鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -
2019.05.23
当ブログ人気記事“学校徹底比較”第4弾は「“自由な校風”最難関校」として東京学芸大附属高校と県立湘南高校を取り上げます。2019年入試をめぐる一連の報道で「高校入試史上最悪」とも評された学芸大附属に吹き荒れる逆風の数々。一方、翠嵐高校と切磋琢磨しながら復権を果たしてきた神奈川県立の雄、湘南高校。「自主性の尊重」こそが最重要理念、活発で魅力にあふれ、卒業生の満足度が高い両校。皆さんはどっちを選びますか?
学芸大附属高校が窮地に立たされています。入試日程に関係する一連の報道で評価を落とし、ここ数年の進学実績にも陰りが見え、数年前にはいじめなどの騒動もありました。しかしながら、学芸大附属の在校生や卒業生からは充実した質の高い学校生活の話を聞くことができます。「実態と、報道や風評がかけ離れている」そんな違和感を覚えずにはいられません。
また、都立・県立の躍進もここ数年の高校入試を取り巻くトピックスでもあります。日比谷高校は言わずもがな、翠嵐・湘南も志願者が増え、さらに特筆すべきは入学者の学力が相当上がっているということです。今回は学習活動・学校行事・部活動の「二兎」ならぬ「三兎を追え」をモットーとしている湘南高校にスポットを当てて、二校の比較記事とします。いずれも学校関係者、在校生や卒業生からの取材をもとに書き上げた内容となります。
「5分で分かる学芸大附属&湘南の魅力」と題してこの記事の解説動画も作成しましたのでご興味があればご覧ください。
進学実績から語るのは抵抗がありますが、両校比較をする上で気にかけている人が多いと推察致しますので、比較をしてみます。まずは、両校の難関国立大学、難関私立大学の過去3年実績の比較です。
実績でよく語られるのは言うまでもなく、東京大学の進学実績です。現役の人数で比較すると学芸大附属23人、湘南12人となりますね。一方で京都大学では湘南に軍配が上がります。ただし、進学実績を比較する際、合格実数での比較はあまり有意義ではありません。
特に国公立大学については合格数に注目するのではなく、現役生の割合をよく見ると良いかと思います。一人一校受験が基本ですので、合格力を測る上ではこの数字を参考にすると良いでしょう。一応、翠嵐高校も含んで比較してみます。
卒業生に対する現役合格者の割合は上図の通りとなります。東大に関しては学芸大附属が圧倒的ですね。翠嵐は東工大の合格者数が群を抜いています。「理系に強い翠嵐」のイメージは伊達ではありません。
私立大学については一人で同一大学の複数学部・学科を合格して重複カウントする場合がありますので、合格者数も参考にしかなりませんが、現役慶應合格は学芸大附属66名に対して湘南38名。逆に早稲田は学芸大附属85名に対して湘南111名とリードしています。その他の私立については各校のカラーが出ています。ほぼ毎年同傾向なのが興味深いですね。
こちらも割合を掲載しておきますが、あくまで「目安」です。
早慶上智は翠嵐より学芸大附属・湘南の実績が良さそうです。詳細の数値については各校のページをご覧ください。学芸大附属高校は学部や進学先まで丁寧に報告してくれています。
ここから先の内容については、noteの有料記事で全文掲載しております。2019年度の記事ですので、有料化をやめました。でも、今でも有益だと思っています。両校の情報としてはどこよりも詳しく載っている自負があります。ぜひご覧下さい。
【有料ページに載せていた内容】
- 2019年度大学進学実績徹底比較「で、どっちがいいの?」(翠嵐も)
- 校風「自由って何?」
- 学習活動「本物教育? SSH? 次世代リーダー?」
- 先生「どんな先生が多いの? 授業の質は?」
- 学力「ギリギリで入るとついていけない説の検証」
- 部活動「面白い部活あるかなー」
- 行事「辛夷祭、何がすごいの? 自称日本一の体育祭、どこが?」
- どこよりも詳しい三年間の行事予定表
- 両校の豆知識・隠語「机にA4が入らない? カラー ̄?」
などなど
