受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


かまくら国語塾第1回体験WSを終えて

2019.11.12


11/9(土)にかまくら国語塾として最初の取り組みとなる体験ワークショップを開催しました。8組17名の子どもたちと保護者の皆様にご参加いただき、これ以上ないスタートを切れたのではないかと思っています。今回は、当日の様子について振り返ります。

ワークショップの様子

募集開始から数日間で満席となった今回のワークショップ。大きな期待を感じつつも、自分として表現したかった空間を短いワークショップの時間だけで実現できるか、そしてそれは保護者・子どもたちに受け入れられるか、という不安があったのも事実です。

でも、不安や緊張はまだ見ぬ未来からやってきます。目の前に次々と登場する子どもたちの元気な表情で不安が吹き飛び、良い時間を創ることと向き合えました。今回は無料のイベントでしたが、当日欠席は0でありがたい限りです。

プログラムとしては、下記の通り。

  1. かまくら国語塾のご案内と今日何をするか
  2. 自己紹介
  3. 書き方と書く技術について
  4. 書く時間・カンファランス
  5. 共有の時間
  6. おわりに

最初30分ほどかまくら国語塾と、体験ワークショップについての説明をいたしました。

強調したのは、この場が「書き手にとって安心できる場である」ということ、「とにかく書くことに対して自由になってほしい」ということです。

適度な笑い声。たくさんの頷き。確かな手応えを感じながら会を進められました。

でも、だんだんと落ち着かなくなってくる子どもたち。退屈なのかな、説明長いかな、と思いましたが、こちらを見ている目の輝きが失われていません。あぁ、これはもしかすると「早く書きたい」ソワソワなのかな、そうだといいな、と願いながら説明を続けました。

「説明終わり! さぁ、書こう!」と声をかけると子どもたちが原稿用紙置き場に殺到。

いい顔してます。作家の顔つきですね。
色も形も様々な原稿用紙からどれを使おうか選び、いよいよ始まります。

実際のレッスンではテーマすら自由。子どもたち本人が探し、見つけるところからスタートします。今回は時間も限られていますし、一回性ものなのでこちらでテーマを指定させてもらいました。何を書いたか、については次回2月のワークショップも同内容で実施する予定ですので秘密です。

即座にすごい勢いで書き始める子、お母さんと一緒に話しながら書く内容を決めていく子、鉛筆を持っては置き天井を見上げて悩む子。それぞれのスタイルで作家たちが動き始めます。

子どもたちが書いている間、私は何をしているかというと“カンファランス”と呼ばれる声かけをしています。カンファランスとは、文章を書いている時に先生が生徒の間を回りながらアドバイスをしたり、相談に応じることです。

これまでの作文指導は限られた時間で一生懸命書いた文章を先生に提出し、添削やコメントが返ってくるのは1週間以上後になることもしばしば。時間を経て返ってきたときには、その作品に対する子どもたちの熱が冷めてしまっている可能性があります。訂正や書き直しの意欲は完全に失われていることでしょう。

何を思ってその表現を使ったのか、どういう展開を考えていたのか、アドバイスや具体的な賞賛を即時その場でコメントできることは、作品を創り上げていく作家にとっても非常にタイムリーで、作品自体の幅を広げられる可能性が高まります。ライティングワークショップにおいてこのカンファランスは肝となる部分でもあります。

かまくら国語塾では、10人前後の子どもたちを対象にカンファランスを行うので、毎回必ず一人一度は声を掛けられるはずです。書くためのヒントや材料があって、仲間もいる、作家たちにとって安心できる創作の場を提供したいと思っています。

 

それでも、当然ながら書けずに苦しむ子がいます。自分の頭の中にあることを文字に出来ない子がいます。

この日もいました。

周りが書き始め、盛り上がり、他のカンファランスの「いいねぇ」という声も耳に入ります。でも、自分は書けない。書き出せない。だんだんと顔が歪んでいきます。時計を見ると、およそ50分の「書く時間」のうち40分が経過していました。

