鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -
2018.01.03
2017年アクセス数が一番多い記事(63,000PV)となりましたこちらの記事。
1年間でこの記事を経由してAmazonで売れた本のランキングを今回はご紹介いたします。特にどの作品を推して書いたということもないので、ご覧いただいた皆様のフラットな評価と言えるかもしれません。「面白く、ためになる」作品ばかりですので、どれを選んでもハズレはありません。「これを読めば本が好きになる」ランキングということでよろしいかと思います。
目次
瀬尾まいこの傑作駅伝小説が10位。中学生が主人公の青春スポーツ小説としては、出色の作品です。その展開の妙、人物同士の絆、心情の繊細な揺れ動きなど、何度読んでも涙がこぼれてきます。また、駅伝メンバーの一人、不良少年として登場した大田が、とある事情で先輩の子どもの世話をすることになるスピンオフ小説「君が夏を走らせる」も秀作です。「あと少し、もう少し」を気に入った方、子育て中のお母さんには特におすすめの一冊です。
瀬尾まいこは言葉の選び方が優しく美しく素晴らしい。是非、小学生にも体感していただきたいですね。瀬尾まいこの中でも特に小学生に読んでもらいたいのはこの作品です。この物語の舞台は、都心からは少し離れたある中学校。陸上部駅伝チームのお話です。
この小説のすごさは、物語の構成です。一つの章が一つの区間に割当てられ、章ごとに主人公が切り替わって別の一人称で進んでいきます。主人公不在でありながら、すべてのランナーが主人公になれる、そんな描き方となっています。駅伝のタスキと共に、一人一人の想いが繋がれていく様子が、瀬尾まいこの美しい心情表現でふんだんに語られます。スポーツ小説なのに、心と向き合わされることが多い、そんな作品です。
重松清の中期代表作の一つ。伝えたいことを伝えるのはいつも言葉だけではない、ということを言葉で語ってくる小説です。重松節が全開で、一つ一つの表現から「読み取る」力が必要とされます。ただ楽しく読むだけではなく、曖昧かつ間接的な表現の意図を学び取ることも出来ます。
これもおすすめ。「ほんとうに伝えたいことだったら、伝わるよ、きっと」。帯にもあるこの言葉がすべて。言葉ってそれだ、小説ってそれだ、と思います。語るだけがすべてではない。わずかな言葉でも、わずかな仕草でも、わずかな表情でも、想いは伝わる。そんな一冊です。短編集で、一つ一つが軽くて読みやすいのも特長です。収録されている「北風ぴゅう太」「乗り換え案内」が特におすすめですね。
佐藤多佳子といえば「一瞬の風になれ」。これは文句なしで面白い。全編にほとばしる疾走感に後押しされるように一気読みが出来る作品です。スポーツ小説好きには一番のおすすめです。全3巻となりますので、読み応えもあります。
人に優しく、場面の切り取り方が秀逸な佐藤多佳子を一躍メジャーにした作品です。3分冊はボリュームがありますが、タイトルの通り「風」を感じさせる陸上小説で、ページをどんどんめくりたくなる疾走感がそこにあり、あっという間に読み終わります。友情、恋、先輩後輩関係など、青春が凝縮されています。スポーツ好きにはたまらない作品で、中学受験で定番の「成長物語」の読み取りとしてもお勧めです。また、「3冊読み切った」という達成感は、間違いなく自信になるはずで、次の読書への誘いとなることは請け合いです。
こちらは別の記事からの購入が多いかもしれません。
いろんな読み方が出来る一冊ですし、読み口も軽くてハードルも低いので、読書をあまりしない子でも楽しめます。
2015年2016年と連続で中学受験よく出る小説第1位を飾った本書。ある中学校一年生の24人学級のお話です。24人それぞれが主人公となる24の連作短編集ということになります。24人の中学生たちは、キャラ設定が割り振られていて中学生時代のことを思い返してみれば、「あぁ、あいつか」と脳裏に浮かぶのではないでしょうか。この本を読んだ小学生は一足先に中学生の視点を獲得することでしょう。中学受験国語のテキストとしては最適ですし、親子で読んで語り合っていただきたい作品と言えます。
会話が多く、子ども目線で書かれていると言えます。情景描写や間接表現を用いながら、友情や嫉妬などの感情の変化がわかりやすく描かれているので、「受験読解」の入門としてもオススメです。森絵都が得意とする色の描写、そして体言止めやセリフのバランスの良さも体感していただきたいと思います。
大好きな一冊は7位にランクイン。「死」と向き合いながら、死についてゆっくり考えていく小説。少年たちの心の動きが優しく心に迫る一冊です。昔は日本版スタンドバイミーとかよく言われていたものです。
有名すぎる小説ですね。三人の小学六年生が「人が死ぬ瞬間を見てみたい」という好奇心からひとり暮らしのおじいさんとの交流が始まり、関係が深まっていく物語です。世界でも翻訳されている名作中の名作です。誰にでも必ず訪れる「死」は喪失であると同時に、大切なことを与えてくれるものだということに気づかせてくれる作品です。「死」を軽々しく口にする子どもたちにこそ読ませたい作品ですね。説教くさい作品では全くないですし、楽しんで読める一冊なので、自信を持ってお勧めできます。