と、ここまで書きましたが、進学実績の「数」自体はそこまで意味を持つものではないという立場を取っています。高校は大学合格のための教育機関ではないからです。
大切なのはいかによく過ごしたか、いかに良い学びができたか、いかに良い仲間と出会えたか、ということです。進学実績を最重要視したいのならすれば良いと思いますが、それだけで高校を選ぶと不幸ですよ。本人に合った学校選びのために必要な情報をここから可能な限り提示していきたいと思います。
なお、以下に記す各校の情報は在校生・卒業生および学校内部からの生の声です。
1954年に創立。男女共学の国立大附属で首都圏有数の進学校です。東横線の「学芸大学駅」から徒歩でおよそ15分。都心からもほど近いもののキャンパス内は緑が多く落ち着いた環境です。教育方針としては「清純な気品の高い人間」「大樹のように大きく伸びる自主的な人間」「世界性の豊かな人間」を掲げています。考古学者の吉村作治や茂木健一郎、法曹界のカリスマ伊藤真や精神科医の香山リカなども同校の出身です。また、東京学芸大附属とあることから分かるように大学や大学院での研究を教科指導や学校活動に取り入れています。
“自由でアカデミック”。積極的で好奇心に富んだ生徒が多く、また学校としても自主性を最大限尊重していることから、非常に自由な校風で生徒たちは「自分」を余すことなく表現できる場所となっているようです。
校則は①中央突破をしない(正面の玄関から入ることは禁止)、②下駄・サンダル登校はしない、③制服着用、の三つだけと言われており、非常にゆるやかで自由そのもの。制服の上にパーカーを着用するなども問題なく、自分の好きなようにコーディネートを楽しむこともできます。体育祭の前にはカラフルに髪を染める生徒もいますが、その髪色を先生たちが笑いながら褒めてくれたりもするそうです。
先生と生徒の距離の近さも感じますね。校則がほとんどない分、反発する生徒もほぼ皆無で華美になりすぎることもありません。自主性が自律を促している好例と言えるでしょう
「それぞれが自分の得意分野で輝けるところが附高の良さだと思います。成績はテストだけでつけられる訳ではないので、生物のレポートのスケッチが異常に上手いとか、プレゼンで話すのが上手いとか自分の得意を発揮する機会があり活躍している人がたくさんいます」(在校生)
立地からは考えられないほど広く、緑の多い環境で四季折々の風情を楽しめます。夏は駅から学校まで日陰がなく過酷な15分。友達と歩いていても無言になるレベルとか。学校の敷地内に入ると生い茂る葉のおかげで一気に涼しくなり、これから始まる1日に向けて気持ちを整えることもできるようです。
1936年にベースを建立した校舎は重厚感があり、歴史と伝統を感じさせるものです。天井の低さや柱の太さなどもレトロな趣を醸し出しています。この校舎に一目惚れする受験生も少なからずいますが、いかんせん「古すぎ」という声も。教室の廊下側のすりガラスにヒビが入っている教室もあり、冬はとにかく寒い。廊下は暖房が効いていないので、日当たりが悪い一階では外よりも寒く感じることもあります。
図書館は特別に蔵書数が多い訳ではありませんが、司書の先生にリクエストをすればどんな本でも必ず購入してもらえます。また、地理実習など大きなレポートの前になると特設コーナーが設置され、関連本が分かりやすく配置されます。学習図書館としての役割をしっかりと果たすメディアセンターです。
他に特筆すべきは「机」です。とにかく小さい。机の中にはA4のクリアファイルが縦に入らず、小さくて狭い。そして、重い。他校訪問で広々とした白い机を見るとショックを受けます。表面も凸凹していて、お世辞にも使いやすいとは言えませんが、これも附高の歴史の賜物だと前向きに仕方なく受け入れているのが現状です。
2年生までは全てが必修科目となり、理系文系関係なく学びます。進路を決める直前まで選択肢を狭めずにいられるメリットがありますし、総合的・教科横断的な学びをしていく上でも文理を学び続ける意味は大きいですね。
また、芸術の選択科目が音楽、書道、美術、工芸の4種類あります。音楽選択であれば、入学式や卒業式で合唱することになりますし、書道や美術や工芸ではかなり時間をかけて作りこむので完成度の高い作品を作り上げることができます。
