鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -
2020.12.31
2020年4月にスタートしたかまくら国語塾。コロナ禍に見舞われる中、なんとか一年間(実質五ヶ月)レッスンをしてきました。
小学生や保護者の皆様にとっては得体の知れない国語塾ではありましたが、初年度から満席となる上々の滑り出しで、2年目となる2021年度も満席スタートの予定となっています。
誰も興味ないかもしれませんが、開講に至るまでの経緯や準備、プロモーションや企画などについて、やってきたことを包み隠さず、時系列を追いながら詳かに書いてみようと思います。
長いので読み物としてお読みいただける方はお付き合いください。
目次
受験指導にあたる毎日、モヤモヤするものを抱えていました。
“偏差値”と“やる気”の物差しで生徒を評価する受験学習に、どこかやりきれなさを感じていたのだと思います。
「きっちりやれない子」「理解が遅い子」「模擬試験で点数が取れない子」などに対して、ネガティブなレッテルを貼ってしまうこと、貼られてしまうことがあります。
人としてはとても優しくて、いいところがたくさんあるし、絵がうまかったり、スポーツが大好きだったりする、褒めてあげたいところが無数にある、そんな子たちだったとしてもです。
でも、僕自身の力不足もあり、「受験勉強」という文脈の中では、それを褒めることが難しい。
「すごくいい子なのになぁ」
この“なのに”に、耐えられなくなってきた自分がいました。
もちろん、受験勉強や進学指導の楽しさ、やりがいも知っています。
そして、それを通して成長していく子どもたちの姿は本当に尊いものです。
ただ、その流れから逸れた子たちは、ダメなのか。認めてあげることはできないのか。
そんな想いが日に日に膨らんでいました。
好きなことを学ぶこと、楽しく学びに取り組むこと、その子なりの成長を承認してあげること。
悶々とする日々の中、新しい学びの形や新事業の模索を始めたのがこの頃です。
そして、受験期を終えて少し落ち着いてきた4月。
確か、ちばさと先生のこのツイートだったと思います。
4月。国語の先生におすすめの本。
1、『物語の役割』小川洋子(ちくまプリマー新書)国語を教えることが誇らしくなる
2、『イン・ザ・ミドル』 ナンシー・アトウェル、 小坂 敦子・澤田 英輔・吉田 新一郎訳(三省堂)私は、この本をヒントに今年度の授業を改革しようと考えています。ぜひご一読を— 千葉聡 (@CHIBASATO) April 3, 2019
ちばさと先生ほどの方が、授業の改革の軸とする実践とは一体? という興味から「イン・ザ・ミドル」を即発注。
手にとって、衝撃が走りました。
読んで数ページでやりたいことのイメージとガンガンに合致して、次から次へとアイデアが膨らんできました。
自分だったらこうする。塾だったらこれも出来る。
「これだ」
大興奮のうちに読破。読み終わる頃には付箋と書き込みがビッシリでした。
あのツイートを読んでいなかったら、かまくら国語塾は生まれませんでした。いつか、ちばさと先生にもお礼に行きたいと思っています。
そして、イン・ザ・ミドル訳者である澤田英輔先生になんとかしてお目にかかって、事業のヒントをもらいたい。そう画策し、密かに手紙を認めておりました。
イン・ザ・ミドルを繰り返し読みつつ、evernoteで澤田先生への手紙の原稿を書いている時、ふと思い立って「ライティング・ワークショップ」で検索をかけてみました。
すると、こんなイベントがヒットしました。
こ、これは!! 行くしかない! しかも、神奈川。このタイミングであるなんて、まさに「渡りに船」。天の思し召しか。
なんとしても、行かねば!
はやる気持ちをおさえながら、サイトをよく見ると、、、
なんと締め切り5月24日厳守。
(この日は5月30日)。
………。
………。
(「申し込み多数の場合、抽選です」とかも書いてある。ダメだ…)
待て。でも、ここで諦めるわけには行かない。
自分の気持ちはそんな程度か?
