受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


神奈川県公立高校入試 倍率予想2018

2017.12.12


神奈川県公立高校2018年度入試の各高校の人気や動向について、今年も、塾講師の視点と情報からオリジナルの倍率予想をしてみたいと思います。各校のトピックスも交えてご紹介してまいります。

1/31時点での倍率速報と分析はこちら

神奈川県の受験生および保護者ほど、倍率に一喜一憂している県民は他にいません。みなさん、倍率を気にかけすぎですが、どうしてでしょうか。一つの答えとしては、神奈川県の公立高校入試は「情報戦」の趣が強いからではないかと思っています。中3の通塾率が75%程度(2015年全国学力テスト調べ)で全国No.1ということもあり、塾が進路指導の情報を握っていて、それに沿った学校選びがなされています。データ分析の機関も充実していますし、神奈川専用の模擬試験を実施している会社も複数あります。他県よりも圧倒的な入試対策の充実度です。

データを分析して、それを結果に結びつけていくのは、塾が得意とするところです。「実績を上げること、合格させること」はある意味、塾が背負っている使命だからです。「合格だけが人生じゃない」「行きたい学校を受けろ」というロマンを追い続けるのはリスクが高く、少しでも合格の可能性が高いところを提案していくことが塾の腕の見せ所でもあります。だからこそ、倍率のわずかな上下、そしてそれによる合否分岐点を気にする風潮があるのではないかと思います。自戒と皮肉を込めてこの異常な風潮は、塾が主導した「倍率至上主義」とでも言える状態です。

しかしながら、倍率を気にしたところで一点も上がりません。あくまで傾向でしかなく、実力が変わるわけでもありません。倍率を気にするということは結局のところ他力本願でしかなく、得てして倍率の話をしている生徒は、最後の学力の伸びが鈍く、本番で思うように点が取れません。受験生のみなさん、自分の力を磨くことに集中してください。倍率を気にしてネットを見てる時間があれば、テキストの問題を1題でも多く解きましょう。自分ができなかった問題をやり直しましょう。自分を高めていくことでしか、合格の可能性は高まっていきません。

基本的に記事は保護者向けです。受験生は見ないでください。(見るなら最後だけ)

倍率予想の概要

ここで掲載する倍率予想について。神奈川全県模試(伸学工房)が毎年模擬試験の傾向から算出してくれている倍率予想と神奈川県教育委員会発表の最新の進路希望調査(P23,24)、さらにその他複数の模擬試験の志願者数も掛け合わせて算出しています。精度の高い倍率予想となるはずですが、昨年の予想結果はこちらの記事の通り(速報と分析 2017神奈川県公立高校入試倍率(2月1日時点))。
今年は昨年の勝率を上回れるよう頑張ります。

時間の関係上、今年もすべてのデータが取れたわけではありません。地域や学校に少し偏りがあるのはご容赦ください。

それでは、予想といきますが、2018年度の神奈川県公立高校入試の志願者動向を一言でまとめると、「隔年現象との訣別」です。神奈川県で長らく見られた、前年度が高倍率の場合、次年度の倍率は低下するという現象のことですが、今年は少し趣が異なります。前年度の倍率傾向が続いている学校が数多く見受けられます。

学力向上進学重点校の倍率と考察

では、注目度の高い学力向上進学重点校(旧指定)から見ていきましょう。

ここで掲載する学力向上進学重点校はこれまで指定されていた18校です。2018年度には、現在エントリーしている17校がこの2016、2017年の二年間の取り組みの成果によって新たに指定されることになっています。なお、2017年9月に先行指定ということで翠嵐高校と湘南高校が前倒しで指定されています。


学力向上
進学重点校

2018年度
定員

2018年度
予想出願者数

2018年度
予想倍率
(志願変更前)

前年度倍率
(志願変更前)

