受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


令和の神サッカー漫画『GIANTKILLING』『アオアシ』を国語の先生が語り尽くそうと思う

2019.05.01


幼少期からサッカー漫画と共にどれだけの時間を過ごしただろう。昭和から平成を経て令和まで、ありとあらゆる作品を読んできたが、これまでの常識を超越する二つの“神サッカー漫画”が近年登場した。『GIANT KILLING』と『アオアシ』──。サッカークラスタやプロサッカー選手をも虜にしていく革命的なその魅力はどこにあるのか。その深淵に迫る。

はじめに

幼稚園の年長で転校を経験し寂しい思いをした私を癒してくれたのも、小学生でサッカーを始めてそれにのめり込ませるきっかけを作ったのも、中学生のサッカー部で上手くいかず苦しんでいた時に勇気をくれたのも、みんなサッカー漫画でした。サッカー漫画と共に成長してきたと言っても過言ではありませんので、遍歴について勝手に語らせていただきます。

一番最初に読んだのは知る人ぞ知る名作『がんばれ! キッカーズ』。同級生がキッカーズを読みに我が家に大挙していたのは良い思い出です。続いてハマったのが言わずと知れた『キャプテン翼』。ツインシュートやデューターミュラーのパントキックのマネは誰もがしたことでしょう。また、「トシ、サッカー好きか?」が一世を風靡した『シュート!』の存在感も忘れられません。「幻の左ー」と言いながら利き足じゃない左足でヘナチョコシュートを打っていましたね? また、サッカー漫画なのに動きが固い『Jドリーム』はストーリーに魅力があり、1巻で登場する本橋譲二の悲劇からの赤星鷹の飛翔は泣けました。

世界に目を向けた秀作として『俺たちのフィールド』も何度も読み返した作品です。アルゼンチン留学が斬新でした。舞台をJリーグに移していくのもよかったです。主人公椎名燿がカルチョの舞台で活躍する『VIVA CALCIO!』はマニア垂涎。当時世界最高峰リーグだったセリエAの選手が実名で登場し、椎名の所属がフィオレンティーナという渋さ。ロベルトバッジョがライバルでバティストゥータやルイコスタがチームメイトにいるという夢のような話です。時は過ぎ、少し大人になってからは『オーレ!』が面白かったですね。何らかの事情で短命に終わったのが残念なクラブ経営漫画でした。

そして数年前。これまでのサッカー漫画の面白さを超越していく漫画が彗星のごとく現れました。それが『GIANT KILLING』(以下ジャイキリ)です。監督を主人公にしたこの作品は作り込み方も尋常じゃなく、戦術面やクラブの成長や経営という視点もある全く新しいサッカー漫画です。

そして、このジャイキリに触発されるかのように生まれてきたのが、ユースを舞台にし、より戦術要素が強く、読んでいるだけでサッカーが上手くなれる漫画『アオアシ』です。二作品と出会った時は夢中で貪るように全巻読みをし、気づいたら夕方…という大人らしからぬ体験を余儀なくされました。そんな“現代の神サッカー漫画”『GIANT KILLING』と『アオアシ』の魅力を余すことなく伝えていきたいと思います。これから読む人のために極力ネタバレをしないように心がけます。

※著作権に配慮してコマ画像は転載しておりません。悪しからず。

『GIANT KILLING』

現役サッカー選手やサッカークラスタの間でも高い評価を得ていて、もはや説明の必要もないくらい知名度が上がってきていますが、改めてジャイキリの魅力をお伝えします。

giantkillingが意味するのは「番狂わせ」「下克上」。弱きものが強きものを挫く。痛快すぎる逆転劇を演出し、北条早雲よろしくの大金星を上げていくのは、リーグジャパンのETU(イースト東京ユナイテッド)とそれを率いる主人公、達海猛です。

世にも珍しい「監督」が主人公の作品。その達海は現役時代ETUのスター選手で日本代表の次代を担う存在でしたが、絶頂期にプレミアリーグに移籍後、デビュー戦で再起不能の重傷を負うことに。若くして選手生命が絶たれます。そして、達海が抜けたETUは暗黒時代に突入。それから10年後、低迷するチームを復活させるために消息不明だった達海猛を探し出し、ETUの監督就任をオファー。そこから達海猛とETUのGIANTKILLINGが始まることになるのです。

監督が主人公

これまでサッカー漫画は大空翼しかり田仲俊彦しかり赤星鷹しかり高杉和也しかり、フィールドプレーヤーが主人公を務めることがほとんどでした。ボールに絡む回数、ゴールや試合を決めるシーンへの露出を考えると至極当然の成り行きです。(例外的にイナズマイレブンやオフサイドなどはGKが主人公)

