鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -
2019.07.12
昨年度に引き続き神奈川民間教育協会主催の「神奈川の県立高校が変わる」シンポジウムに今年も参加してきました。2019年度入試を終えて、新特色検査実施の手応えや学力向上進学重点校の今後などについてレポートします。気になる繰り上げ合格や合格発表後の二次募集についても少し話が聞けました。
参考(昨年度のレポ):どうなる? 特色検査2019 教育委員会が語る未来と中学生が今備えるべきこと
今年も神奈川県教育委員会 教育参事監 兼 指導部長の岡野親さんに話を聞きました。岡野さんは翠嵐の副校長、横浜明朋高校の校長先生などを歴任され、現在は県教委で新しい神奈川の教育を牽引している方です。神奈川県教育委員会の中でも最も県立高校入試および県立高校に精通されている方と言えるでしょう。中小塾の立場でこういう機会があるのは本当に貴重です。
学力向上進学重点校の現状と今後についてのお話を伺いました。まずはおさらいですが、学力向上進学重点校としては下記の通り湘南・翠嵐・厚木・柏陽の4校が指定され、13校がエントリー校として指定を受けています。(通称:SJK17)
学力向上進学重点校の概要については神奈川県ホームページに下記のように記載があります。
指定を受けた学校では、教科・科目や総合的な学習の時間を通して、主体的、総合的、探究的に学び、将来のリーダーとして、自ら問題を発見し、自ら解決できるよう、教科等を超えて様々な課題を関連付けて考えることのできる思考力・判断力・表現力等の育成に取り組み、希望する進路の実現を図ります。(神奈川県教育委員会ホームページより)
なお、指定を受けるために掲げられている5つの達成指標の概略は次の通りです。
(1)アクティブラーニングを展開し、高いレベルの思考力・判断力・表現力等の能力の育成を図るための授業
(2)生徒学力調査(2学年)での好成績
(3)生徒の7割以上が英検2級程度以上のレベル
(4)数学オリンピックなど生徒の探究活動や全国規模の大会での取組み
(5)難関大学への現役進学率(神奈川県教育委員会ホームページの内容を要約)
「今のところ平成31年度・令和2年度・3年度の3カ年計画でエントリー校の中から該当校があれば、順次進学重点校に指定をしていく構えです。平成30年度末での達成度を見たところ該当する高校はありませんでした」(岡野参事監)
平成30年度までが一区切りでそこまでの達成指標を見ながら、進学重点校を指定していたとのことですが、現在のところ4校以外に基準を満たしている学校がなく、これから三年間の中で大学進学実績が出揃ったタイミングで順次指定をかけていくということでした。
「次の3年」を終えた後(令和4年度以降)の形についても、岡野参事監の「個人的な見解」と前置きをした上で次のように語っていらっしゃいました。
「その後については、はっきりと方向性は出していません。このまま重点校+エントリー校の形を続けていくかは検討の余地があって、個人的にはエントリー校という制度は令和3年度までかな、と。東京都と同様、エントリー校の中から二群(進学指導特別推進校)を作るということもありえます」(岡野参事監)
現行のエントリー校の中から進学重点校本指定を受けられるようになるためには、平成31年度(始まってしまったものはこう書くらしい)、令和2年度、令和3年度の三回しかチャンスはありません。前述の達成指標のうち、特に「難関大学への現役進学実績」の項目で本指定4校と他の13校の間にはかなり大きな溝があります。
「難関大学」の括りを難関国立・早慶上智と考えても4校に追従できるのは川和、少し無理して横浜緑ケ丘くらいでしょうか。
(週間朝日 2019.4.19号より著者作成)
このままではエントリー校はエントリー校のままで、ほとんど指定を受けることはなさそうです。達成指標を変更したり、基準を緩めたりする可能性について質問してみました。
「五つの達成指標に基づく成績表を出しています。『進学重点校』というのは一つのブランドでもあるので、今後達成指標を緩めることで進学重点校を増やしていくということはしないと思います」(岡野参事監)
達成指標のうち、アクティブラーニングや英検については各校とも達成度は良いようですが、いかんせん「進学重点」ですので、進学実績は最重要項目となるはずです。今後進学重点エントリー校は増えたり減ったりする予定があるのでしょうか。
