受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


問題分析 神奈川県公立高校入試2019 国語

2019.02.15


2019年2月14日、神奈川県公立高校入試共通選抜が行われました。受験生のみなさん、お疲れ様でした。各問題の難易度も含めて、幾つかの観点から今年も問題分析をしていきます。(ブログの性質上、国語だけの分析となります。悪しからずご了承ください)

はじめに

神奈川県入試における国語の位置づけ

随分と難易度は上がりましたが、5教科の中で最も得点の取りやすい科目となっています。
過去4年の合格者の平均点は

  • 2018年度:65.6
  • 2017年度:73.1
  • 2016年度:64.7
  • 2015年度:64.4

2018年度は最も低かった社会と比べて23.8点差がついています。そろそろ難易度をさらに上げてきても良い頃です。

選択肢重視でありながらバランスの取れた問題

2018年度までの問題は下記の通り。

  • 漢字:読み+適する漢字を選択する問題
  • 文法問題:紛らわしい語の識別(主に助詞・助動詞)
  • 短歌or俳句
  • 古文:内容把握(文法問題はない)
  • 小説文読解:人物の心情・文章全体の特徴
  • 論説文読解:筆者の主張を追い、具体と抽象を言い換える力を問う
  • 資料読み取り問題:新大学入試に準ずるような要約能力とグラフや表の読み取りの的確さを測る

難易度、問題のバリエーションともに論理的思考と言語知識をバランスよく問う問題が出来上がっています。癖が少なく、他県でも入試前の練習台としてよく使用されるようです。ただ、文章の長さや「手数の多さ」が特徴で慣れていないと結構面食らうのが神奈川県の国語です。

2019分析と考察

難易度の分析

所感は、昨年よりに引き続きマイナーチェンジが行われ、全体として平均点はさらに下がる傾向にあるでしょう。小説文の問題が読み取りにくくなり、配点の高い資料読取記述の難化が影響を及ぼしそうです。

受験生の声をお伝えしておきます。

  • 少し分かりにくい古文で結構やられた
  • 漢字の選択問題が難しかった
  • 小説文の抽象表現の読み取りがキツい
  • 説明文の書き抜きは簡単だった
  • 資料読み取りで10点落とした
  • 時間は問題ないが、全体的に難しかった

各問分析

問1 漢字の読み書き、文法、俳句

昨年度は、「苦衷」の読みで一番点数を落としました。助動詞の識別問題は68.7%の正答率、69%の正解率の短歌の問題となっておりました。今年はどうだったのでしょうか。

  • 漢字の読み
    • 4は比較的容易か。
    • 彫塑」は「塑像」の読みなどで練習できていれば取れたが正答率は低い。意外と読めないかもしれない「緩衝」も正答率は高くない
  • 漢字の選択
    • aの「振興」が思い浮かばない
    • bの1「草稿」はさらに思い浮かばない
    • 下手すれば問1(ア)と(イ)で8点落としかねない
  • 語句の識別
    • 接続助詞「て」の濁音化
    • 昨年同様の形。説明することは出来なくても選ぶことは容易
  • 俳句
    • 情景の美しさが際立ついい俳句
    • 遠近による向日葵の存在感が読み取れれば解けた。マイナスワードを丁寧に消していけば難しくはないが、簡単とも言えない

問2 古文

昨年度の正答率は(ア)63.3%、(イ)57.2%、(ウ)63.8%、(エ)45.3%となっており、内容一致の問題の正答率が特に低く、全体としても取りにくかった問題でした。今年はどうだったのでしょうか。

  • 本文
    • 昨年同等の難易度かやや易しめか
    • 「両頭のくちなは」の話はそこそこ有名なので読んだことある人がいればラッキー
    • 徳を積めばいいことある系の問題だった
    • 全体に選択肢の難易度は高く、(ア)(イ)(ウ)全部迷う。条件をよく整理していかなければ正解できない
    • 今年も正答率は高くないだろう

問3 小説文

昨年度は、心情を問うもの、人物像を問うもの、センスを感じさせる朗読の仕方(この部分を朗読する時どのように読むかという変わった問題)、文章の特徴について答えるものに加えて正答率55.9%だった情景描写の効果についての問題があるなど、多少の傾向変化が見られました。

2019年度は原田マハ「たゆたえども沈まず」の出題。王道。これは珍しい。今年度も傾向は大きくは変わりません。

  • 本文
    • 全体で5000字弱。少し減ったが依然長い
    • いわゆる「売れ筋小説」を出題することは少ないため意表を突かれた
    • 文章全体の美しさと文学性は素晴らしいものだが、中学生には厳しいものも
    • タイトルの「たゆたう」や「滔々と」「芥に変えて」など脚注なしの語彙が難しい
  • 設問
    • (ア)傍線部前をまとめて、傍線部後を読めれば解けた。易しめ
    • (イ)良問。「薄暮のような微笑」という比喩を的確に捉えられるか。数行後の「心にそう決めた」という決意まで粘って読めれば解ける。やや難しい
    • (ウ)は出ました。朗読問題。人物像と場面の理解が的確にできていれば解ける。難易度普通
    • (エ)は難しい。抽象度の高い「あなたは舟になって」の意図を選ぶ。選択肢の文末をよく読んで人物の心情と照らし合わせる必要があった
    • (オ)も難しい。「たゆたう感じ」と「滔々との感じ」が掴めていれば解けたが、それは中3には酷というもの。抽象度が高く難しい
    • (カ)は定番。易しくはないが「すべてを受け入れるセーヌ」が決定的

