受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


作家のセカイ① 田丸雅智さん(ショートショート作家)× かまくら国語塾

2020.07.28


朝日新聞で“オーサー・ビジット”という、現役の作家が学校を訪れて特別授業をするという企画があって、いつか自分の教室に作家を呼んで、子どもたちに書くことの楽しさ、読むことの喜びを伝える場を作りたいと思っていました。そしてこの日、その夢が叶います。情熱大陸にも出演された現代ショートショートの旗手・田丸雅智さんによる、かまくら国語塾メンバー向けの創作講座の開催が実現しました。

どうやって企画が実現したか?

友人が運営するイルム元町スクールのオンラインイベントで、田丸雅智さんのショートショート講座が開催されていて、その動画を拝見し、衝撃を受けたのがこの四月。この講座は、かまくら国語塾の目指すライティングワークショップの理想にかなり近い形で構築されていて、参加者の子どもたちが本当に生き生きと創作と向き合う姿を目の当たりにしました。

「オーサー・ビジットをお願いするなら、一番最初に田丸雅智さんに来てもらうべきだ」とリトル中本が言っていたので、熱烈オファーをしたところ快諾いただき、今回の講座の開催が決まりました。

事前の打ち合わせでかまくら国語塾の理念をお伝えすると、たくさんの共感をいただけたので、自慢のメンバーたちと田丸さんが会ったとき、一人ひとりにどんな化学変化が起きるか、楽しみでなりませんでした。

田丸雅智さんとショートショート講座

日本だけではなく海外の小学校、さらには刑務所でもこの講座は開かれていて、その綿密に編まれた企画の完成度の高さは特筆ものです。本当に「誰でも」書けるようなメソッドとなっています。

かまくら国語塾のメンバーは普段から「書く人」ですが、今回この田丸さんの手法を体験することでさらに創作の幅が広がることを狙っていました。子どもたちの中には“田丸ファン”もたくさんいて、この企画を発表したときには歓声が上がったほどです。

改めて田丸さんのプロフィールはこちらです。

<田丸雅智さんプロフィール>
1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。12年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、現代ショートショートの旗手として幅広く活動している。書き方講座の内容は、2020年度から使用される小学4年生の国語教科書(教育出版)に採用。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。

4月末に情熱大陸に出演されていたのも記憶に新しいですね。

ショートショート講座×かまくら国語塾

今回のレッスンの進行はすべてお任せして、私も「書き手」として参加させていただきました。構成もかまくら国語塾と似ている部分もありましたので、子どもたちはスムーズに講座に入り込めたように思います。

書くこと、ショートショートについて(ミニレッスン)

まずは、ショートショートというものがどういうものなのか、そして「面白がって書こう」というお話が5分ほどありました。「楽しみすぎて昨日は眠れなかった」という子もいて、教室内のボルテージが沸々と高まっていきます。

ふしぎ言葉を探して想像を広げる(書く時間)

ここからが本題。「ふしぎ言葉を探す」ワークから始まります。身の回りにある言葉を20個挙げて、その言葉から一つを選びます。大人は考えすぎてしまうからか意外と大変なのですが、子どもたちはさすがのスピードで一気にワークシートを埋めていました。

迷ったら近くのものを書いてみよう

田丸さんからもアドバイスをもらいながら、講座は進んでいきます。

続いて、一つ選んだ言葉から連想されることを10個挙げます。私は「虹」を選んだので、そこから「七色」「雨上がり」「一瞬で消える」「むしへん」「弧」「反射」「狐の嫁入り」「とうがらし」「美しい」「9月9日」と連想しました。

次は10個書いた連想語と最初に書いた単語を組み合わせていきます。そうすることで、自動的に“ふしぎ言葉”が生成されていく仕組みです。「七色温度計」「一瞬で消える付箋」「とうがらしサンダル」「9月9日の友だち」という感じですね。

