受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


横浜市立南高校附属中 進学実績2018 比較と考察

2018.05.08


公立中高一貫校の中でも今年注目を浴びていたのが、横浜市立南高校附属中(通称:南附中)の第1期生の進学実績です。2012年に鳴り物入りで開校し、横浜市中から優秀な教員を集めてスタートした同校。実に11.04倍の倍率となった初年度の選抜をくぐり抜けた、超優秀なメンバーが今年卒業しました。果たして進学実績はどうだったのでしょうか。

はじめに

横浜市立南高校附属中学校については、以前の記事をご参照ください。

横浜市立南高校附属中学校の評判と現在地 2017

今回は進学実績に特化して書いていきたいと思います。

6年間の南附中→南高の学習や生活の中で培われた能力を、大学入試という土俵でどのように発揮するのか、公立中高一貫校の教育が現行大学入試における「進学」に効果的なのか、という点でも非常に高い関心が集まっていた今春。ついに第1期生が卒業し、ベールを脱ぐこととなった南高校附属中の進学実績・合格実績について触れていきます。

神奈川県の公立高校および私立高校と進学実績を比較しながら、見えてくること、考えられることについて考察してみます。ちなみに、附属中学校が併設される前の「市立南高校」は柏陽に次いで旧学区の二番手。東大の合格者は5年に一度出るか出ないか。慶應は毎年5名前後、早稲田が10名前後という実績でした。

実績の数値はすべてサンデー毎日4月1日号を参照しています。

公立高校との比較

まずは、神奈川県公立高校の中でも進学実績でトップを争う湘南・翠嵐・柏陽・厚木の「新」学力向上進学重点校である四校と、南附中と同じく県内の公立中高一貫校として設立されている相模原中等教育学校・平塚中等教育学校の二校との比較をしてみます。相模原中等・平塚中等ともに2018年卒業生は4期生。学年も一巡りしていよいよ本領発揮という年度となっています。

東大・京大 現役合格者数

学校名 卒業生数  東大  京大
市立南 197 5 0
湘南 360 17 1
翠嵐 418 10 4
柏陽 316 0 1
厚木 356 1 1
平塚中等 154 1 4
相模原中等 154 8 2

東大・京大 卒業生数に占める合格者の割合

学校名 卒業生数  東大  京大
市立南 197 2.5% 0.0%
湘南 360 4.7% 0.3%
翠嵐 418 2.4% 1.0%
柏陽 316 0.0% 0.3%
厚木 356 0.3% 0.3%
平塚中等 154 0.6% 2.6%
相模原中等 154 5.2% 1.3%

南高初年度の実績は東大5名ということになりました。他の公立と比べても目立つ数字です。卒業生数に対する割合も高くなっており、何と翠嵐を上回っています。

今から三年前のことですが、神奈川県の公立中高一貫校として「先輩」にあたる、相模原中等と平塚中等も第1期生を大学に送り込んでいます。当時の東大合格実績は、相模原中等が5名、平塚中等は1名でした。南も初年度としては、インパクトのある結果だと言えますが、奇しくも相模原中等の初年度と同数でした。南高校の内部からは、「彼らならこのくらいはやって当然」と言う声と「大学入試に向かう真剣度が際立って高かった」との声が上がっています。一方で次年度以降これに続けるかは不安もあるとのこと。果たして来春2019年度入試はどうなるのでしょうか。

また、湘南の現役東大17名は「湘南復活!」と相当な衝撃が業界に走っていますが、卒業生数の割合で言うと相模原中等の方が高確率で東大合格者が出ていると言う事実が浮かび上がります。加えて京大も2名ですので、相模原中等としては出色の結果でしょう。一方、柏陽・厚木はこの結果だけ見ると元気がありません。湘南・翠嵐の上位二校に水をあけられ、県内公立高校三番手の座は相模原中等と南に奪われる格好になりました。

続いて、慶應・早稲田への合格実績についても見てみましょう。

慶應・早稲田 現役合格者数

卒業生数  慶應  早稲田
市立南 197 8 23
湘南 360 60 129
翠嵐 418 58 78
柏陽 316 36 24
厚木 356 26 41
平塚中等 154 13 23
相模原中等 154 14 42

