受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


《国語》2018全国高校入試問題行脚4:佐賀県

2018.07.31


2018年全国の公立高校入試問題(国語)を難易度・問題のバリエーション・記述量など、独自の観点で分析していきます。目標は全国制覇。第4弾は佐賀県。はなまる学習会との官民連携教育で業界の注目を集める武雄市がある佐賀県の問題やいかに。

総評

  • 難易度  ★★★☆☆
  • 面白さ  ★★★★☆
  • 記述量  ★★★☆☆
  • 問題のバリエーション ★★☆☆☆
  • 神奈川度 ★★★★☆

難易度はそこまで高くありません。平均点等は特に公表されていないようですが、およそ6割、30点強(50点満点中)と予想します。佐賀県の情報お持ちの方がいらっしゃれば教えていただけると嬉しいです。特筆すべきは採択する文章のセンスです。大問1からいきなり登場する「話し合い問題」は羽生善治が語るAIだし、齋藤孝の論説文も小嶋陽太郎の小説文も良いセレクト。中学生にとっても読みやすく興味を引く出典となっているように感じます。

記述問題は最長で自分の意見を書く100字以内。それ以外には20字以内が二つとかなり少なめ。記述で差をつけようという意図はあまりないとうかがえます。

設問の難易度はあまり高いと感じませんが、良問が多くきっちりと国語力を測る出題となっています。中学生のことをよく考えた入試問題と言えるでしょう。文章自体は長めですので読むのには少々苦労しますが、時間が厳しくなることはありません。全国入試の難易度としては中級。受験勉強の中盤に取り組むことをお勧めします。

神奈川の方が一番多くこのブログを訪れるかと思いますので、「神奈川度」を付け加えておきます。神奈川度は「星4つ」です。キタコレ。小説文・論説文の選択肢問題は一つ一つ長く、消去法や分割法の練習にも最適。「話し合い問題」の構成や狙いも似ていると感じました。やや易しめのところもシンパシーを感じます。佐賀県、使えますよ! 各問分析でもう少し書きます。

各問分析

各問題に5段階のレベルをつけながら分析していきます。Lv.5が一番難しくLv.1が簡単ということになります。

大問1 話し合い問題 テーマ「AIと未来の職業」

資料となる文章を提示し、それについて司会者と四人の生徒が話し合っている様子が書かれます。【文章】として掲載されているのが羽生善治の著書「人工知能の革新」。350字程度の引用ですが内容は面白く、中学生の興味を引くものとなっています。試験を受けながら「へぇ」と思った受験生もいたことでしょう。

【資料】として「AI等による代替可能性の高い職業と低い職業」がありますが、代替されやすい職業の代表として受付係やスーパーの店員、一般事務員などが挙げられています。一方、代替されにくい職業としてミュージシャンや映画監督、漫画家が挙げられています。さらに、ここに「中学校教員」が挙げられていたのはさすがに草ですね。(本当なのか!?)

難易度は特に高くありませんが、大問1から100字以内を書くのは結構骨が折れますね。

  • 問1(Lv.1)話し合い参加者の発言内容について正しく説明しているものを選ぶ選択問題。易しい。問題の問いかけ自体は良いが選択肢にひねりがない。消去法で正解に行き着く。正解は一人だけくだけた言葉遣いをして、フランクに話し合いに参加している「Dさん」を糾弾するような内容。これを正解とするのはいかがなものか。少しくらいいいじゃん…
  • 問2(Lv.2)話し合いをうまく進めるために司会者が行った工夫についての選択問題。抽象化ができていないと間違える。大きく捉えて言い換えている内容を選べればOK。パターン慣れしていれば解ける
  • 問3(Lv.3)話し合いの中に空所があり、そこに「あなた」の意見を書き込むというスタイル。指示が少なく、自由度が高いため大変。どうまとめていけば良いか、これは指導の必要性を感じる。文章の構成力と、自身の主張を的確に表現していく力が必要

引用されている「人工知能の革新」は天才棋士・羽生善治が語るAIと「知」についての一冊で、著者の世界観が平易な文章で書かれます。他県で論説文として出題される可能性もある新書だと思いますので興味があれば是非。

大問2 論説文 齋藤孝「齋藤孝のざっくり!西洋哲学」

割と最近流行っている「適応」や「進化論」についての文章。読みやすいなぁと思っていたら齋藤孝の文章でした。的確な論理展開や明確なルールの元に用いられている接続詞など、相変わらず入試問題として扱いやすい文章となっていて、設問の良さを際立たせるセレクトとなっています。

  • 問1(Lv.1)漢字の読み書き問題。案外書けない「危険」と案外読めない「有無」。もちろん大人からすればまさか! となるわけだが、中学生は驚くほど書けない
  • 問2(Lv.4)文法問題。「結構起きています」の中から自立語をすべて抜き出す。決して難しくはないが正直言ってこれをできる中学生は少ない。下の三つを丁寧に教えていないと誤答が続出する。
    1. 文節と単語の理解
    2. 一文節に一自立語の理解
    3. 補助動詞の理解
  • 問3(Lv.2)文章内容を要約した文の空欄補充をする書き抜き問題。文章中のナンバリングに注意して読めていれば問題なく解ける。字数指定がしっかりとあるのも優しい
  • 問4(Lv.3)筆者の主張の理由を問う選択問題。文章中の言葉をそのまま追っていっても選べない。的確に言い換え、消去法を用いながら選んでいくことになる。やや難しい
  • 問5(Lv.2)文章中の表現についての説明を選ぶ問題。選択肢が長いので読めない人は苦しいが、しっかり読めてさえいれば間違えない。粘りが必要
  • 問6(Lv.4)文章中の表現についての説明を求める二十字以内の記述問題。良い問題だと思う。筆者の最大の主張を捉えられているかが問われているが、そのヒントは傍線部から遠い箇所にある。そして二十字以内にまとめるのもなかなかに大変。文中の「ではなく」に注目することも大事
  • 問7(Lv.3)筆者の論の展開についての選択問題。個人的には好きな問題。丁寧に追いかけて選んでいかなくてはいけない。「エ 」も悪くはない選択肢だが、ラストの「〜なければならない」が極端ワード

