鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -
2017.06.17
このブログの記事で「本を好きになるための本」を紹介するシリーズ(小学校高学年向け、中学生向け)がありますが、友人や読者の方から「小学校低学年向け」も書いてほしいと要望がありましたので、記事にしました。小学校低学年向けの本は、親にも読んでほしいと思います。親子で楽しむオススメ7冊をご紹介します。
幼少の頃から本に触れてきましたが、その時に大好きだった本や、その後に出版された良質の児童文学まで、「我が子にまず読ませたい本」という視点で選んでみました。
読解力の基礎は読書にあり、活字への抵抗感をなくす一歩目は大切です。子どもたちの「面白い」を引き出せる本を与えることができれば、あとは自然と読み出します。そして、自分で好きな本を選んできます。与え方を誤ると、活字から離れ、映像や漫画の世界に没入してしまうことになりかねません。
導入段階は丁寧に。活字だからこそ楽しめるものと、絵や映像とリンクして楽しめるものを意図的にラインナップしました。「面白さ」と「質の良さ」、「次の読書につながる」や「親子で楽しめる」がコンセプトです。また追加したくなったら追記します。
では、始めます。(対象年齢順に並べたつもりです)
「くまのコールテンくん」 ドン・フリーマン |
クマの人形「コールテンくん」とお買い物に来た「リサ」のお話。コールテンくんはボタンが取れてしまっていて、無くなったボタンを夜のデパートに探しに行きます。ボタンを探すコールテンくんの冒険物語の要素と、優しいリサとの心の通い合いの友情物語の要素の二つが楽しめます。夜中のデパートの描写がリアルでスリルも少しありますが、リサとの出会いによって読後は豊かな気持ちに包まれます。自分に足りないものを埋めてくれる「優しさ」や「存在」のことがゆっくりと伝わってきます。起承転結がはっきりしていて展開も楽しめる絵本となっています。文字が読めるようになってから小学校1年生くらいまでが対象年齢でしょうか。
「ちいさいおうち」 バージニア・リー・バートン |
静かな田舎にある「ちいさく、かわいいおうち」が中心のお話です。のどかな田舎で、空の移ろい、季節の移ろい、周囲の移ろいを「おうち」はじっと見ています。取り巻く風景が少しずつ変わっていき、田舎は「街」へと姿を変えます。1ページめくるたびに「おうち」を取り巻く環境は変わり、文明の進化の過程がそこに見て取れます。便利になって発展して得られることと失うものがあるということ、それが「おうち」の存在感の変遷で見事に描出されます。
周りが変わっても自分は流されない、変わらない。自分が大切にしていることを大事にしていくこともできるのだ、ということをやわらかく伝えてくれる一冊です。特徴的な絵と文の配置そして素敵な言葉で、「おうち」を自分に置き換えて、子どもたちは新たな視点を獲得していくことでしょう。子どもたち自身が自分だけの世界で生きているのではなく、「世の中」や「社会」との関わりの中で生きているのだというメッセージを、豊かに訴えかけてくれる一冊です。読み聞かせから始めて、自分で読める小学校2年生くらいまでが対象でしょうか。大人も心を揺さぶられる本です。
「エルマーのぼうけん」 ルース・スタイルス・ガネット |
ご存知、エルマーのぼうけんです。黄色と青のシマシマ竜を覚えていますか? 世界的ベストセラーの冒険物語です。どうぶつ島に捕らえられている「りゅう」を助けるためのエルマーの冒険が始まります。エルマーと野良猫のウィットに富んだやりとりが物語にリズムを生み、会話のキャッチボールによっても物語が進行していくことを教えてくれます。エルマーのリュックから出てくる持ち物の数々が、ドラえもんのひみつ道具のようにピンチを救っていきます。次々と困難を乗り越えるエルマーの知恵と勇気。大人も唸る伏線回収とも言えるこの構成や展開。子どもたちは夢中になって次のページをめくります。お父さん、お母さんも子どもと一緒にこのお話の魅力を語りあってみると良いかもしれませんね。対象年齢は、小学校1年生から3年生くらいまで。三巻すべて読みたいですね。
「大どろぼうホッツェンプロッツ」 オトフリート=プロイスラー |
