受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


IB候補校に! 三浦学苑が巻き起こす三浦半島教育革命

2018.10.04


「消滅可能性都市」。人口流出が止まらない三浦半島の中で神奈川県内の市としては唯一消滅可能性都市として挙げられているのが三浦市です。高齢化率も10年後には40%を超える見通しとなっているこの三浦市で、子どもたちへの教育の灯火を消すまいと気を吐いている学校が三浦学苑です。IB候補校の指定を受けるなど攻めの教育改革を続ける学校に呼応するように、学校を飛び出して各方面で活躍する生徒たち。子どもたちが元気な街は廃れないーー三浦学苑に今、注目が集まっています。

どんな学校か?

沿革

「三浦高校」と聞けばかつてはヤンキーの巣窟(失礼!)として地域では知らない人がいない学校でしたが、2009年に創立80周年で三浦学苑に改称。学習内容とイメージの刷新を図り、2013年に特進コースを設置したあたりから急速に改革が進んできました。2018年にはIB(国際バカロレア)候補校として認可され、2019年には認定校となる衝撃の計画が進んでいます。2017年にはなぎさの丘グラウンドが完成し、現在も校舎と道路を挟んで向かい側に土地を取得。テニスコートや3×3のコートを整備予定で校地も広げています。2029年度創立100周年に向けて校舎の改築と待望の食堂の設置も予定しているとのことで、ソフト・ハード共に信じられないような変貌を遂げています。

コースは?

現在は普通科が3コース(特進コース・進学コース・総合コース)に加えて、工業技術科(二年次から機械・電気・情報に分かれる)が設置されています。特進コースでは大学進学率が96%、進学コースでは80%、総合コースでも49%となっており、普通科は基本的に大学進学を目標とする学校になっています。

もちろん、専門学校も含めて多様な進路設計が出来る学校ですので、一人ひとりに寄り添った進学指導がなされています。工業技術科からの就職決定率も高く、企業との様々な提携プログラムも提供されていて進路について考える機会も豊富です。コース間の交流については部活動以外ではほとんどないとのこと。それぞれが独立したカリキュラムとなっています。

特進コース

少人数学習が特徴で国公立大学や難関私立大学に合格できる受験学力を身に付けることができるのが特進コースです。2018年度卒業生(24名)では東工大1名、横浜国立大1名、横浜市立大学1名など国公立に5名合格するなど成果を出し始めていました。月・水・金は7時間授業を行ったり、長期休みの集中講習を実施したりするなど学習面のサポートも手厚くなっています。

二年生ではセブ島へ7泊8日の語学研修があり、社会との接点を持ちながら探究を深めていくクエストエデュケーションなども導入されています。子どもたちのスキルアップに必要で世界を広げる効果的なものは貪欲に取り入れていく方針です。また地域活性化にも積極的で、横須賀の無人島・猿島の魅力を再発見するプロジェクトを立ち上げるなど、各種メディアにも数多く取り上げられる精力的な活動が目立ちます。

進学コース

中堅から上位大学への合格を目標にしたコースで基礎・応用・演習を充実させていくカリキュラムです。放課後講習や長期休暇中の季節講習、朝学習など、一人ひとりを丁寧に見ていく学習体制が敷かれています。文武両道も推奨されていて部活動やその他の活動に力を入れながらも大学進学を果たしていく生徒も多いようです。

学習ダイアリーを活用したり希望制の定期試験対策講座に積極的に参加したりと自立型学習を推奨・支援。豊富な外部テストや検定を校内で受験することで学力を把握し、弱点を補いながら先を見据える力が身につきます。

総合コース

多彩な選択科目が特徴です。大学進学から専門学校、就職まで幅広くサポートできるカリキュラムとなっています。必修科目については中学範囲の学び直しも含めて丁寧に学習指導を行っていき、資格取得に向けてのサポートや学習モチベーションを高めるための取り組みも多数あります。

ボランティア活動にも随時参加し、進路指導にも非常に力を入れていて、社会で生き抜くための道筋を共に作ってくれるのが総合コースです。

工業技術科(機械・電気・情報)

工業技術の力だけでなく、コミュニケーション能力や基礎学力も同時に伸ばせるカリキュラムとなっています。一年次は全員が同じカリキュラムで進み、二年次から機械コース、電気コース、情報コースの三つに分かれて専門的な技術や知識を習得していくことになります。

