受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


国語2024 神奈川県公立高校入試 問題分析と解説

2024.02.14


2024年2月14日、神奈川県公立高校入試共通選抜が行われました。暖かい気温の中、人によっては花粉に悩まされながら、でも寒さに凍えることなく入試に臨めた受験生が多かったのではないでしょうか。まずは、受験生のみなさん、お疲れ様でした。

今年も各問題の難易度も含めて、神奈川県公立高校入試国語の問題分析をしていきます。
また、体調やその他の事情により、本試験に臨むことができず追検査を受けることになった方の何かの参考になれば幸いです。

はじめに

神奈川県入試における国語の位置づけ

2017,2018,2020年,2023年では5教科の中で最も得点の取りやすい科目となっており、2024年度は難化が予想されていました。実際はどうだったのでしょうか。

  • 2023年度:75.1
  • 2022年度:61.3
  • 2021年度:65.7
  • 2020年度:69.1
  • 2019年度:59.1
  • 2018年度:65.6
  • 2017年度:73.1

選択肢重視でありながらバランスの取れた問題

2022年度から問題の順番が変わり、形式と配点にマイナーチェンジがありました。

  • 漢字:読み選択問題(2021年度までは読みを書く形式)+適する漢字を選択する問題
  • 短歌 or 俳句(交互に来てます。2024年度は短歌の年)
  • 小説文読解:人物の心情・情景描写の読み取り・文章全体の特徴
  • 論説文読解:筆者の主張を追い、具体と抽象を言い換える力を問う(文法識別・国語知識問題含む)
  • 古文:内容把握(文法問題・現代語訳問題はない)
  • 資料読み取り問題:要約能力とグラフや表の読み取りの的確さを測る

難易度・バリエーションともに論理的思考と言語知識や読みの力をバランスよく問う問題が出来上がっています。

全国No.1で大学入試に匹敵する並外れた文字量を読ませる神奈川県の国語。入試に向けて演習を積むことで、相当な読むスピードと論理性が身に付きます。これは、他県を凌駕したものとなっているのではないでしょうか。

2024分析と考察

難易度の分析

所感は、「難化」です。昨年よりも平均点が下がります。漢字は読みは易化したものの漢字選択はやや難化、小説文は解きやすいものの説明的文章は選択肢が難しくなりました。古文は明らかにハードで、何より問5が共通テスト意識の複数テクスト問題に形式が大きく変わったことが原因です。

昨年の大幅な易化を受けて難化を想定して学習してきた受験生にとっても、久々に国語でも差がつく問題となったと思われます。
受験生の声をお伝えしておきます。

  • 時間は足りた
  • 古文に時間をかけすぎたかも
  • 漢字の読みは漢字プリントでやっていた全国のものからほとんど出ていた
  • チョウリュウもエンカクも何度もやった
  • 小説文感動しちゃダメと分かってたけど、感動した。より子〜
  • 説明文は結論までが長くて焦れったかった
  • 古文、どうした? 最初の名前からやばい
  • 古文長かった。選択肢から流れを想像した
  • 問5でいつも優秀なAさん〜Dさんに会えなかったのが悲しい
  • 問5(ア)は、サマレコかよって思った

大問分析

問1 漢字の読み書き、俳句

  • 漢字の読み
    • 引き続き選択問題
    • 難易度は高くない
    • 観測できる範囲では、五年ぶりに全県模試での出題がなかった問題
    • 「拙い」は、県模試1月号の漢字選択で出題。今年は教育開発の県模試に軍配
    • 「固唾」は鹿児島県で2022年に出題。「辛辣」は兵庫県2018年。「逸材」「秀逸」が2020年の大阪Bで出題されている。全国入試万歳
  • 漢字の選択
    • a「紅潮」は思い浮かばないかも。難易度高め
    • b「沿革」は沿道、沿線など頻出読み
    • c「資格」は出来る
    • d「推し」は「心酔」がわからなくて選んでしまうこともあるかも
    • 3問は正解したかった。
  • 短歌
    • やはり順番通り短歌
    • 瀑布とは!? で動揺したかも
    • 「音なき」を大事に出来れば解ける
    • 「ごとく」の直喩を大切に

問2 小説文

2024年度は高森美由紀「藍色ちくちく」より。舞台設定は古いものの嫁入り前の娘と父の関係性を描く物語は、美しい情景描写と方言がマッチし、ノスタルジックかつ情緒的な文章。恥じらいが素敵。

おそらく全国の教育委員会には、出題候補作品リストが配られているため、他県でも出題の可能性あります。他県の中3の方も神奈川の問題を解いておくと良いのではないでしょうか。解きやすいので自信も付きます。

