受験を超えて

鎌倉の進学塾 塾長が考える、受験と国語とその先のこと- Junya Nakamoto -


公立中学校の現状3「学習指導」

2017.03.14


公立中学校では生徒の意欲や吸収力に差があって、学習指導がしっかりと出来ないという懸念がありますが、実際どのような形で授業が行われ、生徒たちの様子や反応はどうなのかということについて書いていきます。

公立中学校の現状(よくある懸念)

  1. 内申点
  2. ブラック部活
  3. 学習指導 (今回)
  4. 人間関係
  5. 高校入試の功罪

公立中学校の教室の現状

公立小学校での学級崩壊の割合が高まっており、小学校では勉強ができる環境になく、公立中学校でも同様なのか、そうなるくらいなら私立に…とお考えの方も多いかもしれませんが、それは違います。よくも悪くもそこでは「内申点」が効果を発揮します。

入試につながる評価が行われることによって、先生の権威がここでは保たれており、学習に対する理解が早い子や勉強への意欲がある子が授業を牽引してくれます。理解度が高い子が先生を下に見て授業を放棄する、授業についていけない子が立ち歩く、といった小学校とは異なる状況がそこにはあります。

また、校則が存在するというのも大きく、小学校時よりも子どもたちは「決まりごと」の中で動くようになります。団結してクラス単位で取り組む行事もあり、学級運営としては小学校よりもグンと楽になるのが中学だといえるでしょう。ただ、もちろん学校や地域によって差はあります。

アクティブラーニング

文部科学省の調査によると公立の中学校でも45.7%がアクティブラーニングを実施していると回答しています。アクティブラーニングとは、従来型の「先生が講義をして、生徒はそれを聞きながら学ぶ」という授業から、生徒主体の話し合いや調べ学習、あるいは発表といった活動型の授業に変えていこうという動きです。

国からも教育委員会からもこのアクティブラーニングを実施せよ、とのお達しが各中学校、各教員になされます。しかし、これは新たな道であり、これまでの授業スタイルを大幅に変更することを余儀なくされる先生もいるでしょう。ただでさえ多忙な先生方は、授業づくりに膨大な時間を費やすことになります。

アクティブラーニングによって身につく力は、生徒の主体性であったり、協働性あるいはプレゼンテーション能力だったりします。これまでの日本の教育で欠けていたと言われている部分です。それを補い、いわゆるPISA型学力の醸成には、間違いなくこの授業形態は有効なのでしょう。

しかし、発表や調査に時間をかけるがあまり、義務教育課程で当然のごとく習得しておかなければならない知識がなおざりになっているのも事実です。アクティブラーニングの比重を高めるがあまり、授業として知識の習得や解説は二の次になり、結局のところ「定期テスト」の強制力によって、無理やり習得を促すという本末転倒な流れが散見されます。

学校で不十分だった知識の習得、応用のための考え方や演習はどこで行えばよいのでしょうか。塾によって、もしくは中学生本人の不断の努力によって、知識や暗記事項を埋め合わせなければ、立ち行かないものになってきているのではないでしょうか。

アクティブラーニング自体は素晴らしいものですが、それを行う教員側の能力や時間の不足と、基本事項を習得していない生徒たちが、それを活用する授業に参加できるのかという問題があると思います。一部の優秀な生徒やリーダー格の生徒に導かれ、ただ頷き座っているだけの生徒が大量に発生するのではないかと危惧しております。

生徒たちは楽しんでやっている側面はありますが、弱いところや苦手なところを見つめにくいという欠点もあるようです。先生に取っても生徒にとってもアクティブラーニングは、道半ば。これからの進化に期待したいところです。

評価

内申点については、過日記事を書きました(公立中学校の現状2 内申点)。内申点自体は良いものになりつつありますが、公立中学校の最大の問題点は実は大きく括った「評価」にあると思っています。生徒に対する評価は基準が統一されておらず、また評定においても学校ごとに相当ばらつきがあるのが現状です。

観点別評価で学校内での平等感は少しずつ出ておりますが、学校ごとに比べると、その評価基準は千差万別。にもかかわらず、高校受験では同じ高校を受験していくという不公平感があります。5のつきやすい先生や学校、2のつきにくい先生そして学校というのが存在してしまうわけです。

