受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


問題分析 神奈川県公立高校入試2018 国語

2018.02.14


2018年2月14日、神奈川県公立高校入試共通選抜が行われました。受験生のみなさん、お疲れ様でした。各問題の難易度も含めて、幾つかの観点から今年も問題分析をしていきます。(ブログの性質上、国語だけの分析となります。悪しからずご了承ください)

はじめに

神奈川県入試における国語の位置づけ

5教科の中で最も得点の取りやすい科目となっています。
過去三年の合格者の平均点は

  • 2017年度:73.1
  • 2016年度:64.7
  • 2015年度:64.4

2017年度は最も低かった理科と比べて25点も差がついています。

選択肢重視でありながらバランスの取れた問題

2017年度までの問題は、人物の心情・文章全体の特徴を読み取る小説文、筆者の主張を追い、具体と抽象を言い換える力を問う説明的文章読解。新大学入試に準ずるような要約能力とグラフや表の読み取りの的確さを測る資料読み取り問題、短歌or俳句、紛らわしい語の識別を答える文法問題、そして古文という構成です。難易度、問題のバリエーションなどを含めても、主に論理的思考と言語知識をバランスよく問う問題が出来上がっています。癖が少ないのが神奈川の問題で、他県でも入試前の練習台としてよく使用されるようです。

分析と考察

難易度の分析

所感は、傾向変化に弱い神奈川県の受験生のこれまでの歴史を鑑みると、幾つかのマイナーチェンジがあったため、前年度よりもやや難化しているということになるでしょう。読み取りづらい古文、やたらと長く古めの時代背景の小説文、資料読取記述の傾向変化とまとめが少し難しい点あたりが理由でしょう。

受験生の声をお伝えしておきます。

  • 古文が少し分かりにくい
  • 文法は予想通り「れる・られる」の識別
  • 小説文が意外。長い。古い
  • 小説文の主人公は途中まで男だと思っていた
  • 説明文は普通。書き抜きも難しくない
  • グラフ記述の文字数が減った
  • 時間は余裕あり。見直しもできた

各問分析

問1 漢字の読み書き、文法、俳句

昨年度は、「頒布」の読みで一番点数を落としました。また、9割近くが正解する文法の問題と75%の正解率の俳句の問題となっておりました。今年はどうだったのでしょうか。

  • 漢字の読み
    • 1、3、4は簡単
    • 「苦衷」は大人でも知らない単語。「折衷」などで練習をしていれば分かったか。それであっても「くちゅう」という答えを解答欄に書くのは勇気がいる。これは間違い続出
  • 漢字の書き(もはや書きですらない)
    • 傾向が変化
    • b、c、dは簡単
    • aの洋裁は聞きなれない単語。意味から想像して「裁つ」と思えれば選べるが、少し正答率は落ちる
  • 語句の識別
    • 自発の助動詞「れる・られる」を選ぶ
    • これも傾向変化
    • 昨年までの「同じ働きの二つを選べ」から変わる
    • 特別難しいわけではないが、これまではずっと一文字の助詞を選ばせる問題だった上に、「れる・られる」の識別の中では難しい「自発」を選ばせるため、少しだけ戸惑うかもしれない。
  • 短歌
    • 相変わらず続く文学的要素の強い短歌の出題。今年は過去数年を振り返っても簡単な部類に入る。模試や直前の授業で練習が積めていれば心配はない
    • 易しめ。消去法をしっかりと使いながら、背景を読み取れれば間違えることはない

問2 古文

昨年度は(エ)の内容一致の問題の正答率が65.9%と低め。今年はどうだったのでしょうか。

  • 本文
    • 昨年のものよりも難しい内容
    • 注釈が少なく、訳が難しめのところが問いに関係していたため、困惑したかも
    • 本文が難しくても問いからヒントを得られれば、チャンスはあった
    • (イ)と(エ)の問題の難易度がやや高い。(エ)は現代語訳に強くないと取れなかったかもしれない
    • 今年も正答率は高くないだろう

問3 小説文

昨年度は、心情を問うもの、人物像を問うもの、朗読の仕方(この部分を朗読する時どのように読むかという変わった問題)、文章の特徴について答えるもの、とベーシックな出題となりました。今年度も傾向は大きくは変わりません。

  • 本文
    • 時代背景が「明治」だったため、これまでよりも馴染みが薄いものだったか
    • とにかく文章が長く、読み疲れる可能性もある
    • 傍線部だけを読んで答えようとすると間違える。展開を最後まで追う必要があった
    • キリがいいところまで読みきらせるいい文章で良い出題
    • 長さ・古さ・文学的要素を含めると受験生の動揺を誘うものとなっていた
    • タイトル「明治ガールズ」を見つけていれば、登場人物が「ガールズ」であることに気づけるだろう
  • 設問
    • (ア)「かこつけて」の意味に惑わされると間違えるが、4を選びたい
    • (イ)は朗読問題でついにセンスがある問題が出現。これはいい問題だった。少しだけ難しいが、気持ちの動きをよく追えていれば選べる。正答率は高くはない
    • (ウ)は人物像の読み取り。最初与える「勇」の「こわめ」の印象とは違う姿。よく読んでいけばわかる
    • (エ)消去法と分割法を駆使すれば解ける。難しくない
    • (オ)が難しい。新傾向の情景描写の効果を問う問題。波線部a直前の「失望にこだわっていた」が読めていれば解けたか
    • (カ)は定番。簡単だった。20秒で解ける