ジャイキリは監督が主人公。現代サッカーにおいて監督がチームの強化や運営で大きな影響力を持つことは自明で、選手と同じくらい注目される存在となっていることを考えると、監督目線のストーリーは十分に漫画化される要素があるものです。戦術、選手起用、コーチング。達海の采配によって選手達が躍動していきます。声のかけ方や選手に伝えるメッセージの一つ一つが秀逸で、まさに優れたコーチャー。ジャイキリがビジネスマンにとっても有益な作品と言われている所以です。(鎌倉の知人、仲山進也さんがジャイキリのビジネス本を執筆しています)

痛快なジャイアントキリング

ジャイアントキリング=番狂わせ=大金星。負け続けていたチームが勝った一勝、失敗続きだった選手の大活躍、引退間際でキレを失った選手の意地の一撃など、私たちはスポーツにおけるジャイアントキリングをいつも特別な思いで見ています。ジャイキリでは演出される逹海とETUの選手たちの番狂わせは、捲土重来の趣が強く見られ、失敗しても立ち上がり這い上がる、そのメンタルの強さも心を揺さぶります。

「苦しむ→咆哮する→パワーアップ」というお決まりのパターンではなく、考え、周りを使い、悩み、失敗して、その葛藤から生まれてくる光を丁寧に描きます。一度のジャイアントキリングを演出するために一体何話が費やされるのでしょうか。

緻密に周到に描出されたジャイアントキリングが読者の心を掴み、作品に傾倒させていくのです。

小説家顔負けの入念な伏線回収

逹海の一言や選手たちの表情、またさりげないプレーなどが伏線になっていて、試合の最中や試合後にその意図が明かされることもしばしば。それどころか、何十話も前の伏線が後々影響してくることもあり、繰り返し読むことで発見があるのもジャイキリのすごいところです。頭を使いながら読む、今までになかったサッカー漫画です。

46巻で清水インパルスの蛯名監督が試合後に達海を眺めながら思案した、

だってお前…この国に…そう長くいるつもりないだろ?

の一言が不穏な響きを持っています。ETUでの監督生活は長くないのかもしれませんね。リーグ戦が一年終わった段階で連載終了? という邪推をしてしまいますが、果たして。

巧みな人物の描き分け──拡散するスポットライト──

主人公は達海ですが、選手側の主人公は現役時代に逹海が背負っていた背番号7を継承しているMF椿大介と言えるでしょう。椿は極度のあがり症で大舞台で力を発揮できずにいましたが、逹海との出会いが椿を変え、ブレイクスルーを迎えます。U-22からA代表へと上り詰めていく椿の成長を追いかけるのもジャイキリの醍醐味の一つです。

しかし、この二人だけを中心に物語が進むことはありません。ETUのチームメイト、相手監督、チームの運営スタッフやスカウト、そしてサポーターまで。本当に数多くの人物にスポットライトがあたり、どんどんメインキャラクターが入れ替わります。にもかかわらず、話の軸がブレている感じがしない。登場する一人一人の類い稀な存在感がGIANTKILLINGという一つの物語に厚みと深みをもたらしていると言えるでしょう。

お気に入りは、第3巻で闘将村越がキャプテンを外された意味を考え、プレーでそれに答えていく場面。第11巻でベテランFW堺が狡猾で泥臭いプレーで結果を残すところ。ETUの若手FW世良の想いがほとばしる第9巻。戦力外に近づいたミスター名古屋グランパレスのベテラン川瀬がプレーで自らの存在価値を認めさせる33巻。そして、ライバル東京ヴィクトリーの10番、悲劇の天才MF持田が45巻で魅せた今際のプレー。

100人いれば100人のサッカーへの関わり方がある。選手だけではありません。監督、スカウト、広報、球団社長、サポーター。本当にたくさんの人がサッカーを愛しています。ジャイキリはその愛を切り取る。そして、そんな一人一人の愛が地球上で最も人々を魅了するエンタテイメントである、「サッカー」という文化を作り上げているのだということを改めて実感させてくれるのがこのGIANTKILLINGという漫画です。

