受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


県教委主催「学力向上進学重点校」とは何だ! をまとめ直します

2018.10.13


神奈川県教育委員会主催の中学生・保護者対象「学力向上進学重点校説明会」に行ってきました。説明会なのに説明がなさすぎて記事の内容が薄くなってしまうので、ちょっと歴史を振り返りながら「学力向上進学重点校とは何だ!」を私なりに咀嚼してまとめ直し、今後の展望についても少しお伝えしていきます。

ところで、この説明会を開催すると発表したのが9月6日。開催日は10月13日。日程が差し迫った状況でいつもながらしれっと神奈川県のホームページ上で告知。当初は「定員500名。抽選だぞ!」と息巻いていたものの締め切ってみたら空席だらけで追加募集。翠嵐・湘南・柏陽・厚木の応募者だけでも1500人程度はいるはずで、さらに次年度入試は変更点も多く注目度も高いはずなので明らかにアナウンス不足ですね。

当日の会場は空席も多くおよそ300名程度の聴衆でした。そして圧倒的に少ない中学生。50名もいなかったと思います。そんななか始まった「学力向上進学重点校とは何だ!」。結論から言うと新しい情報はなかった、ヤキモキした、です。

学力向上進学重点校の歴史

さて、進学重点校について語る上では歴史を振り返る必要があります。学力向上進学重点校とは、神奈川県教育委員会が主に「大学進学指導の充実」と「進学実績向上」に重点を置いて指定した公立高校のことを言います。2007年に10校が指定されたのを皮切りに2010年には新たに8校が追加されました。

2007年の10校をJリーグになぞらえてオリジナル10(略してオリテン)と呼ぶことにしましょう。我ながらナイスなネーミングです。オリ10の学校は以下の通り。

  • 湘南
  • 横浜翠嵐
  • 柏陽
  • 小田原
  • 光陵
  • 多摩
  • 横須賀
  • 鎌倉
  • 横浜国際
  • 平塚江南

いずれも伝統ある進学校が指定されていることが分かりますね。厚木や緑ヶ丘が入っていないのが意外すぎです。「学力向上及び特色ある県立高校づくりのため、生徒の個性と能力・才能の伸長及び生きる力を育むための先駆的な取組を創造・実践します」とあって、当時はスーパー高校とネーミングされていました。スーパーって…。ここに2010年に新たに指定された8校が加わります。

  • 川和
  • 希望ヶ丘
  • 横浜緑ケ丘
  • 追浜
  • 秦野
  • 厚木
  • 大和
  • 相模原

県内で地域ごとに偏りがないように進学重点校を指定していたようです。

さらにこの進学重点校の指定と時を近くして、各校が作成した「独自入試」と称される主に英数国三科目の入試が全県共通問題の代わりに実施されていました。2005年独自入試元年に真っ先に取り組んでいたのが横浜翠嵐、横浜国際、平塚江南の三校だったというのは興味深いラインナップですね。この頃は県教委主導というよりも各高校の考え方が強く反映されていて、高校の判断で独自入試実施の可否を決めていたようです。独自入試、面白かったんですけどね。湘南の国語とか。

その後、鎌倉高校や小田原高校が2006年に独自入試を実施。2007年からようやく湘南、柏陽などが登場します。時を同じくして学力向上進学重点校が指定されることになり、2008年に独自入試を実施している10校がオリジナル10となりました。独自入試実施校=学力向上進学重点校というわけです。

この頃から県教委の存在感が徐々に増してきます。「進学重点校になりたければ独自入試を実施しなさい」と言わんばかりですね。この傾向は「進学重点校は特色検査やってねー」という現在の状況と似通っていると言えるでしょう。そして、2013年からは独自入試がなくなったものの、ご存知「特色検査」が始まります。

2019年からの学力向上進学重点校が決まりました。

  • 湘南
  • 横浜翠嵐
  • 柏陽
  • 厚木

の四校です。さらにエントリー校としては下記の13校。

  • 川和
  • 光陵
  • 希望ヶ丘
  • 横須賀
  • 茅ヶ崎北陵
  • 小田原
  • 相模原
  • 多摩
  • 横浜平沼
  • 横浜緑ヶ丘
  • 鎌倉
  • 平塚江南
  • 大和

エントリー校は取り組み状況や成果によってエントリーおよび指定が取り消される可能性もあるそうです。

10年前と比べると秦野や追浜、横浜国際などは指定外となり、代わりに横浜平沼がエントリー校に指定されました。オリ10には入っていなかった厚木が先行して本指定されるなど、時代の趨勢(県教委の思惑?)を感じさせますね。この10年で公立高校を取り巻く状況、取り組みの成果、人気やトレンドなどがゆっくりと変化してきたことが分かります。

進学重点校って何がいいの?