今回、このセミナーを誰よりも必要としているのは自分だ。
自問自答の結果、すぐに青少年センターに電話を。
「あー難しいかも知れませんね。満席になっちゃってます。。。」
「そこをなんとか! 私以上にこのセミナーを求めている人っていないと思うんです!(超失礼)」
「分かりました。キャンセル待ちということで受け付けておきますね」
……断り文句やん。ハァ。
天啓が我が手から滑り落ちて行った瞬間でした。
二千里の果てから故郷に戻ってきた魯迅並に打ちひしがれ、飯も喉を通りませんでした(嘘)。
そして、数日後。
見覚えのない番号から着信。
普段ならあまり出ませんが、つい通話をタップ。
「神奈川青少年センターですがー」
「……えっ! あ、ハイハイ。えっ、あっ、マジすか! ありがとうございます!! うわーめっちゃ嬉しいです」
大人のマナーを忘れて舞い上がった瞬間でした。
そして、ついにやってきたライティング・ワークショップセミナー。
せっかく掴んだ機会を無駄にするわけにはいきません。鬼気迫る表情でメモを取る姿に周りは少し引いていたかもしれませんね。。。
澤田先生の講義と実際のワークショップは、そのすべてが有益で楽しく、ヒントが満載でした。
人生で一番充実した研修だったとその日にツイートしています。
6時間の研修会が終了した。人生で一番充実した研修だったな。タイミングといい内容といい、世界が広がった。しかも無料。神奈川県、ありがとう!
— 中本順也|すばる進学セミナー&かまくら国語塾| (@nkmt0418) June 9, 2019
そして。
この日の最終目標として持っていた、澤田先生にアポを取ることにも成功。
大満足。
ただ一方で、実は一番困っていたのはこの時期で、「やりたいこと」と朧げながらそれを実行するイメージはあるものの、実際にそれをどう運用していくのか、また事業としてどう回していくのか、ということが全然決まらないという悩みがありました。
メンターに相談したり、自分なりに熟考したりして、ようやく落とし所が見つかりました。
運営母体をすばる進学セミナーにし、その新規事業と位置付けることにして、開催場所と初期投資の費用をすばるから出せるようになり、すごく動きやすくなりました。
すばるもすばるの生徒も大事にしながら、新しいことを始められる。
応援し、賛同してくれた同僚の皆さんには、ただ感謝です。
ある程度方向性が見えてきてからは、塾業界や鎌倉の友人たちに可能な限り事業計画を聞いてもらい、ダメ出しを含めてどんどんアイデアを膨らませるようにしていきました。忙しい中、付き合っていただき本当にありがとうございました。
そして、澤田先生とのアポ@軽井沢。
(新幹線かがやきに初めて乗車)
コメダでみっちりとお話を聞いていただくこと二時間。
塾でやるなら。少人数でやるなら。オンラインと併用するならetc……。
たくさんのご助言をいただき、向かうべき方向性と事業の輪郭が明確になり、「やれる」という確信を持った時間でした。
無礼な依頼にも関わらず、快くお引き受けいただいた澤田先生、ありがとうございます。
謙虚で親身で優しくて素敵な方でした。
澤田先生のブログはこちら。
そして、7月下旬には、「かまくら国語塾研究会」を開催。
ライティング・ワークショップを実際に少人数で運営するとどうなるのか、デジタルデバイスとの併用、カンファランスのタイミング、ミニレッスン→書く時間→共有の時間と進行していく時のバランスは大丈夫なのか。
書き手として信頼できるすばるの元生徒(大学生以上)を集めて模擬レッスンを行い、遠慮なくアドバイスをもらう時間を作りました。
二時間程度のワークショップのあとフィードバックをもらい、同時にたくさんのアイデアも。
最後に共有があるので、書いた直後に周りの意見が聞ける点、また書いたものを読んでもらえる点、先生も書いたものを共有してくれる点(これはフェアさもあるが技術を参考にできるので貴重だとも思った)。
少し恥ずかしい。せっかく声をかけてもらっても、もやもやに自分自身が気づいていない時は上手く助けを求められない(手あげ制の方がいいかも)。