成長物語と失地回復譚

国語の先生らしく物語の構造の話をすると、ジャイキリは典型的な成長物語と逹海の失地回復譚ということができます。

躍進するETUの象徴である椿大介は当初、チームのレギュラーですらありませんでした。しかし、その椿が信じられないスピードで成長し、1シーズンの間に日本代表に召集されるまでになります。ただ、サッカーは面白いものでこのようなストーリーは漫画の世界のことだけではなく、現実でも起こり得ます。昨年までJ2東京Vにいた畠中槙之輔がJ1横浜Fマリノスに今期加入して頭角を現し、瞬く間にA代表に抜擢されたのは記憶に新しいことかと思います。

椿がプレースタイルを確立し、自信をつけていく過程は分かりやすい成長物語であり、読者は椿の成長を見守り、エールを送りながら読み進めます。しかし、椿の目覚ましい成長や進化、そして一丸となっていくETUというチームは、逹海が現役時代その手をすり抜け失ってしまったものでもあります。逹海が到達することが出来なかった場所、逹海が見ることが出来なかった景色を、椿がそしてETUが見せてくれる、という意味でジャイキリは逹海の失地回復譚でもあるのです。

見事な序破急

綿密かつ周到に準備した展開が発展していき山場を迎えて急速に終わる。そして、次の章へ引き継がれていく。その構成は序破急そのもので、読者を虜にしていく上質なストーリー構成です。

一試合は30話(単行本では3巻分ほど)に及ぶこともありますが、その展開は入念に準備されたものです。試合開始から両チームの思惑がぶつかり合い、刻一刻と変わる状況に次々と手を打っていく様は、リアルそのもの。ハーフタイムでの修正のシーンなども毎試合の楽しみの一つです。終盤に向けてヤマ場を設定し、ヤマを過ぎると急速に試合が終わりノーサイド。試合後の達海と相手監督の握手のシーンも味があります。

あっという間に進行するスピード感も魅力ですが、いくつもあるターニングポイントをじっくりと読んでいく楽しみ方も出来ます。テンポの良さとヤマ場へ持っていくための展開の妙は他のサッカー漫画の追随を許さない精密さがあります。

逹海の名言の数々

「チームの事情…チームのバランス…戦術。そんなものまでお前が背負いこむ必要はねえ。お前は紅白戦で負けた。若手に比べりゃまるで走れねぇ。それでも勝てる自分の武器をこれからお前は死ぬ気で探せ。その代わり……お前が背負ってきたもんの半分は、これから俺が命懸けで背負ってやるよ」(第1巻)

 

「そのまま行け。何度でもしくじれ。その代わり一回のプレーで観客を酔わせろ。敵のド肝を抜け。お前の中のジャイアント・キリングを起こせ」(第2巻)

 

「おそらく世良みたいな連中は……劣等感から始まってる。できないことを消去法で削ぎ落とし、できることだけを磨いてプレーしてる。磨いて輝かないものなんてない。だから期待するんだ、俺は。そういう奴が才能ってもんを凌駕するのを」(第9巻)

 

「どちらにせよ大事なのは、お前が自分に正直でいること。ボールは丸いんだ。迷った足で蹴ったって上手に飛ばない。それを踏まえた上で決めろ。じゃなきゃフットボールを楽しめないぜ?」(第14巻)

 

「勝負の世界…挑戦者にふさわしいものこそが、勝利をつかむってことを忘れるな」
「挑戦を選んだ先には、必ず何かを得た自分がいる。それを知ってる奴らは挑戦を苦と思わない。成長できるはずだと自分に期待して目の前のことに希望を持って立ち向かえる」(第26巻)

 

「すごいことなんだよ。プロでやるってのはさ…。自分の好きなことを追求して…それで生活できるんだから…。だからさ…あいつらに、もう一度わかってもらいたいんだよね…。その幸せな時間は、永遠に続くわけじゃねえってことを」(第30巻)

この至言の数々。人生の指針を与えてくれる言葉が絵とともに迫り、心に響きます。受験生にも、ビジネスマンにも刺さる言葉ではないでしょうか。

30巻の衝撃

連載は続き単行本もついに50巻を超えました。その中でも30巻はすさまじい一冊で、ジャイキリファンの間でも神回呼ばれています。悲運のプレーヤー、達海猛のサッカーへの想いがほとばしるシーンはまさに圧巻。

かつてサッカープレーヤーだった全ての大人に捧げたいのが30巻です。何度読んでも涙が止まりません。全巻読めなくてもとにかくここまでは読んでください。それだけの価値がありますし、それは読めば必ず分かるはずです。

まずは1巻から

大人買いするなら…(買う価値はあります!)