傾向

全県模試
偏差値
湘南 358 508 1.42 1.47 72
翠嵐 358 727 2.03 2.12 72
柏陽 318 474 1.49 1.66 70
川和 318 493 1.55 1.63 68
緑ヶ丘 278 512 1.84 1.74 68
厚木 358 455 1.27 1.27 68
多摩 278 445 1.6 1.69 65
希望ヶ丘 358 408 1.14 1.12 65
小田原 318 410 1.29 1.15 65
横須賀 318 343 1.08 1.22 67
光陵 278 334 1.2 1.37 65
相模原 278 317 1.14 1.17 64
平塚江南 318 391 1.23 1.14 64
大和 278 473 1.7 1.67 64
鎌倉 358 394 1.1 1.44 63
横浜国際 138 246 1.78 1.43 62
秦野 358 387 1.08 1.15 58
追浜 278 317 1.14 1.24 58

東大34名の翠嵐 VS 三兎を追う湘南

話題沸騰の横浜翠嵐が、今年も他の追随を許さない高倍率の予想です。2017年春の東大34名合格は、数年来神奈川県公立高校ではお目にかからない数字で、圧倒的な実績です。各方面で報道も多く、注目が集まっています。生徒の高い意識と先生たちの手厚いフォロー体制、学校を挙げて勉強に力を入れていく姿勢は、公立らしからぬ雰囲気を持っています。部活動などは制限される方向ですが、文化祭などは趣向を凝らして実行されており、決して勉強だけの学校ではありません。今年も県下最難関、トップ校として君臨することは間違いありません。

一方、ツートップの一角、湘南高校は昨年に引き続き湘南としてはやや低めの倍率となりそうです。最終倍率が1.26倍と空前の低倍率となった2017年度入試。学力最上位層が翠嵐を目指したこと、塾の実績競争の優先順位が「湘南<翠嵐」だったことなどが影響しています。しかしながら、「日本一の体育祭」を筆頭に行事や学校活動に全力を尽くす湘南スタイルは根強い人気を誇ります。近年は、フェンシングや弓道に加え、野球、サッカー、ラクビーなども強豪校の仲間入りを果たし、合唱部や放送部も全国レベルで、部活動も活気があります。「少なくとも三兎を追え」という理念は、生徒たちに浸透し、主体性を磨く三年間が送れます。

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内申平均トップの川和と安定の柏陽、理系色強めた横須賀

SSKH(湘南・翠嵐・川和・柏陽)の一角として、ここ数年人気が上昇している川和は今年も高倍率の予想。伸学工房調べでは、合格者の内申点平均は129/135と全県トップに躍り出ました。特色検査のない最難関校として、コツコツ型の努力を積み上げた生徒が集まっている印象です。昨年度は事前の予想を上回る受験者を集めた柏陽高校。実直に高校生活を送っている生徒が多く、行事も部活動も勉強も真剣に取り組みます。将来の適正を見据えたキャリア設計のサポートもあり、大学との連携や特別講義も充実しています。生徒一人一人がテーマを決めて調査し、プレゼンしていく探求活動なども非常に高い水準で取り組んでいきます。現在、耐震工事のためプレハブ校舎となっており、グラウンドも一部狭くなっていて、新年度入学生は夏過ぎまでプレハブでの授業となるようです。

横須賀高校は、人気が下降傾向です。今年は定員増もあり、低倍率が予想されます。一昨年度から実施している特色検査は理系色が強く、難易度も高いため敬遠されているようです。SSH(スーパーサイエンスハイスクール)として指定されている同校は、カリキュラムやプログラムも急激に理系にシフトした結果、かなり過密になっており、息の抜けない学校生活が待っています。説明会等でも学校側の気合というか気負いは生徒保護者に伝わり、参加者の感想は賛否両論です。どちらかというと「のんびり進学校」だった横須賀の色が変わりました。志望校の候補に入れている方は、よく調べて選んでください。今年の最終倍率がどうなるか、見ものですね。

女子人気の緑が丘、特色検査廃止の小田原、倍率激増の横浜国際

緑が丘の人気が止まりません。校舎の建て替えで注目を集め、昨年度合格者の内申点平均は127/135と川和、湘南に次ぐ3番手まで上がってきました。今年度の倍率次第では、トップに躍り出るでしょう。難関校の中で比較的対応が容易な特色検査は、理数系が苦手な女子にとって不安が少なく、女子の高内申点の生徒が集まる傾向があります。落ち着いた雰囲気の中で生徒の自主性を尊重する校風が生徒を惹きつけ、今年もかなりの人数が集まる予想です。