集中モードに入ってる時は声をかける回数を少なくするなどのケアが必要かも。
気の置けないメンバーからの熱いサポートを受けて準備を加速していきます。
かまくら国語塾ロゴが完成。(Jump start株式会社 桑畑さんデザイン)
鎌倉の海と山と太陽と。
そして、“言の葉”が編まれているデザインとなりました。すごく気に入っています。
書き手の権利10ヶ条のデザインも上がってきました。こちらはJump start河内社長にお願いしました。
かまくら国語塾で大事にしている考え方として「安心できる場づくり」があります。
書きたい、と思っていてもその気持ちを色んなモノやコトが邪魔してきます。それらから自由になって安心して自分を表現できるように「書き手の権利10ヶ条」を保障しています。
これはイギリスの「ナショナルライティングプロジェクトUK」が作成したものであると言われていて、かまくら国語塾に設置するポスター用に新たにイラストデザインを起こしました。
可愛いし、インパクトがあって、かまくら国語塾のメインビジュアルとして使用しています。
webサイトが完成。(budding株式会社)
10月1日 かまくら国語塾のスタートを正式リリース。
かまくら国語塾自体がまったく新しい塾で、認知もされていなければ得体も分からないし、保護者や子どもたちが「やってみよう」と思うにはハードルも高くて、かなり勇気がいると思います。
だから、webサイトやロゴ、メインビジュアル(書き手の権利10ヶ条)をしっかりと作りこむことで、本気度や安心感を伝える必要がありました。
かまくら国語塾でこれから取り組むこと、目指している方向性など、そして何よりこの事業にかける「想い」が多方面から伝わるといいな、と願いを込めて。
そして、ワークショップに参加してもらえれば、一歩を踏み出してもらえれば、きっとその楽しさが分かってもらえるはずだと。
だから、そこの導線(想いから行動へ)が可能な限りスムーズに行くよう意識して、プロモーションをかけたつもりです。
ワークショップは募集開始からおよそ20日間で満席。
安堵と、感謝。
新しいことを始める際、自分でデザインが出来ないのであれば、信頼できるデザイナーがいることで事業は一気に前に進むので、ランサーズでもいいですし、紹介でもいいと思うので、まず良いデザイナーを探すのはすごくお勧めです。
体験ワークショップ開催。
ここまで準備してきたことをお披露目する初めてのイベントです。
かまくら国語塾の通塾にあたっては、子ども本人と保護者の双方に納得してもらうことが必要です。
そのため、ワークショップは親子で参加していただく形としました。そうすることで、子どもたちのハードルも下がるし、帰ってからもお互いの作品を読みあったりすることで、楽しさや興味が続くのではないかという狙いです。
参加した保護者からはこんな感想も。
忘れていた言葉での楽しい空想時間。 自分の言葉を探す豊かな時間をありがとうございました。
ワークショップの感想を本人や保護者にGoogleフォームで送ってもらうようにして、開講後のレッスンに向けて徐々にオンラインでのやりとりがスムーズにしていくよう心がけました。
実際、かまくら国語塾には電話番号がありません。あるのは保護者との連絡用LINEとGoogle classroomのみです。
電話を使わずに《告知→説明会→入会→日常のやりとり》を実現できたのはすごく良かったところです。
ワークショップ当日の様子はこちらのブログにまとめました。
また、このワークショップには友人も参加してくれてその様子をブログに書いてくれました。勉強犬ブログ
さらには、塾業界の友人で辣腕カメラマンである、イルム元町スクールの甲斐先生も駆けつけてくれて、たくさんの素敵な写真で記念すべき第一歩を彩ってくれました。
一枚一枚の洗練された写真はすごく雄弁で、改めて写真の持つ魅力やパワーを感じます。
11月下旬には、地域をよくするアイデアと人が集うカマコンでプレゼン。鎌倉の熱い人たちが集まるコミュニティです。
