取り組みが出来てきたかなと思っています。交渉学、デザイン思考、国際交流プログラムなど色々なことを絡めていくことで、ポートフォリオ的に六年間の取り組みを残していけるようになります。

対外試合に参加する子が増えてきました。運動だけではなく、文化的な学校外への活動に参加する生徒も増えています。例えば、海外留学も変わってきました。一年間の長期留学プログラムがあったのですが、それをやめました。留学先で授業を受けていれば単位認定するよ、行き先だったり目的っていうのは自分で探してごらん、という風に変えました。カナダだけではなく、ヨーロッパやドイツ、オーストラリアに行ってみたいという生徒の意志を後押ししてあげたいと考えています。

──探究は手応えがあると。

小西教頭:はい、ありますね。中1、中2から書き方や調べ方、深め方というのをしっかりと学んでいって、海洋教育のプログラムを同時に走らせているので、自分で課題を見つけてそれを一つの論文にまとめていくという流れが出来てきています。

高校生のプロジェクトに中学生が参加するということも出てきています。学年を超えた繋がりが作れていると思いますね。

──学年を超えた繋がりもそうですが、私立中高一貫校がどんどん外と繋がるようになってきたという変化を強く感じています。

小西教頭:ありがたいことに色々なところから声をかけてもらっています。聖光学院や洗足学園との取り組みもありますし、最近多いのが女子校とのコラボで、生徒たちはとても喜んでいます。鎌倉女学院とも創設者が一緒ですので、高校一年生でスピーチコンテスト“田辺杯”があります。もちろん、レベルが高いスピーチでもあるのですが、鎌倉女学院と一緒にやる、というところにも意味があるなぁと感じています。

湘南白百合とも数学の思考力のイベントをやったり、模擬国連とかでも他校と一緒に取り組んだりすることも楽しんでいるようです。

オープンキャンパスで生徒が言ってましたよ。「男子校楽しいよ。でも、中学三年生くらいになると後悔するんだよ」ってね。でも、こうも言ってました。「模擬国連やスピーチコンテストがあるから、女子校との交流の機会も結構あって、全然平気」って。

進路・進学実績など

──進路指導で大切にしていることはどんなことでしょうか。

小西教頭:国公立志向は高まっています。その中でやはり中1から基礎をしっかり固めて、バランスよくすべての科目に取り組んでいきましょう。それは、将来に向けて自分がこの道に進みたいと思った時に、その土台の上に柱が立てられるようにしよう。自分で可能性を狭めたりしないように。自分は文系だから、自分は理系だから、という風にならないように。

自分を高めていく先に難関大学がある、という道が見えるようにしていきたいと考えています。

不登校や身体的に不自由がある生徒への対応について

──身体的に不自由がある生徒に対してはどのようにケアされていますか。

小西教頭:全然大丈夫ですよ。ただ、施設的にバリアフリー化されていないところがあって不便をおかけしてしまうことはどうしてもあるかもしれないのですが、学校生活とか行事、教科指導などで控えてもらうというようなことはありません。

ヨットや遠泳などが出来なくても大丈夫です。身体が弱くてプールや水に入れない生徒も、授業や遠泳の行事などでもその生徒なりの関わり方ができるはずです。耳が聞こえなかったり、視力が著しく低かったり、場面緘黙(かんもく)症の生徒もいます。先生や仲間たちのサポートを得ながら、学校生活をしっかり送っています。子どもたちの順応する力やお互いを支え合う力は、素晴らしいと思っています。

──不登校になってしまった生徒、学校に来づらくなってしまった生徒にはどのように対応されていますか。

小西教頭:少なからずいます。不登校まではなっていなくても、心の問題や心配を抱えている生徒もいます。本校では教育相談担当の教員、カウンセラー、学年主任、担任、管理職から成る「教育相談部会」を構成しています。欠席日数が増えてきた生徒、生活が不安定だという生徒は、相談部会にケースとして上げていきます。