それでは説明会の内容についてご紹介してまいります。まずは進学重点校は何がいいのかについて。

崇高な理想を掲げそれに向けて邁進するメンバーがいる

県教委からは以下のように進学重点校について説明がなされました。

指定を受けた学校では、教科・科目や総合的な学習の時間を通して、主体的、総合的、探究的に学び、将来のリーダーとして、自ら問題を発見し、自ら解決できるよう、教科等を超えて様々な課題を関連付けて考えることのできる思考力・判断力・表現力等の育成に取り組み、希望する進路の実現を図ります。(神奈川県教育委員会ホームページより)

盛りだくさんすぎて「こんな人いない」状態ですが、とにかく「目指すのはそこ」という高く掲げた理想は伝わりますね。相当なパワーをかけて、相当いい授業をしつつ、そもそも相当高い能力を持った生徒が集まっていなければ実現できない生徒像です。ぜひ、実現すべく中身の改革を進めてほしいものです。

「感染動機」という言葉が紹介されていましたが、周囲に巻き込まれることが最も内発的動機づけを高めるとのことでした。(周囲に巻き込まれるっていうのは内発的なのでしょうか。。。)

慶應や学芸大に流れていた優秀な生徒が公立に来るようになったから進学実績が上がった、良かったね、で終わらないようにしていただきたいところですね。

予算が多い

当然のごとく今回の説明会では触れられていませんでしたが、予算が違うという話を7月に聞きました。

実際のメリットとしては進学重点校は教育環境および人員強化を図っているとのことで、重点校については教員を三人増員しているとのこと(エントリー校は一名増員)です。教員一人増員することによる費用は人件費や諸々の諸経費を含めると1000万円。教員を3人増員するということは3000万円他校よりも予算を多くつけているのと同じだということです。能力がない先生が増えても崇高な理想は実現できませんから、きっとさぞ優秀な先生が配置されているのでしょう。他にもICT環境を優先的に整えたり、備品で必要なものがあったら購入したりと設備・環境は整えられるようにしているそうです。

重点校同士の交流がある

後述しますが、ディベート大会があったり、海外研修に一緒に行ったりする機会があるようです。

2019年からの進学重点校

これからの進学重点校およびエントリー校の考え方については下記の通りです。

神奈川県教育委員会では、平成28年1月に策定した「県立高校改革実施計画」に位置付けた学力向上進学重点校を、将来の日本や国際社会でのリーダーとして活躍できる高い資質・能力を持った人材を育成する学校として、県教育委員会が示す指標に基づき指定することとしており、この学力向上進学重点校の指定をめざす学校である学力向上進学重点校エントリー校を指定しています。

県教育委員会として学力向上進学重点校エントリー校に対する支援を行い、次の5つの指標に基づき、その実績に応じて毎年度、該当校があれば随時学力向上進学重点校としての指定を行っていきます。

(1)めざす生徒像を見据えて、「主体的・対話的で深い学び」の視点による教科指導等を展開し、高いレベルの思考力・判断力・表現力等の能力の育成を図るため、各学校において達成すべき学力水準を示している。

(2)県教育委員会が実施する生徒学力調査(2学年)の結果により、高い学力を身に付けさせている。

(3)生徒の7割以上が在学期間中に、英語検定2級程度以上のレベルを達成し、高い英語力を習得している。

(4)生徒の探究活動や全国規模の大会等での取組みなど、学校の教育活動全体を通じて、豊かな人間性や社会性を育み、その成果をあげている。

(5)全県立高校の中で、いわゆる難関と称される大学への現役進学において高い実績をあげている。

(神奈川県教育委員会ホームページより)

これからの学力向上進学重点校の方向性は「学力重視・進学実績重視」が間違いなさそうです。リア充や青春と、学習面での結果を両立させるつもりで通学しないと、進学重点校での生活は苦しいものになるかもしれません。

県教育委員会高等教育課の濱田課長は「学びによって求められている力は時とともに変遷していく。子どもたちに高い資質・能力を育成していく、常に進化を続ける学校が学力向上進学重点校である」とおっしゃっていました。常に進化を続ける、かっこいいですね。コッコーリツを目指す以外の進化も見せていただきたいものです。

これからの進学重点校の取り組みについて

上記の指標に従っての実践の例をいくつかご紹介いただきました。私立高校ではすでに何年も前から実施されていることばかりですが、公立で取り組むことに意味があると思われます。

