鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -
2017.01.03
長く小学生と接してきた経験と中学受験を指導している立場から、小学生がハマる良質な本を10冊に厳選して紹介します。
「なかなか本が好きにならなくて」という方にも、「本は読むけれど簡単なものや同じものばかり読んでしまって」という方にも、もちろん「中学受験のための読解力を高めたい」という方にもオススメできるラインナップです。
目次
世の中のオススメ本は得てして大人目線が多くて、小学生に与えても読書のきっかけになりません。宮澤賢治とか灰谷健次郎とか読ませたい気持ちは分かりますが、ちょっと難しいんですよ。まずは、ハマる本を探すことそれが一番です。
ハリーポッターが面白いことは言うまでもありませんが、実は結構危険なんですよね。ハリーポッターにハマった人はそれしか読まない。。。ハリーポッターは敢えて紹介しません。では、始めます。
言わずと知れた間接表現の王様、重松清の名作です。読書慣れしていない方の入り口としては、最高の第一歩となるはずです。小学校四年生のクラスに転校してきた勝気な女の子マコトとクラスメイトの話。友達関係、いじめ、家族の話などそこにある小学四年生の現実が描かれます。平易な表現の中にも、小学生の気持ちに寄り添ったものが多く、「どうしてそんなに小学生の気持ちが分かるのだろう」と感心してしまいます。心情描写の読み取りも「まずは重松清から」が定番です。
癖のない美しい文章表現とストレートな心情描写が特徴の椰月美智子の傑作です。主人公は小学校五年生の男の子。なかなかに冴えない主人公ではありますが、友達や先生との出会いから少しずつ本当に少しずつ自分の世界を広げていく過程が描かれます。小学校五年生の日常を描くのにタイトルを「しずかな日々」としたのも示唆的で作者の想いを感じます。淡々としてはいますが、言葉のチョイスが美しく、とてもいい作家です。
個人的には「重松清・椰月美智子・佐藤多佳子」の三人が、小学生高学年の普通の子どもたちにとって「良質で、楽しく、ためになる」トップ3の作家だと思っています。
人に優しく、場面の切り取り方が秀逸な佐藤多佳子を一躍メジャーにした作品です。3分冊はボリュームがありますが、タイトルの通り「風」を感じさせる陸上小説で、ページをどんどんめくりたくなる疾走感がそこにあり、あっという間に読み終わります。友情、恋、先輩後輩関係など、青春が凝縮されています。スポーツ好きにはたまらない作品で、中学受験で定番の「成長物語」の読み取りとしてもお勧めです。また、「3冊読み切った」という達成感は、間違いなく自信になるはずで、次の読書への誘いとなることは請け合いです。
小学生に勧めると高確率で「面白かった」「最高!」という感想をもらえる一冊です。森絵都ならではの少し凝った設定で小説の魅力を存分に感じることができます。死んだはずの「ぼく」は、突然現れた天使から人生の再挑戦を言い渡されます。他人の身体を借りて下界に戻り、前世で犯した過ちを探しにいくといったストーリーですが、これは読んだ方が早いですね。主人公の最後の気づきも美しく、「カラフル」の意味を噛み締めて本を閉じることでしょう。
これも人気があります。ハマリ度は高いですね。両親がわけありで同時に家を出てしまい、親不在の状況におかれた中学生の双子の男の子たちの父親代わりを努める泥棒の話。「ステップファザー」とは継父のこと。些細な事件から大きな出来事まで、双子と主人公の泥棒のやり取りが面白く、つい引き込まれます。小・中学生にも保護者の皆様にもオススメの一冊です。
有名すぎる小説ですね。三人の小学六年生が「人が死ぬ瞬間を見てみたい」という好奇心からひとり暮らしのおじいさんとの交流が始まり、関係が深まっていく物語です。世界でも翻訳されている名作中の名作です。誰にでも必ず訪れる「死」は喪失であると同時に、大切なことを与えてくれるものだということに気づかせてくれる作品です。「死」を軽々しく口にする子どもたちにこそ読ませたい作品ですね。説教くさい作品では全くないですし、楽しんで読める一冊なので、自信を持ってお勧めできます。