学校からの受験対策は補習や模擬試験なども含めてほとんど実施してきませんでした。それでも医学部や東大を目指す人が多く、意識の高い生徒から刺激を受けて周囲も頑張る、というのが学芸大附属の大学受験だったかと思います。しかしながら、附高ルネッサンスを掲げ、この「放牧」体制も変わりつつあると言えます。
「まず、客観性を増す、ということも含めてGTECによって英語の四技能を高めるために全学年で校内実施を決めました。2018年より外部模試を導入し、2019年からは全学年で2回ほど外部模試を実施。教員が作った問題と合わせてクロスチェックをしています。データ的に整理されている外部試験を用いながら、進学指導をしていけるのもメリットです。各大学の個別試験に対応した対策講習を、まずは理科や数学で開始し、今後は他科目でも広げていきます。過去問添削についても全生徒にプリントを配布し、先生に持って来れば添削をするのでどんどん持ってきて良い、ということを通知しています。学年の進路担当と進路指導部の連絡会議等を行うようにし、将来の進路を見据えた学習という部分も強化しています」
(大野校長 2019年4月18日 著者インタビューによる)
「アカデミックな学びが出来る」というのが学芸大附属の最大の特徴だと思います。「国立」として、国が目指している思考力・判断力・表現力を高めるための学習プログラムが多数準備されています。
SGHアソシエイツやSSHの指定を受けており、積極的かつ有意義な取り組みが多数存在します。育てたい生徒像から逆算して各教科の授業やカリキュラム、探究活動が設定されていて、多岐に渡る取り組みが生徒の力を育みます。SSHもSGHも国から予算が出るだけでなく、各校における取り組み内容と成果を事細かに精査し、学校としても生徒としても発表をしなくてはなりません。グローバルだ、サイエンスだ、と謳うことよりも、むしろこの発表に際して課題発見→仮説→検証→考察のサイクルを回していくことに大きな意義があります。SSHおよびSGHの学習活動を通して生徒たちは批判的思考と主体性を身につけていくことになります。
学校主導で「改革」を行うのは難しいものです。サイエンスやグローバルといった「色」の強いものであればそれは尚更です。国の予算や枠組みを利用しながら、学校の中身を大きく捉え直し、学びの質を高めていくのがSGHやSSHです。国に申請をするということは、学校としての業務負担が倍増することを承知の上での英断です。
予算を学校としてどう回していくか、何に使っていき、どんな成果が出たかを明示してやっていかなければ次年度から取り消しの可能性もあるため、中途半端なことは出来ません。SGHの申請をしていることは、その学校の教育への熱意・覚悟の現れです。ましてや学芸大附属のようにSGH-AとSSHのダブル指定を受けている学校は相当な意欲ですね。
興味がある方は学芸大附属高校webページ上にSGH-Aの取り組み、SSHの取り組みがかなり細かく紹介されているのでご覧ください。
また、SSHやSGH以外でもかなり力を入れて取り組んでいることとしては「本物教育」が挙げられます。教科での探究や教科を超えての総合学習として、本物に触れて五感で学ぶ、この「本物教育」。アクティブラーニングやリベラルアーツといった文言が世間を騒がすずっと前から、学芸大附属が取り組んできた教育実践です。
「SSHや国際交流などが目立ちますが、本校には『本物教育』と呼んでいる教科における思考力・判断力・表現力を培う学習活動があります。たとえば、一年生で地理実習として「地理」という科目で学んだことを実際に自分で体験するために、山手線の内側を全員で回り、学んだことをレポートにまとめる。地学実習ということで城ケ島に行って一日地層を観察してレポートを書く。プラネタリウムを見に行って星のことについて知る。国立科学博物館や東大医学総合研究所の見学、現代演劇の鑑賞、歌舞伎を中心とした古典演劇の鑑賞などもしています。教科における本物教育、教科のフィールドワークが豊富というのがあまり知られていない本校の特色です」
