2018年全国の公立高校入試問題(国語)を難易度・問題のバリエーション・記述量など、独自の観点で分析していきます。目標は全国制覇。第3弾は茨城県。他県の方のための茨城県入試活用法にも触れています。取り上げる順番に大意はありません。
筑波嶺の峰より落つる男女川 恋ぞつもりて淵となりぬる(陽成院・百人一首)
総評
- 難易度 ★★★☆☆
- 面白さ ★★★★☆
- 記述量 ★★★☆☆
- 問題のバリエーション ★★★☆☆
- 神奈川度 ★★★☆☆
茨城、結構気に入りました。選択肢がよく出来ています。集中力が必要とされる出題で歯ごたえもあり。県教委が発表している平均点は59.06点(100点満点中)です。割と凝った問題が多く感心しました(偉そう)。古典分野の出題が和歌の解説文でこれは古典と呼べるのか気になるところです。ラストの話し合い問題は「言いたい放題」なところが痛快でした。
記述問題はラストに160〜200字。結構大変ですが取り組む価値はあります。それ以外にも50字以内、40字以内の問題がありそこそこ「書かせる」出題となっています。
問題のバリエーションは一般的でしょうか。古典分野の出し方は特徴的ですが、説明文・小説文・話し合い問題はよくあるパターンと言えるでしょう。
選択肢は練ってありますし記述問題の難易度が非常に高く苦戦は必至です。全国入試の中では中級から上級にかけてくらいの難易度かと思いますので、問題演習として使うのであれば受験勉強の後半に取り組むと良いでしょう。
神奈川の方が一番多くこのブログを訪れるかと思いますので、「神奈川度」を付け加えておきます。神奈川度は「星3つ」です。説明文・小説文のセレクトは似ているところもあり、選択肢の長さ・設問のリードの長さもシンパシーを感じます。一方で古典の出題方針は大きく異なります。ラストの話し合い記述もかなり書かせるのでマークシート重視の神奈川県では今後しばらくはこうならないでしょう。
各問分析
各問題に5段階のレベルをつけながら分析していきます。Lv.5が一番難しくLv.1が簡単ということになります。
大問1 小説文 小瀬木麻美「あざみ野高校女子送球部!」
バドミントンやバレーボールなど女子主人公の青春小説の執筆が中心の現役書店員作家の作品。公立高校の出題っぽくないセレクトですね。特に茨城出身ということでもないですし。何でこの文章を選んだのかは謎です。行間の心情描写が少し雑で結構読みにくい文体です。
出題している文章は2000字程度とあまり長くはありません。この短さのわりには登場人物が7人登場。多すぎます。(余談ですが小説執筆の際は20,000字程度の短編を書くときでも3人。100,000字を超えて初めて7人の人物を出して書き分けができると言われています。)多すぎるがゆえに人物同士の関係性、心情の読み取りも深まらず、キャラを掴む前に問題文が終わってしまい盛り上がりもありません。
ちなみに神奈川2018の小説文の文字数は5000字超です。神奈川級の長さは東京に期待するしかないのか…
- 問1(Lv.1)漢字。難しくはありません。「縮む」「難しい」「泳ぐ」の書き。特にポリシーなし。漢字の問題でポリシーがある県にいつになったら出会えるのだろうか。旅は続く
- 問2(Lv.3)心情の理由を問う選択問題。意外と難しい。消去法でも解けるが、分割しながら丁寧に選びたい。文章の後半に明確なヒントがあるので、傍線部近辺だけを読むのではなく最後まで読み切って答えてほしいという意図が見え隠れする
- 問3(Lv.4)心情を答える記述問題。難しい。強調されている「…はずです」を上手く記述で答えられるか。「文章中の言葉を使って」という条件がつくが、どの言葉、どの部分を使っていいか非常に悩む結果に。むしろ自由に書かせてもらった方がいい解答が書ける。難しいが良い問題とは言い難い
- 問4(Lv.2)心情の間接表現の理由を答える選択問題。選択肢をよく読めば間違えない。登場人物たちが何を肯定し、何を否定しているかをはっきり読み取れていればできるはず
- 問5(Lv.3)文章中から読み取れる登場人物の心情変化についての選択問題。冒頭にも記したが、この短さで人物像を把握させるのは少々無理ゲー。こじつけと消去法で正解は導けるものの正攻法とは言えない。やや残念な問題
大問2 説明文 亀田達也「モラルの起源-実験社会学からの問い」
小説文は酷評してしまいましたが、説明文はいいです。ここが気に入っているポイントです。願わくばここで問題数を増やしてほしかったものです。問題文もよく良問が続いているため問5で終わるのが惜しいと感じます。
- 問1(Lv.1)漢字問題。「巧妙」「洞察」「遂行」。簡単な字ではないが読めないことはない。
- 問2(Lv.2)脱文挿入問題。公立ではやや珍しい。脱文挿入は脱文の中のキーワードをつかみつつ、本文の中と照らし合わせていけばできる。このコツを知ってさえいれば箇所が限られてくるので解ける
- 問3(Lv.4)言い換え記述。指定語句を3つ使っての40~45字の記述問題。具体性を持って正しく説明できるかは苦しい。正解率は10%を切りそう。ただ、3つの指定語句を文中で具体的に使用している箇所が一箇所しかない。ここを突破口にまとめていけばできると思うが、そこまで出来る中3生は一握り
- 問4(Lv.3)文章中で述べている内容についての選択問題。的確に読んで細かいところまで理解しようと努めないと間違える。これは良問。文中に登場する語句についての理解が深くないと解けない