「今の実施計画の中でエントリー校を増やす可能性は、ほぼありません。現状のエントリー校は進学重点校になる可能性もあるし、エントリー校から外れる可能性もある。ただ、実際は「外す」ということは考えにくい」(岡野参事監)
エントリー校13校の顔ぶれを見ても進学実績には随分と差があります。その中でも気になる鎌倉高校の現状についてもうかがいました。鎌倉高校は近年「国際理解教育」を柱に教育プログラムを推進しているように見え、県の指定も「グローバル教育研究推進校」ということで、方向性は合致していました。しかしながら、2018年の指定でグローバルではなく「理数教育推進校」へと変更されています。この意図はどういったものだったのでしょうか。
「鎌倉高校は元をたどると独自入試をやっていた頃は、数学と英語の二科目が独自だったので、実は理数を標榜していた学校でした。だから、教育委員会としては理数を軸足に置いた学校として指定しても差し支えないだろうという認識です。詳しくは言えませんが、グローバルに置いておくよりは理数に置いた方がいいだろうということで指定をすることになりました」(岡野参事監)
随分昔の話が持ち出されたな、という印象ですが、個人的には鎌倉という土地柄、「グローバル」を引き続き県教委からも応援してほしかったと感じています。もっとも鎌倉高校内部では、グローバルと理数を探究の面で両立させていく構えだと聞いているので、完全に理数の学校になることはないでしょう。
しかしながら、理数教育推進校に指定される=SSH(スーパーサイエンスハイスクール)事業にエントリーすることを意味します。そのため、取り組み自体はこれまでよりもかなり理数を強化したものになっていくことでしょう。青春偏差値と理数偏差値が共存できるかどうかには疑問符がつくというのが率直な感想ですが。(ちなみに、SSHは国からの指定、理数教育推進校は県からの指定となります)
「鎌倉高校が変わる」ということは明らかです。鎌倉高校の今とこれからについてはこちらの記事もご参照ください。
また、国から多額の助成金が出ていたSGH(スーパーグローバルハイスクール)事業は現在指定されている学校を最後に新規に指定をしないことが決まっています。一方のSSH事業は今後も継続されるということで、神奈川県としては国からの援助をうまく受けながら各高校の取り組みを強化していくということを考えているのかもしれません。理数教育推進校の指定校が増えているのも合点がいきます。SSHの中にもかなりグローバルな要素が含まれてきますし、今後はSociety5.0を念頭に入れた文理+グローバル融合のWWLが主軸になってきていることを考えても、安易なグローバル標榜はすでに時代遅れですね。
さて、2019年度入試の大きな変更点として、これまで各校が独自に実施していた特色検査が共通化されました。実施概要は事前の予想通りの共通特色+共通選択特色という形になりました。慧真館の岸本先生が出題概要をまとめてくださっているのでご参照ください。
(慧真館 岸本先生作成)
新特色検査初年度を終えての感想としては、「そこまで難しくはない」です。五教科の学習をしっかりと積み上げ、あらゆる問題に対応できる構えを作っておく、そのことが必然的に特色検査の点数を取ることに繋がっていきます。また、特色検査の入試ウェイトが1割の学校では特色検査の出来不出来で合否が左右されることが多くはないことも見えてきています。(合否ボーダーライン近くではもちろん影響しますが)必要以上に不安がることもないはずです。
進学重点校のみではなく、エントリー校も含めて特色検査を実施する意図については、「エントリー校もあくまで学力向上進学重点校を目指してほしい。特色検査を乗り越えられる学力をつけた生徒がいる学校が進学重点校です」(岡野参事監)ということでした。
特色検査が教科横断・総合型の問題であることは自明ですが、各教科でも総合型の問題が増えてきています。そこの切り分けというか、線引きがぼやけていることについては次のようなお答えでした。
「各教科の問題については、横断型を意識しているわけではありませんが、思考・判断をとう深い問題を作る上で、結果的に総合的な力が必要なものになっています。ですが、教科の問題はあくまで各教科の指導要領内での出題に留めています」
「特色検査で目指しているのは教科横断的な力を試せる問題です。題材としてベースになる教科はありますが、様々な力を試せる問題としています」(岡野参事監)
また、特色検査実施校の間で学力的な差、求める生徒像の差が出ていますが、共通の問題でどのように測っていくのでしょうか。