(大野校長 2019年4月18日 著者インタビューによる)
学芸大附属には附高三大レポートと呼ばれるものがあります。
これらは全て1年生で取り組むものです。この三つではかなりの数の文献にあたったり、先生に聞いたりしながら、時間をかけてまとめます。それ以外でも行事のたびにレポートを出すという文化があり、マラソン大会ですら自分の走りを分析するレポート提出があります。
普段の授業でもレポートが課せられることが多く、生物や地学、地理などはレポートを書く機会が多数あり、相当な「書く力」と「考察する力」が否が応でも身に付きます。
探究活動は1、2年生で自分が深めたい学習を探究していく授業です。毎月一回土曜日に4限までの土曜探究の日が設けられています。1年生では、様々な研究者や一線で活躍されている方の講演を聞いたり、先輩の発表を聞いたりすることで、自分が進むべき方向性、深めていく学びを定めていきます。2年生になってからは、同じようなジャンルの探究活動をするメンバーとまとまって自分の研究を進めていくことになります。また、先輩が調べていたテーマを引き継いだりすることもあり、さしずめゼミ活動のような形を取っていると言えるでしょう。
中間発表ではポスターセッション、最終発表ではスライドを使用して発表することになります。最終的な研究成果物は論文としてまとめていき、理系の研究を行う人は外部発表を目標として取り組みます。地学・物理・化学・地理・文学・芸術、などジャンルに縛られずありとあらゆるテーマを選択し、研究していく取り組みは学芸大附属の特徴的な学習活動です。
入学時の学力はそこまで関係ありません。内部生も入試を乗り越えてきていますし、非常に優秀なメンバーも多数います。実際は高校に入ってからの本人の頑張り次第ですね。また、前述の通りペーパーテストで測れない能力でも活躍できる場があり、その意味では入試の得点力と入学後の成績の関連性はそれほど高くないと思われます。
周囲のレベルが非常に高く、教えるのも上手なので、分からないところがあってもクラスメイトに聞けば大抵のことは解決できます。
勉強面でのフォローについては先生によってまちまちといった感じです。定期考査の点数が悪い人に課題を出す先生もいますが、基本的にあまり関与しない先生の方が多いようです。ただ、質問に行けば基本的にどの先生も丁寧に教えてくれます。いずれにしても、自分次第ということですね。
各先生はその道のエキスパートが多く、授業でもかなり本質的なところに触れられます。「面白いというよりも詳しい」という感想を持つ生徒もいます。教科書の執筆や先進研究で著名な先生もいて、授業以外でもマニアックな研究の話を聞けたりするのも興味をそそられますね。
また、東京学芸大学からの教育実習生が多くいるのも特徴です。
3年間行事が目白押しで、ほぼ毎月何らかの行事が設定されています。すべての行事のクオリティが高く、高校生の時にしか出来ない青春を謳歌するのに十分すぎるスケジュールだと思います。誰もがどこかで素敵な思い出を作れそうな、そんな三年間の行事予定表ですね。
PCSHSCRというのはタイにある姉妹校です。SSHの活動の一環ですが、理系の発表をそれぞれの学校で英語で行い、交流をするものです。メインで交流をするのはタイに行った生徒ですが、それ以外の生徒も積極的に話しかけて文化や考え方、捉え方の違いなどを学びます。
そして、何より附高生が楽しみにしているのが、9月にある辛夷祭(文化祭)です。3年生の演劇は必見で、各クラスの発表は夏休みを費やして創り上げる相当なレベルのものになります。辛夷祭については、万難排して一度訪れてみると良いでしょう。百聞は一見にしかずです。前夜祭や後夜祭もあり、ミスター辛夷、ミス辛夷の学年ごとの決定戦なども盛り上がります。すべての出し物や企画はほぼ生徒だけで作り上げるもので、手を抜かずに全力で取り組むところは附高生にとっての誇りでもあります。
