受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


《国語》2018全国高校入試問題行脚2:奈良県

2018.07.12


2018年全国の公立高校入試問題(国語)を難易度・問題のバリエーション・記述量など、独自の観点で分析していきます。目標は全国制覇。第二弾は奈良県。他県の方のための奈良県入試活用法にも触れています。取り上げる順番に大意はありません。(最近お知り合いになった方が奈良県でした)

総評

  • 難易度  ★★☆☆☆
  • 面白さ  ★★☆☆☆
  • 記述量  ★★☆☆☆
  • 問題のバリエーション ★★★☆☆
  • 神奈川度 ★★☆☆☆

ちょっと簡単かな、と思いました。40分の試験時間での問題で大問が4つ。県教委が発表している平均点は33.5点(50点満点中)です。もう少し高くてもいいような気がしますが、時折難易度が高い問題が登場する点とラストの記述が100~150字である点を踏まえるとこんなものかもしれません。

記述問題は最長で150字。採点は甘そう。それ以外にも字数指定がない60字程度書かせる問題がありますがほぼ書き抜きに近いですね。

問題のバリエーションは大問4つということもあり豊かとは言えません。都合上、大問の中に助詞や行書、動詞の活用形や返り点なども盛り込まれます。文学的文章として随筆文の読み取りは珍しいですね。

全体として「おっ!?」と唸らされる問題は特になく全国入試の中でも初級編と言えるでしょう。

神奈川の方が一番多くこのブログを訪れるかと思いますので、「神奈川度」を付け加えておきます。神奈川度は「星2つ」です。随筆文の採択、選択肢の文の短さ、古文の短さ・緩さ、ラストの記述問題の指示の少なさもあり、全体的に文字数が少なく感じます。もっとも神奈川は多すぎますが。

各問分析

各問題に5段階のレベルをつけながら分析していきます。Lv.5が一番難しくLv.1が簡単ということになります。

大問1 随筆文 森下典子「こいしいたべもの」

随筆文です。梅の花の香りを知った感動についての文章。体験や事実を通して感じたこと、気づきを読み取るという至ってベーシックな随筆。ハッと目を引く梅の花の可愛いイラストがついていますが問題には一切関係ありません。(なんであるんだろう…)

  • 問1(Lv.1)漢字。小学生レベル。「挨拶」「戻る」の読み、「肺」「窓」の書き。出題の意図も作問者の気合も感じられない。もっとも2018神奈川のように「苦衷」とかも困る人も多いと思うが。(余談ですが個人的には意図を感じられて「苦衷」好きです。「折衷」という言葉を知ってるのがまず前提。そしてこれを知ってさえいれば「チュウ」の読みが分かりそれを応用して苦衷を読むという2段階の難易度。痺れますね。身内贔屓)
  • 問2(Lv.1)言葉の意味を問う選択問題。「とうに」の意味だが、前後の文脈から容易に想像できてしまう。正答率は100%に近い。
  • 問3(Lv.2)筆者の心情を問う選択問題。「さえざえ」の意味や空気が澄んでいる様子、あたりの情景描写からも推測可能。他の選択肢が緩い。
  • 問4(Lv.1)文章中の表現に当てはまる表現技法を答える問題。正解は「直喩」だが直喩とすら書かれない。「ア 主語を省略して…」「イ 語の順序を逆にして…」「ウ 他のものにたとえて…」「エ 同じ言葉を繰り返し…」から選ぶことに。岩手県はきっちりと技法名を答えさせていたので良かったが、こちらは少々いただけない。
  • 問5(Lv.3)筆者の心情の変化、気づきについて答える書き抜き問題。こちらは良問。答えの箇所は傍線部から遠く、探すのは大変。ただし、随筆文の解き方の基本が「体験や事実に基づく気づきや感動」であることを踏まえると見つかりやすい。言い換え部分を探す力も同時に求められる。神奈川的に言うとむしろ説明文の書き抜き問題を答えるイメージに近い。
  • 問6(Lv.3)言い換えと抽象化の10字程度の記述問題。問いかけが漠然としていて答えづらい。抽象化に成功できるかと「どこまで書けばいいのか」のさじ加減が難しい。「奈良ルール」があるのだろうか。
  • 問7(Lv.2)行書のルールの選択問題。「あてはまらないもの」を選ぶことに。行書の基本ルールが理解できていれば正解は選べる。「点画の連続」「点画の省略」「曲線的」「形の変化」あたりがおさえられていれば大丈夫。神奈川県では未来永劫出題されることはないだろう

大問2 古文「韓非子」

最近人気の韓非子。文章自体は難しいですし、漢語が多いので読むのに苦労します。漢字から意味を類推する力が求められるのが韓非子です。ただし、それ以外は古文の基本に忠実に。人物をおさえること、主語を理解すること、古文のよくあるパターンを習得すること、です。

  • 問1(Lv.2)漢文の返り点を入れる問題。レ点と一・二点を的確に入れられればOK。慣れていれば難なく解けるがここまで勉強が回らないと取れない。(でも他にあんまり勉強することないしな…奈良の国語)
  • 問2(Lv.2)文中の表現についての現代文の解説文の穴埋め問題。「贋」の意味が分からないと厳しいな…と思ったら脚注に書いてあった。一気に簡単に。
  • 問3(Lv.2)文中の表現について現代語で解釈するとどうなるかという選択問題。選択肢の熟語の意味が理解できていれば解ける。語彙力が問われるので少々難しさもあるか。ただ正解以外の選択肢が違うことが想像できるので正解できる。