大きな帽子ともじゃもじゃの黒ひげが特徴の大どろぼうホッツェンプロッツ。盗みや脅しを繰り返しながらも、料理が得意だったりどこか憎めない性格だったりと、ルパンよろしくの魅力溢れるどろぼうです。少年カスパールとゼッペルのコンビも存在感抜群で、どろぼうとの知恵比べが面白く、次を期待させる展開の連続です。所々ある笑いやユーモアの要素もいい感じです。続編も出ていて三作あるので長く楽しめます。小学校1年生から4年生くらいまで読めると思います。
「それいけズッコケ三人組」 那須正幹 |
懐かしのズッコケ三人組。1978年に第一作が発刊され、以来時代が変わっても根強い人気です。身近な事件がテーマで、最後には必ず一件落着する安心感があります。ハイテンポでわかりやすいストーリーに加えて、笑いもユーモアもあり、子どもたちはズッコケ世界にのめり込みます。第一作となる「それいけズッコケ三人組」は短編がいくつか収められていて、入門編としてもぴったり。すっかりハマってしまってドンドン次を読んでも大丈夫。シリーズは全部で五十作あります。個人的には第13作「うわさのズッコケ株式会社」が面白くて印象に残っていますね。三人組がジュースやお菓子を販売する会社を設立してしまうお話です。小学校4年生くらいまでが対象年齢だと思います。
「魔女の宅急便」 角野栄子 |
言うまでもなくジブリのアニメ映画で有名な作品です。この原作にのっとってあの名作アニメが出来上がったことは今ひとつ知られていませんが、この原作も素晴らしい内容です。本が苦手な子でもアニメで見た映像を文字で追うと、そこに違った魅力があることに気づくかもしれません。一つ一つの言葉の選び方や表現も丁寧で、人物の心情を活字から読み取る入門編となるでしょう。魔女のキキの成長物語としても没入感があり、子供心をくすぐります。シリーズ化されており、ジブリアニメの続きを原作では読むことが出来ます。そして、この続きがまた誠に素晴らしい。低学年としては少し長めの物語。対象は小学校3年生から5年生くらいまで、もちろんその後でも楽しめます。
「ハリー・ポッターと賢者の石」 J.K.ローリング |
児童文学の金字塔、言わずと知れたハリーポッターです。登場人物は個性的で、物語を通して成長していく姿を追っていくのも楽しみの一つです。設定も細かく、魔法学校の出来事ですがどこか現実感を持って読み進められるのも魅力的です。ハリーポッターは良質の児童文学で、読書レベルに合わせた読み方ができる作品です。小学校低学年から読み始められますが、最初は会話文を中心に読んでもストーリー展開を追っていくことが可能です。自分の読み方が少し洗練されてきたら、情景描写や間接表現、伏線の回収などに意識を向けながら読むと、ストーリーの広がりをさらに楽しめます。
様々な仕掛けが隠されたハリーポッターは、読むたびに新しい発見が出来る何度読んでもスリリングな良作です。そうでなければあのボリュームの活字を子どもたちが夢中になって読むはずがありません。「ハリーポッターは、、、」と毛嫌いしていた方は、絶対に読むべきですし、子どもにも読ませてあげてほしいです。せっかくなので、あの重たいハードカバーで読みきると達成感がありますよ。小学校1年生から中学生まで読める、まさに魔法の本と言えるでしょう。
今回この記事を書いていて、「懐かしい」と思ったのと同時に「また読みたい」という想いが湧き上がってきました。私自身がこれらの本に触れ合っていたのは、小学校低学年ですからおよそ30年前。30年前の作品でもまだ記憶に残っているものばかりです。だからこそこれらの作品は名作なのだろう、と思います。そして、読み継がれているということは親子二世代でその作品について語ることを可能にします。
子どもたちの「活字離れ」がさけばれて久しいですが、何より大人が本を読まなくなりました。だから、子どもに本を勧められないし、選べない。親がスマホをいじり続けて、子どもに「本を読みなさい」は通用しません。そんな親を間近に見ていたら、子どもだって読む気になんてなりません。親に勧められて読んだ本が面白くて、親子で批評や感想のやり取りが出来たとしたら、その経験は言葉と感性を育み、次の読書につながります。親子の信頼関係や絆の結びつきを強くすることにもなるでしょう。今回の記事がその呼び水となれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご要望いただいたみなさま、参考になりましたでしょうか。