授業中の取り組みを細かく見ていき評価し、さらに定期テストの点数で評価していく先生もいれば、面倒なことを避け、定期テストの点数だけで評価する旧来型の先生もいるということです。ポートフォリオ評価などを導入し、生徒とともに評価を作っている先生もいます。教員任せではなく、学校として各教科の評価基準を明らかにする義務はあると思います。あまりにも各教員の裁量が大きく、まるで個人商店のような評価システムはいただけません。

内申点が観点別でつくようになったのは良いことですが、一人一人の教員がつける評価評定に関しては、まだまだ課題が多そうです。少しでも明瞭で公平な評価をつけてもらえるように、保護者の皆様も学校や教育委員会に働きかける必要があると思っています。

授業内容

まず、現在は教科書がとても良いものとなっています。数年前から教科書は分厚く非常に内容の濃くなりました。問題集的要素もふんだんに取り込まれており、参考書兼問題集としても大変できの良いものです。塾のテキストのように簡潔にまとまっているわけではありませんが、一つの読み物としても楽しめる内容となっています。

この教科書に追加して、学校によっては塾で使用している問題集を副教材として使用している公立中学校も出てきています。求めるレベルが上がってきていることは実感されますね。しかし、それも先生によってそれぞれ。「当たり」の先生であれば、基礎的な知識を授けてくれてなお発展的な学習としてのアクティブラーニング、そして教科書や問題集による応用問題演習とバランスよく進められますが、そこまでプランニングして道を描き、生徒を引っ張れる力がある先生はごく一部。どうしても偏ってしまうことが多いようです。

英語に関しては数年前から確実にレベルは向上しており、授業全体の質も上がっています。ネイティブの先生の授業も取り入れつつ、革命が起きている科目の一つでしょう。教員の英語力については、かねてより問題視されており、あまり改善されてはいません。教員の英語研修の機会をもっと増やすべきだと思います。教えることはできるが英語を使えない、という先生はごまんといます。

また、数学については習熟度別クラスのような対応も各校で増えてきています。教育環境が少しずつ整ってきていると言えるでしょう。しかしながら、習熟度別でクラスを分けると教員の数が足りないという問題が出てきて、後述するように非正規教員の採用が増えているという現状もありいます。

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非正規教員

また、これは授業の質とは直接関係がないのですが、今後公立中学校の教員の待遇や立場、力のある教員をきちんと採用することに関わってくるので触れておきます。

現在、公立中学校教員の6人に1人ほどが非正規教員であると言われています。非正規教員というのは、「教員免許は持っているが、教員採用試験に合格していない先生」ということです。端から見ていると、区別はつくこともつかないこともありますし、保護者はおろか同僚にも伏せているケースもあります。

非正規教員だから授業の質が劣るということはありません。なぜなら、待遇が悪くても不安定でも、それでも教師として子どもたちと学びたい、という熱意を持っていることがむしろ多いからです。実際に良い先生もかなり多いという実感があります。

それでも一年契約が通例の非正規教員は、契約更新のため校長先生を始めとする管理職からの評価を気にしながらの授業となります。それゆえ、思い切った学習指導や判断をしづらいという状況は間違いありません。職員会議での発言もなかなか出来ないというのが現状でしょう。

公立中学校の教育内容の充実を考えても、非正規教員を減らし、採用数を増やすべきだと思います。

私立に勝てるか

ここは勝ち負けではありません。中学三年生中盤時点での偏差値的な学力でいうと圧倒的に私立有利です。似たような学力の子や家庭環境の子が集まる私立は先生側としても、授業がやりやすく、学習指導もより効率の良い充実したものとなる可能性が高いでしょう。

しかし、高校入試に向けての中学生の自立した学習は非常にレベルの高いもので、自ら選んだ道へ自らの力で進んでいく馬力は大したものです。中3の夏休みまでは圧倒的にリードされていても、中3の夏以降2月までに相当な勉強を積むことになります。ですので、高校に入った時点での学力はそう変わらないことが多いのではないかと思います。

公立中学校の素晴らしさはダイバーシティ(多様性)です。グローバル社会の中で生き抜いていくためには、多様性の中で自己を発揮していく強さが求められます。不良っぽい子もいれば、超優等生もいれば、いじめっ子もいれば、オタクもいる。家庭環境も様々。そんな多様性の中で自分の立ち位置を発見し、授業の中でも表現していくことができれば、それは私立では実現できないことになります。

自分の役割や自分の特長を探す三年間、授業の中で力を発揮出来る能力を探す三年間と位置づければ、それは私立では得られない価値となることでしょう。

以上、学習指導の面から公立中学校の現状について書いてみました。まだ書き足りませんが、今回はこのへんで。