受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


問題分析 神奈川県公立高校入試2021 国語

2021.02.15


2021年2月15日、神奈川県公立高校入試共通選抜が行われました。受験生のみなさん、お疲れ様でした。各問題の難易度も含めて、幾つかの観点から今年も問題分析をしていきます。(ブログの性質上、国語だけの分析となります。悪しからずご了承ください)

はじめに

神奈川県入試における国語の位置づけ

2019年度を除いて5教科の中で最も得点の取りやすい科目となっています。

過去5年の合格者の平均点
  • 2020年度:69.1
  • 2019年度:59.1
  • 2018年度:65.6
  • 2017年度:73.1
  • 2016年度:64.7

昨年度は小説文は難しめだったものの、古文問5の資料読み取り問題が取り組みやすい問題となったため、平均点が上昇しています。問1もやや得点しやすかったでしょうか。

選択肢重視でありながらバランスの取れた問題

昨年度までの問題は下記の通り。

  • 漢字:読み+適する漢字を選択する問題
  • 文法問題:紛らわしい語の識別(主に助詞・助動詞)
  • 短歌 or 俳句(交互に来てます。2021年度は俳句の年)
  • 古文:内容把握(文法問題・現代語訳問題はない)
  • 小説文読解:人物の心情・情景描写の読み取り・文章全体の特徴
  • 論説文読解:筆者の主張を追い、具体と抽象を言い換える力を問う
  • 資料読み取り問題:要約能力とグラフや表の読み取りの的確さを測る

難易度・バリエーションともに論理的思考と言語知識や読みの力をバランスよく問う問題が出来上がっています。個人的には直球で読解力を問うてくる神奈川の問題は好きです。

ただ、文章の長さや「手数の多さ」が特徴のため、慣れていないと結構面食らいますね。

2021分析と考察

難易度の分析

所感は、昨年度と大きく傾向が変わることはないものの、全体として昨年同等のレベルを維持したと言えそうです。漢字読みの難化は難関校を受験する人たちにはあまり関係ないので、上位陣にとっては易化でしたね。古文はやや簡単になり、小説文は少し難しくなった昨年と同等、説明文は文章が多少読みやすくなりましたが選択肢の難易度が若干上がり同等レベル、最後の資料読取問題は昨年同等に取りやすいように感じます。

受験生の声をお伝えしておきます。

  • 漢字の読みは簡単だった。全県模試出てたでしょ
  • 漢字選択は楽だった。先生の問題の方がよっぽどむずい
  • 古文は耳が腐るほど聞いた「信心深い人は報われる」パターンで嬉しくなった
  • 小説文は希望の光とか書いてあったが「きれいごとは、いらない」と思って冷静に読めた
  • 説明文は頻出テーマだったので頭に入ってきた
  • 時間感覚は去年の過去問と同じくらい
  • 小説文は最初の但し書きの四角を読んでおくのが重要だった

各問分析

問1 漢字の読み書き、文法、短歌

昨年度は「急務」の選択が36.3%の正答率。助詞の識別問題は97.7%の高い正答率、短歌も70.0%の正解率となっていて得点しやすい問題が多かったように思います。今年はどうだったのでしょうか。

  • 漢字の読み
    • 若干難易度上昇か。
    • 「掌握」は12月の全県模試が的中「惜別」も1月の全県模試で「惜敗」が出題。昨年の「綻び」に続き伸学工房が神がかる
  • 漢字の選択
    • 楽だったとしか言えない
  • 語句の識別
    • 副詞「すでに」の一部「に」が出題。これまでは付属語の識別ばかりだったので、傾向が異なった
    • ただし、他の選択肢との違いが明らかなので難易度は高くない
  • 俳句
    • やはり順番通り俳句
    • 昨年同様に「聴覚」との結びつきを読み取りたかった
    • 書斎にいる作者にとって鵙は「聴覚」によって捉える対象である。視覚なのか、聴覚なのか、という韻文における最重要ポイントを抑える学習ができていたかが成否を分けた

問2 古文

昨年度の正答率は(ア)62.6%、(イ)61.9%、(ウ)79.1%、(エ)73.8%となっており、一昨年度よりはかなり下がりました。今年はやや難度が緩んだでしょうか。

