2020年2月14日、神奈川県公立高校入試共通選抜が行われました。受験生のみなさん、お疲れ様でした。各問題の難易度も含めて、幾つかの観点から今年も問題分析をしていきます。(ブログの性質上、国語だけの分析となります。悪しからずご了承ください)
はじめに
神奈川県入試における国語の位置づけ
新制度になってから6年間続いた5教科の中で最も得点の取りやすい科目の座を、昨年度ついに明け渡しました。
過去5年の合格者の平均点は
- 2019年度:59.1
- 2018年度:65.6
- 2017年度:73.1
- 2016年度:64.7
- 2015年度:64.4
かつてのような文字数の多い記述問題が出題されていないにも関わらず、ここ三年平均点が下がってきているのは、難しさの証明です。そして、文章の読み取りに
選択肢重視でありながらバランスの取れた問題
2019年度までの問題は下記の通り。
- 漢字:読み+適する漢字を選択する問題
- 文法問題:紛らわしい語の識別(主に助詞・助動詞)
- 短歌or俳句(交互に来てます。2020年度は短歌の年?)
- 古文:内容把握(文法問題・現代語訳問題はない)
- 小説文読解:人物の心情・情景描写の読み取り・文章全体の特徴
- 論説文読解:筆者の主張を追い、具体と抽象を言い換える力を問う
- 資料読み取り問題:新大学入試に準ずるような要約能力とグラフや表の読み取りの的確さを測る
難易度、問題のバリエーションともに論理的思考と言語知識、読みの力をバランスよく問う問題が出来上がっています。ただ、文章の長さや「手数の多さ」が特徴で慣れていないと結構面食らうのが神奈川県の国語です。
2020分析と考察
難易度の分析
所感は、昨年度と大きく傾向が変わることはないものの、全体として得点を落としそうな問題が減ったことから少し平均点が上がると予想します。小説文は難しくなりましたが、説明文が文章の難易度の割に選択肢が選びやすかった点、最後の資料読取の問題が取りやすいように感じます。
受験生の声をお伝えしておきます。
- 漢字の読みは簡単だった。「綻び」は何回もやったヤツ
- 漢字選択で間違えた。悔しすぎる
- 古文は読みやすい
- 小説文は全然頭に入ってこない
- 小説文の最初のページに傍線部がなかった
- 説明文は「は?」って思ったけど問いは難しくなかった
- 時間感覚は去年の過去問と同じくらい
- 小説文と説明文を読むのに時間かかって最後焦った
各問分析
問1 漢字の読み書き、文法、短歌
昨年度は、「彫塑」の読みが16.2%の正答率。助詞の識別問題は93.4%の高い正答率、35.5%の正解率の俳句の問題となっておりました。今年はどうだったのでしょうか。
- 漢字の読み
- 比較的容易か。
- 敢えていうなら「綻び」が難しいが、これは1月の全県模試が的中。伸学工房さん、さすがです。
- 漢字の選択
- aの「急務」は“人材確保”の意味的に「求」を思い浮かべてしまいがち。正答率は高くない
- bの「埋蔵」は難しくはないが、見慣れていないかも
- cの「妥協」は“協賛”という言葉を知っていたかが分かれ道
- 問1(イ)で4点落とす人はいたかもしれない
- 語句の識別
- 格助詞「が」の識別
- しかも主格なので過去最高に簡単
- 短歌
- やはり順番通り短歌
- 時々出てくる短歌。今までのものよりもメジャー度は高い
- 「轟く」という言葉が「音」と結びつくことを知っていれば2が選べたが、1で間違える人は多いはず
問2 古文
昨年度の正答率は(ア)84.0%、(イ)77.2%、(ウ)59.4%、(エ)65.5%となっており、一昨年度よりは与し易いものでした。今年はどうだったのでしょうか。
- 本文
- 昨年よりも易しい
- 盗人改心パターンなので類題は多数解いたことがあるはず
- 読みやすいし、オチまでの流れも定番
- 設問
- (ア)発言の理由を問うもの。極端ワードを消していけば正解にたどり着く
- (イ)「押し入れけり」という言葉の強さが気になるが、“僧の謀”の絶対的な成功感を考えると消去法で4が選べる
- (ウ)「いかが〜や」=「どうして〜か」の反語表現であることが掴めていれば問題なし
- (エ)盗人改心パターンに当てはめて考えていけば難しくない
問3 小説文