五島列島のとある中学校を舞台とした合唱部がコンクールでの入賞を目指すお話です。アンジェラアキ「手紙~拝啓 十五の君へ~」が課題曲として指定され、繊細で複雑な中学生の「いま」と、十五年後の自分に対する思いが描出されます。人物の心にスポットを当てた中田永一の描写に注目です。映画化されて一躍話題となった「百瀬、こっちを向いて」を代表として、この作者の主人公はどこか冴えないところを持っています。目立たずひっそりとした主人公で最後まで物語を描ききる作者の力は素晴らしいですね。ラストへ向けて歌声とともに合唱部の心が一つになっていく様子に惹きつけられます。
瀬尾まいこは言葉の選び方が優しく美しく素晴らしい。是非、小学生にも体感していただきたいですね。瀬尾まいこの中でも特に小学生に読んでもらいたいのはこの作品です。この物語の舞台は、都心からは少し離れたある中学校。陸上部駅伝チームのお話です。
この小説のすごさは、物語の構成です。一つの章が一つの区間に割当てられ、章ごとに主人公が切り替わって別の一人称で進んでいきます。主人公不在でありながら、すべてのランナーが主人公になれる、そんな描き方となっています。駅伝のタスキと共に、一人一人の想いが繋がれていく様子が、瀬尾まいこの美しい心情表現でふんだんに語られます。スポーツ小説なのに、心と向き合わされることが多い、そんな作品です。
恩田陸のリアルなSF冒険小説とご紹介しておきます。この小説を読んで本が好きになったという生徒も多くいますね。ボリュームはありますが、一度入り込んだら抜け出せない魅力のある小説です。序盤の設定の説明は少し長いですが、父母とはぐれた異母きょうだいがジャングルで一瞬一瞬を生き抜く感じが良く、キレのある表現が散りばめられており、心理描写も巧みです。スピード感がある一方で、先が読めない展開の連続に時間を忘れて没頭してしまいます。
タイトルに「死」が入っていますが、決して暗い小説ではなく、むしろ優しさに満ち溢れた物語です。「西の魔女」は、主人公である中学生の少女の祖母のこと。不登校になってしまった少女が、英国人のおばあちゃんと田舎でスローライフに触れていくうちに、自分を見つめ直し自分を見つけていく作品です。梨木香歩は、言葉が優しくとても丁寧。子どもたちの模範となる文章を操る作家です。
以上が選び抜いた十冊です。まずは、読んでみてこの中からお気に入りを探してください。そして、お気に入りの作家を見つけたら、「その次」が欲しいですよね。二冊目に読むべき本もいくつかご紹介しておきます。
個人的には、重松清の最高傑作はこれだと思っています。一人の女の子が成長過程で出会った、友だち、弟、周りの人たちとの日常を連作長編のような形で描いています。登場する人物たちが魅力的でひとつひとつのストーリーが際立っています。いろんな形の「友だち」があり、そしてそれはもしかすると気づかずに通り過ぎていた形なのかもしれません。たくさんの友だちが出来る小・中学生時代に読んでおくことは間違いなくプラスです。「きみ」という語りで進むので、視点の置き方が独特で、小説初心者には若干読みにくいかもしれません。ただ、読むべきです。
これもおすすめ。「ほんとうに伝えたいことだったら、伝わるよ、きっと」。帯にもあるこの言葉がすべて。言葉ってそれだ、小説ってそれだ、と思います。語るだけがすべてではない。わずかな言葉でも、わずかな仕草でも、わずかな表情でも、想いは伝わる。そんな一冊です。短編集で、一つ一つが軽くて読みやすいのも特長です。収録されている「北風ぴゅう太」「乗り換え案内」が特におすすめですね。
椰月美智子のデビュー作。主人公鈴木さえはポートボールが大好きな小学六年生。友達と仲良くなったり、少し離れたり、ほのかな恋をしたり、友達の恋を応援したり。そうして小学校を卒業していく十二歳の女の子。この物語の中で特別な出来事は起きません。人は生きていく中で、たくさんの卒業を繰り返しますが、すべての卒業はスタートラインでしかない。それを改めて感じさせてくれる作品です。