多岐にわたる部活動があります。陸上部や女子ハンドボール部、サッカー部や野球部などは特に精力的に取り組んでいる部活です。山岳部は全国的にも有名です。他の部ももちろん真剣に活動していますが、活動日数は週4日以下の部がほとんどで、「部活中心」の高校生活にはなりにくいのも学芸大附属高校の特徴です。モダンジャズ部や天文部などの「追究型」部活動にどっぷりハマる生徒もいるようですが、多くの生徒は交流や表現の場として楽しみながら部活動に勤しんでいると聞きます。
部活にもよりますが、OBOGの母校愛が強く、卒業後も練習に参加してくれることも多いようです。
画像:東京学芸大附属高校HPより
学芸大附属の「購買」は何と“生徒指導室”にあります笑。名前と用途が一致していない教室が数多くありますが、購買もその一つです。(他には芝生のない芝グラウンドや故障して倉庫化しているVRルームなど)
購買ではお弁当やたい焼き、アメリカンドッグなどが購入できて、小規模のわりにはメニューが豊富です。生徒指導室には新しい自販機も置かれていて、お菓子とパンも買えます。
2019年4月に学芸大附属高校を訪れ、現在の校風や学校の教育活動・魅力などに加えて内部生と外部生のこと、いじめのこと、波乱の2019年度入試のこと、来年度の入試のことなどについて大野校長先生に直接お話をうかがってきました。ぜひご覧ください。
続いて湘南高校です。「湘南生の声」を多めにお伝えして実態を明かしていきたいと思います。
1921年創立。間もなく100周年を迎える神奈川県立の伝統校。立地は小田急線藤沢本町から徒歩7分。藤沢駅から自転車で通学している生徒もいます。開校以来、文武両道を主に置き、学習と部活動、学校行事に取り組み「三兎を追え」がモットーです。
神奈川県の進学重点校に指定されており、「見える学力」すなわち試験の点数や大学合格者の数など数値化できる学力と、企画力・実行力・努力を継続する力など数値化できない「見えない学力」を伸長していくことで、社会のリーダーとして活躍する人物の育成をミッションとしています。Always do what you are afraid to do !!「最も困難な道に挑戦せよ」が合言葉です。
自由。とにかく自由です。校則はないようなもので、生徒の自主性を最大限尊重してくれる学校と言えるでしょう。試しにビーチサンダルで登校しても怒られなかったという逸話があるくらいです。湘南生が口を揃えて言うのは「忙しい」ということ。部活に、行事に、勉強に、とにかく立ち止まっている暇がないくらい忙しい。だから、それを楽しめる人でなければ湘南は向かないのかもしれません。
「行事を運営していく生徒の自主性を体感して、私自身引っ込み思案だった性格も変わって積極的になることができました。『できるからやるのではなく、やってみてはじめてできるようになる』ということを知りました」(卒業生)
湘南高校の伝統が、学校を取り巻く空気が、周囲のメンバーとの関わりが生徒の自主性を促しているのか、入学後に随分と雰囲気が変わり、自信に満ちた表情で高校生活を送る生徒も数多く見ていきています。
中学校では「自分」を出すことに抵抗があった人も、湘南では伸び伸びと自分らしくいられるという話もよく聞きます。湘南受験生の平均内申点は42〜43。中学校では周りから優等生として見られてきたメンバーが多いことでしょう。優等生然とした振る舞いを求められ、内申のために犠牲にしたこと、必要以上にでしゃばらないことを意識してきたのではないでしょうか。でも、湘南ではそれらのしがらみから解放されます。そして、彼ら彼女らは決していわゆる「ガリ勉」(死語…)ではありません。
「みんなもっとカリカリ勉強するかと思いましたが、一定数授業中寝る人がいるくらい、授業中の緊張感はそれほど高くないことは意外でした。陰キャが多いかと思いましたが、むしろ少なくて、話や行事がメチャクチャ盛り上がる。陰キャ:普通:陽キャ=1:3:6くらいですね」(在校生)
最寄りの藤沢本町駅は非常に小さな駅です。反対側の聖園女学院、藤沢清流高校も利用することがあり、朝は学生だらけになりますが、決して学生街の趣はなく落ち着いた雰囲気です。駅から徒歩7分のところに約46,000㎡の湘南高校の敷地が広がります。
