2023年2月14日、神奈川県公立高校入試共通選抜が行われました。受験生のみなさん、お疲れ様でした。各問題の難易度も含めて、幾つかの観点から今年も国語の問題分析をしていきます。
はじめに
神奈川県入試における国語の位置づけ
2017,2018,2020年では5教科の中で最も得点の取りやすい科目となっており、2022年度も難しくなったとは言え、社会に次ぐ合格者平均点の高さです。。
- 2022年度:61.3
- 2021年度:65.7
- 2020年度:69.1
- 2019年度:59.1
- 2018年度:65.6
- 2017年度:73.1
選択肢重視でありながらバランスの取れた問題
昨年度は問題の順番が変わり、形式と配点にマイナーチェンジがありました。
- 漢字:読み選択問題(2021年度までは読みを書く形式)+適する漢字を選択する問題
- 短歌 or 俳句(交互に来てます。2023年度は俳句の年)
- 小説文読解:人物の心情・情景描写の読み取り・文章全体の特徴
- 論説文読解:筆者の主張を追い、具体と抽象を言い換える力を問う(文法識別・国語知識問題含む)
- 古文:内容把握(文法問題・現代語訳問題はない)
- 資料読み取り問題:要約能力とグラフや表の読み取りの的確さを測る
難易度・バリエーションともに論理的思考と言語知識や読みの力をバランスよく問う問題が出来上がっています。個人的には直球でこれでもかと読解力を問うてくる神奈川の問題は好きです。
2023分析と考察
難易度の分析
所感は、「易化」です。昨年よりも平均点が上がります。漢字は単純にやや易化し、古文は解きやすく、説明文・小説文ともに文章がマイルドになったこと、若干ですが短くなったことが原因です。これまで昨年の難易度を想定して学習してきた受験生にとっては、与し易いものだったと思われます。
受験生の声をお伝えしておきます。
- 時間が余ってビビった。
- 漢字の読み、全県で出ましたよね。
- 読みは全部先生のプリントにあったやつだった。
- あゝ俳句なんで寝てるの作者さん
- アメリカ飛んでる気球か……って思って中国に感謝した
- 古文は授業でやったことあるやつだった
- “ちょい古現代文”との完全なる訣別を見た
- 小説文で出てきた「おざなりな生返事」って表現、塩対応すぎて何か気になった
大問分析
問1 漢字の読み書き、俳句
- 漢字の読み
- 引き続き選択問題
- 難易度は高くない
- 「頒布」は9月の全県模試で出題。三年前の「綻び」、一昨年の「掌握」「惜別」、昨年の「寸暇」に続いて四年連続で神がかる。漢字の読みを取りたければ全県模試を受けろ
- 漢字の選択
- 昨年ほどのインパクトはなし
- b「印鑑」は捺さない。時代錯誤
- c「球根」はパッと出てこない
- d「施す」はやや難易度高めか
- 3問は正解したかった。
- 俳句
- やはり順番通り俳句
- 植物の生命力と、ねぼすけの緩慢の対比
- これは難しかったのでは?
- 「朝寝」が作者の様子だと読み取るのは難しいかも。
- 4点です……
問2 小説文
2023年度は瀧羽麻子「博士の長靴」より。文章は豊かで言葉のチョイスも素敵。読みやすい。今年も、思想強め。
わからないことだらけだよ、この世界は。
だからこそ、おもしろい。
親子のすれ違い、お互いの素直じゃなさが微笑ましい。
- 本文
- 全体で4000字程度。1000字も少なくなった。
- さらに読みやすくなり、スピードも上がる
- 「お互いを思っているがすれ違う」というテーマが二年連続。すれ違わせたいらしい
- 父親に反抗期の生徒は、感情移入が完璧に出来たそうだ
- “花火奉行”とか分かったんだろうか
- ラストの一行もいいね!