慶應・早稲田 卒業生数に占める合格者の割合

卒業生数  慶應  早稲田
市立南 197 4.1% 11.7%
湘南 360 16.7% 35.8%
翠嵐 418 13.9% 18.7%
柏陽 316 11.4% 7.6%
厚木 356 7.3% 11.5%
平塚中等 154 8.4% 14.9%
相模原中等 154 9.1% 27.3%

慶應・早稲田の合格実績については、湘南が群を抜いていますね。流石の実績です。柏陽・厚木もここでは健闘をしており、数の上ではやはり目立つ数字を出しています。南が弱いのはここですね。東大合格のトップグループと、東大を目指したグループが慶應・早稲田の合格も取っている可能性が高いので、その次の層が少し実績を出し切れなかったのではないかと推測されます。全体としてボリュームある進学実績は出せなかったのかな、と。次年度以降は第二グループの奮起にも期待したいところですね。南高が発表している進学実績を見ると、国公立の進学者が多いので、完全に「国公立シフト」を敷きながら進路指導をしていたのではないかと推測されます。

南高校発表:平成28年度~平成30年度の大学合格者数・抜粋

私立高校との比較

続いて私立の比較です。南高校附属中の難易度から考えて、競合となりそうな学校は神奈川県でいうと、男子は鎌倉学園、逗子開成、女子は横浜雙葉、横浜共立、鎌倉女学院、共学なら敢えて言えば公文国際と山手学院でしょうか。山手も公文も現在の入試難易度で言うと、南附中とは相当な開きがありますが、2018年度の進学実績が良かったので掲載します。

参考偏差値は日能研R4(合格80%)偏差値 2018年3月現在のものです。

東大・京大 現役合格者数

参考偏差値 卒業生数  東大  京大
市立南 59 197 5 0
逗子開成 58 268 3 2
鎌倉学園 55 345 2 1
横浜雙葉 55 176 4 1
横浜共立 55 173 2 0
鎌倉女学院 54 155 0 0
山手学院 50 500 1 1
公文国際 49 170 6 0

東大・京大 卒業生数に占める合格者の割合

参考偏差値 卒業生数  東大  京大
市立南 59 197 2.5% 0.0%
逗子開成 58 268 1.1% 0.7%
鎌倉学園 55 345 0.6% 0.3%
横浜雙葉 55 176 2.3% 0.6%
横浜共立 55 173 1.2% 0.0%
鎌倉女学院 54 155 0.0% 0.0%
山手学院 50 500 0.2% 0.2%
公文国際 49 170 3.5% 0.0%

私立は上を見ると、フェリスや栄光・聖光・浅野となって比較対象にならないので、偏差値帯が近そうな学校で比較してみました。東大・京大の実績で見ると南に匹敵すると言えるのは、横浜雙葉と公文国際ですね。雙葉は例年よりも少し多め、公文はここ数年の低迷を払拭する会心の実績となっています。逗子開成は、一時の勢いが見られません。

慶應・早稲田 現役合格者数

参考偏差値 卒業生数  慶應  早稲田
市立南 59 197 8 23
逗子開成 58 268 41 37
鎌倉学園 55 345 20 48
横浜雙葉 55 176 15 26
横浜共立 55 173 46 67
鎌倉女学院 54 155 2 19
山手学院 50 500 28 60
公文国際 49 170 36 46

慶應・早稲田 卒業生数に占める合格者の割合

参考偏差値 卒業生数  慶應  早稲田
市立南 59 197 4.1% 11.7%
逗子開成 58 268 15.3% 13.8%
鎌倉学園 55 345 5.8% 13.9%
横浜雙葉 55 176 8.5% 14.8%
横浜共立 55 173 26.6% 38.7%
鎌倉女学院 54 155 1.3% 12.3%
山手学院 50 500 5.6% 12.0%
公文国際 49 170 21.2% 27.1%

慶應・早稲田に関しては、圧倒的なのが横浜共立。次いで公文国際となりました。公文国際は、長らく続いた人気低迷のトンネルを抜け出す起爆剤となるような素晴らしい実績ですね。今後に期待です。鎌倉女学院は少し寂しい実績。ただ、キャリア教育に力を入れているため、受験校が幅広いのが鎌倉女学院の特徴ですので、受験者数が少ないのかもしれません。ここに挙げた私立学校と比べると慶應・早稲田の実績については、南はやや物足りない結果となりました。