- 問5(Lv.3)筆者が出題されている問題文とは別の文章の中で同テーマについて説明している80字程度の文章を見せ、そこに空欄を作りキーワードを補充させる問題。なかなか凝った出題で面白い。抽象化、置き換え、本質の理解、と複数の要素が絡む良問。文章の要旨を掴んでいれば出来る。正解は三字のキーワード。三字で書き抜かせる問題であれば簡単だが五字以内であるところが一捻りあっていやらしい
大問3 古典融合問題 吉海直人「読んで楽しむ百人一首」
百人一首の和歌が冒頭紹介され、それについての解説文を読んで答える問題。さらに感想を話し合ったりするという盛りだくさんな問題。これで古典的要素を吸収するのはやや暴挙。受験生に古典の勉強はしなくていいと言っているようなものですね。
- 問1(Lv.1)「いふべき」を現代仮名遣いに直す問題。全国でもたまに見かけますが出す意味ありますか? 歴史的仮名遣い。問題の無駄
- 問2(Lv.2)万葉集に収められている和歌を選ぶ選択問題。2つは31音で2つは17音だから自ずと二択。万葉集の和歌とか分かるかな…とドキッとしたが、もう一つの31音は若山牧水。明治時代。あまりに時代が違いすぎて間違えようがない
- 問3(Lv.2)言い換えている言葉を書き抜く問題。直前にあるので易しいが、指定は「一字」。候補が無数にあるのでちょっと迷うかも
- 問4(Lv.3)歌が高く評価されている理由について解説文を読んで記述する問題。35字~40字。文章中の強調語「こそ」に注目できていれば解けた。慣れていないと解けないし記述問題に抵抗ある人は苦戦する。すっきりと答えたい
- 問5(Lv.2)文章の内容に合っているものを答える選択問題。丁寧に読んでいけばわかる。消去法を使いつつ、要旨をきっちりとおさえていけば正解出来る
- 問6(Lv.2)話し合いの内容について、ある感想を持った理由を書き抜く問題。32字の書き抜きをどこからにするか迷うところだが、文章中のポジティブな表現のところを探すと良い。こういった鑑賞文はポジティブ表現、ネガティブ表現、筆者がことさらに強調している部分などに注目して読んでいくとヒントが得られやすい
大問4 話し合い「学校図書館の掲示物の改善について」
五人がテーマについて話し合っているが、話し合いというか痛烈なダメ出しのオンパレードで結構笑えました。否定意見が続出する逆ブレストのような形になっています。そして話し合い問題だと思っていたらまさかの問題も登場! 何を見るための問いなのでしょうか。若干焦点ブレを感じる大問4でした。
- 問1(Lv.2)「丁寧に」と同じ品詞のものを選ぶ選択問題。まさかここで! part1。形容動詞をきちんと分かっていれば良いが品詞をちゃんと教えてくれる学校の先生がどれだけいるのだろう。塾の先生もまた然りではあるが
- 問2(Lv.1)話し合いの途中にある空欄に適する接続詞を選択する問題。まさかここで! part2。簡単。
- 問3(Lv.1)行書で書かれた「閉」の部首と同じ部首を含む漢字を選択する問題。まさかここで! part3。不思議な問題が続く。書写をどうしても出題したいのと部首も捨てがたいのだろうが、まとめちゃえ!という妙な勢いすら感じられるなんとも言えない問題である
- 問4(Lv.2)話し合いの意図について答える選択問題。解き慣れていれば選択肢のパターンも限られているので出来るはず。過去問をやる意味はありそう
- 問5(Lv.4)全員の話し合いを踏まえて改善案をまとめる記述問題。160字以上200字以内。全員の意見の要約をしてさらにその改善案とした理由も書く問題。これは旧神奈川問題と同傾向と言える。今や神奈川は別の形式になったと言えるが参考にならないことはない。むしろ茨城の方が2017以前の神奈川問題を参考にしてもらえると良いのでは? 配点は10点。ここは確実に取りたい
使い方
他県の方が解くなら大問2の説明文一択です。古典は参考にならず、小説文はあまりお勧めしません。話し合い問題最後の自分の意見を述べる200字記述は、役に立つ県もありそうです。
全国入試は実力を測る段階では時間を計って解くことが大切です。茨城の説明文は中級ですし、小説文も含めて記述問題はそこそこ重い。記述重視の県のトレーニングのとっかかりには良いのではないでしょうか。時期的には11月以降でしょうか。
全国入試は解けば解くだけ力がつく魔法の教材です。ただし、解き方を間違えてはいけません。国語の考え方、解き方を熟知した上で取り組んでいくことが重要です。そして、問題のレベルや種類、結果を分析して自己研鑽につなげていくことが重要です。実力がつくことはさることながら、いろんな県の問題を解くと新たな発見がありますし、ご自身の県で変化球が出題された時の対応力が磨かれます。どんどん取り組みましょう。
国語の説明文の解き方についてはこの記事も参考にしていただければと思います。
茨城といえば筑波大。今をときめく落合陽一も筑波大ですね。卒業生が楽しく通っているようです。
おわりに
全国入試行脚、第3弾として茨城県をお送りしました。いかがでしたでしょうか。全国制覇目指して引き続き頑張りますが道のりはまだ長いですね。茨城県の塾の先生、もしご覧になっていたらご意見頂戴できると嬉しいです。蚊帳の外から事情も分からず大変失礼いたしました。
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