受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


ブックレビュー 本多孝好「Good old boys」

2017.04.18


連投になりますが、またも当たりを引いたので今回もブックレビューです。本多孝好の「Good Old Boys」です。

小学校四年生の弱小サッカーチームの青春小説、、、かと思いきやこれは父親目線のサッカー小説。「お父さん」のためのブックレビューです。これを読んだら息子(娘)にサッカーやらせたくなっちゃいますよ。ブログタイトルは「受験を超えて」です。受験で得られないことをスポーツはたくさん教えてくれます。

作品紹介はAmazonから

市内屈指の弱さを誇る少年サッカーチーム「牧原スワンズ」。
中でも四年生のチームは突出して弱く、公式戦では一勝はおろか、まだ一点も取れていない。
穏やかな監督のもとで、勝てなくても子どもたちは楽しそうにボールを蹴っているが、
一方、チームの活動を手伝う父親たちは、それぞれに悩みを抱えていた。
ふとしたことがきっかけで、妻とすれ違い続ける夫。
子どもができたために、サッカー選手になる夢を諦めた男。
優秀だった息子が、ある日とつぜん引きこもってしまった父親。
皆いろいろなものを背負い、迷い悩みながらも、子どもたちのために今日もグラウンドに足を運ぶのだった。
やがてチームは、今年最後の公式戦となる市大会に挑むが……。
八組の家族の心のふれあいと成長を描く、胸打つ連作小説集。

8人制サッカーで8人の主役の子どもたち。でも、視点は常に父親目線の描写で等身大の8家族が描かれます。連作小説という形で一人一章の割り当て。この書き方は、瀬尾まいこの名作「あと少し、もう少し」に通じるところもあり、主人公不在で登場人物全員をしっかり「読ませる」書き方となります。キャラを描き分ける力と、一人一人のストーリーを丁寧に考えなくてはいけないので、書く方は大変です。
中心選手のユウマがカッコイイし、パパへの想いが熱い。ヒロの章での大人びた考え方には舌を巻き、ダイゴ一家の微笑ましさは特筆。最後にソウタを持ってきたのもこの小説におけるスポットライトの当て方のポリシーを感じます。一人一人のちっちゃな選手たちとそれを囲む家族の物語がほろ苦くもあり、儚くもあり、愛おしくもあります。決して直球の青春小説ではないところに逆に引き込まれました。

子どもたちは仲良くて、チームの絆を感じますが、お父さん同士の微妙な距離感というか、「他は他」「うちはうち」といった感じがリアルです。ただ、試合中はそんなことを忘れて、チームを、子どもたちみんなを、応援します。その姿もサッカーが持つボーダーレスな魅力を存分に表現しているといえるでしょう。作者のサッカー愛も伝わります。
また、お父さんたちの葛藤も描かれます。家族との距離の取り方や、いい父親ってなんだろうという自問、働き方や日曜日の過ごし方など、まさに30〜40代の父親の心の内ではないでしょうか。それでも、日曜日の我が子のサッカーの試合を見ていれば、楽しそうにサッカーをする我が子の姿を見ていさえすれば、幸せな気持ちがこみ上げてきて、サッカーを通してそのことに対するぼんやりとした答えを見つけていく感じがすごくいい。
サッカーがつなぐ。目の前の同級生や友達を。子供と親を。親と親を。離れていても時間が経過しても、ボールとともに繋がれているその絆は、色褪せない確かなものとなるはずです。

ラストの試合は完全に泣けます。絶対に先読みしてはいけません。8人とその8人の家族みんなの物語を胸に、「スワンズ」の1サポーターとして読みきってください。

本多孝好ならではの伏線回収や日常の描き方も秀逸です。平易な表現の中にも煌めきがあり、心に響く言葉の使い手です。でも、今作の魅力はストーリーですね。ラストシーンに向けての盛り上げ方を堪能してください。

サッカーを通過してきたサッカー好きの全てのお父さんが共感できるのではないかと思います。ありがちだと思って手に取りましたが見事に裏切られました。読みやすさの中に没入感もあります。
特にサッカー馬鹿だった「あなた」にオススメです。
傑作。ぜひ読んでください。