今日はめでてぇ日だ。めでてぇ日に『ごめん』は合わねえよ。

うん、かっこいいよ、ダダ。ちくちくするぜ。

  • 本文
    • 全体で5000字程度。昨年と比べると1000字増える。
    • 方言が多く、文体もやや古いため読みづらさはあったかもしれません
    • 「お互いを思っているがすれ違う」というテーマが三年連続。どうしてもすれ違わせたいようで、『君の名は。』好きが神奈川県の中の人にいる
    • “白無垢”とか分かったんだろうか
    • ラスト数行のちくちくする親子の感じ、よかったです
  • 設問
    • 選択肢の文末決定がほとんどだったので、全体的に平易
    • (イ)は『はにかみ』の意味が分からないかもしれず少し難易度が上がる

問3 説明的文章

テーマが分かりやすかった昨年と比べると、抽象度も高く難易度も上昇。また、選択肢も選びづらいものが増える。「ファッションはコミュニケーションたりうるか」というなかなか面白いテーマだが、受験生にとってみれば面白がっている場合ではありません。

  • 本文
    • ファッションと言語の共通点と相違点を読んでいきたい
    • 結論までが長く、問いかけや言い換えなどを繰り返しながら論を進めていくので、読む側も忍耐力が必要だった
    • 語彙レベルは高くありませんが、話の抽象度は高かった
    • 「つまり」「このように」の説明接続詞を追うと読みやすかったですね
  • 設問
    • 対義語でした。簡単だったんですが、熟語の構成と思い込むミスとかもあり得ます。模試では度々出題されていましたので、大丈夫でしょうか。
    • 識別問題は原点回帰の「の」。もう少し工夫してよ
    • (エ)は本文の中にはっきりと答えだと分かる部分がなかったので、傍線前後の内容を理解できていないと難しかったかもしれません。
    • (カ)は消去法がしづらかったかもしれません。傍線部の6行前の「新しい社会的合意」7行前の「強引な精神分析」までたどれると正解できたでしょうか
    • (ク)は本文中にあった「一瞬だけをとらえて」が選択肢中の「一面を切り取ったもの」と置き換えられているのが分かれば解けたのですが、難易度は高めです
    • (エ)(カ)で落とした人は多かったかもしれません。(ク)が次に難しいかなと思います

問4 古文

鬼門でした。一行目の名前から面食らった人も多いでしょう。注の確認にも時間がかかりますし、例年よりも少し文章自体も長いものでした。

古文が4問構成になって以降、12年連続で(ア)から(エ)の選択肢が1〜4でバラバラになる記録を更新しています!

  • 本文
    • 白河法皇の計らいがイケてるものであったという主題を読むのはなかなか大変
    • 恩と報いの関係性
    • 「喜悦の色」から義光がなんか調子に乗っている感じする、と読んでしまうとラストの意味が分からなくなってしまう
  • 設問
    • 『理非顕然』はつらかったね。落ち着いて選択肢を読めれば消去法はしやすかったので、正答を選べたかな
    • 『零涙』も語彙力を必要とするものでしたね
    • 過去数年で一番難しかった一昨年と比べてもさらに難しかったのではないでしょうか

問5 資料読み取り問題

ここで変化を加えてきました。界隈では大流行中の複数テクスト問題を神奈川も導入。

二つの文章を読んでまとめたメモの空欄を穴埋めしていく広島県パターンでした。

とにかく動揺が走ったと思います。これまでであれば、ほぼ答えを喋っていてくれた頼りになるAさん〜Dさんはいませんでした。きっと、もう会えない。長いことありがとう。

  • (ア)も(イ)も要約力を求められる問題でした
  • (ア)は主張をつかみつつ読めれば出来ました。日頃から文章をまとめる癖をつけている人には容易でしたが、正答率は高くないでしょう
  • (イ)の問題は指定語句である「手助け」と「偶有性」をそれぞれの文章で触れられている箇所を探せればまとめられましたが、『人間が何かを達成する手助け』と書くのはなかなかに難しかったのではないでしょうか
  • 問題としては、良問だと思います

総評

2024年度国語入試問題の総評
    • 問1→短歌の易化によりやや易しい
    • 小説文→やや易しい
    • 説明文→難しい
    • 古文→かなり難しい
    • 資料読み取り→難しい

トータルすると難化です。
最上位校でも5~7点は平均点が下がりそうです。進学重点エントリー校だと7~12点ほど下がってもおかしくないでしょうか。

さすがに昨年度の易しさは看過できず、難易度調整のしやすい古文と資料読み取りで難化へ導いた印象です。

さいごに

毎年書いていることですが、このブログのタイトルは「受験を超えて」です。「合格のために」ではありません。

みなさん、良い勉強をしました。
それは、自分のベストを尽くしたということだけではありません。
ベストを尽くせなかった、ということもまた勉強です。

今まで逃げてきたことに立ち向かい、
たくさんの人の支えを知り、
自分の力をどうすれば上手く使えるかを考えました。

一つひとつが本当に大きな勉強で、財産で、自分の糧です。

受験は合格するためにするものではありません。その先の未来を自分で掴みにいくためのものです。今回の受験が、皆さんにとっての誇りとなり、次なる羽ばたきにつながるものであることを願ってやみません。

高校受験、お疲れ様でした。
(特色検査が終わったら)ゆっくり休んでください。