一つ一つの事例について、相談部会で話し合って支援方針を立て、必要であれば保護者や本人と話をします。

場合によっては十日間学校を休んでいいよ、ということを学校が認めてあげることもあります。少しずつ電話やメールでやりとりをしながら、相談室登校から再開していくように案内したりしています。

長く欠席が続いた生徒については、個別にフローチャートを作成して、学校に来る計画や、テストに向けての調整などを細かく考えていきます。一人ひとりケースは違うので、原因が本人にあるのか、家庭にあるのか、学校や学校内の交友関係にあるのかを探って、またそれらを複合的に考えながら、支援方針を決めていきます。

担任が一人で抱えてしまうことがないように。家庭に任せてしまうことのないように。本人も、家庭も、学校も、それぞれが出来ることを考えて少しずつ変わっていけば、現状を変えられるかもしれません。それを一人や二人で考えるのではなく、組織として考えていく。この組織が出来上がってもう二十年になりました。

不登校だった生徒が、相談室まで来られるようになる、そこまで戻ってこられるというケースが今では八割を超えています。

いろんなものを抱えて中学に入ってくる生徒は一昔前と比べるとものすごく増えました。多種多様なそういった生徒たちの居場所をちゃんと作ってあげられるのが、逗子開成だと思っています。

だから、安心してください、ということです。誰でもそういうことは起こり得ることですし、たくさんの不安を抱えていらっしゃると思いますから、一緒に対処の方法を考えていきましょう、良い学校生活になるようにみんなでチームとなって支えていきましょう、とお伝えしたいと思います。

これからの逗子開成

──入試日程などで変更は今後ありますか。

小西教頭:入試に関してはそんなに大きな動きは計画していません。2月1日・3日・5日の三回という入試を続けていきます。ゆくゆくは、三回ではなく、二回でということができたらいいなぁという思いはありますが、本校は一学年280名おりますので、その人数を確保するには三回入試が適切なように思います。

中学受験はなかなか一回の試験で力を発揮できるわけではありません。チャンスを多く作るという意味では、三回入試は意義があるかなと思っています。

──今後、大きなイノベーション(改革)をしていく予定はありますか。

小西教頭:ちょうど来年2023年が創立120周年にあたります。大々的なイベントはできませんが、学内でのひとつの区切りとして、未来に向けて逗子開成がこの先どのように変化していくかというスタートアップの年にしたいと考えています。

生徒の120周年プロジェクトチームも動き始めています。全学年で公募で集めた80名のメンバーです。VTRや冊子作りなど生徒たちが中心となって発想していくような活動です。

未来に向けて、ということで“新校舎”ということも盛り込まれてくるかなぁと。

──いまの校舎は何年くらいですか。

小西教頭:もうだいぶ古いですよ。五十年近く経ちますね。100周年の2003年の時に改装して今の形になりました。内装や外装を変えてウッドデッキにしたり、塀をばっさり切ったりしました。でも、そこからも20年経ちました。次は全面的リニューアル、となりますね。

とはいえ、そんな簡単にはいきませんけどね。もう少し時間がかかります。

おわりに

とにかく小西教頭先生の人格者ぶりに心を震わされる一時間でした。この方が、管理職にいらっしゃる限り逗子開成は大丈夫です。

いろんなバックグラウンドや、たくさんの不安を抱えて入学したとしても、小西先生はじめ力のある逗子開成の先生方が、確かに導いてくれる、そんな期待と大きな安心感を持ちました。

数字を追いかけなくても、中身で。結果を追いかけなくても、過程で。大切にしたい部分を大切にしてくれます。
もちろん、学習指導・進路指導においても逗子開成は非常に素晴らしい成果を出している学校です。

子どもたち一人ひとりの今と未来を健やかに導いてくれる学校として、これからもこの逗子の地で進化を続けることでしょう。

2022年学校訪問インタビュー

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