早く埋まってしまっても先に行かなくていいよ。もっとたくさんのアイデアを考えてみよう

何度か発せられていた田丸さんのこの声かけが印象的でした。
この言葉は「すぐに埋められた順調な人」と「まだ埋められていないで焦っている人」の両方に響く言葉です。

順調な人は、アイデアを膨らませることで“おはなし”に広がりを持たせることができますし、進みが遅い人も周りが先に行ってしまうことによる焦りを感じる必要がありません。優しい声かけで空気感が和らぎました。

次に想像を広げて設定を考えます。そのふしぎ言葉はどんなモノか、どこでどんなときに、どんな良いことがあるか。逆にどんな悪いことがあるか、を書いていき、ストーリーを紡いでいく準備をします。

みんなが作ったふしぎ言葉の発表では、「サイフのあいつ」「光る紙」「ジャンケン戦国時代」など、ふしぎ言葉がどんどん出てきて、このあと生み出されるストーリーへの期待も自ずと高まります。

ショートショート創作(書く時間)

準備ができた段階で、いよいよ創作タイム。実際に書いている時間は20分程度でした。

この創作タイムを迎える前、田丸さんが話をしてくださっている時に、どうにも落ち着かなくなるメンバーの態度に思わず笑ってしまいました。ソワソワしているし、あんまり話聞いてないし、手は動いているし。

でも、これが通常運転です。もう自分の頭の中でストーリーが動き出してしまって、それを言葉や物語にしたくてたまらないという状態(ゾーン)に入ってしまっていたわけです。田丸メソッドはさらに刺激が強かったようで、この日のソワソワは普段以上でしたね。

失礼に映ったかもしれませんが、毎回のデフォルトです。すみません……

「じゃあ書いてみよう!」の声と同時に一気に動き出すメンバーの手。
紙に手書きをする人も、タブレットを取り出して入力を始める人も、PCでガンガン打ち込んでいく人も、いつもの景色。前期の二ヶ月を経て「書くことを楽しむ」という点で、突出した力を発揮できているメンバーがたくましく映りました。

消さなくていいよ

どんな物語でも構いません

書いちゃいけないことなんかありません

田丸さんは、事あるごとに「安心」を呼びかけます。かまくら国語塾の空間はこの日も「安心できる場」として存在していました。アドバイスを求めたり、悩んだり、本を読んでヒントを探したり。子どもたちが自主的に動いていて、“自由に書ける場”としてのデザインが出来てきたなぁという手応えも感じました。

発表タイム!(共有の時間)

いよいよ、作品の発表タイムです。なるべくたくさんの作品を聞いてもらいたかった(私の作品も見てもらいたかった笑)ですが、時間の関係で少し限られた人数となってしまったのが唯一の心残りです。

発表時の田丸さんのコメントは、作品の良さや魅力を具体的に捉えたもので、そのコメントを聞いた子どもたちは本当にいい顔になっていました。この「プロの作家に自分の作品を見てもらいコメントをもらう」という経験は滅多にできることではありませんし、こればかりは私が提供できるものではありません。

非常に貴重で有意義な機会となりました。

ショートショート講座については、こちらの本で追体験が可能です。
長期の休みなどに取り組んでみると面白いと思います。親子で作品を創作して見せ合うのも素敵ですね。
構成もすごく分かりやすくできているので、“やらされ自由研究”なんかよりショートショート創った方が絶対に楽しいと思いますから超おすすめしておきます。

田丸さんへ「サプライズプレゼントを!」ということで、先日のレッスンの時に話し合いました。きっと「ショート」が好きなんだろう、ということでまとまり、“ショートがつく言葉”で創った、かまくら国語塾一期生オリジナルのショートショート作品集「世にもショートな物語」を無理やり贈呈して、この日の講座を終えました。

終了後はサイン会も行われ、メンバーのみんなには大満足の一日となったのではないかと思います。

「超楽しかった。もっとずっと書いていたかった」

「いい作品書けたから、今度読んでくださいね!」

「田丸さんにサインもらった本、宝物にします」

「今日のこと、一生忘れない!」

口々に素敵な感想を残して去っていくメンバーの姿を見て、こちらも嬉しくて胸がいっぱいになりました。

田丸さんへの質疑応答を公開

せっかくの機会ですので、こちらからどうしても聞きたいことをぶつけてみました!