大問3 小説文 小嶋陽太郎「ぼくのとなりにきみ」

中学受験でも慶應湘南藤沢中で出題されており、にわかに受験シーンにおいて注目度が高まっている小嶋陽太郎の小説からの出題。情景描写も心情描写も若さがありますが、その分みずみずしさがあっていい感じ。宮下奈都のようなスタイリッシュさはあまり感じられませんが良い小説です。

印象的なアイテムとしての「オムライス」のくだりは良い示唆。茨城県を解いたあとだっただけに余計にストーリー性と意図のある抜粋箇所に拍手を送りたい気持ちです。しかしながら、入試の小説文に感動している場合ではありません。客観性こそ小説文読解に重要なことであり、入試の文章は攻略すべき「相手」だということを忘れてはいけないのです。

リード文に書かれている「父親に勧められた水泳をやめて以来、父親とも水泳を続けている妹の真琴ともうまく向き合えずにいた」の一文が読解において大変重要。リード文は必ず読むようにしましょう。人物についての情報が詰まっている場合が多くあります。

  • 問1(Lv.1)「られる」の識別。選択問題。ベーシック。「可能」を選ばせる
  • 問2(Lv.1)心情説明の選択肢問題。これは簡単。選択肢の前半を読めば正解できる
  • 問3(Lv.2)心情説明の選択肢問題。これも特に難しさはない。選択肢を細かく見ながら消去法で解ける
  • 問4(Lv.2)心情説明の選択肢問題。なんとも「惜しい」問題。問いかけは良かったが、選択肢にひねりが足りない。あと一歩踏み込めれば難易度も質も上がっただけに少々残念である。文章中の言葉(人物関係・心情語)を読み取れていれば解けた。選択肢の長さがいい感じ。分割法が力を発揮する
  • 問5(Lv.3)父と母の息子への期待を書く二十字以内の記述問題。母のセリフを追っていけば見つかる。答えのヒントとなる場所が遠いため、やや難しいか
  • 問6(Lv.2)心情説明の選択肢問題。こちらも選択肢が長い。プールや泳ぎに対する嫌悪感を文章全体から心情表現から読み取れていれば解ける
  • 問7(Lv.2)人物像についての選択肢問題。「良さげなもの」を選べばOK。いずれにせよ人物像の読み取りは欠かせない。文中には妹も登場するが、人物像を問うのは中心人物である「僕」と「母」に関するもののみ。良い出題

大問4 古文「列子」

師匠と弟子が絡む弓の名人の話。「杞憂」など故事成語の出典としても有名な列子からのお話。話自体は楽しく読めますし、後半はまさかの展開で興味を惹きます。しかしながら、如何せん本文脇に書かれる現代語訳が多すぎ! ここまで現代語訳を載せるならこの文章でなくても良いのではないでしょうか。。。かといって現代語訳がなければ読めない。採択としては微妙ですね。難易度は低め。

  • 問1(Lv.1)現代仮名遣い。間違えようがない。「すなはち」。出題する意味あんのか?
  • 問2(Lv.3)文中から師が弟子に指示した内容を書き抜く問題。字数指定があればより易しかったがどこまで書けばよいかで誤答が続出しそうな雰囲気がある。ただし、いずれもがっつり現代語訳がついているので、そこまで難しくはない
  • 問3(Lv.2)行動の理由を答える選択問題。これも文中の現代語訳が大いに役に立つ。簡単
  • 問4(Lv.3)師と弟子が深い絆を結べた理由を答える選択問題。選択肢が比較的良さそうなものが多く、後半を理解できていないと迷うかもしれない。そもそもなぜ戦っていたのか、というところが分かればだいぶ解きやすくなる

使い方

小説文・説明文ともに文章のセレクトが良く、奇をてらった問題もなく、総じて問題の質も高いため、どの県の方でも安心して取り組めます。難易度はそこまで高くはありませんが、よく練られていて意図を感じる出題です。練習問題としては最適です。

古文は現代語訳が多すぎてほぼ現代文ですので、あまり練習にはなりません。こちらは初級編と言えるでしょう。

総じて全国入試中級編として取り組むとよいのではないでしょうか。時間には余裕が出そうなので、少し短め設定で取り組んでみると良さそうです。

 

佐賀といえばムツゴロウです。

おわりに

全国入試行脚、第四弾いかがでしたでしょうか。佐賀県、面白かったです。明らかにペースは落ちていますが、引き続き全国制覇目指して頑張ります。佐賀県の塾の先生、もしご覧になっていたらご意見頂戴できると嬉しいです。蚊帳の外からとやかく大変失礼いたしました。

バックナンバー

01:岩手県

02:奈良県

03:茨城県