そっと隣に座り、話をしてみました。
「書かなきゃ! と思ってるでしょ。実はね、、、書かなくてもいいよ」と。

すごくびっくりした顔をしていました。

「だってね、書くことってめちゃくちゃ大変ですごいことなんだよ。だから、無理して書かなくても、何書こうかって考えているだけでも君はもう作家なんだよ」と。

「書かなくていいからさ、話そうよ。なんかさ、好きなものってある?」
「switch……マイクラ…」
「いいねぇ、マイクラ。マイクラの自分が作った世界って気に入ってる?」
「うん」
「じゃあその世界にさ、誰か侵入者がいたらヤバくない?」
「……!」
ストーリーが電撃のようにその子に舞い降りてきたのか、突然手が動き出しました。

 

こんな感じでカンファランスをしていくこともあります。最初のそのワンフレーズを、その一文字を、一緒に創り出すお手伝いが出来れば、きっと子どもたちは自分の中のおはなしをどんどん書き広げていけるのではないでしょうか。

説明の時間含めておよそ90分の長丁場でしたが、小学3年生の子たちも集中力を切らすことなく取り組んでもらえたと思います。無茶振りに近いテーマを与えられて、その場で書き始める子どもたち。生き生きしたその表情、次の展開を悩む顔、こちらのアドバイスを真剣に聞く姿、全てが眩しく、素晴らしい時間を過ごさせていただきました。

今回は保護者も参加

3月からのレッスンに参加するのはもちろん子どもだけなんですが、今回は多くの保護者の方にも参加していただきました。これには意図があります。

「教師は書き手であるべき」という考えがあります。子どもたちが苦労して書き上げたものを先生が「安全地帯」から評価し、ダメ出しをしていくというのは子どもたちからすれば、ズルいし、納得できない部分でもあるはずです。

だから、教師も書くべきです。先生も冒険をしている、先生の作品もみんなに見てもらうつもりがある、という状況を作ることで子どもたちも安心するし、とてもフェアな環境が作れます。そして、このことは親も同じなのではないでしょうか。

子どもが一生懸命書いた作品に対して、「もっとこうした方がいい」とか「漢字が違う」「意味が通じない」とすぐ言います。どんな想いをして、どんな苦労をして書いたものか、ということを忘れているんですね。書き始めることは未知の世界への冒険で、書き上げることは山頂を踏破するのと同じことです。その大変さと本人が味わったはずの達成感を保護者の方にも感じていただきたいと思い、保護者参加型といたしました。

子どもの作文や書く力を伸ばしたいという保護者の方がいたら、ぜひご自身も書き手になってください。日記でも、おはなしでもいいです。そして、時折それを子どもにシェアしてください。子どもの文章や言葉に対する考え方・見方が大きく変わるはずですよ。

子ども・保護者の声

ワークショップの後に無記名のアンケートにお答えいただきました。

子どもたちの声

学校と違って、THE勉強といった感じではなくて、凄く楽しかった。先生に漢字を直してとか言葉遣いなど注意されなかったから、たくさん書くことができた。

今日の国語塾すごく楽しかったです。これからげんこう用紙のつづきを書きます。書き終わったらぜひ見て下さい。

学校で作文の授業がほとんどないから、 楽しかった。

楽しかったです。ぜひ入会したいです。 書くのは好きなので色々書きたいです。

最初は難しいと思ったけど、書き始めたら、ちゃんと書けた。おはなしを読むだけで、続きを考えたことがなかったけど、かなり楽しかった。困っていたら、先生が声かけしてくれて助かった。

保護者の声

普段、たくさん本は読むけれど文章を書くのは苦手な子だと思い込んでいました。今日参加してみて、溢れ出る様に物語を書く姿は衝撃でした。書いた文章は誤字だらけで国語としてはまだまだ未熟でも、思ったままに表現出来たことに本人は喜びと自信を得たように感じました。

朝から本人がワークショップ、中本先生の授業をとても楽しみにしていて落ち着かない様子でした。始まってからも思いついた事を話し書いていて、予想以上の積極的な反応に驚きました。 カンファレンスのタイミングを図れるコースターのアイデアもとても良かったです。 元々は文を書くより、絵や話で伝える事が好きだったのですが、自分の空想を文字にする事も楽しいと感じられた様です。