入り口こそ狭く感じますが、一度キャンパスに足を踏み入れると左手に十分な広さのグラウンド、奥に二つの体育館とテニスコート、そして1996年建立のモダンな校舎棟が目を引きます。他にも蔵書7万冊の図書館、セミナーハウスや豪華な多目的ホールなど充実したキャンパスが豊かな高校ライフを提供してくれます。
食堂も評判が良く、昼休みは賑わいます。学校の施設や環境についても湘南生の満足度は非常に高いようです。
進学重点校としてかなり学習面にも力を入れ始めました。1授業の時間が70分に設定されており、密度の濃い授業と演習の時間をしっかり取れるようになっています。進学実績での成果も出始めていますが、四年制高校と揶揄されていた頃の面影もいまだにあり、浪人の数も減ってはいるものの決して少なくはありません。
湘南高校では他校のように補習や課題等を出して学習時間を確保するようなことはしません。中学校ではトップクラスだったとしても、近いレベルの生徒が集まる湘南ではなかなかそうはいかず、苦しむことになります。結果が出ない、追試になった、そんな時にどうしたらそれを乗り越えられるか、学習時間を増やすのか、先生を頼るのか、友人や先輩に相談するのか、色んな方法があります。それを探し、見つけ出してほしい。生徒たちを信じ、支えることに徹する、そんな思いが見え隠れします。
ただそうは言っても、そんな学校側の願いとは裏腹に中学から通っていた塾に引き続き通う人もいる模様です。
「自宅で勉強できないという人が結構いて中学の時の塾に入学後も引き続き通塾している人がいます。二年生になると河合塾や駿台に通う人が増え始めます。東進も多いです。二年で六割くらい、三年夏の時点で八割以上になります」(卒業生)
個人的には湘南高校に通うレベルを持っているのであれば、安易に塾に頼るのではなく、自ら学ぶ姿勢を身につけ、壁にぶつかった上で、更なる成長の機会を掴んでほしいと思っています。スタディサプリなどの自ら学べる映像授業も相当充実してきています。Studyplusのような学習進捗管理アプリを使うことでより効果的に目指す進路に向けての方策も練ることができるはずです。
よくある質問やご意見として、「ギリギリで入ると入学後ついていくのが大変」という話があります。確かに、努力をしなければ大変にはなるでしょう。しかし、入学する実力があるならば、入った後は自分次第だと私は思います。ごまかし勉強や塾に言われるがままに学習してきた人にとっては、急に放置される湘南高校での学びは辛いのかもしれません。でも、学習の姿勢や自ら学ぶやり方が身についている人にとってみれば、その場所と内容や科目が変わるだけです。
入学時の学力と入学後の成績の相関について湘南生に聞いてみました。
「関係ないと思います。ぼく調べでは、上位合格した人は油断をする傾向にあります。ぼく自身は開示得点を見る限り、多分350番台の本当にギリギリで合格したわけですが、入学直後にあった中学内容のテストで、あっさりと下剋上に成功して、学年で50位になれましたね。他にも下剋上組は何人かいました。すべては入学してから次第です。生き証人が言っているので確かな情報ですよ」(在校生)
「関係ないんじゃないですかね。入学した時の成績がすごい人でも、テスト勉強を全くしないで、順位が300番台(360人中)の人もいます。下位で入学しても、周りのものすごく頭の良い人が教えてくれるので、困ることはありません。入学後の頑張り次第だと思います」(在校生)
県立高校の中では海外に目を向けた本格的なプログラムが多いのも特徴です。しかしながら、人数が限られていたり、期間が短かったりと全員が享受できる国際理解教育とはなっていないようです。
修学旅行は台湾。同窓会主催の海外研修旅行や次世代リーダー養成プログラムとしてハーバードやMITなどの海外大学を訪問してディスカッションしたり、セッションに参加したりすることもできます。英語で考え、議論し、多様な価値観を知っていく中で先進研究に触れることのできる稀有な機会です。
県立高校は異動もあるため、湘南高校であっても一定の入れ替わりがあります。ただ、進学重点校であるため先生の数は多めに配置されているようですし、ちょっと前に進学重点アドバンス校と指定されていたことから、人事に関しては意図的に力のある先生を集めているように感じます。