  • 知識を関連づけて深く理解する授業
  • 情報を整理し、分析していく学び
  • 二年生で生徒学力調査(国語・数学・外国語)で高得点をとる
  • 英語資格、検定試験の受験、外国の学校との交流
  • 総合的な学習の時間における探究活動
  • 科学コンテスト等への積極的な参加
  • 模擬試験の情報を有効に活用するなどして進路指導を充実させる

進学重点校同士の交流も行い、お互いに切磋琢磨していくプログラムもあります。

  • 即興型英語ディベート交流大会
    • 重点校の教員同士、生徒同士が英語によるあるテーマについて
  • 海外リーダーシップ研修
    • 海外の優秀な大学の学生と交流を図り、真のグローバルリーダーを育成する
    • 今年度はアメリカに行く

重点校同士で交流があるのはいいことですね。意識も学力も高い学校ですので、お互い刺激にもなると思いますし、他校との比較をしたり経験を共有できたりするのはプラスになると思います。海外リーダーシップ研修にはどのくらいの生徒が参加できるのでしょう。。。

交流は良いと思いますが、第二部の生徒の発表をコーディネートしていらっしゃった柏陽高校の(若い女性の)英語教員、広瀬先生が放った一言が頭から離れません。

「今年も重点校、エントリー校は一丸となって仲良く楽しく神奈川県全体の学力向上に励んでいます(ニコッ」 仲良く楽しく……。

特色検査(共通特色・共通選択)はどうなる?

最も知りたかったこちらについての情報提供は、ほぼ無きに等しいものでした。

これまで分かっていた情報とほぼ同じというか、県教委のホームページを読めば書いてある内容です。

  • 共通問題と共通選択問題で実施
    • 2019年度は重点4校と希望ヶ丘・横須賀・平塚江南
    • 2020年度は重点4校とエントリー校13校
  • 共通問題  :対象校全てで出題する問題
  • 共通選択問題:各学校の特色に応じて選択して出題する問題
    • 7校の中で同じ問題が出る学校もあるし、別の問題が出る学校もある
    • 昨年度までの特色検査の特色に応じて共通選択問題は選んで出題されることになる

問題のサンプルを出す予定はなさそうですので、各高校の過去の特色検査を参考にしていきましょう。県教委主導で作成するものの、各校からも作問担当者が選ばれて各校の特色を反映していくという作り方になるのかもしれません。

各校で共通の問題を扱うのであれば、共通部分の得点平均とかを公表して比較したら面白いのに、と思ったりしました。共通特色最強校決定戦的な。

特色検査については以前の記事もご参照ください。

どうなる? 特色検査2019(共通・選択問題)教育委員会が語る未来と中学生が今備えるべきこと

おわりに

学力向上進学重点校についてご紹介してまいりました。説明会当日、お越しになれなかった方やそもそも説明会の存在を知らなかったという方のお役に立てれば幸いです。説明会の内容について行間を埋めながら20倍程度に膨らませて書きました。

最後までお読みいただいた方はお分かりかと思いますが、ほとんど情報提供はないに等しく、ホームページをよく読み、塾で説明を受ければ理解できる内容です。残念ながら進学重点校としての取り組みの成果や授業の工夫、生徒たちや先生の声、学校がどう変わってきたのか、どう落とし込んでいくのか、といった部分が全く伝わってきませんでした。そういった「生」の感覚が著しく乏しい説明会でしたね。

また、この日の説明会には教育委員会からの指令で各進学重点校の先生方が一堂に会していました。しかしながら、先生方は会場案内とパンフレット係に終始。柏陽高校の生徒にご協力いただければ十分なのではないかと思いました。

会場入りした時に「この先生方の数は!」「もしやパネルディスカッションが始まるのでは?」という期待は見事裏切られ泡と消えました。何とも勿体無い話です。今回の説明会は告知の仕方、募集の仕方、当日の運営含めて諸々問題があったと言わざるを得ません。毎年開催して改善と洗練をお願いしたいところです。

学力向上進学重点校は一先ず国公立大学および難関私立大学の合格が第一目標のようです。でも、高校三年間で得るべきことはこれらの大学合格というゴールだけではないはずです。学校が目指している方向性と校風、通学にかかる時間など総合して考え、どんな経験をし、どう学び、どんな進路に結びつけたいか、ぜひよく考えて学校選択をしてください。

慧真館の岸本先生も今回の説明会のモヤっと感を記事にしてくれています。ご覧ください。