大問3 論説文 苫野一徳「はじめての哲学的思考」

文章は面白いし分かりやすいものとなっています。中学生が読んで学べる題材。言い換えや段落の役割、要旨の理解など説明的文章で確認したい力をバランスよく見るための良い問題と言えます。他県の方が使うならこの大問3をお勧めします。ただし、どこで正解し間違えているかはよく見ておく必要がありますね。

  • 問1(Lv.1)助詞の識別選択問題。格助詞「と」の中でも比較的間違いの多い引用の「と」についての問題。ただ、選択肢がプアすぎて楽勝
  • 問2(Lv.3)動詞の活用形選択問題。「の」につながる=連体形であることを知っているかどうか。準体言の「の」を教えられているか。「こと」に置き換えられる=形式名詞=体言だから連体形という文法的理解ができているか
  • 問3(Lv.2)同じ内容を表す箇所を25字以内で抜き出す問題。問題文をよく読めば「明らかにしようとした」ことを答えればよいことに気づき探しやすい。「自然哲学者」についての定義づけの箇所が見つかっていれば簡単に答えられる
  • 問4(Lv.4)筆者の考えの根拠を探る選択問題。これは難しい。根拠を探すという点では良い問題のようだが、個人的にはあまり良問とは思わない。本論は哲学について語り進めているのに敢えて科学について答えさせる問題。幹ではなく枝葉に目を持っていかせるような問題であり、そこで難易度を上げていくのは本質的ではない。本文中にはっきりと答えが書いていない、という点も気になる。論説文であるにも関わらずある程度の推論が必要だった
  • 問5(Lv.2)段落の役割を答える選択問題。一文目から「赤ちゃんや子供」と具体的な例が出てくるので分かりやすい。これは間違えたくない
  • 問6(Lv.2)科学と哲学に関する要旨をまとめる問題。全体を捉える力と筆者の中心となる主張を掴む力が求められる良問だが、入試問題としては決して難しくない。対比関係を的確に読み取る訓練としては使える

大問4 意見文を書く「読書週間の標語について」

最後に重たい150字以内の問題がやってきます。出題はいたってシンプルであり、答える方もそこまで深掘りしたり悩んだりしなくて済む問題です。何年分か練習を積めば満点解答が書けるのではないでしょうか。

  • (Lv.2)

めくる めぐる 本の世界

という読書週間の標語に見られる表現の工夫についてとそれを踏まえての自身の考えを100字以上150字以内で書くというもの。「めくる」と「めぐる」は反復ではないので語感が似た二語が紡ぐテンポやリズム感を説明したり、体言止めのことなどを言ったりすれば良いのかな? 自身の考えについてはとりあえず「味わい」とか言っておけば良い内容になりそう。標語については褒めるのがベースだと思うが、批判してもいいのかな。「センスない」とか。「響きは良いが、作った人の自己満足が透けて見え、他の人たちに対して推進しているようには感じられない」とか。

慣れていれば簡単に書けると思うので、奈良県の人は練習を積んでいるからできるはず。

使い方

他県の方が解くなら大問3の論説文一択です。随筆文が出題される県であれば大問1も解いてみると良いでしょう。古文は参考にならず、最後の自分の意見を述べる150字問題もあまり汎用性はなさそうです。

全国入試は実力を測る段階では時間を計って解くことが大切ですが、奈良県は時間があまりかからないので30分〜35分で解くと良いと思います。論説文は中級ですので、良い練習になるでしょう。どこの県の方も取り組めるはずです。逆に奈良県の方は随筆文を実施している千葉や大阪、高知などを参考にして取り組んでいくと良いですね。随筆文の出題、困りますね。サンプルが少なくて。

全国入試は解けば解くだけ力がつく奇跡の教材です。ただし、解き方を間違えてはいけません。国語の考え方、解き方を熟知した上で取り組んでいくことが重要です。そして、問題のレベルや種類、結果を分析して自己研鑽につなげていくことが重要です。実力がつくことはさることながら、いろんな県の問題を解くと新たな発見がありますし、ご自身の県で変化球が出題された時の対応力が磨かれます。どんどん取り組みましょう。

国語の説明文の解き方についてはこの記事も参考にしていただければと思います。

 

日本のストーンヘンジ、石舞台古墳は奈良県明日香村です。(なぜこれ…)

おわりに

全国入試行脚、第2弾として奈良県をお送りしました。いかがでしたでしょうか。全国制覇目指して引き続き頑張りますが道のりはまだ長いですね。奈良県の塾の先生、もしご覧になっていたらご意見頂戴できると嬉しいです。蚊帳の外から事情も分からず大変失礼いたしました。

最後にこの問題に取り組んだ生徒からの一言。発言の主は決して国語が得意なわけではない中3生(7月時点)。奈良県の問題はラストの記述(6点)を除いて所要時間25分。44点満点中41点でした。

「一生懸命勉強した受験勉強の最後を40分で測られてしまうことはちょっとね。あと、この簡単さでは物足りない。塾行かなくてもいい」

偉そうですよね。あわせて失礼いたしました。

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