問4 説明文

昨年度は、接続詞の問題が出題されませんでしたが、言い換えの問題、説明記述などこちらもベーシックなもの。記述問題の正答率は28.0%とさすがに低いものの、決して難しい問題ではありません。

  • 本文
    • 内容は少しだけとっつきにくいが、問いは易しめ。文も短め
    • 哲学(意味) vs 科学(事実) の二項対立をうまく読み取れればOK
    • 消去法をフル活用していけば解ける
    • 古文、小説文、説明文と読みにくい文章が続いたため集中力が保てたかが鍵
  • 設問
    • (ア)は接続詞の問題が復活。A直前の「じゃない」に注目できていれば解ける
    • (イ)は分割しながら不適切な部分を消していけば解ける。易しい
    • (ウ)は文章の内容を丁寧に追っていけばおのずと答えは4に絞られる
    • (エ)は「大革命」という言葉の強さを踏まえて選べると良かったか。やや難しい
    • (オ)は1と迷うかもしれないが「〜よりも」と「〜とともに」を比較してい3を選びたい
    • (カ)は書き抜き。「これより後の文章」から探すことに気をつけつつ、直前の意味を言い換えている部分を探したい。少し難しいが、記述問題ほど点数を落とすことはないだろう。配点は4点
    • (キ)は文章全体の内容を読み取る問題。全体的なテーマが読めていれば解ける問題。要約的な国語力が問われる。やや難しい

問5 資料読み取り問題

例年出題されている、資料と会話文から適切な情報を読み取って、切り抜いてまとめる問題。昨年は簡単な計算が必要でした。今年は難しい計算が絡んでくる可能性がありましたが、(ア)は一昨年までと同じ。(イ)で若干の変化をつけてきました。

  • (ア)の問いは落ち着いていれば間違えることはないが、すでに集中力の限界の可能性もある。易しめ
  • (イ)の説明記述はパターンもコツも去年までと様変わり。長い記述ではなくなったが、答えなくてはならないことがまとめにくい。「増えている」のは、「家電の種類」と「同じ家電の保有数」である。この二つを指定字数内にうまく収められたか。字数制限から解答が片方のみになっていて、誤答となるケースが多いのではないか。そもそも、模範解答に読点がなく文意がつかみにくいのは如何なものか。ここで6点取れるかどうかで合計点は大きく変わる。
  • (イ)の問題から要約的要素が減ったのは残念。あまりいい問題ではなかった

各校での目標点数の目安は?

伸学工房さんが毎年出している追跡調査に基づく、今年の目標点数(合格者平均点)を算出してみたいと思います。昨年度と今年度の難易度の比較と倍率などから想定した数値です。あくまで推定値なので鵜呑みにしないでいただきたいですが。全体的にはやや難化。マイナス6点〜13点程度と読んでます。

明らかに昨年よりも難しい問題が数問出題されたことからトップ校では点数ダウンが予想され、記述問題が減少したことで中堅校以下の平均点は横ばいになる可能性があります。前年比のダウン幅は上位校の方が大きいという結果になるかもしれません。問5の(イ)で不正解になる人が多いことを予想し、得点は全体的に下がると見てますが、ここの採点が甘ければ全体的に3〜5点は切り上がります。

国語得意な人にとってはさほど苦にならない問題ではありますが、苦手意識がある人にとっては少し苦しいかもしれません。問題が難しくなると、理系重視の学校(翠嵐、YSFH、柏陽)などでは平均点が他のトップ校より下がる傾向もありますので、そのあたりも少し反映させました。

2017
合格者平均
2018予想
合格者平均
湘南 95.8 90
川和 94.7 89
翠嵐 94.7 89
柏陽 94.6 87
厚木 92.8 87
緑ヶ丘 92.4 89
YSFH 92.2 83
光陵 91.9 84
鎌倉 91.7 82
希望ヶ丘 91.6 84
平塚江南 91.4 83
小田原 89.9 81
市立金沢 89.7 78
横須賀 88.9 80
横浜平沼 88.9 80
横浜国際 88.9 80
市ケ尾 88.6 77
市立桜丘 87.1 76
茅ヶ崎北陵 86.3 76
大船 84.9 73
七里ガ浜 85.0 74
藤沢西 81.6 72
横浜栄 84.4 71

受験生へ(2月14日にご覧になった人へ)

まだ、終わっていません。

この記事を読んでいる時点で、過去にとらわれてしまっているのかもしれません。まだ、やれることが残っていますよ。15日、16日(19日)と続く特色検査、面接試験はサッカーでいうところのアディッショナルタイムです。劇的なラストを演出するこの検査。

五科目のテストで思うようにいかなかった人にも、最後の逆転のチャンスが残されています。逆転は各学校で毎年少なからず起きています。逆に、五教科のテストがうまくいった人は守り切ろう。敵は死に物狂いで攻めてくる。受験生のみなさんが、最後までやり切れることを願っています。あとちょっとです。ここまでの努力を考えればあと1日や2日は頑張れる。やるしかない。

さいごに

このブログのタイトルは「受験を超えて」です。「合格のために」ではありません。目標を設定し、それを乗り越えるため方策を練り計画を立てて、自分を見つめて学んできたことをここで終わらせてしまうのはあまりに惜しい。

だから、どうかこの受験を自分の経験に対する自信としてください。自己を省みて次なる飛翔に向けて準備を始める、スタート地点としてください。受験は合格するためにするものではありません。その先の未来を自分で掴みにいくためのものです。今回の受験が、皆さんにとって次なる羽ばたきにつながるものであることを願ってやみません。

高校受験、お疲れ様でした。(特色検査、面接が終わったら)ゆっくり休んでください。