受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


問題分析 神奈川県高校入試2017 国語

2017.02.15


2018年度のものはこちら

2017年2月15日、神奈川県公立高校入試共通選抜が行われました。今年の入試問題はどうだったのでしょうか。幾つかの観点から問題分析をしてみたいと思います。(ブログの性質上、国語だけの分析となります。悪しからずご了承ください)

はじめに

現在の神奈川県の国語の位置付けについて

5教科の中で最も得点の取りやすい科目となっています。
過去三年の合格者の平均点は

  • 2016年度:64.7
  • 2015年度:64.4
  • 2014年度:60.8

2016年度は最も低かった英語と比べて21点も差がついています。

バランスの良い問題配置

人物の心情を読み取る小説文、筆者の主張と言い換えを中心に読解を行う説明的文章、要約能力とグラフや表の読み取りの的確さを測る資料読み取り問題、そして古文という構成です。難易度、問題のバリエーションなどを含めて非常にバランスよく出来上がっています。全国の入試問題と比しても神奈川は偏りがなく、質の高い問題が揃っていると言えます。

難易度も上げやすい

一方でいつでも難易度を上げられる状況にありました。
「小説文、説明文の文章の長さを変える」「古文の注釈を減らす」「漢字を難しくする」これらの調整で簡単に平均点を10点下げることができます。他教科の難化が進む中、「取り残された感」のあった国語の2017年度入試はどうだったのか。分析と解説を行います。

難易度の分析

所感は、前年度と同様、もしくはさらに「やや易化した」という印象です。大幅な難易度変更というわけではありませんが、小説文から記述が消えたこと、論説文の選択肢が易しかったこと、漢字の「書き」がなくなったことが難易度を少し下げているようです。

受験生の声をお伝えしておきます。

  • まさかの漢字「書き」がない
  • 標準的な漢字ばかり
  • 小説文が少し読みにくい
  • 説明文は出来た
  • 記述も書けた
  • 古文も普通
  • グラフ読み取り記述はいつも通り。なんの変哲もない
  • 時間も足りた。簡単だった

それでは分析・考察に入ります。

問1 漢字の読み書き、文法、俳句

昨年度は、「編隊」など馴染みの薄い漢字が出題され、失点をした人も多かった漢字の問題、7割以上が正解する文法と短歌の問題となっておりました。今年はどうだったのでしょうか。

  • 漢字の読み
    • 簡単だと思います
    • 唯一「頒布」は少し正答率が落ちるか
  • 漢字の書き(もはや書きですらない)
    • 特に難しものはない
    • 頻出漢字が頻出しただけの話
  • 語句の識別
    • 接続助詞「と」を選ぶ。順接のはたらきとなるものを選ぶ
    • 根拠を説明するのは難しいが、「雰囲気」で選べる。易しい
  • 俳句
    • 相変わらず続く文学的要素の強い俳句の出題。模試や直前の授業で練習が積めていれば心配はない
    • 難易度は低かった。「まだもののかたちに」の「まだ」に注目できていれば解けた

問2 古文

昨年度は問1〜問5までの大問で最も得点しやすかった古文。今年はそんなことはなさそうです。

  • 本文
    • 特に難しさはない
    • 人物が多く、やや主語がつかみにくいか
    • 前半の鶴の恩返しストーリーは読みやすい。後半が理解できたかどうか
    • (ウ)の問題が、やや分かりにくかったか。「ことさら」の意味がつかめていれば解ける

問3 小説文

昨年度は、心情を問うもの、人物像を問うもの、文章の特徴について答えるもの、とベーシックな出題となりました。今年度も傾向は変わりません。

  • 本文
    • 木内昇の近年の作品からの出題となりましたが、舞台の年代設定が古く、語彙も少し難しめ
    • 文学的要素が強い表現もあり、そこの読み取りがカギでした
  • 設問
    • (ア)は新傾向といえば新傾向ですが、これを読み取れないようではまずい
    • (イ)も易しい。選択肢1の「思わず」に注目できていれば解ける
    • (ウ)は聞いている内容は間接的な表現であるため難しいが、選択肢から判断できる
    • (エ)はパッと見では解けないかもしれない。にじみ出る家計への厳しさと「浩三」の悩みがつかめたか。正答率は下がる
    • (オ)が難しい。1と4で迷う。1の「迷いや悩みを振り払った決意」が適切。ここの正答率が一番低い
    • (カ)は定番、成長物語として読めばOK。「会話文多用」も正解の根拠