「記号選択を多めにしたり、記述を多めにしたりするというのは、各校で選べる形にしています。書く力を見たい学校は、記述式多めの問題を選択して出題できるようになっているということです」(岡野参事監)
記述式問題は部分的に出題される、ということですね。学校ごとに選んで出題をするという形のようです。ここから先は邪推ですが、採点ミスが怖い学校は記述を避ける、選択問題が多めのパターンを選ぶようになるのではないでしょうか。(◯須賀高校とか)
2019年度入試で平塚江南などで「特色避け」が受験生の間で起きていたように感じます。平塚江南が特色検査を実施するということで、茅ヶ崎北陵や鎌倉に流れた層は一定数いました。この件についてもコメントをいただいています。
「進学重点校という括りを作ったわけですから、その理念に該当する生徒を集めたい、という気持ちがあります。果敢にチャレンジする意欲がある生徒に進学重点校を受けて欲しいと思っています。ただし、特色検査を嫌がって他の学校を受けるというのも選択ですから良い悪いという話ではありません」(岡野参事監)
「特色敬遠」をする生徒たちがいることも承知の上で、起こり得る事態だという認識でしょうか。「学力向上進学重点校」というブランドをしっかりしたものにするために、特色検査に挑めるレベルの生徒たちに集まってほしいという考えが透けて見えますね。
出題については教育委員会主導ではあるものの実際は各学校で作っているものを集めているという形になっているようです。特色検査の選択問題については、2019年度は4パターンでした。次年度は17校で実施されるということもあり、選択問題のパターン数が増えるのでしょうか。
「パターンが増えるかどうかについては、お答えできません。ただ、作問については各学校に任せていますので、今の作問している方たちがどのような考えで何パターン作ってくるかは分からないというのが正直なところです。ただ、そう多くはならないでしょうね」(岡野参事監)
2019年度入試では募集定員に対して入学時に湘南で5名、翠嵐で12名の欠員が出ています。これは、主に学芸大附属高校の追加合格による「合格後辞退」があったためです。日比谷高校では同様の事態に対して合格発表後に追加で二次募集を行いました。神奈川でも同様に追加募集を行う、あるいは追加合格を出すということが出来ないのか、と話題になっていたこともあり、繰上合格と追加募集の可能性についてうかがいました。結論から言うと「出来ない」です。
「私学との関係性が東京とは違います。神奈川県では公立高校と私立高校は定数(募集定員)をかなり厳格に決めてきている。毎年、お互いの話し合いの中でギリギリを擦り合わせて何とか決まっているもの。
繰り上げ合格や合格発表後の追加募集の実施が、私学の定員に穴を開けてしまうことは予想に難くない。だから、簡単に制度を変えるわけにはいかないし、教育委員会だけで独断で決められるものではありません。日比谷同様のやり方は神奈川では出来ません」(岡野参事監)
私立高校との関係性を非常に大事にしていることが窺えます。「公立が追加合格を出せればみんな喜ぶ」という話もありましたが、私立高校への入学がほぼ決まっていた人が公立高校に進むチャンスが出来るので、「私立の定員に穴が開く」というのもまた事実。ただ、トップ校の併願私立高校の定員は形骸化してしまうほどの膨大な数が入学することが多いので、数名抜けることが果たしてそこまで影響するのか、という話もありますが。
少なくとも2020年度入試で大きな変更があることはなさそうです。学芸大と公立を併願する受験生は第一志望の優先順位を明確にしておいてくださいね。
昨年に引き続き参加となりましたが、昨年度は各教科の作問の狙いや難易度調整などについてのお話でしたが、今年は進学重点校と特色検査の話が中心でした。昨年よりもさらに塾側の質問機会を増やして会が進行されていて、こちらからの数々の不躾な質問に対して、真っ向からお答えいただき感謝しかありません。
神奈川県の入試が良くなって運用面や制度面でもさらなる最適化が進めば、受験生や子どもたちにとってより良い選択ができるようになります。入試は「思考力・判断力を問うものに」という県教委の強いメッセージを感じましたし、我々も情報を的確に伝えて、いい受験のための応援体制を整えたいと思います。
岡野参事監、主催の神奈川民間教育協会の皆さま、ありがとうございました。
慧真館ブログもいつものように熱く書かれていますのでぜひご覧ください。
ただ、中本とりんごは質問しすぎなので反省した方がいいです。