小学生に大人気の一冊は5位に。設定のユニークさもさることながら、双子と泥棒の丁々発止には思わず笑みがこぼれます。青い鳥文庫版も発売されています。より低学年の方は、こちらもおすすめ。
これも人気があります。ハマリ度は高いですね。両親がわけありで同時に家を出てしまい、親不在の状況におかれた中学生の双子の男の子たちの父親代わりを努める泥棒の話。「ステップファザー」とは継父のこと。些細な事件から大きな出来事まで、双子と主人公の泥棒のやり取りが面白く、つい引き込まれます。小・中学生にも保護者の皆様にもオススメの一冊です。
「友だちってなんだろう」という問いかけが聞こえてくるような作品です。成長していく少年少女たちのそれぞれの目線で、それぞれのステージで語られる一冊。記事の中では、「その他のおすすめ」コーナーに掲載していますが、売り上げ数は4位と躍進。我が子に「友だちの形」を知ってほしいという保護者の願いが込められているような結果となりました。
個人的には、重松清の最高傑作はこれだと思っています。一人の女の子が成長過程で出会った、友だち、弟、周りの人たちとの日常を連作長編のような形で描いています。登場する人物たちが魅力的でひとつひとつのストーリーが際立っています。いろんな形の「友だち」があり、そしてそれはもしかすると気づかずに通り過ぎていた形なのかもしれません。たくさんの友だちが出来る小・中学生時代に読んでおくことは間違いなくプラスです。「きみ」という語りで進むので、視点の置き方が独特で、小説初心者には若干読みにくいかもしれません。ただ、読むべきです。
いよいよTOP3です。第3位は椰月美智子の静かな名作です。椰月美智子は、もう少し日の目を見ても良い非常に力のある作家で、この作品を読めば、その良さが分かるかと思います。アクが強くなく、誰にでも読みやすい文章で、登場人物の描き分けも秀逸です。より入門編としては青い鳥文庫から出ている「十二歳」も良作です。
癖のない美しい文章表現とストレートな心情描写が特徴の椰月美智子の傑作です。主人公は小学校五年生の男の子。なかなかに冴えない主人公ではありますが、友達や先生との出会いから少しずつ本当に少しずつ自分の世界を広げていく過程が描かれます。小学校五年生の日常を描くのにタイトルを「しずかな日々」としたのも示唆的で作者の想いを感じます。淡々としてはいますが、言葉のチョイスが美しく、とてもいい作家です。
個人的には「重松清・椰月美智子・佐藤多佳子」の三人が、小学生高学年の普通の子どもたちにとって「良質で、楽しく、ためになる」トップ3の作家だと思っています。
第2位は言わずと知れた『くちぶえ番長』。小学校4年生にどれか一冊を勧めるとしたら「これ一択」です。少し読書慣れしている人にも、これから活字での読書を始めていく人にも、「あぁ本を読むのって面白いんだ」と思わせてくれる一冊です。中学受験国語の準備にもおすすめですね。
言わずと知れた間接表現の王様、重松清の名作です。読書慣れしていない方の入り口としては、最高の第一歩となるはずです。小学校四年生のクラスに転校してきた勝気な女の子マコトとクラスメイトの話。友達関係、いじめ、家族の話などそこにある小学四年生の現実が描かれます。平易な表現の中にも、小学生の気持ちに寄り添ったものが多く、「どうしてそんなに小学生の気持ちが分かるのだろう」と感心してしまいます。心情描写の読み取りも「まずは重松清から」が定番です。
栄えある2017年第1位は、森絵都の初期名作「カラフル」でした。面白さに疑いの余地はありませんが、これがダントツの1位となるとは思いもよりませんでした。紹介文がいいんですかね。。。
小学生に勧めると高確率で「面白かった」「最高!」という感想をもらえる一冊です。森絵都ならではの少し凝った設定で小説の魅力を存分に感じることができます。死んだはずの「ぼく」は、突然現れた天使から人生の再挑戦を言い渡されます。他人の身体を借りて下界に戻り、前世で犯した過ちを探しにいくといったストーリーですが、これは読んだ方が早いですね。主人公の最後の気づきも美しく、「カラフル」の意味を噛み締めて本を閉じることでしょう。
こうして並べてみるとTOP10のうち3冊が重松清となりました。教科書にも載っている重松清は、やはり読書の入り口として最適なのかもしれません。小学校高学年から活字を読む癖をつけておくことはとても重要です。文字からの情報入力と処理能力を高めていく癖をつけるためにも、たくさんの言葉に触れておく必要があります。そして、できることなら良質の日本語に触れること。ライトノベルや雑誌などでも活字を読むことはできますが、表現の豊かさや伏線の微妙な描き分けなど、小説ならではの面白さを感じることはできません。
小説の良いところは面白いものに出会うと「次」を読みたくなることです。その意味でも、良質の本との「出会い」と「選び方」は重要です。記事をお読みいただいた方々にとっての「出会い」のヒントになれば幸いです。