受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


公立中学校の現状2「ブラック部活」

2016.12.03


公立中学生はとにかく忙しい。友達付き合い、先輩後輩関係、恋愛、そして勉強。ただでさえ目の前には数多の興味、楽しみ、そして義務があるわけですが、それらを全て飲み込んでそびえ立つ圧倒的な存在感--、人呼んで「ブラック部活」。
その支配力は、輝く未来を見つめる中学生の瞳に灰色の影を映します。

公立中学校の現状(よくある懸念)

  1. 内申点
  2. ブラック部活 (今回)
  3. 学習指導
  4. 人間関係
  5. 高校入試の功罪

ブラック部活とは

昨年くらいからようやく話題に上ってきた「忙しすぎる部活動」。いくつか記事も見るようになりました。「ブラック部活」という呼び名は数年前から勝手に使っていましたが、いつの間にか新聞記事でも使うようになっていて驚きです。(パクられました笑)

部活が土日にできなくなる!? 文科省の改善案とは(dot. 2016年11月5日)

部活休養日、全中学調査へ 文科省、不十分なら改善要求(朝日新聞 2016年6月14日)

「休養日の設置を」教員の負担軽減策(毎日新聞 2016年6月13日)

いったい何がブラックなのでしょうか?

  • 週6〜7回の部活動
  • 部活終了時刻は19:00になることも。解散時刻はもっと遅い
  • 休めない。休むとレギュラーが脅かされる。休むと顧問や部員から嫌味を言われる
  • 顧問は「絶対神」。逆らえない。意見も通らない

まさにブラック。子供たちの自由はいったい何処へ。

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軍隊化する部活動

多少極端ではありますが、実際に週7回活動しているところもあります。
学校にもよりますし部活動にもよりますが、活発な運動部および吹奏楽部は週6〜7の活動が常習化しています。まさに月月火水木金金。彼ら彼女らは一体いつ勉強や他の課外活動や遊びをすれば良いのでしょうか。
部活独自のルール。逆らえない先輩後輩関係。顧問の指示は絶対。顔色伺いは必須のスキル。

終了時刻延長可能。謎の制度「特認」

一般的な活動時刻は夏場は18時まで。冬場は17時までが相場です。しかし、申請をすれば終了時刻の延長も認められます。顧問が校長に申請するようですが、これも謎極まりない制度ですよね。

もともとは大会の前や大事な試合の前に行われていたものですが、慣れとは怖いものでドーピングのごとく平常時も申請をするようになっていきます。

しかも、部活動終了後のミーティングや片付けなども行われたりします。これもなし崩し的に認められています。日没や気候に影響されない吹奏楽部、バスケットボール部、バレーボール部などは特に酷いことが多いと言われています。

また、一部の顧問教員は、部員の休みを極端に嫌い、生徒が休むと皮肉を言い、あからさまに不快な顔つきをします。罰走や罰居残りなども完全になくなっているわけではありません。また、部活での取り組み状況を学業の成績に反映させることもあります。文武両道の意味の履き違えも甚だしいですね。モンスターペアレンツならぬモンスター顧問とでもしておきましょう。

顧問もブラック

部活の指導に時間を奪われる先生たちも気の毒です。そもそもこの問題が表面化してきたのは、顧問の先生の勤務状況が異常で、休みがなくなり、手当も支払われない、ということが一因です。

土日は部活動の試合で埋まり、家族サービスも体のリフレッシュも不可能。平日は、19時近くまで生徒に付き合い、そこからやっと授業準備や事務作業に入れるといった状況です。

さらに、休日出勤の手当は勤務時間で払われるわけではなく、部活動手当一律3,000円などが相場です。9:00〜17:00で拘束され、時給400円ではあまりに報われません。大好きなスポーツや活動であればともかく、専門外の部活動に対して、生徒の保護や観察のために「いなければいけない」先生たちの負担やいかほどか。