三年次では自分でテーマを設定し、課題研究を行っていくことで社会に出てからの「強み」を発見し伸ばしていくことができます。実力も折り紙つき。就職率の高さもさることながら、乱れていない雰囲気が何より素晴らしい。生徒たちは前向きで特進クラスや進学クラスと同じ校舎の中にいても違和感がないほどです。惜しむらくはPCルームのパソコンが随分と旧式だったこと。技術系を謳うならこの辺もしっかりしたいところですね。

部活&行事

部活動の加入率も71%と比較的高く、部活というコミュニティを大切にしながら高校生活を送っている生徒が多数います。特に全国ベスト8に進出したサッカー部は部員数150人!(10人に1人がサッカー部笑)ということで活気があり、それ以外にも21年連続東関東大会に出場している吹奏楽部、卓球やバレーボール、弓道なども有名です。

行事については文化祭がもっとも盛り上がると言われていますが、規制が多いのが難点ですね。私立なので仕方ありませんがもう少し融通を利かせてほしいものです。体育祭の代わりにスポーツ競技会や球技大会があります。公立のように髪を染めたり、色別にTシャツを作ったりする青春は望めません。祭りではなく純粋に「競技」です。

雰囲気は?

「落ち着いた」というのが最大の印象です。校則が厳しめということもありますが、乱れた様子はなく生徒たちは学校生活を前向きに送れていると感じます。また先生方の空気感もよく、学校が変わっていくことを受け止め、楽しんでいる趣も感じられます。

学校という場所は閉鎖性が強く、凝り固まった価値観から変化に弱かったり疎かったりします。その点三浦学苑は明らかに「外」を見ていて、管理職の方々はじめ先生方から次世代を担う人材を育てるエネルギーを感じます。

今後はいつまでも偏差値を追い続ける、コッコーリツを唱え続ける学校と、探究学習を中心にした主体的かつインタラクティブな学びができる学校とに二分化していくのではないでしょうか。教育に多様性と立体的な価値基準が生まれていけば、それは子どもたちにとっても社会にとっても良い傾向となることでしょう。

偏差値&進学実績は?

三浦学苑は「偏差値よりも探究」と上に書きましたが、気にされる方が多いと思うので一応載せておきます。ちなみに2018春の進学実績は東工大首席合格をはじめとした現役国公立5名。これは三浦学苑始まって以来の快挙です。

比較検討対象と思われる学校との比較は下記の通りです。横須賀学院との差はやはり大きいですね。まぁでも横須賀学院の早稲田合格数9のうち7つはたった二人の生徒が複数学部に合格して取ってきた数字ですし、進学実績もあてにならないものです。(国公立は一人一校しか受けられないので比べるなら国公立の方がいいような気もしますが)

2018進学実績 三浦学苑 横須賀学院 湘南学院 横浜創学館
標準偏差値 特進58
進学54
総合47
選抜63
一般58
国公立アドバンス60
アドバンス57
選抜51
総合48
特進53
文理選抜49
総合44
卒業生数 418 460 640 384
早稲田 1  9
慶應  4
上智  3
明治 3  24 4
青山 2  24  2 1
立教 4  12  1 1
中央 1  15  1
法政 4  13 3
日本 13  52  15 5
東洋 6 23  4 5
駒沢 9  8  3 4
専修 2  19  5 4

三浦半島の教育を変える革命実行中! その中身とは?

さていよいよ本題です。三浦学苑は創立100周年に向けてハード面での改革の目玉が校舎改築ならソフト面での目玉は間違いなくIB(国際バカロレア)ディプロマ認定校の称号です。IBコース導入は減り続ける三浦半島の人口への危機感から学校の生き残りをかけて挑むプロジェクトです。

国際バカロレア(IB)とは?

「国際バカロレアとは何か」については、横浜国際高校の記事にて詳しく書いてありますのでそちらをご参照ください。

国際バカロレア(IB)始動! 横浜国際高校の改革と挑戦

引用しておきます。

国際バカロレアは、1968年に設置された3歳〜19歳までの教育プログラムで、世界中で高い評価と注目を集めています。年齢に応じて3段階に分かれており、16歳〜19歳向けのディプロマプログラム(DP)と呼ばれる部分が日本の高校でも導入され始めています。IBの理念は以下の通りです。

国際バカロレア(IB)は、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的としています。この目的のため、IBは、学校や政府、国際機関と協力しながら、チャレンジに満ちた国際教育プログラムと厳格な評価の仕組みの開発に取り組んでいます。IBのプログラムは、世界各地で学ぶ児童生徒に、人がもつ違いを違いとして理解し、自分と異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあり得ると認めることのできる人として、積極的に、そして共感する心をもって生涯にわたって学び続けるよう働きかけています。(文部科学省HPによる)