そもそも私立と公立での費用面の差を考慮して南附中の受験に踏み切る場合も多いので、私立との比較に意味があまりないかもしれませんが、6年間公立の授業料でこの進学実績というのはやはり魅力的に映るのではないでしょうか。これまでは私立の中高一貫に行くか、公立のトップ校に行くことが、難関大学合格への道だと思われていた節がありますが、そこに第三の選択肢「公立中高一貫校」が完全に見えています。

ただ、平塚中等・相模原中等を含めて入学があまりに狭き門のため、公立中高一貫校への合格は容易ではありません。実際に合格する子どもたちもほとんどは一年から二年の塾通いを経ていることになり、私立を受験するのと何ら変わりのない小学校高学年の生活となります。行き過ぎた中学受験へのアンチテーゼとして存在するのではなく、結局公立中高一貫に合格するためにも相当な時間と費用と勉強量を必要とすることになっているのです。

大学進学実績だけで学校の価値を測るというのはもはやナンセンスでしかなく、塾も学校も世間もそろそろ何を求めて大学へ行くのか、大学のどの学部で何を学ぶのか、または大学すら行かずに自分の道を追い求めるのか、といった自分を生かしていくための進路選択に舵を切らなくてはいけません。

2021年高大接続改革、新大学入試制度でどちらにしてもリセットです。これからはどんな学びを提供してくれるか、実際に足を運んで話を聞いて学校選びをしていきましょう。市立南高校附属中は、進学実績を抜きにして考えて、公立としては本当に十分すぎるくらい素敵な環境を提供してくれる学校です。

考察と雑感

ある点で「学校のこれから」を左右するという趣もあり、相当なプレッシャーがかかったであろう第1期生の皆さんお疲れ様でした。11.04倍という倍率から選抜された精鋭であり、「結果を出して当然」という風向きの中、成果を残すのは非常に大変だったと思います。

実際には、そう簡単に結果が出るはずはありません。何せ南高には国公立への指導実績はほとんどなく、先生方も手探りで指導を続けてきたはずです。そして、中高一貫6年間のカリキュラムは相当練られているものの、進学・合格に向けたプログラムではありません。一言で言えば「生きる力」を育むための6年間であり、大学入試を突破するための授業が展開されていたかというとそうではないはずだからです。その点、翠嵐高校や他の私立進学校とは一線を画しています。単純比較は難しいですね。

その中での東大5名。素晴らしい実績です。輝かしいですね。ただ、この5名が他の早慶の合格も取っているかと考えると、厳しい見方ですが、少々寂しい結果と言わざるを得ません。やはり合格実績ということで考えると、他の進学校に一日の長がありそうです。あと2年ほどはこの傾向が続くのではないかと予想されます。二期生、三期生の皆さんの奮起を応援しております。

おわりに

以上、公立高校や中等教育学校、私立中高一貫校との進学実績の比較をしてまいりました。初年度東大5名のインパクトはありますが、それ以外を含めて考えると決して「驚愕の実績」というわけではなく、総合すると「まずまず」の結果といったところではないでしょうか。

楽しみなのは、高大接続入試改革後(2021年度入試)の南高校の進路指導です。適性検査と呼ばれる中学入学時の問題は、すでに圧倒的な情報処理能力と的確な記述力、論理的思考力を必要とするものとして存在しています。その問題をクリアできる地頭を持った生徒が、同様の能力を問うてくるであろう新大学入試でどのような成果を残してくるのでしょうか。これまでの「難関大学」と呼ばれる大学だけでなく、秋田の国際教養大や海外大学の進学、起業家の育成など幅広く様々な進路に進める生徒を育ててほしいものです。

また、EGGと呼ばれる総合的な学習で培われた課題発見能力やコミュニケーション能力は、AO入試に代わる「総合型選抜」でも大いに力を発揮しそうです。そう考えると、今年来年再来年の3年間の実績はプロローグでしかなく、2021年度の南高校の実績こそが本当の実力と言えるのかもしれません。開校から6年が経過し、学校内部も洗練されてきました。今後の市立南の躍進から目が離せません。