解決に向けて

ではどうすれば改善されるのでしょうか。

  • 自治体単位での働きかけ
  • 課題意識を国全体で持つ
  • 保護者の頑張り

あたりが挙げられるのではないでしょうか。

この問題は根深く、局地的に「うちの学校」だけでやっていくのは難しいと思います。明確なルールを各自治体レベルで設定し、それを遵守させなければいけません。不平等感が生まれると、勝てない言い訳を子供たちが活動時間の短さに求めるようになるかもしれないからです。足並みが揃っていれば限られた時間の中での工夫を各学校、各部活動で始めることでしょう。各県、各市町村教育委員会での取り組み強化を期待したいところです。

そしてもちろん国として動き始めて欲しいです。少しずつ動きはありますが、残念ながら現場レベルには全くと言っていいほど落とし込まれていません。どこ吹く風ですね。

あとは、保護者の意識も大事です。部活動を託児代わりに利用し、土日も休日も平日の夕方も、「子供が家にいないラクさ」に甘えてはいけません。週に一度は家族で夕飯を取り、部活に縛られず家でゆっくり過ごす時間を作る。将来について話したり、進路について考えたりする時間もほしいものです。保護者の皆様がきちんと訴えを続けることが肝要かと思います。

そんなに毎日やらなきゃダメか?

先生たちに言い分はあります。長い時間を共にし、苦楽を共にしたからこそ生まれる連帯感、チームワーク、達成感があると。それはそうだと思います。だからこそ部員の絆は強く、クラス単位・学年単位よりも部活単位で長く続くコミュニティが作られます。

でも、それは週7回、中学生の時間ほとんどすべてを費やさないと得られないものなのでしょうか。そして、そこに無駄はないのでしょうか。時間が限られているからこそ、工夫を凝らし、効果的な練習や取り組みを考える、そういった能力が育つのではないでしょうか。もしくは、優秀なコーチを雇えば(ボランティア?)、もしくはアドバイスをもらえればその時間は短縮できるのではないでしょうか。

外部コーチの予算と安全性

そもそも教員に休日出勤手当て、時間外手当は充分に支払われていません。もしそれをすべて計上したら各県、市の財政は火の車となるでしょう。
外部コーチは安全性や人間性に不安という声もあります。

翻って、学校の先生たちはそんなに安全性や人間性に優れているのですか? たくさんの事件を見るにつけ、外部コーチだろうと教員だろうとダメな人はダメだし、いい人はいいです。地域の人や卒業生に声をかけるなど、安全面への配慮も可能なはずです。

人員さえ確保できれば、複数顧問制もいいと思います。実際に横浜市の一部の学校は導入していて、一つの部を複数の顧問が担当し、定期的に交替で休みを取れるような制度です。

活動日を減らしていくことはハードルが高いとは思いますが、外部の手を借りたり、制度の変更を検討したりするべきです。それが出来ないのならもっと時間短縮をする工夫をすべきです。ダラダラと長い部活動は不毛です。改善していただきたいと思います。

光明もある

こんな記事も出てきました。

大阪でノークラブデー…部活の自粛、週1日以上

教育に関して、大阪府および大阪市は「子ども目線」「家庭目線」があります。「私学無償化」や「塾代助成」などの制度も充実しています。教育先進都市になりつつありますね。都道府県レベルでこういう取り組みをしてもらえると、子育て世代からの支持が高まっていくことでしょう。

最後に

以上、「忙しすぎる部活動」についての記事を書いてきましたが、大切なことは「ザ・青春」である中学校の3年間を子どもたちが輝かしく過ごすことです。部活に熱中する中学生は心から応援したいと思いますが、他の世界も見られる余裕を与えてあげたいな、と切に願います。「日本の中学生はいつも忙しそうだね」ではなく、「日本の中学生はいつ見ても輝いているね」と他国の方々に思ってもらえるような仕組みを社会全体で考えていきたいものですね。