簡単に言うと「世界でたくましく生きる力を育むための世界標準の学習指導要領」みたいなものです。日本には長らく学習指導要領というものがあって、それに沿って各学年での学習内容が決められていますが、その世界標準となるものがIBだと考えれば良いでしょう。

三浦学苑のIB(国際バカロレア)プロジェクト

「目の前の生徒をレールに乗せていくだけでなく生徒が自ら探究していく授業を実現したい」そう語るのはIBコース開設プロジェクトの提案者であり、先陣を切ってこの改革のタクトを振るう野櫻先生です。三浦学苑ならではのIBへの取り組みについて語る姿が生き生きとしていて、このチャレンジを楽しもうとしている姿が印象的でした。

概念主導である

野櫻先生の話の中で「概念主導である」という話が出てきました。IBの教育は「探究」と「行動」と「振り返り」を大切にしています。三浦学苑としてはその中でも様々な事実・知識・現象などのトピックを抽象化、普遍化し、時間を超えた一般的な事象として言語化していく学習に挑戦していくとのことでした。教科横断を超えた非常に総合的なプログラムになっていくのではないでしょうか。行事や学級活動のみならず学校を離れた長期休暇の過ごし方など、全てに波及していく斬新な取り組みとなる可能性を秘めています。

ただ、相当な主体性と協働性が必要になってくる壮大な内容であり、生徒たちが受け止めきれるかというのが今後は焦点になっていくでしょう。しかしながらIBプログラムはそもそも高学力、高い意識を持った子どもたちのためだけのものではありません。海外では学力が決して高くない学校でもIBを導入したことにより、生徒たちが輝き大成功した例もあるそうです。中学まで評価されなかった子どもたちが三浦学苑に入学してIBの理念に触れて、自己肯定感が高まり己を変えて生き生きしていくようになったら最高ですね。

IB教員は自前で育てる

「受け身の学習」に慣れているのは生徒だけではありません。三浦学苑でもこれまでは旧来型の一方向性の「詰め込み教育」で教え込む授業スタイルが基本でした。しかし、IBコースで教えるにはその内容・ねらい・目指すべき方向性を熟知し、それを教室内外で実践できる教師が不可欠です。

野櫻先生は力強く言い切っていらっしゃいました。「外部から新たにバカロレアコース担当の教員を雇いません」。IBの認定校となるためには先生たちのレベルも上げる必要があり、IB機構が授業をチェックし、求めているレベルに満たない教員がいる場合は認可を取ることができません。それでも、自前でやると。

「現在いる先生たちに頑張っていただく。研修も毎週のようにやっているし、理念やカリキュラムを理解するための課題も毎月提出してもらっています」

「大変なようですが、教員たちも楽しんでやっています。指導の幅が広がっていく感覚があるのかもしれません」

IB認定はIBコースの生徒のためだけではない

IB教員を外部から雇った方が導入も進行もスムーズなはずです。なぜそこまで現在の教員で運用することにこだわるのでしょうか。その理由こそが今回の改革の目指すゴールです。

バカロレアコースは1学年10〜20人程度を予定しているため、全校生徒数1300人強に対してごく一部です。しかし、最終的な狙いはバカロレアコースを軌道に乗せ、そこの生徒を伸ばしていくことではありません。数多くの教員がバカロレアの理念を体現し、探究型の授業を実践できるようになる。そして、その教員が他コースの生徒たちを担当した際の授業を探究型にする。そして、学苑全体の授業のクオリティを変えていく。これが三浦学苑の改革の目指す姿です。

すでに研修は始まっており、コーチングスキル、ファシリテーションスキルを磨き、アクティブラーニングのための授業準備を校内でブラッシュアップしています。また、外部講師の講演やワークショップを何度も開くななど教員のレベルアップにも余念がありません。

まずは個人・組織での実践を計画し、それを特進コース(IBコース)で実行する。そこで得たフィードバックや経験を他のコースへ落とし込んでいく。IBへ挑戦するその道程が学校力を高めることにつながる、というのが野櫻先生と三浦学苑が描く青写真です。

一足先に神奈川県内でIBコースの導入を果たした法政大学国際高校、2019年度からスタートする横浜国際高校はバカロレアコースを独立させ、カリキュラムや教室・校舎・担当教員なども分離して運用しているようです。その点三浦学苑は他の高校と比べてIB以外のコースへの波及効果を狙っている点に新しさがあります。