先生についても在校生に話を聞いてみました。ペースが早かったり難易度が高い内容を突き詰めていったりと、湘南生のレベルに合わせた授業となっているようです。
「面白いですよ。もちろん楽しい授業もつまらない授業もありますが、『湘南生』であることを意識した授業が展開されます。完全に講義形式でアクティブラーニングっぽさは全然ないですけどね」(在校生)
「質問をすれば答えてくれますが、サポートは手厚くはないです。勉強にはうるさくないので、自由にやりたい人にとっては、よいのではないかと思います。先生はベテランの人が多い。面白い先生も多いですよ」(卒業生)
「サポートは手厚くはありませんが、自分から質問をしに行けば答えてくれます。顧問の先生に部活中に教科の質問をしている人も見たことがあります笑」(卒業生)
「日本一の体育祭」。OB・OGや在校生からも周囲からもそう評され、スケールやド派手な演出などは確かに目を引くもので、毎年3,000人が訪れるこの体育祭は紛れもなく湘南高校最大の名物だと言えるでしょう。
湘南は1クラス40人で9クラスありますが、9月に実施される体育祭では高1~3年までを縦割りで9色のチームに分けます。総務長と呼ばれるリーダーを各チームごとに選出し、企画を練りながらパートを定めていきます。一般的な体育競技もありますが、1チーム30万円という予算で工夫を凝らす仮装や、大道具・小道具、5×6メートルの巨大看板など、当日まで相当な時間をかけて準備をしていき、その出来も合わせて総合的に勝敗を競うものになります。
運動のみならず美術や設計など各生徒が自分の得意分野で活躍する場がある、湘南生のほとんどが主体的に関われる「全員参加型行事」が体育祭です。
「体育祭は盛り上がりすごくて、先輩とも仲良くなれます。体育祭のあと、先輩が企画してキャンプに行きます。クラス対抗の競技には、珍しいもので、英単語力を競うものがあります。行事が満載なので、友達の少ないぼくでもお祭り気分になれます」(在校生)
「体育祭は準備段階でも最高です。文化祭は去年学校見学で参加したときにはすごくつまらなかったですけど、今年参加する側になったら楽しかったです。合唱コンクールは文化祭から3週間くらいしかありません。その間にも他の行事もあったりして、あまり練習時間がとれませんでしたが短期間で仕上げるのも面白かったです」(在校生)
体育祭や文化祭とは別に、毎月行われる「対組」と呼ばれるクラス対抗戦があります。バレーボールや陸上競技、卓球やバドミントンまで全クラス参加で競い合い、一年間を通してどれだけ点数が集まったかを競うものです。体育祭同様、クラスの団結や絆をかなり強固なものにする取り組みですね。
高校生の青春の代名詞とも言える「行事」ですが、湘南の生徒たちはどのように捉えているのでしょうか。もちろん、前向きな意見がほとんどですが、それだけではないという側面をお伝えします。
「 行事に拘束されるのがイヤだという人もいます。学校行事が盛んで有名でも、全員が行事に向けて一致団結するわけではないという、まとまりのなさが少し残念です。もちろん九割方の人は、団結しますけどね」(在校生)
「行事に対しての熱の入り方に個人差があり、それが友達関係の衝突原因になっていることです。クラスごとに雰囲気が違いすぎるところや、クラスメイトとの折り合いに気を遣わなければならない点は少しイヤですね。どこでもそうかもしれませんが(笑)」(在校生)
種類が豊富で兼部している人も数多くいます。進学校ですが、公立としては強豪と呼ばれる部活もあります。フェンシングや弓道、ジャグリングは有名ですし、文化系では合唱部や囲碁将棋も全国レベルです。サッカーや野球、ラグビー、陸上などでも顕著な成果を残します。
体育祭は縦割りで「対組」はクラスごとですが、文化祭は部活動ごとに出し物や発表を行うことが多くなります。
湘南高校のホームページに行くと各部活の成果を確認することが出来ますね。また部活動紹介のページでは部活ごとの詳細の内容を読めますよ。