参加を申し込んだときにはあまり乗り気ではなかったのですが、いざ参加してみたらほっぺたを真っ赤にして、真剣に取り組んでいて驚きました。 学校では味わえない達成感があったのだと思います。 親としては、学校以外のコミュニティに積極的に参加したいと考えておりますので、3月からぜひ通いたいです。

忘れていた言葉での楽しい空想時間。 自分の言葉を探す豊かな時間をありがとうございました。

本人は文章を書くことが大好きで積極的に参加できて良かったです。保護者としては先生のカンファランスをうけてほしかったのですが、子供の性格上難しかったようです。 慣れてくればアウトプットも出来てくるのかな?と感じました。 親子共々楽しく参加させていただきました。 ありがとうございました。

ゆっくりペースの子なので、当日時間内には書き始められないかなと思っていましたが、意外とちゃんと書けていて、しかも本人はかなり楽しんでいたので、私も嬉しくなりました。普段、こんなふうに書きたいように書くという時間は作れないし、娘に取っては貴重な時間でした。こういう時間が必要だなと感じました。本人は、早く始めたいなと言っていました。

今後のスケジュール

しばらく受験指導に専念しますのでかまくら国語塾としての次の活動は2月からとなります。2月下旬に二回入塾説明会と体験ワークショップを行います。体験ワークショップの内容は今回と一緒です。今回の体験会にご参加いただいた方で入会ご希望の方は、説明会のみお申し込みください。入会には11月もしくは2月のワークショップに参加し、お子さんの意志で入塾希望を表明していただくことが条件となります。

  • 12月2日(月)10:00~ 入塾説明会および2月の体験ワークショップ申込受付開始
  • 2月22日(土)10:00~11:00 入塾説明会/11:00~12:15 体験ワークショップ
  • 2月29日(土)10:00~11:00 入塾説明会/11:00~12:15 体験ワークショップ
  • 3月7日(土)かまくら国語塾 第1期スタート

入会手続き等については入塾説明会でご案内申し上げます。費用についてはwebページに記載がありますのでご確認ください。

おわりに

「言葉には力がある」、と今回のワークショップを通じて当たり前の原点を改めて感じました。
それも子どもたち自身の中にある言葉にこそ力があります。

 

文章が人の心を動かす。
文章が人を動かす。
文章が自分を動かす。
自分の言葉が自分を励ます。

 

自分の中にある言葉にもっと自信を持っていい。自ら紡ぎ出した文章をもっと好きになっていい。もし、人に伝えたくなったら共有すればいい。自分が編んだ言葉の数々を知ってもらおう。

みんなが文章を書くのは、何かのためでも誰かのためでもない。敢えていうなら“自分のため”。むしろ“楽しいから”、だ。

 

その想いを時間をかけてでも伝えていきたいと思います。
そして、その一かけらでも今回のワークショップで伝えることが出来たなら大成功です。

 

新しい形での学び場をスタートするにあたって、色々な方々から共感や応援の言葉をいただきました。大変力になりました。ありがとうございます。不安やプレッシャーもあります。でも、子どもたちが輝く場づくりを期待されていますし、安心できる場づくりを実現していきたいと考えています。

そのための第一歩として自分自身も楽しめるように、という気持ちでこの日を迎えました。

見学に来てくれたHOME個別指導塾の篠崎先生と、この日の撮影をお願いしたら快諾してくれたイルム元町スクールの甲斐先生、そして当日サポートに入ってくれた女性スタッフ(かまくら国語塾の構想段階から参画してもらっています)を含めて、大事な仲間たちと共にこの日を迎えられて幸せです。

でも、まだ船を漕ぎ始めたに過ぎません。これから子どもたちと一緒に思いもよらぬ景色を見にいきます。私は船頭でもなければ羅針盤でもありません。船のメンテナンスをし、櫂を手渡す役割に留めます。船を漕ぐのは子どもたち自身です。

広がる言葉の海へ、どこまでも!