昨年度は、美しい描写が特徴だった原田マハ「たゆたえども沈まず」の出題 。心情を問うもの、人物像を問うもの、朗読の仕方(この部分を朗読する時どのように読むかという変わった問題)、文章の特徴について答えるものが出題。一昨年度みられた情景描写の効果を問うものは出題されませんでした。小説文としては、やや読み取りが高度で意外にもここで落とす人が多く見受けられました。
2020年度は野中ともそ「洗濯屋三十次郎」からの出題。今年度も傾向は大きくは変わりませんが、読みづらさがあったようです。
- 本文
- 全体で4500字強。少し減ったが依然長い
- 誰目線で書かれているのかがまず捉えにくい。長門の一家との関係性も掴みにくい
- 長門視点で書かれるが、どこか客観視して文章が構成されており、あまり読み慣れていない形式である
- この長さで登場人物6人というのも多すぎる
- 伏線や間接描写を紡いでいくと理解が進む
- 設問
- 「絶望」・「怒り」・「不信感」・「許せない」などの強めの言葉が選択肢の中にあった時にそれに気をつけて読んでいくだけでも、随分と選択肢が絞りやすくなったはず
- (ア)正答率がかなり下がりそうな問題。「まぶしい陽射しに困惑する」という表現の語感を大切に解く。陽射しのまぶしさなので、“いいこと”であると読み取れたか。16行後ろまで根拠を追っていけると「透明な喜びをかみしめる」とあり、3が選べるが、1を選んでしまった人が多いかもしれない
- (イ)今年も出ました。朗読問題。人物像と場面の理解が的確にできていれば解ける。「怒り」や「不信感」などの強めの言葉を消していっても正答にたどり着ける。難易度普通
- (ウ)傍線部の後に“ごまかしている態度”を取っていることからも2が選べるだろう。難易度は普通
- (エ)は(ア)よりも難しいか。前提条件として“家が崩壊しそうだった”ということが読み取れていたか。「レースに縁取られた家族の日々」は抽象的だが、“つながり”を示すポジティブな表現であると言える。そこから1を選べるといい
- (オ)伏線をうまく拾っていかなくてはいけない。やや難しめ。比喩的な意味としての“染み”を大切にする感覚が親子に共通していたという内容が掴めているかどうか
- (カ)ここまでしっかりと読んで解いて来ていればこれは比較的易しい
問4 説明文
昨年度は、言い換えの問題、説明記述などこちらもベーシックなもの。説明文としてはそれほど難しさを感じないものでした。
- 本文
- 文章としての難易度が高いものの設問レベルはそこまで高くない
- 科学的知見の在り方について
- 「科学は常に不完全であるがゆえに自由な人類の営みだ」という素敵な結論の頻出テーマ。全国入試をやり込んでいれば、話の筋が見えてしまう
- 「玉石混交」「知見」「可塑性」「権威主義」などには注釈がつかず、一定の語彙レベルは求められる文章だった。最初の数行で文章が頭に入ってこず、苦しんだ受験生もいたかもしれない
- 設問
- (ア)は昨年に引き続き接続詞の問題。「もちろん─しかし」の譲歩構文パターン。オーソドックス。簡単
- (イ)は適者生存=進化論的考え=「適応」の言い換えが理解できていれば難しくない
- (ウ)は語彙の問題か。「可塑性」が理解できていれば分かりやすかった
- (エ)は直後の二つの段落で書いてある内容をうまく要約した選択肢を選べれば良かった。要約力が必要。2と迷う
- (オ)は書き抜き。Ⅰは直後に「何と言っても」と書いてあり、すぐ見つかる。易しい。問題はⅡで、同じような言葉は多数あるが、七字が見つからない。指定範囲のラストにある「権威がいっているから正しい」と設問中の「権威あるものは正しい」という表現がほぼ一致することが分かるか。答えの箇所が傍線部から遠かったことも受験生を惑わせただろう
- (カ)は傍線部の後の「失墜への恐怖感」や「強権的な異論の封じ込め」が見つかれば解けた
- (キ)は言い換え。「ランダムな方向を持ったものの集合体」が「様々な個性」・「すべての人が」といった表現と類似していることが分かったかどうか
- (ク)はラストのまとめ部分に注目できれば解けたかと思う。要旨の問題だが、最終段落にまとまっていたので比較的容易だった
問5 資料読み取り問題