 

『アオアシ』

代表チームや高校サッカーをメインに描くサッカー漫画は数多くあります。しかし、クラブのユースチーム(18歳以下)を舞台に描かれたサッカー漫画はありませんでした。アオアシは絵とストーリーを担当する小林有吾と取材・原案の上野直彦がいます。上野直彦のサッカーライターとしての取材力を生かして、かなり細かな戦術やディテールを表現できていますし、小林有吾は将棋の有段者であることを納得させるストーリー構築力で読者を引きつけます。

架空のJリーグチームである、東京エスペリオンのユースチームが舞台。主人公の青井葦人は、粗削りでありながら目を見張る個性を持ち、紆余曲折を経ながら、サッカーを学んで成長していくという物語です。

舞台がユース

ユース年代が舞台ということもあり、高校でのシーンもあって青臭さやみずみずしさがほとばしるのもアオアシが眩しく映る理由の一つでしょう。育成年代の強化は日本サッカー界においても急務であり、ユースやJrユースから戦術を知ることはその後のサッカー選手としてのインテリジェンスに大きく影響します。

アヤックスやバルセロナなどは育成に定評がありますが、トップチームからジュニアまでほぼ一貫した戦術とフィロソフィー(哲学)を持っています。オランダは小学生のほぼ全てのチームで3-4-3もしくは4-3-3のフォーメーションを採用しており、それ以外の選択肢がほとんどないような状態で育ちます。日本ではそんなことはほとんどない。日本代表のスタイルが監督によって大きく左右され、確立されていないこともありますが、せめてクラブレベルではトップから育成まで一貫してスタイルを持てるようになってほしいものです。

その意味で、アオアシが持つ戦術眼への誘いは多くのユース年代に良い刺激を与えるはずです。もちろん、漫画のようにうまくはいきませんが、とにかく考える。サッカーは頭でするものだということをアオアシは改めて教えてくれます。

戦術を学べるサッカー漫画

「人間は考える葦である」

パスカルのかの有名な一節が1巻、2巻でよく出てきます。弱いからこそ考える。才能ではない。卓越した技術だけでもない。「考えること」、それがサッカーをする上で最も重要なのだということを読者に訴えています。

「サッカーはオフ・ザ・ボール(ボールを持ってない時)の動きがすべて」(第2巻)

 

「一人でも二人でもない。3人。サッカーは、『3人』で、ボールを運んでいくスポーツなんだ…」
「サッカーの基本はトライアングル。少なくとも3人なんだ」(第6巻)

 

「理想はボールを受ける直前。首を振ることでフィールドの状況を一瞬で把握する。また、首を振って周りの選手に『見えてるぞ』と示すことで、敵は奪いに来るのをためらい、味方は安心して連携に参加できる」(第7巻)

 

「違う!! 潰しに行くのは、人じゃねえ! 人じゃなくて…潰すのは…スペース!!!」
「声をかけて、全員でスペースを潰す!!!」(第8巻)

 

「考えに考え抜いた最後は──…本能で動け、アシト」(第11巻)

 

「ダイアゴナル・ラン。(中略)近代サッカーの守備は基本、『ゾーンディフェンス』で成り立っています。ゾーンディフェンスとは、わかりやすく言えば、自分の担当するエリアを区切ることです。『エリアに敵が入ってきたら潰しに行く』シンプルながらも合理的。組織的な守備の象徴とも言える守り方です。そこに、斜めに来られるとDFは困る。『誰が潰しに行けばいいのか?』『どこまで追いかければいいのか?』」(第11巻)

 

「世界とJリーガーの決定的なさの一つに、この『L字型』の形成が徹底できているかどうかがあげられる。(中略)守備は常に『形』だ。組織的に動け、アシト」(第12巻)

 

「わざとボールを持たせ、奪うポイントをあらかじめ決めて置くんだ。(中略)それらのポイントに誘い出すまでは決してボールを取りに行かない。わざとその地点に誘引させるんだよ。そして、即攻撃へ。だから誘引してる間は、『守る』というより、『攻撃の準備』という意識が正しい。この一連の流れを、『嵌める』と言う──」(第16巻)

葦人と共にサッカーを学んでいくことになります。アオアシを読めば、これまでよりも数倍サッカーを楽しく見ることができるはずです。彼氏・彼女がサッカー好き、という人も是非。話が弾みますよ。

ディフェンスに脚光

主人公、青井葦人は元々FWの選手でしたが、福田監督によってDFにコンバート(配置転換)されます。実はこれ、少年たちのサッカーを考える上でとても重要なことだと思います。キャプテン翼の功績は計り知れませんが、罪過があるとすればあまりにも前線の選手にスポットライトが当たりすぎることです。