問4 説明文

昨年度は、言い換えの問題、説明記述などこちらもベーシックなもの。書き抜き問題の難易度が高く正答率は19.1%。ただ総じてそこまで高い難しさではありませんでした。昨年度難しかった論説文の難易度は引き継いでいますが、極端に難化したことはありません

  • 本文
    • 文章としての難易度は高くない
    • AIについて。全国入試を解いていれば頻出テーマだと分かる
    • 哲学とかよりずっと解きやすいはず
  • 設問
    • (ア)は接続詞の問題が復活。オーソドックス。簡単
    • (イ)は数行後に言い換えが書いてある。易しめ
    • (ウ)はやや難しい。「第二の自然」が意図しているところを読み取らなくてはいけなかった。落ち着きがないと解けない
    • (エ)は消去法を使えば手早く解けたが、文章中の根拠を探すには結構先まで読まなくてはならず、不安から他の選択肢を選ぶ生徒が多そう。難しめ
    • (オ)は書き抜き。近くにある上に、ヒントをうまく使って読んでいけば見つかりやすい
    • (カ)は直後に書いてある内容を選べば良い。難しくない
    • (キ)も文章の直後にある。易しい
    • (ク)はラストから10行前の「むしろ〜」に注目できていれば全体の把握の助けになった。難しくはない

問5 資料読み取り問題

資料と会話文から適切な情報を読み取って、題意に沿って記述する問題。昨年度は(イ)の問題で傾向変化が見られました。正答率はもっとも低い12.3%。まとめにくさを感じる問題でした。追検査では見たことのない形式の出題がなされていて、難化が予想されました。

実際、2019年度も最も差がつく問題になりそうだというのが率直な感想です。

  • (ア)の難易度アップが激しい。「直接資源化」9.8%から「集団回収」5.3%を引いた4.5%が「収集後直接資源化」されたものであり、この値が図の中には書いてなかった。自分で出さなければいけないというのが難しい。1と悩む人が多いのでは?
  • (イ)の問題は書くべき内容はAさんからDさんの会話を追っていけば掴めたが、「具体的な内容」に触れながらという条件を満たすことが難しかった。「雑がみ(紙製容器包装)」の内容を入れ込めずに撃沈する受験生は相当数いるはず
  • 昨年度に引き続き難易度が高い。かなり対策を積んできても問5で10点を落としたという受験生が多いのではないか

各校での目標点数の目安は?

伸学工房さんが毎年出している追跡調査に基づく、今年の目標点数(合格者平均点)を算出してみたいと思います。昨年度と今年度の難易度の比較と倍率などから想定した数値です。あくまで推定値なので鵜呑みにしないでいただきたいですが。全体的にはさらにやや難化。マイナス5点〜10点程度と読んでます。

小説文で昨年よりも難しい問題が数問出題されたこと、漢字の難易度の高さ、問5の解きにくさから全体的に取りにくい問題になりました。問5の(イ)で不正解になる人が多いことを予想し、得点は全体的に下がると見てますが、ここの採点が甘ければ全体的に3〜5点は切り上がります。

国語得意な人でもこれまでよりも苦戦する問題でした。ついに難易度が上がった神奈川県公立国語。苦手意識がある人にとっては苦しい結果となりました。語彙力が足りないと厳しい問題になりましたね。

受験生へ(2月15日〜17日にご覧になった人へ)

まだ、終わっていません。

この記事を読んでいる時点で、過去にとらわれてしまっているのかもしれません。まだ、やれることが残っています。15日、18日(19日)と続く特色検査、面接試験はサッカーでいうところのアディッショナルタイムです。劇的なラストを演出するこの検査。

五科目のテストで思うようにいかなかった人にも、最後の逆転のチャンスは十分に残されています。逆転は毎年少なからず起きています。逆に、五教科のテストがうまくいった人は守り切らなくてはいけません。敵はなりふり構わず死に物狂いで攻めてくる。

受験生のみなさんが、面接を終える最後の1秒までやり切れることを願っています。あとちょっとです。ここまでの努力を考えればあと1日や2日は頑張れる。やってやろう。

さいごに

このブログのタイトルは「受験を超えて」です。「合格のために」ではありません。みなさんが取り組んできたことはとても素敵な取り組みです。目標を定めてそれに向けてどう距離を縮めていき、最終的に乗り越えていくかを考えてきた経験、これはかけがえのないものです。

でも、同時にこれから先は「何をやればいいか」の問いを自分で探していかなくてはいけません。受験勉強で得た力を今度は自分がやりたいこと、やってみたいことを実現するために使ってみてください。

受験は合格するためにするものではありません。その先の未来を自分で掴みにいくためのものです。今回の受験が、皆さんにとって次なる羽ばたきにつながるものであることを願ってやみません。

高校受験、お疲れ様でした。(特色検査、面接が終わったら)ゆっくり休んでください。そして、高校入試に際してこのブログを読んでくださりありがとうございました。