他には、西の単位制トップ校・小田原高校は2018年度よりこれまで実施していた特色検査を廃止し、内申点の比率を3割から4割へと変更しました。これは、生徒集めのための安易な変更というわけでもなく、よりバランスが良く得点が取れ、単位制である同校の中でもしっかりと自分を律しながら学校生活を送っていける生徒に来て欲しいという意図であると考えられます。変更は好意的に受け止められ、人数を集めています。また、県西部の伝統校である平塚江南高校も昨年と比べると人気が戻りそうです。勉強と学校生活のバランスの良さと豊富な指定校推薦が魅力です。

また、鎌倉高校の人気が若干下降傾向です。体育祭と文化祭を隔年で交互開催していましたが、2017年度より体育祭がなくなり、文化祭だけとなりました。青春偏差値全国NO.1の呼び名高い鎌倉高校としては、行事の減少は寂しいところです。定員数が増加した影響もあり、今年の倍率は低く出そうです。一方、定員減により高倍率となりそうなのが、横浜国際です。IB(国際バカロレア)コース設立の準備のために定員数を減らしているというのが専らの噂ですが、ただでさえ募集数が少ないため、2018年度はかなり狭き門となります。神奈川総合や横浜商業国際化などを含めて、国際系の人気は依然続いておりますが、今年に限っては横浜国際の難易度は例年と比べてかなり上がりそうですので、慎重に選択をしていく必要がありそうです。

横浜市進学指導重点校の倍率予想と考察

横浜市の進学指導重点校4校について見ていきましょう

横浜市でも県とは別に進学指導重点校として4校を独自に指定しています。充実した設備と特色ある理念や取り組み、安定感のある校風から人気が高まっています。

全部やる金沢、国際色強化のYSFH、文武両道の桜丘

高倍率の理由については、こちらの記事をご参照ください。
(空前の高倍率! 横浜市立高校 人気の秘密)各校の現在の状況について踏み込んで記事にしてあります。


横浜市
進学指導重点校

2018年度
定員

2018年度
予想出願者数

2018年度
予想倍率
(志願変更前)

前年度倍率
(志願変更前)

傾向

全県模試
偏差値
サイエンスフロンティア 238 333 1.4 1.56 67
市立金沢 318 483 1.52 1.65 63
市立桜丘 318 417 1.31 1.55 61
市立南 38 53 1.4 1.47 59

地域の難関校の倍率予想と考察

続いて、昨年もご紹介した各地の人気校3校をご紹介します。


地域難関校

2018年度
定員

2018年度
予想出願者数

2018年度
予想倍率
(志願変更前)

前年度倍率
(志願変更前)

傾向

全県模試
偏差値
横浜平沼 318 369 1.16 1.07 62
茅ヶ崎北陵 278 370 1.33 1.31 60
市ケ尾 398 553 1.39 1.44 60

低倍率が続く横浜平沼、安定の茅ヶ崎北陵・市ケ尾

内申重視で、女子が多い横浜平沼高校。学力向上進学重点校にエントリーしていますが、他のエントリー校を見ると指定は漏れてしまいそうな位置にいます。進学校としての改革は進んでいますが、どこまで学習意欲を高める取り組みが効果を上げていくかに注目していきたいです。同じく学力向上進学重点校にエントリーしている茅ヶ崎北陵は昨年同様の倍率でしょうか。落ち着いた校風と先輩後輩の結びつきの強さなどに定評があります。面接で得点差をつけることでも有名で、面接での大逆転が毎年起きています。アピール上手な方は、チャレンジしてみるのも一つの手です。市ケ尾高校の人気も続きそうです。大学進学実績で結果を残し始めた同校は、以前から行事や部活動などの楽しさに定評があります。「行事のクオリティ」で学校選びをする生徒は数多く、中学生の心を揺さぶる学校です。

地域の人気校の倍率予想と考察

各地域の人気校の現状も見ていきたいと思います。若干県南地域に偏っているのはご容赦ください。昨年までは、「海を目指す高校生」という構図でどの学校も人気が高かったわけですが、今年は一服といったところでしょうか。


地域人気校

2018年度
定員

2018年度
予想出願者数

2018年度
予想倍率
(志願変更前)

前年度倍率
(志願変更前)