アオアシはDFの面白さを葦人の成長とともに描き出します。今、DFをやっているプレイヤーたちは自分のポジションに誇りを持ち、またその場所での楽しさを探すきっかけとなることでしょう。FWやMF以上に頭を使う、考えるポジションがDFです。ラームやキミッヒ、最近では長谷部などもディフェンスIQの高さでフィジカル面でのマイナスを十分に補う活躍をしていますよね。

「人」に寄り添う物語

チームメイトとの軋轢、ライバルとの切磋琢磨、そして友情。サッカー漫画ではあるものの、育成年代(高校生)の青臭い「人」を中心にして物語は展開されます。嫉妬や恨み、正義感や負けん気の強さなど、少年たちの熱い思いが時に劇画的なタッチで描かれているのが印象的です。勝つために守るべきものと、捨てなければならないもの。サッカーという物語の中にいつも存在している葛藤を堪能できる作品となっています。

無邪気な葦人も魅力的ですが、それを取り巻くメンバーも十分に個性的です。ジャイキリほどではありませんが、一人ひとりが抱える物語を丁寧に描いているので、次第にチーム全体への愛着を高まっていきます。人の人らしさを大事にした作品とも言えるでしょう。

思考・感覚の言語化

本能的に動いたり、無言のままテクニックを見せたりすることがありません。何を考え、どう動いたか、というのを言語化しているのも特徴です。時に図を入れるなどして、戦術についての解説が入ることもあります。

特にうまくいかないことに対しての言語化にこだわりを見せているように感じます。漫画は画の躍動感や展開スピードで伝えて言葉を準備しないこともありますが、アオアシはスピード感を犠牲にしてでも徹底的に言葉にする。思考や感覚を言語化するイメージを大切にしているから非常に読み応えがあります。

「ここでいう戦術というのは『個人戦術』、思考力(インテリジェンス)の結晶のことだ」

「個人戦術を身につけるということは、言語化して自分の手にしているということです。すると、周りに明確な指示(コーチング)ができるんです」

「自分でつかんだ答えなら、一生忘れない」(第4巻)

勉強でもスポーツでもなんでもそう。自分でつかんだ答えは、忘れない。だから、言語化する。頭の中のごちゃごちゃした思考を言語化することが大事になってくるのです。才能と身体能力だけでサッカーが出来ていた時代は過ぎました。今は戦術を消化して言語化していける、インテリジェンスのあるプレイヤーが求められています。絵とともに言語化してくれるアオアシは、サッカーを学び、答えを見つけるための優れた教科書であると言っても過言ではありません。

そして、何より言葉を大事にしていることが伝わります。漫画ばかり読んでいるとバカになると思っている方は、大きな間違いです。言葉に強くなり、考えながら読む漫画、それがアオアシです。

ヒロインが可愛い

サッカー漫画のヒロインは可愛くない(中沢早苗とか)と相場は決まっているのですが、アオアシに出てくるヒロイン一条花は可愛い。主人公アシトとの淡い恋物語も楽しめます。距離感が縮まりそうで離れていく感じがいいですね。青春です。

まずは1巻から

大人買いするなら…(買うなら今のうち!)

おわりに

サッカー漫画で泣いたことはありますか? 久保嘉晴の11人抜きからの「トシ、サッカー好きか?」や明和戦で吠えた翼の「サッカーは俺の夢だ!」も泣けるシーンではありますが、ジャイキリとアオアシがもたらす感動はそれ以上です。リアルを追求し、きちんとストーリーを構築した先にある「人の物語」は心を揺さぶります。

また、双方とも戦術要素や育成要素が強いので、サカつくやfootballmanagerなどのシミュレーションゲームが好きな人にも刺さることでしょう。「翼」や「シュート!」などの必殺技系に辟易としてサッカー漫画を敬遠していた方、価値観がひっくり返りますよ。

現実のJリーグとのコラボネタが出てきているのも面白いですよね。双方のファン層の拡大に繋がります。また、この二作品はまだまだ連載中(令和元年時点)で楽しみは現在進行形です。サッカーそのものに一家言ある方はもちろん、ライトなサッカーファンもぜひ手にとってみてください。サッカーの楽しみ方に奥行きが出るはずです。

ドラゴンボールとスラムダンク以来の連載中に出会えて良かったと思える作品です。新巻が出る日を楽しみに待つ日々が帰ってきました。一日でも、一話でも長く、椿の成長を、逹海の野望を、葦人の飛躍を読んでいたい。だから、描き続けていただくために、読む人が一人でも増えてほしいとの願いで記事をまとめました。多くの人に届きますように。