鎌倉で新しいことを始めるということの認知を広め、「子どもたちのインスピレーションをどこまでも引き出すためのアイデア」についてブレストをし、多くのアイデアをいただきました。
FacebookやTwitter、そして友人や地域からの応援。
色々な人の支えや拡散で良いプレ・スタートを切ることが出来た11月でした。
入塾説明会&体験ワークショップの募集を開始。
これは入塾説明会もセットですので、ある程度入会したい気持ちがある方にお越しいただくような文言で募集をかけました。
すぐに埋まる、という感じではありませんでしたが、じわりじわりと一ヶ月半ほどで満席に。嬉しかったですね。
まだ理解が浅いGoogle classroomの勉強のため、湘南学園の小林勇輔先生(Google for Education Certified Innovator)にアドバイスをもらいに伺いました。
オンラインでのやりとりについては、ほぼ想定していたことがすべてGoogle classroomで実現できることが判明。
G suiteの契約をして、リアルとオンラインの二本立てで子どもたちの「書く」と向き合えるように準備を進めました。
そして、これが結果的にコロナで身動きが取れなくなった4月・5月のオンラインかまくら国語塾を支えることになります。
その後も小林先生と山田先生(同じく湘南学園)には、IT関連で困ったときのアドバイザーとしていつもサポートしてもらっています。ありがとうございます。
いよいよ入塾説明会&体験ワークショップ。
二回に分けて実施した説明会とワークショップでしたが、特に二回目は新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた時期で、直前のキャンセルが数件ありました。
一つ一つ丁寧に積み上げるように準備をしてきた新規事業のスタート直前、氷水をかけるようなまさかの事態に、血の気が引きました。
厳戒態勢の中、開催した説明会&ワークショップ。
それでも参加して下さった方にはご満足いただけたように思います。
ここでも友人が一緒に参加してくれて、盛り上げてくれました。
入塾説明会を経て、後日Googleフォームにて入会の意志を確認させていただく形に。
社会的な不安がどんどん増大する中、無事にスタートが切れるのか、一人も来なかったらどうするのか、そんな心配が膨らみました。
それでも。
結果的に、説明会にご参加いただいた12名のうち11名に入会を決めていただきました。
我ながら驚きの入会率の高さでした。
子どもたちや保護者のみなさまの大きな期待が伝わって、感極まり一人涙を流したのは秘密です。
3月6日よりスタート!
と、散々触れ回っていましたが、コロナ懸念から予定通りのスタートはできず……
続きは中編で。
本当にたくさんの人に支えられて応援してもらって、またラッキーが重なり、何とかスタートに漕ぎ着け、無事に初年度を終えることもできました。
コロナで大変でしたが、コロナだったから出来たこと、進化したこと、そして、書けたものもあります。
常に柔軟に。そして、強い想いと共に動くこと。
とても大切なことを学んだ一年でした。
そして、かまくら国語塾の構想を始めた時からずっと持っている願いがあります。
それは、このかまくら国語塾という存在を好きになってくれる人が増えるといいな、ということです。
そのことが、書くことや読むことを楽しむ子どもたちへのパワーとなると思ったからです。
まずは、第一歩を踏み出せました。支えてくださったみなさま、応援してくださったみなさま、ありがとうございます。子どもたちが楽しく言葉を編む場をこれからも創っていきます。
さて、これまで四年間、自分が書いてきた中で最も雑駁なブログ記事となりました。
最後まで読んでくださった方はいらっしゃるのでしょうか。
でも、振り返るのが楽しかったので、懲りずに(中)(下)と書いていこうと思った次第です。
お時間あればまたお付き合いください。