Q:物語を生み出すときに何をやっているのか(頭の中を教えてください)。

常日頃、何かないかなと探しています。よくアイデアは降りてくるとか降ってくるとか言いますが、そんなことはありません。常日頃アイデアを取りに行く、創りに行くという気持ちで過ごしています。例えば、電気のスイッチ。これをよく見ていると目みたいに見えてくる、とか。アイデアや発想の種はどこにでも転がっています。

Q:書きたいけど書けないときにどうやって話を作るのか。

プロの作家も悩む永遠の課題です笑
自分がどういう時にお話が創れるか、というのを自分で把握することが大切です。これまで体験してきた「書ける時・書ける場所」はいつなのか、どこなのかということを自分で知っておくと、詰まった時などに無理やり「いい環境」に身を置いて、自分の方からアイデアを取りに行くということができるようになります。

Q:作家として日ごろ心掛けていること。ルーティンなど。

常日頃いろいろなことにアンテナを張っているというのは、大切にしていますが、特にこれといったルーティンは設けないようにしています。「こうでなければならない」というものを作ってしまうと、そうでない状況が生まれた時に「弱いな」と感じています。場所とか時間を決めずに、いつどこでも書けるようにしていますね。

Q:「書く人」で良かったなぁと思うとき。

自分が感じたことや想ったことを作品という目に見えるものにすることができる、そしてそれを誰かに共有できる、誰かに読んでもらえる、ということが幸せです。自分が好きなものや嫌いなもの、もっと言うと自分が「生きている」ということを作品に閉じ込めて、誰かと一緒に感じ合うことができるというのが、作家をやっていて良かったなと思うことです。

終わりに

子どもたちは普段にも増して楽しそうに物語を書いていましたし、私自身も夢中になって取り組み、夢の時間は飛ぶように過ぎ去りました。

田丸さんは講座の中であくまで「楽しさ」を追求し、そして何より、メンバーのみんなに「安心」を何度も何度も訴えかけていました。これはかまくら国語塾でも最も大切にしていることの一つです。

「書く」ことへの抵抗、「読まれる」ことへの不安を子どもたちは少なからず持っています。それを取り除くための声かけは小さな作家たちが創作の第一歩を踏み出すために不可欠です。楽しく、そして安心して過ごせた70分となりました。

かまくら国語塾が目指す書く「楽しさ」は、私一人が提供するものでは断じてありません。時にプロの力を借り、時に仲間に背中を押され、時に家族に絶賛されていくことで、小さな作家たちの意欲も喜びも何倍にも膨れ上がるはずです。創作活動は孤独かもしれませんが、「書くこと」は人とのつながりの中で世界を広げていくことでもあります。

そして、今回の講座を経て、かまくら国語塾はまた一歩前に進もうと思います。

“作家のセカイ”という企画として、今後もたくさんのプロの作家をお招きして、子どもたちに技や視点を伝授してもらえる場を提供してまいります。そして、「書くこと」は本当に楽しく素敵なことである、という作家の方々の想いを子どもたちに伝えていきたい、そんな風に思っています。

できれば年に2回。

もし、「行ってやってもいい」という小説家の方がいらっしゃいましたら、また、知り合いの作家を紹介できる、という方がいらっしゃいましたら、どうぞお声がけください。

「ならでは」の視点で子どもたちの世界を広げていただけませんか?
鎌倉で待っています。

田丸雅智さん、改めてたくさんの気づきと楽しい時間をありがとうございました。
今後のご活躍をかまくら国語塾一同、心より応援しています。