  • 本文
    • 昨年よりも易しいか
    • 信心深い人は報われるパターン
  • 設問
    • (ア)「放生」という言葉に馴染みが薄かったためわかりにくかったかも
    • (イ)4と迷うかもしれないが、「何も入っていない」わけではないので主張の内容をおさえる
    • (ウ)「讃め尊び」の意味を類推できれば解ける
    • (エ)信心深い人は報われるパターンに当てはめていけば問題なし

問3 小説文

昨年度は、野中ともそ「洗濯屋三十次郎」からの出題。伏線や間接表現の読み取り、強めの心情表現を丁寧に追って心情を理解していく必要がありました。視点の理解も若干難しい文章でしたが、今年はどうだったのでしょうか。

2021年度は吉川永春「憂き夜に花を」からの出題。タイトルからしてまさにコロナ禍に相応しい小説文。やや説教くさいが、コロナに見舞われた世の中を照らす文章としては秀逸。解いていて勇気をもらった

  • 本文
    • 全体で4500字弱。少し減ったが依然長い
    • 難しいわけではないが、表面をなぞっているだけでは取れない問題もある
    • 人物の関係性と各人物のキャラクター、物語上で担う役割を整理しておけば一気に解きやすくなる
    • 最初の但し書きの四角が重要だった。読み飛ばした人は何が何だか分からなかったと思う
  • 設問
    • 選択肢の文末で全体の意味を操作している問題が多かった。選択肢は最後まで読むという基本を大事にしたい
    • (ア)やや難しいか。少し先まで読まないとその考え方を理解するのが難しかった
    • (イ)やや難しいか。元太のキャラを掴みきるには文章が短いが、「こういうセリフを言う人はこういうことを考えている」ということが蓄積されていれば問題ない
    • (ウ)弥兵衛と市兵衛の関係性は全体を通して特に重要だった
    • (エ)は「省みている」の意味さえつかめていれば大丈夫。難易度普通
    • (オ)朗読問題として極めて愚問。直後に「この上なく穏やかな声で」と書いてある。簡単すぎる
    • (カ)比喩・視点・言葉遣い・回想シーンと文章の特徴問題における定番の分類が出題されていたため、模試や過去問で練習を積んでいた人にとっては易しいっただろう

問4 説明文

昨年度は、中屋敷均「科学と非科学」から科学的知見についての問題。語彙レベルも高く、テーマ自体は難しいですが、言い換えの問題や書き抜きなど設問自体はベーシックなものであり、入試説明文の問題としてはさほど難しさを感じないものでした。

2021年度はどんな文章だったのでしょうか。

  • 本文
    • 「ネット上のコンテンツと書物の違いについて」という頻出テーマ
    • 今年も全国入試をやり込んでいれば、話の筋が見えてしまう
    • 語彙レベルもそこまで高くなく、文章としては昨年よりも読みやすい
    • ネット批判一辺倒ではないところが良かったですね
  • 設問
    • (ア)は昨年に引き続き接続詞の問題。AとBの位置が離れていて「さらに/したがって」は割とレアな選択肢
    • (イ)はやや難しいか。設問が「筆者が紹介した内容を説明したもの」を選べ、というものだった。いつもの癖で筆者の主張を選ぼうとした人はその後の「私の考えでは、」に引っ張られて間違えたかもしれない
    • (ウ)は昨年の「可塑性」に引き続き語彙の問題か。「相対的」の意味がきちんと理解できていれば分かりやすかった。易しい
    • (エ)は直後および次の段落で書いてある内容をうまく説明した選択肢を選べれば良かった。易しい
    • (オ)は書き抜き。機械的には解けない。Ⅰ・IIを含む内容説明の文の意味を的確に理解して、文中の言葉に置き換えられれば難しくはない。抜き出し自体は昨年よりも少し難しかったかもしれないが、探す範囲が狭いかったため相殺されて難易度は変わらず
    • (カ)は直後にもう一度「重要なのは」がある。強調語をしっかり探す。易しい
    • (キ)は後半の主張の中心を見極められれば問題ない。易しめ
    • (ク)は対比型の文章である点を理解しながら選びたい。ただし、どちらかを貶めてどちらかを礼賛しているわけでもなかった点には注意が必要