問4 説明文

昨年度は、接続詞の問題、言い換えの問題、説明記述などの出題でした。正答率は他の問題と比べるとやや低かったものの、それほど難解なものではありませんでした。今年は、比較的解きやすかったようです。

  • 本文
    • テキストや模試でよく出題される筆者内山節。文章自体は初見かもしれないが、構造は見慣れたものである
    •  

    • 「一般論を述べる→逆説で否定→自分の主張」という王道パターンは健在
    •  

    • 二択で多少悩まされる部分はあるが、多くの選択肢は消去法で解ける
  • 設問
    • (ア)は抽象と具体の切り分けができていれば間違えない。易しい
    • (イ)は正答以外の選択肢が極端で不適切
    • (ウ)傍線部すぐ後の「〜ではなく」に注目していれば読み取れた。2と4を消去して1と3を比較すればOK
    • (エ)は直前から判断が可能。文章中に登場する内容が散りばめられているので他の選択肢も少し迷う
    • (オ)の記述は、難しめ。差が開くところ。的確にまとめるために、要約と言い換えの力が必要だった
    • (カ)は久しぶりに「合っていないもの」を選ぶ問題。そこさえ気づけば大丈夫
    • (キ)は文章全体の内容を読み取る問題。少し丁寧に分割して解く必要があった。やや難しい

問5 資料読み取り記述問題

例年、出題されている資料と会話文から適切な情報を読み取って、切り抜いてまとめる問題。実は易しい問題だが、時間の関係上それなりに差は開く

  • (ア)の問いは昨年までと違う形だった上に、計算が必要だったため、焦っていると間違えるかもしれない
  • (イ)の説明記述はパターンもコツも去年までと一切変わらない。必要・重要・大切を紡ぐだけ。簡単

各校での目標点数の目安は?

伸学工房さんが毎年出している追跡調査に基づく、今年の目標点数(合格者平均点)を算出してみたいと思います。昨年度と今年度の難易度の比較と倍率などから想定した数値です。あくまで推定値なので鵜呑みにしないでいただきたいですが。

2016
合格者平均
2017予想
合格者平均
湘南 92.5 93
川和 90.0 91
緑ヶ丘 89.1 90
光陵 88.6 90
希望ヶ丘 88.0 89
神奈川総合 87.8 89
横須賀 87.3 88
翠嵐 86.9 91
横浜平沼 86.9 89
厚木 86.8 90
柏陽 85.6 89
鎌倉 84.7 86
小田原 84.6 87
市立金沢 84.0 86
YSFH 83.5 85
平塚江南 83.3 86
市ケ尾 82.2 84
横浜国際 80.3 84
茅ヶ崎北陵 80.3 83
大船 77.5 79
市立桜丘 76.7 80
七里ガ浜 76.7 78
藤沢西 75.7 76
横浜栄 75.0 76

受験生へ(2月15日にご覧になった人へ)

まだ終わってない。

特色検査、面接の対策は万全ですか? 5教科の試験を振り返って云々言っている時間を、明日と明後日の対策に使おう。

面接

昨年まで面接で差をつけなかった学校が、今年も同様であるという確証はどこにありますか? 生き生きと笑顔で語る練習をしよう。悲壮感に包まれている君の顔を面接官は見たいわけではありません。逆転する最後のチャンスです。全力を尽くしましょう。君の想いは伝わる。そう信じよう。

さいごに

このブログのタイトルは「受験を超えて」です。「受験のために」ではありません。受験は一つのきっかけです。受験の後に燃え尽きてしまうことの虚しさ・不毛さは、受験社会・学歴社会と言われる日本において、最も懸念されることだと思います。

どうかこの機会を、自分の努力や経験に対して自信を持つきっかけとしてください。自己を省みて次なる飛翔に向けて準備を始める、スタート地点としてください。受験は合格するためにするものではありません。その先の未来を自分で掴みにいくためのものです。今回の受験が、皆さんにとって次なる羽ばたきにつながるものであることを願ってやみません。

高校受験、お疲れ様でした。(特色検査、面接が終わったら)ゆっくり休んでください。