音楽にまつわる4つの短編が収録されている一冊。主人公の少女の学校での人間関係や恋心、音楽への想いが描かれます。特筆すべきキャラクターを持った主人公が出てくるわけではないですが、ここでも佐藤多佳子の人物描写の確かさが光ります。中学受験に一番出そうな「FOUR」。そして、お気に入りの「裸樹」がオススメです。特にピアノを始めとして音楽に触れてきた女の子に読んでもらいたいと思います。
2015年2016年と連続で中学受験よく出る小説第1位を飾った本書。ある中学校一年生の24人学級のお話です。24人それぞれが主人公となる24の連作短編集ということになります。24人の中学生たちは、キャラ設定が割り振られていて中学生時代のことを思い返してみれば、「あぁ、あいつか」と脳裏に浮かぶのではないでしょうか。この本を読んだ小学生は一足先に中学生の視点を獲得することでしょう。中学受験国語のテキストとしては最適ですし、親子で読んで語り合っていただきたい作品と言えます。
会話が多く、子ども目線で書かれていると言えます。情景描写や間接表現を用いながら、友情や嫉妬などの感情の変化がわかりやすく描かれているので、「受験読解」の入門としてもオススメです。森絵都が得意とする色の描写、そして体言止めやセリフのバランスの良さも体感していただきたいと思います。
上で中田永一「くちびるに歌を」を紹介いたしましたが、中田永一は乙一の別名義です。少年少女向けミステリーとでもいいましょうか、少年主人公たちが謎解きに挑戦する作品です。乙一ならではの淡々とした生死の描写なども「何か面白い」です。さすがに「人が死なないミステリー」もないので、避けたい方は避けていただいて結構ですが、怪盗ゴディバを始めとする登場人物が全部チョコレートにまつわる名前で美味しそうですし、ミステリー入門としては柔らかさのある小説だと思います。この作品にハマった生徒は、東野圭吾に走りました(笑)
「一瞬の風になれ」「あと少し、もう少し」が気に入った方はこちらがおすすめ。作者は違いますが、こちらも駅伝小説です。みずみずしい登場人物たちの熱い想いがほとばしる物語で、「小説ってこれだな」と思わせてくれる作品です。設定は少し無茶でも作者の表現や構成力によっていつの間にか作品に引き込まれ、主人公を応援し、次なる展開に心躍らせます。三浦しをんならではの小気味良い言葉遣いも必見です。「一瞬の風になれ」「風が強く吹いている」に小学生の時にハマった生徒は、早稲田大学の陸上部で駅伝のチームに所属しています。小説の力が未来を作ると言っても過言ではないのかもしれません。
他にも紹介したい本はたくさんありますが、十人の作家(+α)に絞らせていただきました。本の楽しみ方は十人十色ですが、今回ご紹介した作品はすべて、表現の面でもストーリーの面でも技術的な面でも高レベルの小説です。願わくば、一人一人の作家の表現の特徴をつかむような読み方をしていただきたいと思います。
なぜ本を読むのか、読んでほしいのかー。そこに新たな世界の広がりがあるからです。現実以上のドラマはないわけですが、現実一歩手前のドラマ、そして現実離れをしたエンターテイメントが小説の中にはあります。ページをめくる喜び、語彙力を高める表現の楽しさ、映像ではできない「文字」だからこそ表現できるワンダー。デジタル全盛の今だからこそ、文字や言葉は価値を持ちます。読書で子どもたちの世界を広げてあげましょう。そのためには、面白く豊かな本への出会いが欠かせません。もし、今回の記事がそのきっかけになったなら、至上の喜びです。最後までお読みいただきありがとうございました。
また、小学校高学年向けおすすめ図書の紹介本として秀逸なのが、芦田愛菜さんの「まなの本棚」です。相当な幅広さで各小説の魅力について触れていて、作者との対談なども収録されていて読み応え抜群です。こちらもおすすめの一冊です。
今回は小学生を意識して選びましたので、やや物足りないという方をご高覧ください。
読書に慣れてきたという方、ご紹介させていただいた本はほとんど読んだことある、という方はこちらもご覧ください。少しレベルを引き上げた良質な本をセレクトしました。
2017年1年間での売れ筋ランキングはこちら。