- 設問
- 明らかに違う選択肢が多く、易しい
- 昨年ほどの作り込みは感じない。易しくしようとする意図さえ感じる
- (エ)が少しだけ難しかったかもしれない
問3 説明的文章
抽象度が高かった昨年と比べて「まなざしが固定化する」というテーマは与しやすかった。
- 本文
- まなざしが固定化してしまうと簡単には変えられず、困ったことになるという話
- 「よくある文章」で、「テーマがはっきりしている文章」と言えます
- 語彙レベルも抽象度も高くありません
- 「定義づけ」「逆説=しかし・だが」「順接=だから」に注意して読むと解像度が上がった
- 設問
- 熟語の構成! 昨年四字熟語で今年は熟語の構成。模試では度々出題されていましたが、なんで分かったんだろう……すごいな、模試会社
- 識別問題は「推量・意志・勧誘」の「う・よう」。「ようだ」の方で出ると難しいのですが、これは簡単でした
- テーマが分かりやすいだけに、同じような問いが続き、逆に疲れた可能性があります
- (キ)は吹聴・隠蔽・歪曲のどれかの語彙が分かっていれば解けましたね
- (エ)(キ)(ク)がやや難しいかなと思います
問4 古文
読みづらさはありましたが、語注が多く、問題も昨年よりも解きやすいものでした。
- 本文
- 有名な平家物語のおはなし。読んだことある人も多かったはず。神奈川県では珍しいメジャーどころの出題
- 「漢詩や孔子の言葉の引用=いとをかし」が分かっていれば解きやすい
- 蔵人と掃除人と若い天皇の関係性を読み取る必要がありました
- 設問
- とにかく“をかし”を大切にする心を持ちながら解きましょう
- 過去数年で一番難しかった昨年と比べると普通の難易度に戻りました
問5 資料読み取り問題
資料と会話文から適切な情報を読み取って、題意に沿って記述する問題。昨年に引き続き「グラフと資料」というパターン。
- (ア)は昨年同様に解きやすいと思います
- (イ)の問題は書くべき内容はAさんからDさんの会話から拾う。逆に言えば、そこだけ読めば書ける
- 律儀に資料やグラフをよく見て読み取り、答えをまとめようとしていた人が馬鹿を見るような出題は良くない
総評
2023年度国語入試問題の総評
-
- 問1→昨年同等からやや易しい
- 小説文→やや易しい
- 説明文→易しい
- 古文→やや易しい
- 資料読み取り→やや易しい
トータルすると易化です。
わからないことだらけだよ、この世界は。
答えが定まらない。常識を疑え。まなざしを固定化するな。
という素敵なメッセージと相容れない難易度となりました。
受験生へ(2月14日〜16日にご覧になった人へ)
まだ、終わってない。
全然、まだ終わってない。
思うような結果にならなかった人、震えて力が出せなかった人、今までやってきたすべてが無駄になってしまったと思っている人。
これまでのデータで、挽回なんて無理だと思っている人もいると思います。
でも、最後までやり切ろう。やりきって自分の受験をクローズしよう。
特色検査は六教科目。
一教科分は取り返せる。
面接は毎年差をつけるデータが変わっている。
今年は最後の面接入試。何かが起こるかもしれない。
持てる力、使える資源、協力してくれる人はすべて使おう。14日の試験で悔いが残った人、もう悔いは残せない。
受験生のみなさんが、面接を終える最後の1秒までやり切れることを願ってる。あとちょっと。
ここまでの努力や頑張ってきた時間を考えればあと1日や2日は頑張れる。やってやろう。
さいごに
毎年書いていることですが、このブログのタイトルは「受験を超えて」です。「合格のために」ではありません。
みなさんの中学校生活はコロナの三年でした。少しずつ日常が戻ってきて、でもマスクは外せなくて、友達の笑顔も見られなくて、だんだん表情を作るのも苦手になって。
でも、そのマスクの下でたくさん歯を食いしばって、この入試に臨んでいます。もちろん、追試験を受ける受験生も含めて、ここまで本当によくがんばりました。
これから先「何をやればいいか」迷うこともあると思います。そんな時、たくさん我慢したこの三年間を思い出して。
この三年間で得た経験や力、想いを今度は自分がやりたいこと、やってみたいことを実現するために解き放ってみてください。
受験は合格するためにするものではありません。その先の未来を自分で掴みにいくためのものです。今回の受験が、皆さんにとっての誇りとなり、次なる羽ばたきにつながるものであることを願ってやみません。
高校受験、お疲れ様でした。
(特色検査、面接が終わったら)ゆっくり休んでください。