体育祭での縦割りでそれぞれのクラスに9種類の色が決まります。その色は1年次/2・3年次で二度定められます。この並外れた団結力を生む「カラー」は、湘南高校の伝統的なつながりを表すもので、見知らぬ湘南OBと会った時の挨拶がわりに「カラーは?」「あっぼくイエローです」という受け答えで、ひと盛り上がりできるものになっています。(この場合は主に2・3年次の色を言います)
「オレンジ ̄」や「ネイビー ̄」のように語尾を下げないイントネーションに特徴があります。なお、この「カラー ̄」(これも語尾を下げない)は湘南生のアイデンティティとなっているので、普通に「オレ\ンジ」「ネ\イビー」と発音すると逆賊扱いされます。他校の生徒や周囲にとっては極めて不評な湘南高校の文化と言えるでしょう。
ちなみに現在は、パープル・ブラウン・グリーン・イエロー・ブラック・グレー・オレンジ・ホワイト・ネイビーの9色です。募集定員の変動によるクラス数増減によって消滅・発生を繰り返し、レッドやブルーなどのメジャー色が消えました。近年は9クラス募集で安定しているのでしばらく変化はありません。
他に特徴的なものとしては「居残り縄跳び」があります。体育の授業で縄跳びがあり、課題の技を期限までにクリアしていないと、朝、他のみんなが登校している前で、その技が出来るまで練習をさせられます。高校生になって縄跳びとは…と思うかもしれませんが、知育・体育・徳育を掲げる湘南高校生には不可欠な能力ということになるのでしょう。
最後に入試制度の違いについて簡単に説明いたします。ざっくりと表にまとめましたが、大きな相違点は特色・面接の有無、入試で選考に影響する内申点の学年ですね。
学芸大附属は1年生の時の内申点も入試に加味されますが、内申100点満点+5教科500点の合計600点満点となりますので、内申の1ポイントは入試得点に換算すると実質0.74点。湘南の場合は内申300点満点+5教科500点満点+面接200点となり、内申1ポイントが2.22点ですので入試における内申点が占める割合(重要度)は学芸大附属:湘南高校=1:3程度です。
*偏差値は神奈川全県模試より。あくまで参考程度です。
また、入試の難易度については数年前まで神奈川県の公立入試が簡単だったため(特に理科・社会)、学芸大附属を受験するためには特別な対策や、難関私立高校受験に近い難易度の問題に触れる必要がありました。しかしながら、昨今の神奈川県の入試問題の難易度は特筆すべきレベルであり、非常に質も高まっています。そのため、県立トップ高を目指す学習をしていても十分に学芸大附属を狙える力が身につくようになりました。
入試問題の難易度という点でも拮抗するようになったのが、両校の新たな関係性です。
2019年11月に湘南高校を訪問し、稲垣校長・岩崎副校長に取材をした際の記事はこちらです。湘南高校の現在地について学校側の視点でお伝えできるのではないかと思います。
学芸大附属と湘南、共通する部分は生徒の自主性を尊重し、自由の中で自分の居場所を探し、有意義に学校生活を送っていける点かと思います。行事も活発。学芸大附属は辛夷祭(文化祭)が最大の売りで湘南は自称日本一の体育祭が目を引きます。いずれも、一部の人だけが活躍できる舞台ではなく、みんなで作り上げるイベントであることに大きな意味がありますね。
大きな違いとしては、学びの方向性でしょうか。学芸大附属はよりアカデミックにSGH-AやSSH、本物教育などの授業や学習活動を通して「学び」を修めていく。湘南は大学進学を強めに意識しながら生徒間で切磋琢磨し、県や学校のサポートをうまく利用しながら学力を高めていくという方向性を持っています。
両校ともよく知った上で入学した生徒にとってみれば、充実した高校生活を送れることは請け合いです。この記事がその選択をサポートする一助となれば幸いです。もし、「どうしても入りたい」という気持ちになったら必死で受験勉強をしましょう。受験勉強で得た知識、学習法、先生や友人の頼り方などは高校に入ってからの学びにも大きく寄与します。最難関の両校に挑戦する受験生を心から応援します。そして、「受験を超えて」その先の学びを手に入れてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。