問5 資料読み取り問題

資料と会話文から適切な情報を読み取って、題意に沿って記述する問題。昨年度は(ア)の問題の難易度がそれほど高くなありませんでした。2019年度に11.7%の正答率となった(イ)の問題。2020年度は26.4%とやや易しくなりましたが、依然最も正解しづらい問題である上に配点が6点ということで厄介な存在です。

  • (ア)の難易度は変わらず。簡単な計算で解けた
  • (イ)の問題は書くべき内容はCさんとDさんの言っていることをまとめれば良かった。グラフはたいして意味をなさなかった。2019年度・2018年度の本試験・追検査の難易度からすると驚くほど簡単
  • 今年も時間切れでラストの問題(6点)ができなかった人は悔やまれる結果に

総評

2021年度国語入試問題の総評
    • 問1→やや難しい
    • 古文→昨年より易しい
    • 小説文→昨年同等
    • 説明文→昨年同等
    • 資料読取→昨年同等

トータルすると同等からわずかに易化です。2019年度の彫塑からの原田マハ。向日葵の俳句からのゴッホ(フィンセント)と素敵なつながりが見えましたが、今年は特に繋がりが見えずに残念でした。ただ、小説文のセレクトは気に入っています。

各校での目標点数の目安は?

伸学工房さんが毎年出している追跡調査に基づく、今年の目標点数(合格者平均点)を算出してみたいと思います。昨年度と今年度の難易度の比較と倍率などから想定した数値です。あくまで推定値なので鵜呑みにしないでいただきたいですが。

全体的には同等。プラス0点〜5点程度と読んでます。

問題によっては昨年よりも難しいと感じることはありましたが、全体的には昨年同様取りやすい問題が多かったですね。

昨年度同等の難易度ですが、社会が「クソ簡単」との呼び声高いので「もっとも簡単な科目」の王座を明け渡す目算です。ただ、いずれにしても語彙力と読解のスピードと正確さが足りないと厳しい問題であることに変わりはありません。

受験生へ(2月15日〜17日にご覧になった人へ)

まだ、終わってないよ。

思うような結果にならなかった人、震えて力が出せなかった人、今までやってきたすべてが無駄になってしまったと思っている人。まだ、出来ることがある。君たちには挽回のチャンスが残されているんだ。進学重点校およびエントリー校では、特色検査がある。それ以外の学校では、面接で点差が開くこともある。

特色検査実施校ではボーダーライン付近の場合、特色の点数がものを言う。絶対に諦めちゃダメだ。

特色検査、面接試験はサッカーでいうところのアディッショナルタイム。劇的なラストを演出するこの検査。持てる力、使える資源、協力してくれる人はすべて使おう。15日の試験で悔いが残った人、もう悔いは残せない。

受験生のみなさんが、面接を終える最後の1秒までやり切れることを願ってる。あとちょっと。ここまでの努力や頑張ってきた時間を考えればあと1日や2日は頑張れる。やってやろう。

さいごに

毎年書いていることですが、このブログのタイトルは「受験を超えて」です。「合格のために」ではありません。

みなさんはコロナ禍の一年を受験生として過ごしてきました。「よりによって」「なんで」、そう思っていたことでしょう。でも、みなさんはそれを乗り越えて、この日を迎えています。強い。本当に2021年の受験生は強かった。苦難を乗り越えたみなさんには、力があります。

でも、これから先は「何をやればいいか」の問いを自分で探していく時にこの強さは必ずや発揮される。だから、この一年で得た経験や力を今度は自分がやりたいこと、やってみたいことを実現するために使ってみてください。

受験は合格するためにするものではありません。その先の未来を自分で掴みにいくためのものです。今回の受験が、皆さんにとっての誇りとなり、次なる羽ばたきにつながるものであることを願ってやみません。

高校受験、お疲れ様でした。
(特色検査、面接が終わったら)ゆっくり休んでください。

そして、高校受験に際してこのブログを読んでくださりありがとうございました。