傾向

全県模試
偏差値
大船 398 442 1.11 1.29 58
七里ガ浜 358 469 1.31 1.42 56
市立戸塚 279 385 1.38 1.35 58
横浜栄 318 410 1.29 1.33 56
藤沢西 278 386 1.39 1.56 53
湘南台 278 348 1.25 1.4 53
市立横須賀総合 320 422 1.32 1.28 53
鶴嶺 383 544 1.42 1.2 53

「海を目指す受験生」はひと段落。国際色強い鶴嶺は人気

ここ数年人気の上昇に伴い、レベルが上がり続けていた大船高校は、2018年度で一服。簡単には入れない学校になったことが敬遠の理由でしょうか。学校としては勢いもあり、真面目な校風は在校生にも卒業生にも支持されています。ライバル校七里ガ浜も昨年度から勢いを取り戻しています。「七里でしか経験できない三年間」という価値は間違いなくあり、昨今の学校選びの観点が人気に反映されやすい学校でもあります。今年の各校の志望状況から透けて見える「自分らしさを追う志望校選び」という見方をすると、七里は人を集める学校になることでしょう。特別高い倍率になることはありませんが、一時期のように定員すれすれになることは、まずありえません。

おわりに

塾生の進路指導や2018年度の倍率分析をしていて感じたこととしては、今年の受験生は「高校三年間でしかできないこと」を追い求める風潮が強いということです。昨年度までは、落ち着いた校風で勉強も頑張りながら、楽しく学校生活を送れる学校に人気が集まっていたように思います。どちらかというと「自由で活発」よりも「規律があり落ち着いている」学校が人気でした。保護者からすれば、後者の学校の方が安心ですが、昨年度あたりから自分をよく見て学校選びをしていく人が増えている実感があります。とてもいい傾向です。2018年度の入試の倍率は、いい意味で「バラけてくる」のではないでしょうか。

2021年度の新制度大学入試一期生となる今の中3生は先行きの不安を抱えつつも、自分らしさを発揮出来る、自己実現を可能にする、二度と来ない三年間を輝かしく送っていける学校を選んでいく目が例年よりも厳しいように感じています。学力や偏差値で行ける最高位の学校というよりも、長年憧れていた学校や、尊敬する先輩が行っている学校、見学に行った時に自分と似た雰囲気の人が多くいた学校を選んでいるように思います。

ある点で神奈川県が狙う特色ある学校づくりが、少しずつ形になってきており、生徒にも浸透し始めたのではないでしょうか。「この成績ならとりあえず◯◯高校に行っておけ」という進路指導をする時代ではなくなってきています。進路指導も多様化しており、生徒のニーズに極力応えていく力が学校の先生にも塾の先生にも必要です。

各校の特色をもっともっと外に発信してほしいと切に思っています。私立に比べて公立は情報があまりにも少ないと思います。子どもたちが自分に合った学校を選ぼうとしているこの時に、学校がそれに見合った情報を出さない、出せないということは教育機関としていかがなものかと思います。生徒主催の学校説明会、誰でも観覧できる公開授業、地域の校長先生が集まり、各校の自慢についてパネルディスカッションをする様子を一般公開(動画配信)していくなど、アイデアはいくらでも出てきます。学校をもっとオープンに、開けた県立高校を推進していくタイミングです。他県に先駆けて攻めてみませんか? 県教育委員会の方々、ぜひご一考いただければと思います。

(結局最後まで読んでしまった)受験生の皆さんへ。大事な三年間をどこで過ごすか、誰と過ごすかを決める学校選びです。少し苦しんでもいいし、悩んでもいいので「自分で」決めましょう。周りの人に決められた学校ではなく、自分の目や心で選んで、「ここに行きたい」という気持ちを熱く語れる学校を受けましょう。塾の実績のためでも親の世間体のためでもありません。中学でのこれまでの人間関係に囚われる必要もありません。情報をたくさん得て、多角的に考えて、複数の人に相談して、未来を定めていきましょう。そうして選んだ学校であればこそ、高校生活3年間に責任が持てます。受験を終えたその先には、「自立」と「自由」が待っています。

そして、選ぶためには「受かる実力」が必要です。必死で実力を磨きましょう。

人生で初めて選んだ自分の道を手繰り寄せられるのは、「あなただけ」です。

さぁ、勉強だ。机に向かおう。