「教員を育てる」ということの大変さは想像に難くありません。先生という生き物は自分の指導法を変えることを殊更に嫌がる厄介な存在です。IBの理念と旧来の指導法との乖離が激しいので、その実践は相当骨が折れますし、思うように教員が育たなかった場合はIB認定が取り消されるリスクもあります。それでもその茨の道を通ってでも学校全体を変えていく、それによって三浦半島の教育を変える、という強い意志を感じるのが今回の挑戦です。お話を聞いていると先生方の覚悟が強く伝わってきました。

教室の外の社会にどんどん飛び出す生徒たち

また、三浦学苑は校内での活動だけが学校活動だとは考えていません。興味があればどんどん外に出て社会を感じてもらいます。ラジオの出演、猿島のプロジェクト、教育の今と未来について語るイベントedcampの運営、プログラミングスクールの運営サポートなどなど。学校内で、先生のコントロール化で日々を過ごすのではなく、「主語を自分に」をモットーに生徒たちを自由に羽ばたかせます。

進学指導部長の佐々木先生も嬉々として語ります。「隙あらば外に出してます。隙がなくても外に出します笑。何かやりたいことや気になることがあれば、理由次第ではありますが学校内の活動より優先させることもあります。生徒の積極性は地域ではすごく注目されていて、特進コースの半数はテレビやラジオ、新聞の地方版など何らかのメディアで自分の取り組みを語っています」

外に出て何を語るか、どう語るか、それをどう持ち帰ってくるかという部分についての指導もきちんとされています。佐々木先生は国語のご担当ですが、「授業ではこれでもかと論文を書き、自分の意見を言葉にし、発表していきます。そして、それを相互評価していくことで伝え方や論点などをお互いに学べるようにしています」と読み方中心の受け身の高校国語とは一線を画する主体性をベースとした授業を展開しています。

「何をしたか」が大事になってくる今後の大学入試を考えても体験重視と言える三浦学苑の教育活動は有効です。AO入試に代わる「総合型選抜」でのeポートフォリオにも強そうですね。

入試について(IB入試)

2020年度入試からIB入試を導入予定とのこと。IB入試で見たい力は、「読解力と記述力を中心とした言語運用能力」です。まずはもっとも得意とする言語(日本語)での能力、そしてそれに準ずる英語力と行ったことになります。英語で学習しなければならない科目もありますので、英語力が足りなければIBプログラムを受講することは難しくなります。

よってIB入試は次のようになると予想

  • 基礎学力テスト(数・国)
  • 小論文
  • 面接(日本語&英語)

面接では英検準二級レベルのやりとりですかね。もしくは英検準2級以上取得を出願資格にしてしまっても良いのかもしれません。IB校らしくCEFR(A2以上)とかを基準にするのも面白そうです。いい線いっていると思いますが全て推測の域を出ません(笑)。

ちなみに推薦入試については「何とも言えないものの、やらないかもしれない」というのが現在の野櫻先生の見解。確かに推薦入試で調査書の内容や基準だけで合格にしてしまうとIBの理念や求める人物像とずれてしまう可能性がありますね。一方で推薦入試で早めに理念を理解した良い人材を確保したいという目算も間違いなくあるので、これはまさに「何とも言えない」部分ですね。数名程度の募集になるか、法政国際みたいに変則日程(12/1入試とか)で入試がくるかもしれません。2019年夏から秋にかけておそらく入試のやり方含めて発表されると思いますのでそれを待ちましょう。

IBは結構設備にもこだわる。IB機構の要望を満たすために理科室を改装。今後も順次設備を整えていくとのこと。

おわりに

筆に力が入り、7000字超の記事となりました。今までの三浦学苑へのイメージを多少なりとも払拭できたなら幸いです。この記事を書いたのは学校の紹介という意図ももちろんありますが、中途半端なことをしてほしくないという学苑へのメッセージでもあります。この記事を読んで三浦学苑に興味を持った生徒・保護者は「面白い経験ができる三年間になりそう」「新しくて深い学びを体験してみたい」と思って門を叩くことでしょう。その生徒や保護者の期待を裏切らない授業や体験、学校生活の場を創ってほしいという願いを込めております。学苑の先生方、ぜひよろしくお願いします。

三浦学苑は神奈川県内に数多ある私立の中でもここ20年でもっともドラスティックに変わった学校ではないでしょうか。しかもこのイノベーションはまだまだ道半ば。三浦学苑は三浦半島の教育を変え、神奈川県の子どもたちに明るい未来を見せてくれる革命を続けます。2029年100周年を迎える三浦学苑がどう変わっているか。日本で今後も増え続けるであろうIB認定校の一つのモデルケースになっているかもしれません。