資料と会話文から適切な情報を読み取って、題意に沿って記述する問題。昨年度は(ア)の問題の難易度が高く、資料の数値を自分で計算して答えを導かなくてはなりませんでした。(イ)の問題の難易度も高く、もっとも低い11.7%の正答率。一昨年度に続き、まとめにくさを感じる問題でした。追検査の難易度も高く、2020年度ではより高度な問題の出題が予想されていてました。
結論から言うと拍子抜けです。かなり対策していた人たちは忸怩たる思いでしょう。
- (ア)の難易度が激しく下がった。目視で正解が判断できるし、計算自体も決して複雑なものではなかった
- (イ)の問題は書くべき内容はAさんとDさんの表1と表2について言及している部分を削ぎ落としながらまとめれば良かった。2019年度・2018年度の本試験・追検査の難易度からすると驚くほど簡単
- 時間切れでラストの問題(6点)ができなかった人は悔やまれる結果に
総評
- 問1→昨年同等
- 古文→昨年より易しい
- 小説文→昨年より難しい
- 説明文→昨年同等
- 資料読取→昨年より易しい
トータルすると易化です。昨年は彫塑からの原田マハ。向日葵の俳句からのゴッホ(フィンセント)と素敵なつながりが見えましたが、今年は服の「綻び」からのクリーニング。クリーニングからの「家庭での水使用量」と、なんだかちょっと残念です。昨年の高尚さがすごく良かったんですが。
各校での目標点数の目安は?
伸学工房さんが毎年出している追跡調査に基づく、今年の目標点数(合格者平均点)を算出してみたいと思います。昨年度と今年度の難易度の比較と倍率などから想定した数値です。あくまで推定値なので鵜呑みにしないでいただきたいですが。
全体的には易化。プラス5点〜10点程度と読んでます。
小説文で昨年よりも難しい問題が数問出題されたことはありましたが、古文と問5の与し易さから全体的に取りやすい問題になりました。問5の(イ)で正解できるインパクトは強く、得点は全体的に上がると見ています。
昨年度よりも易しくなってしまい、国語が再び「もっとも簡単な科目」の王座を奪還する目算です。ただ、いずれにしても語彙力と読解のスピードと正確さが足りないと厳しい問題であることに変わりはありません。
受験生へ(2月14日〜17日にご覧になった人へ)
まだ、終わってないよ。
思うような結果にならなかった人、震えて力が出せなかった人、今までやってきたすべてが無駄になってしまったと思っている人。まだ、出来ることがある。君たちには挽回のチャンスが残されているんだ。進学重点校およびエントリー校では、特色検査がある。それ以外の学校では、面接で点差が開くことも多い。
今年は進学重点校およびエントリー校と差別化する上で、他校では自校の特色にあった生徒に入学してもらうために面接で差をつけてくるかもしれない。昨年と同じだって、これまでずっとそうだったからって、今年もそうとは限らないじゃないか。
特色検査、面接試験はサッカーでいうところのアディッショナルタイムだ。劇的なラストを演出するこの検査。持てる力、使える資源、協力してくれる人はすべて使おう。14日の試験で悔いが残った人、もう悔いは残せない。
受験生のみなさんが、面接を終える最後の1秒までやり切れることを願ってる。あとちょっと。ここまでの努力や頑張ってきた時間を考えればあと2日や3日は頑張れる。やってやろう。
さいごに
毎年書いていることですが、このブログのタイトルは「受験を超えて」です。「合格のために」ではありません。みなさんが取り組んできたことはとても素敵な取り組みです。目標を定めてそれに向けてどう距離を縮めていき、最終的に乗り越えていくかを考えてきた経験、これはかけがえのないものです。何があっても失われるものではありません。
でも、同時にこれから先は「何をやればいいか」の問いを自分で探していかなくてはいけません。受験勉強で得た力を今度は自分がやりたいこと、やってみたいことを実現するために使ってみてください。
受験は合格するためにするものではありません。その先の未来を自分で掴みにいくためのものです。今回の受験が、皆さんにとっての誇りとなり、次なる羽ばたきにつながるものであることを願ってやみません。
高校受験、お疲れ様でした。
(特色検査、面接が終わったら)ゆっくり休んでください。
そして、高校受験に際してこのブログを読んでくださりありがとうございました。